著者 :
  • 明石書店
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  • Amazon.co.jp ・本 (149ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784750337685

作品紹介・あらすじ

ノーベル文学賞作家・莫言による自伝的小説。1960年代末、主人公が放校された小学校の場面から始まり、軍への入隊・作家としての成功・小学校の仲間たちとのその後の交友など、約40年間の中国社会の大変貌と主人公の人生の変転を軽妙なタッチで描く。

感想・レビュー・書評

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  • <中国社会の変容に自らの人生の変遷を重ねる、ノーベル賞作家の自伝的小説>

    タイトルの「変」をぱっと見ると、「奇妙な、変な(strange)」の方の「変」かと思うのだが、英語で「Change」と併記されている。つまりは1970年前後から30年あまりの中国の変化を自伝めいた形で綴った小説である。
    比較的短く、軽いタッチである。
    中心となるのは、主人公が小学校5年生のときの同級生2人との思い出、そしてその後である。1人は何志武、思い切りがよく切れ者の男子、もう1人は魯文莉、卓球が得意でまずまずかわいい女の子。何志武は魯文莉に好意を抱いている。
    主人公とこの2人は時を経て再会をするのだが、再会までには主人公自身、波乱に満ちた人生を送る。小学5年生で放校処分を受け、工場労働等を経て、軍に入隊。文才が認められ、有名人となっていく。
    流れるように物語は時を下り、3人はそれぞれの運命を辿る。

    訳者による巻末の解説によれば、文体や話法に実験的な手法を用いているようなのだが、中国語をよく知らないこともあって、その辺が読み取れないのは残念だ。
    G.マルケスやW.フォークナーの影響を受け、マジックリアリズムを駆使した長編を書いているとのこと。本書にはさほど目眩く描写はないように思うが、ソ連製のトラックの話や、魯文莉と先生が卓球をするシーンにはそんな片鱗が覗いているような印象も受ける。

    訳者は、最後の場面に魯迅の『故郷』を重ねている。
    それぞれの人生を送り、互いに変わってしまった旧友との再会は、時に、ほろ苦さを纏うものなのかもしれない。
    中途でぷつりと断ち切られるような幕切れは、まだ3人のこの先の人生が続くことを象徴しているようにも読める。

  • 中国籍作家として初めてノーベル文学賞を受賞した人の自伝的なお話。
    語り口調で進み、読みやすかった。
    混沌とした時代を生きた作者の生き様を感じた。

  • 中国のノーベル賞作家の自伝的小説ということで挑戦してみた。予想に反して読みやすくてひきこまれた。まるで青春小説のようで、フィクションも含まれているようだが小学生のころの逸話は面白すぎて笑いながら読んだ。中国の歴史的背景に詳しければさらに楽しめるはず。その部分は少し難しかった。

  • 有名な作家が自身の生い立ちを振り返る。
    小学校の同級生には卓球の上手な女の子、魯文莉がいた。彼女の気を引こうとした何志武がいた。猛スピードで走るドラック、GAZ51に皆が憧れるような時代だった。
    工場で働いた後、軍に入り、作家として名を上げていく語り手。

    年齢を重ねてから再会した何志武は時代に合わせた事業で、金持ちになっていた。聞けば、わるいこともバレないようにやってきたらしい。
    二度の結婚と二度の夫との死別を経た魯文莉は、有名な作家となった語り手に、娘の試験合格を頼むためにやってくる。

    ---------------------------------------

    中国における貧富の差、身分の差をまざまざと見せつけられた。社会主義とは言いつつも、金儲けに成功すればやりたい放題できるし、その逆もまた然り。賄賂なんて当たり前、出世欲はとても高い。これまで持っていたイメージとはまた違う、中国の別の過去が見れたような気がする。

    小学生のころの幼い恋を、おじさんおばさんと言われる年齢になっても忘れていないのはとても素敵なことだと思った。
    魯文莉と語り手がホテルのバーでワインを飲む場面なんてまるで漫画『黄昏流星群』のようだった。
    年齢を重ねれば見た目はもちろん変化するし、立場も状況も変わっていく。時代に合わせて色んなことが変わっていくけど、過去の思い出は変わらないし、変えられない。

  • 黄色に大きく『変』でひどく目立ち、よくよく見ればあのノーベル賞作家ではないか!
    変、だなんて、どんなストーリーを書く作家なの?と興味本位で手に取れば、英語でchangeと添えられており、ちょっとがっかりする。あ、そっちの変か…。

    彼の自伝的小説だとのことだが、文章は軽快な感じで、手記っぽくもエッセイっぽくも読める。
    文化大革命の激動の中国から現在に至るまで、国に翻弄されて生きてきた自身を振り返りつつ、変わり続ける中国をも炙り出そうという気概が感じられる。
    読者に語りかけるような表現が、独特でありながら思いのほか読みやすく、中国の歴史はからきしダメな私にも、当時の雰囲気が何となくイメージできてくる。
    中国の変化という大きなテーマに見せておきながら、その実、著者の思い出を瑞々しくも描き出した青春の物語とも読める作品。

    • たまもひさん
      bokemaruさん、こんにちは。
      この本、私も気になってたんですが、そうか「そっちの変」ですか。ノーベル賞作家(しかも中国の)が、どんなヘ...
      bokemaruさん、こんにちは。
      この本、私も気になってたんですが、そうか「そっちの変」ですか。ノーベル賞作家(しかも中国の)が、どんなヘンテコなのを書いてるのだろうと思ってました。
      でもちょっと読みたくなる感じですね。わかりやすい紹介をありがとうございました
      2013/06/14
    • bokemaruさん
      たまもひさん、コメントありがとうございます!
      そうなんです、私もすっかりヘンテコを期待(?)していたのですが…(^_^;)
      訳者によれば、実...
      たまもひさん、コメントありがとうございます!
      そうなんです、私もすっかりヘンテコを期待(?)していたのですが…(^_^;)
      訳者によれば、実験的手法を用いているそうなのですが、語り手としての著者が読み手に話しかけるやり方のことなのか、手記っぽい表現方法なのか、中国語法的に実験的なのか、そのあたりが今ひとつピンと来なくて。
      他の作品を読んでいないのでいつもの作風がわからないのですが、この軽快さが実験的ということなのかも…?
      いずれにしろ、短くてサクサク読めるので、もし機会があればぜひ。
      2013/06/15
  • 軽妙な文体で小説。
    ラストがうーん、ノスタルジー。

    他の莫言も読んでみよう。

  • 初の莫作品だが、ノーベル賞作家云々を抜きにしても直ぐに引き込まれた。
    もっと重いテーマの作品を読んでみたい。

  • 文革当時に小学5年生で放校され、工場で臨時工を経て人民開放軍入隊、そして作家として活動す現在を小学校時代の同級生二人を絡めて書かれている自伝的小説。
    主人公と同じように小学校を中途で辞め、自分の狡賢いとも言える才覚一つで勝負に出て成功した少年が当時の中国で財を成した成功譚を語るところは彼のような人物が何万人何十万人と居たのだろうな、と想像できました。
    物語に幾度か出る中農や共産党と言う言葉に関連する事象が中国独特の人々の生活を垣間見せてくれます。コネが大事なのは当時も現在も変わらない、と言うところも…。

    主人公の目を通して持つ者と持たざる者の差を含めて中国の変遷が見えました。

  •  敢えて批判的言辞を弄するまでもなく、淡々とした会話描写それ自体がそのまま現実批判になっている。
    →なるほど、そういう手法もあるのか。確かにわざわざ言うまでもないことを言語化するのは無粋な時が時々ある。

     なぜ断らないのか。それはもちろん、つらい境遇の魯文莉の心情を汲むという面があると同時に、そうしたやり方が、現今の中国の慣習だからであり、小説では敢えて金を預かることによって、逆に社会批判が成り立つのである。
    →すごい読みだ。

  • 莫言の本をやっと読む。
    莫言の自伝的物語。
    莫言は 小学校の時に 放校処分に合う。
    1969年のはなしで、劉天光先生は 口が大きかった。
    それで、劉ガマとか 劉カバ と名付けたのが 莫言で、
    そのことで放校になったという。(ちょっとありえないけど)
    同級生で 何志武と魯文莉がいた。
    魯文莉は、卓球の選手でチャンピオンとなり、かわいい子だった。
    父親は トラックの運転手で ソ連製のグリーンのCAZ51 に乗っていた。
    そのトラックは 朝鮮戦争の時に活躍して、未だに走っていた。
    また、トラックの運転はその当時でも珍しく、地位も高かった。

    何志武は 魯文莉が 好きで
    何になりたいと言う作文で
    『俺には他に理想はない。たったひとつの理想があるだけだ。
    俺の理想は 魯文莉の父親になることだ。』と書いたことが
    みんなから 笑われ 先生からも追求された。
    そのため、何志武は、学校をそのまま出て行ってしまった。
    莫言と比べても、決断力があり、思いっきりのいい子だった。

    莫言は 工場で働いたり、軍隊に応募したりして、
    人民解放軍に 入ることができた。そこで、トラックCAZ51 に合う。
    莫言は 運命的な出会いを感じ、運転手になることを夢み、
    また、北京まで 行ったりした。
    莫言は 本が好きで いろいろと本を投稿したりして、
    評価されるようになって、大学に入る。
    さらに 『紅いコーリャン』が 張芸謀によって
    映画化されることになり 有名となった。

    時は流れて 何志武 は 怪しいビジネスをして成功し、
    魯文莉は 結婚し、子供を産み、そして 未亡人となり、
    劉カバ先生と再婚したりした。
    莫言は 何志武と魯文莉 にあうのだった。

    中国の 特色的社会主義に変化していく中で
    それぞれが 変化した人生を歩み 交差する。

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著者プロフィール

中国・山東省高密県出身。小学校中退後、1976年に人民解放軍に入隊し、執筆活動を開始。『赤い高粱(コーリャン)』(1987年)が映画化され世界的な注目を集める。「魔術的リアリズム」の手法で中国農村を描く作品が多く、代表作に『酒国』『豊乳肥臀』『白檀の刑』など。2012年10月、ノーベル文学賞を受賞。

「2013年 『変』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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