誰が星の王子さまを殺したのか――モラル・ハラスメントの罠

著者 :
  • 明石書店
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  • Amazon.co.jp ・本 (251ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784750340456

作品紹介・あらすじ

星の王子さまとバラとのこじれた恋愛関係に焦点をあて、ハラスメントの物語として読み直した、これまでにない視点の『星の王子さま』論。なぜ王子はバラの棘の話で怒りをあらわにしたのか、なぜキツネは王子に「飼いならして」と言ったのか。物語の謎が解き明かされる。

感想・レビュー・書評

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  • この本を読んでいる途中に、キツネの話を聞いて頭の中が真っ白になって、ただ茫然と言葉を繰り返す王子さまの感覚を私も知っている!?と思った自分が謎でした。
    そして、よ〜く考えて辿り着いたのは、20歳ころの3年間の自分。
    でも、どんなに考えても、ハラスメントを仕掛けられていた記憶はない。もちろん、ハラスメントだ!と即座に感じられる感覚が自分にあればそんな状況は長く続くわけがないから、やっぱり感じていなかった3年間なんだろう、と漠然と思いつつモヤモヤしました。

    モヤモヤが晴れたのは、ニュースサイトでみたコチラ、ある俳優さんの結婚の条件、です。
    1、仕事のワガママは許すこと
    2、映画鑑賞について行かない
    3、目標を持ち一生懸命な女性
    4、“いつも一緒”を求めない
    5、女の心情の理解を求めない
    6、メール返信がなくてもOK
    7、1カ月半会話なしでも我慢すること……
    これ満たした新婦さんは「プロ彼女」って言われてますね。

    私にとって、7番以外はできるよ!って条件です。
    だから、「プロ彼女」なのかな?って最初は思ってました。

    でもね、これ、コチラの「仕事のワガママも許してくれる」とか、「いつもご飯があることを求めない」とか、そういうコチラ(女性)側の条件がなかったとしたら…ハラスメントだな、って思いました。
    そもそも、コチラ(女性)も「5、男の心情の理解を求めない」って書いたら、成立しない条件がいくつもあるわけです。

    ま、それはおいといて、結婚に際して新郎となる人がこの条件を提示してくれたとしたら、それはまだ良心的ですね。
    考えられるから。

    もっと巧妙に、狡猾に、決して要求したなんて証拠を残さないように、相手が「勝手に」そう思い込むように、仕向ける。
    それがコワイところ。

    20歳ころの3年間という時間。ツラいこともたくさんあったけど、それでも素敵な恋愛関係だったんだいう記憶を保持し続けていたけれど、何度考えても、どうしてこんなツラい目にもあったのに、あの人の何にそんなに惹かれたんだろう?って心のどこかで考えていたことの答えがこの本に書いてありました。

    「きみのバラのためにきみが無駄にした時間のゆえに、きみのバラはそんなにも大切なんだ」
    そう、苦しくてもツラくても悲しくても、それを感じる自分を感じないようにした時間の分だけ、その関係が大切だったのですね。
    ま、性懲りもなく、30歳前後の同じような期間にも、同じような関係に陥っていたわけですが(苦笑)

    何かが違う…
    そう感じるだけの自分があってよかった。
    そう感じて、関係を終わらせることのできた自分に拍手。
    20年以上経っても気づかなかったモヤモヤに気づかせてくれたこの本と、タイミングよくニュースサイトに取り上げられた7つの条件に感謝です。

    老婆心ながら、この7つの条件、(仮に対等だったとしても)結婚には有効かもしれないけど、お子さん誕生したら反故にする契約が必要ですよね。
    2人暮らしが3人、4人になるたびに、更改しないとね。生きているうちに「変わらないこと」なんてそうそうないから。

  • 星の王子さまとバラ、キツネの関係を、モラル・ハラスメントという切り口から読み解く…。試みとしては面白いのだけれど、どうも心から納得することができない。

    いくつも文例を挙げながら、慎重にエビデンスを積み上げていくその弁証法は見事なものだと思います。「モラル・ハラスメント」の概念に関しても、精神科医マリー=フランス・イルゴイエンヌの著書『モラル・ハラスメントーー人を傷つけずにはいられない』を参照しながら(大幅に照らしあわせるようにしながら?)、独自の『星の王子さま』論を躊躇なく展開していく様子にも、思わず「ふむふむ、そうかそうか」となってしまいそうになるのですが、なんだか居心地が悪い。落ち着かない。腑に落ちない。

    どこまでも続く「被害者」と「加害者」という二項対立論。「信頼関係」は介入する余地がありません。
    たしかに、「モラル・ハラスメント的な関係」はあちこちに存在するし、そもそも人間の関係に均衡はないのかもしれない。相手によっては不幸な力関係が発生して、その関係に捉えられてしまうこともあるでしょう。だけど『星の王子さま』の世界にそれを持ち込むことに違和感。あまりにも一方向的な解釈の仕方で、バラやキツネにだって言い分はあるんじゃないかしら?と思ってしまう。

    この本は、著者の個人的体験にもとづいた考えから書かれているようです。「あなたは配偶者からモラル・ハラスメントを受けている」と知り合いに言われ、イルゴイエンヌの著書を読んだ安冨氏は、そこに「被害者の心情として描かれているものが、〔安冨氏〕自身のそれとよく一致して」いることに驚き、「実存的な衝撃」を受けたのだそうです。
    本書を読んでいると、そこかしこに著者の割り切れない思いだとか、「元配偶者」の方への恨みのようなものが感じられて不快になります。「あとがき」には、過去の著作の共著者の方(当時、特任研究員として著者に雇用されていた方だそうです)による「裏切り」を告発するようなことも書かれています。これも不快です。実名こそ挙げていないものの、ちょっと調べればすぐに個人を特定できます。(共著書のタイトルが挙げられていますので。)
    「最も期待していた若い共同研究者から、このような仕打ちを受けたことは、私にとってこの上ない痛手であり、悲しみであった」とのことですが、安冨氏のように著名で、発言力も影響力もある方が、ひとりの若い研究者に対してこんなかたちで「仕返し」をするのはどうにも大人気ない。

    個人的な恨みのために、王子を巻き込まないでくれ!
    そう叫びたい気持ちでいっぱいになります。

    「解題」として寄せられていた、サン=テグジュペリを専門とする文学研究者の藤田義孝氏の言葉に少し慰められました。『星の王子さま』への深い愛情が感じられて、なんだか安心しました。

    「本書は、『星の王子さま』の読解に新しい地平を開くものである。ただし、文学作品研究として見た場合、不満が残ることは否定できない」とした上で、いくつかの問題点を指摘しつつも、本書が「『星の王子さま』研究とサン=テグジュペリ研究に刺激的な新しい視点をもたらしたことに疑いの余地はない」とし、次のように締めくくります。

    「『星の王子さま』とは、けっして単なる美しい「愛=絆」の物語ではない。それどころか、「愛」や「絆」といった美しい言葉にこそ死に至る毒が含まれるという警告を発する寓話であり、グリム童話のように、本当は怖い『星の王子さま』なのである。そして、だからこそこの作品の偉大さはいっそう際立つことになるのだ。『星の王子さま』は、子ども向きの外観とは裏腹に、人間の持つ闇の深さを含みこんだ作品であり、それゆえハラスメントという視点からの読解にも耐える作品であり、人間心理の深層に到達して、グリム童話のように人類の古典となりうる「童話」だからである。長年にわたって、文学の愛好者や専門家たちが知らず知らずのうちに矮小化してしまっていたこの作品の偉大さを、あらためてわからせてくれたのが安冨流『星の王子さま』論なのである」

  • 星の王子さまを読んで違和感を覚えた人には刺さるだろう本。
    純粋に楽しめた人は読まない方が無難に思う。
    合う合わないは目次と要約部分を読めばはっきりするので、17ページまで読めば判断できる。

    内容はモラハラ概念を使った星の王子さま読解というよりも、星の王子さまを使ったモラハラ論といった感じがした。特に前半部分。
    主題と副題は逆の方がしっくりくるが、多くの人に読まれるためにそうしたのだろうか?
    自分の場合、人間関係を振り返る良いきっかけになった。
    私自身、著者と同じようにわけのわからない罪悪感に悩み、生きる気力が湧かない時期があった。
    その原因がわかったことは大きな収穫だと思う。

    ただ、研究員とのいざこざの下りであるだとか、言葉選びの刺々しさが個人的に苦手であった。
    著書がモラルハラスメントで受けた傷の深さが窺え、主張の切実さが増しているとも言えるが……。

    毒にも薬にもなり得る刺激的な読書体験だった。
    今後、モラハラの被害者にも加害者にもならないように気をつけたい。

  • 「星の王子さま」をモラル・ハラスメントの観点から深読みする。バラは王子さまを飼い慣らし、混乱させていた。これはバラによるモラルハラスメント(情緒的虐待)である。また、キツネは「飼い慣らしたものには責任がある、王子さまにはバラに対する責任がある」と罠をかける。薔薇が王子さまを飼い慣らしていたにもかかわらず。これはキツネによるセカンド・ハラスメントである。結局「星の王子さま」は蛇に噛まれる死を選んでしまう。主題は真実を見抜く力。「本質的なものは目には見えない」

  • 2018年頃に読了。
    このような解釈もあるのかと目から鱗。
    本を手放したが、いつかまた読みたい。

  • 【貸出状況・配架場所はこちらから確認できます】
    https://lib-opac.bunri-u.ac.jp/opac/volume/62503

  • 自己嫌悪本で安冨氏を知り、非常に興味を引くタイトルだったので手にする。解釈自体の文芸表象論的な妥当性はあまり関心にはならず、ただただ氏の言うモラルハラスメントの定義、傾向、対処についての記述に引き込まれた。キツネの位置づけとして自身も同様に被害者であってその程度の被害は大したものではないという加害者側の洗脳に従っているという観点は非常に重要と思う。被害者が加害の再生産をしがちという特性からしても、だめなことにはだめとはっきり伝えつつ、当人の更生を図る道筋を確立できればよいが…。

  • 『星の王子さま』という馴染みのタイトルにつられて、気軽に手に取ってしまったが、いやはやなかなか読むのに苦労した一冊だった。一般の読者にも読めないことはないけど、かなりの覚悟をもって読まないと、置いてけぼりにされる。
    あとがきと藤田先生の「解題」を読みおえて、何とか息をついたけど、これ論文ですもん・・。単純に一つの寓話として『星の王子さま』を読みたい向きにはお勧めしません。
    確かに、お話の中に出てくる薔薇の花ってある種の人間のテンプレみたいな感じには思ってた。しかも、実生活で出会ったらちょっと厄介な感じのするタイプの。それをモラハラという概念から読み解くってのは、言われてみればなるほどと。
    今回はメモ読をしなかったこともあって(引用されている原文=仏語におののいた)たぶんあんまりは理解できてないだろうなあ・・
    もともと自分自身が文学系の勉強した人間で、いろんな暗喩とかを読み解く癖がある。それが最近めんどくさくなって、「わからないものはわからないままに、不思議なものは不思議なままに」読む嗜好も芽生えてたんで、そこらへんもちょっとしんどく感じた理由かもしれないな?歳とって単純に思考力が落ちてきたか??((+_+))
    あとがきと他の本でも紹介されてた、深尾さんのタガメ女とカエル男の本は次に読むべく手元に控えてるので、それ読んで、もう一回この本に戻ってくるのもアリかも?この本自体は明日が返却日ですが・・

  • ずっと、星の王子さまの話を理解でずにいました。
    このモラルハラスメントと関連づけた本で、納得がいきました。

    わがままのバラに対して、優しき王子は、距離をおくことに決めました。
    そうして、やってきた地球で、バラの世話をしてきたのだから、バラへの責任があると、キツネにいわれ王子は混乱し、罪の意識を感じ自らの命を絶ちます。

    純粋な心を利用することに平気なモラハラ加害者。
    そして、一見、正論なきつねのセカンドハラスメント。

    注意深く観察すると身近に転がっている状況かもしれない。
    この名著で美しい話を、モラハラだという解釈で発表されたことに敬意を払います。

  • 誰が星の王子さまを殺したのか 安冨歩 明石書店
    モラルハラスメントの罠

    モラハラとは
    倫理観や道徳に関する嫌がらせでありイジメである
    倫理観も道徳も社会的な価値観として誕生と同時に
    植え付けられがちな怖い洗脳である
    生まれながらに持つ自分なりの倫理観を
    育てられる環境を作るにはお互いを侵さずに
    可能な限りの全体を俯瞰する意識を持たなければならない

    星の王子さまは
    十代の頃表紙の可愛い絵に誘われて読み出したものの
    途中でどうにも耐えかね放り出した本なのだけれど
    こんな本に出合うことで再認識する機会を得た

    ありがたいことに
    これは強い忍耐力と冷静な分析力による得難い本である
    出合えたことに感謝するしかない

    作者のテグジュペリ自身も
    無意識が手伝っての物語なのだろう
    だからこそ誰もがこの奥深い内容を
    常識的な愛だの情だのに振り回されて
    客観的に深読みできず脇道に迷い込んで来たのだろう

    今度こそ
    子供向けに書かれた恐ろしい大人の歪んだ物欲の世界を
    冷静に最後まで読み通せるかもしれない
    そうすれば誰もが陥っている
    モラルハラスメントの所有と言う洗脳から目覚めて
    お互いに自由自在で対等な調和を目指す関係を
    見つけ出せそうな気がして
    諦めかけていた希望すら湧いてくる気がする

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著者プロフィール

東京大学東洋文化研究所教授。1963年、大阪府生まれ。
著書『「満洲国」の金融』『貨幣の複雑性』(以上、創文社)、『複雑さを生きる』(岩波書店)、『ハラスメントは連鎖する』(共著、光文社新書)、『生きるための経済学』(NHKブックス)、『経済学の船出』(NTT出版)、『原発危機と「東大話法」』(明石書店)、『生きる技法』『合理的な神秘主義』(以上、青灯社)、『生きるための論語』(ちくま新書)、『満洲暴走 隠された構造』(角川新書)ほか

「2021年 『生きるための日本史』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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