障害者介助の現場から考える生活と労働 -ささやかな「介助者学」のこころみ-

制作 : 杉田 俊介  瀬山 紀子  渡邉 琢 
  • 明石書店
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感想 : 4
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  • Amazon.co.jp ・本 (368ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784750337494

作品紹介・あらすじ

障害者の介助に携わる介助者たちは、なぜ介助者になり、介助を続けているのか。ケアの世紀といわれる21世紀、今後ますます介護・介助を必要とする人が増え続けていくなか、20人の介助者たちが語る介助という経験のリアルと希望。

感想・レビュー・書評

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  • 何気なく手に取ったけど、面白かった。障害者介助に関わる人たちによって、「介助」の本質に迫る様々な悩みや、ストーリーが描かれている。自分の中で統合しきれていないけど、非常に印象的な断片が数々あった。

    たとえば、複数の方々が実名・匿名で、影響を受けたと名前を挙げていた新田勲さんの話。重い言語障害があるため、足文字を使って介助者に言葉を発声させる。そして足文字で闘う新田さん。
    たとえば、野宿と介助の関係。テント村で暮らす、介助する人とされる人。そこから、地域生活とはどんなものか考えさせられる。住居に暮らしつつも孤立する、住居が個々の施設のような地域生活と、いろいろありつつテント村、どちらがいいですかと問われてくる。

    そして、これはこの本の中心的な位置づけでもあるように感じたけど、介助が仕事になることの抵抗感、なんて考えたこともなかった。ボランティアは美しいけれども実態は「やりがい搾取」、なんていうイメージを持ってしまっていた自分は。私の理解では、「お金をもらう」「渡す」ことで発生する指揮命令系統、上下関係におかれてしまうことへの抵抗感のようである。
    「労働」という概念を変えねばならない、寝たきりの障害者にとっては、「寝返りを打つ」「おむつをかえてもらうために腰を上げる」ことも労働じゃないか、なんて話まで出てくる。このあたりの話は、なんとなく言いたいことがぼんやりとわからないようなわかるような、自分でもまだ消化しきれていない。お金をもらえること、もらえないこと、という切り分けでなく、自分が「がんばって」行うことを、積極的に社会の中で意義づけていこうということだろうか。

    介助は、誰でもいいからできる人がやればいい、というような問題ではなかった。ほどほどの労働でほどほどの生活、を赦してくれるほど、介助の職場や障害者福祉は「甘くない」らしい、けど、限られた人々だけ非常に依存を受ける、という状態をなんとか解消できないだろうか。初対面の人々が短時間次々やってくる、なんて形で介助が成り立たないのは私でもわかるけど、もっと関わる人の範囲を広げて、みんながもっと「ラク」にできる方法はないだろうか。

    介助とジェンダーの話も面白く、介助は、無意識で行っている行動を、意識化させる、といったあたりははっとさせられた。
    トラウマを持った人がどんな考えで介助に関わっているかという「くも(仮名)」さんの渾身の文章もとても心に残った。

  • ご縁あって、障害者の介助に入るようになったのだが、少し慣れてきたところでいろいろひっかかりが出てきはじめ、このひっかかりはどこにどう返し解決したらいいのか?、かといって障害当事者にぶつけることも憚られ、どうしていいかわからないでいるとき、とりあえず何かそういうことを書かれた本があるのか?と探していて見つけた1冊。
    解決策が書かれているということではないが、私が感じた「ひっかかり」はわりと誰もが共通して持つものだということがわかり、自ずと相談する先、話の持っていく方向は見えるようになった。

  • パラパラとおもしろそうな部分だけを拾い読み。ジェンダー関連の話しも入っていて、いい感じだと思います。

    高齢者介護と障害者介助は、やっぱり思想というか成り立ちというか、いろいろ違うということを思い知らされますね。そして、なぜかわからないけど、障害系の方がいつも鋭い問題提起があって、そこはいつも勉強になるなと思っています。

    それにしても、「介助者」って現場では脇役だから、こうやっていろいろな語りが出てくるのはおもしろいですね。いろいろな人が関わっているんだなあと(当たり前だけど)。

  • 「介助者として働く・生きるとはどういうことなのか」を考え書いたものや、座談会、インタビューなどが集められた本。企画段階から本が出るまでにはかなりかかったそうで、結局のところ原稿を「書けた」人たちは、"自立生活運動に近い場所にいる介助者、男性、(相対的な)高学歴者"に偏った、ということが巻末には書いてある。

    「介助」という言葉と「介護」という言葉には、何か使い分けがあるらしいということは知っていたが、(そういうことなのか)と、やっとこの本で分かったかんじ。「介助」とか「介助者」という言葉は、「主として障害者の自立生活運動の中で、おそらく80年代後半以降より意識的に用いられてきた用語」(p.5)で、旧来の庇護・養護型の「ケア」、「介護」に代わる言葉として用いられてきた、という。

    とはいうもの、私や同居人が関わってきた「自立した障害者」のところでは、ずっと今まで「介護」という言葉が使われてきたし、今でも同居人が週に1、2度行くのは「夜介護」やし、正直なところ、こう書かれる「介助」と「介護」の言葉の違いは、私にはぴんとこないところがある(この本の中でも「介護」と使っている人もいる)。

    「知的障害のある人の自立生活」「介助とジェンダー」「暴力サバイバーと介助」「野宿と介助」「ボランティア介護者と介助労働者」「介助と能力主義」等々の、いろんな切り口で、いろんなことが書かれているなかで、私にとって、ずどーんとインパクトがあったのは、2章で書かれている新田勲さんの「足文字」の話だった。

    重い言語障害のある新田さんは、発声のかわりに、足で文字を書く。

    手話には指文字という初期言語の五十音の文字に対応させた視覚表現の文字体系があるが、新田さんの足文字は、「右足を筆のように動かして文字を書く」もので、ひらがなを参照した独特の字体や文法がある、という。足の動きだけではなく身体全体のしぐさがメッセージを示すサインとして活用されている、というあたりは、視覚言語であるという点でも、手話に通じるものを感じる。

    ただ、視覚言語といっても、新田さんが足文字を書き、介助者がそれを読んでいくというあり方、「足文字の遅さ」、つまりは「1文字ごとに足が動き終わるのを待ち、1文字1文字、逐語的に読む」という面倒さは、想像するに、伝えたいことすべてを指文字であらわすようなものかと思う。

    この2章を書いている深田さん(新田さんの介助者)が、新田さんの足文字を読めるようになったのは、先輩の介助者について学びながら、介助に入って1年くらい経ってからだった。その足文字の学習過程の話(状況に埋め込まれた学習によって、介助者としてのアイデンティティを得る)もおもしろかったが、何より印象的だったのは、闘争の言語としての足文字、あるいは「理解を求め、拒む」という足文字のアンビヴァレンツについてだった。

    「介助の社会化」要求の中で、新田さんたちは行政に介助費用を支給せよと求め、「金は出せ、口は出すな」と要求してきた。その交渉場面で、足文字は、圧倒的な力をもった。強者/弱者の関係は逆転していて、「足文字を話すことのできる新田」+「読むことのできる介助者」=強者、「足文字を話すことも読むこともできない行政官」=弱者という構図になっていた、という。

    その関係の逆転は、新田さんと介助者との間にもある。
    ▼言語障害の重い新田は、口でしゃべろうとすると健常者に太刀打ちできない。速度が圧倒的に異なり、負けてしまう。しかし、足文字では勝つ。この言語共同体に相手を引きずり込むことによって、関係を一挙に逆転させることができるのだ。そこでは足文字話者である新田がヒエラルキーの頂点に立ち、それ以外の者は未知の言語を学び受ける見習い・弟子の位置に置かれる。興味深いことに彼は健常者の効率性に追いつき追い越すことで相手に打ち勝とうとしていない。口で言葉を発せられないこと、遅いこと、わかりにくいことによって、関係を優位にしている。つまり、自分が強者になることで相手を打ち負かすのではなく、弱者であるままで強者より優位に立とうとしているのだ。(p.82)

    足文字の、「この遅さに向きあえ」というところ、そして、「他者の理解を望むが、簡単に理解されたくはない」という両義的なところに、音声言語の世界では強者になれてしまう者への強烈なメッセージがあると思う。

    ▼私たちは気やすく「わかったわかった」といわれることの不快さを知っているだろう。私のことをあなたが「わかった」気になること、そのこともまた不快なことだと私たちは感じる。だから、足文字は安直な理解が簡単に他社を飲み込んでしまう危うさを、つねに読む者に自覚化させるために、意図的にストレスフルで「わかりにくい」言語として設計してあるのだ。(p.83)

    「わかってしまってはいけない、わからないからこそ、わかろうとする、その反復のなかでその人は翻訳を意志する介助者となってゆく」(p.84)と深田は書いている。ベンヤミンの「翻訳者の課題」を引きつつ書かれた「介助者の課題」のキモは、まさにここにある気がする。

    3章で、『良い支援?』の寺本晃久さんが、「知的障害のある人の自立生活」をめぐって介助者が何をしているか、を書いたところも、おもしろかった。
    ▼優しい人、人当たりのよい人、性格の明るい人は、普通に暮らせるしまわりも支援できて当たり前。でも気むずかしい人、問題を起こす人は、だから生活を制限するのが正当化されたり、仕方がない、支援できないとなりがちだ。
     しかし尊重するとは、それらをひっくるめて、尊重するということだと思う。(p.114)

    介助者はできて当たり前の人、障害者ができないところを補う人、というイメージがあるかもしれないが、「介助者はできないくらいでちょうどいいのかもしれない」(p.114)とか、「そもそも介助者がいる意味は、その人の暮らし方や作法を知る人を周囲に作っていくことだと思う」(pp.116-117)とかいうところは、さりげなく、"障害者=何かができない、何かが足りない人"といった発想を撃っていると思う。

    巻末の座談会では、『逝かない身体』の川口有美子さんが、滞在1回15分、次の15分は何時間も先、というような「24時間地域巡回型訪問サービス」はとんでもない、家がミニ施設のようになっていく、町ごとの施設化、医療化だと語っている。
    ▼利用者さんの顔色悪くて「あれ、やばいかも」と思っても、ヘルパーは次に行かなきゃいけないから、ドアをパタッと閉めて。そして次に戻ったときに亡くなっているのを発見する、そういうシステムです。私たち、そうやって死んでいくんですよ。… (略) …

     一般市民はみんなそういう実態を知らないで、尊厳死とか言ってますよね。かっこつけて、1人で死ぬ覚悟はできているとかいってるけど、ほんとに孤独に死ぬんですよ。苦しくっても寒くても我慢しろと。のどで痰がガラガラガラガラして、誰かがいればすぐ取れるのを何時間も待って、それで、緩慢な窒息死をする。窓がちょっと開いていて、そこから風が吹き込んで、寒くてもがまんして肺炎になって、そうやって死ぬんですよ。(pp.343-344)

    なんとなくいいことのように聞こえる「24時間地域巡回型訪問サービス」は、まるで「尊厳死」がカッコイイ死に方であるかのように思われているのと似てるなと思った。

    いちむらみさこさん(『Dearキクチさん、』の人)が語っている「テント村のコミュニティ」の話。それは、「公園という誰もがいられるはずの公共空間の内部に、ゆるいコミュニティがあるという状態。もともと閉鎖的な家族や職場などの縛られるようなコミュニティから、思い切って出てきた人たちのつくるゆるいコミュニティ…(略)…生きるためだけ、生活するためだけに人びとがつながっている」(p.238)、そんな空間。

    そういうテント村の空間が「他人との関係の中から様々な選択や可能性が生まれることを前提にしている」(p.221)という小川てつオさん(『このようなやり方で300年の人生を生きていく』の人)の語る「自立」観からすれば、行政がテントを畳ませ、アパートで自立させようというときの「自立」は、何なんやろうと思える。その話は、杉田俊介さんのいう「家族を開く」(pp.349-350)にも通じてるなと思う。

    そして、今の自分の状況からは、「女性と介助」の座談会で語られる、「介助の仕事は孤独」(p.176、小泉)で、「何十年も働く仕事で、同僚がいないのは寂しい」(p.176、佐々木)という発言が、妙に心に引っかかる。

    (4/30了)

    *大野更紗さんによる「歴史の証言者たち ―― 日本の『制度』をささえた人びと(2) 新田勲」(2012年4月)
    http://synodos.jp/welfare/2270

    *マガジン9(http://www.magazine9.jp/)「雨宮処凛がゆく!」での川口有美子さんとの対話「尊厳死法制化の動きと、その裏にあるもの。の巻」(2013年2月、その1~3)
    http://www.magazine9.jp/karin/130206/

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著者プロフィール

杉田 俊介 1975年神奈川生。批評家。『宮崎駿論』(NHKブックス)、『ジョジョ論』『戦争と虚構』(作品社)、『無能力批評』『ジャパニメーションの成熟と喪失』(大月書店)、『橋川文三とその浪曼』(河出書房新社)、『神と革命の文芸批評』(法政大学出版局)ほか。

「2023年 『対抗言論 反ヘイトのための交差路 3号』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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