反骨の公務員、町をみがく---内子町・岡田文淑の 町並み、村並み保存

著者 :
  • 亜紀書房
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  • Amazon.co.jp ・本 (240ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784750514079

作品紹介・あらすじ

地域社会を立て直す。

森まゆみさんは「谷根千」を通して、日本中の町並み保存、まちづくりを見てきた。その中で出会った人のなかで、地方にあってすばらしい仕事を残してきたと信奉しているのが岡田文淑さん。
岡田さんは愛媛県内子町の役場職員として、誰にも顧みられなかった内子の町並みを観光資源としてとらえ、国の伝統的建築物群保存地区に選定させた。内子町は現在も多くの観光客を呼び込んでいる。

都会の金をあてにしない、自立への試み――。

岡田さんの生涯の仕事は、そのまま高度成長以降の日本の地方都市の在り方に重なる。岡田さんの人生を追いながら、日本の町並み保存、まちづくりの50年を追う。

「工場の誘致」「国からの補助金」、それ以外に地域社会の自立の道はほんとうにないのか?
「公務員」の真の仕事とは?

感想・レビュー・書評

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  • 愛媛県内子町の元職員として内子の町並み保存運動に奔走した岡田文淑さんへのインタビュー形式で話は進む。タイトル通り反骨の公務員だった岡田さんは、当時誰にも顧みられることのなかった町並みにスポットを当てて、同僚や上司、住民からの反対などお構いなしに内子の「重伝建地区」選定へと漕ぎ着けた。元公僕ならではの公務員に対する辛辣な言葉が連なるが、全くその通りだと思うとともに、同じ公務員として自分が言われているような気がして反省するところばかり。「自分に与えられるワンランク上の仕事」を心がけていきたい。

  • いまでこそ、まちづくりと言えばやれ地場産業の振興だ、特産品開発だと、やたら行政依存の形で叫ばれるが、産業遺産のある街を訪れるかぎり、かつての日本では民間がその土地での産業をつくり出していった。(p.36)

    いい町とは、マスツーリズムに迎合しない町のことだ。観光こそ、行政がちゃんと規制もかけ、コントロールすべきだと思う。(p.54)

    僕はたくさんの情報がキャッチできるし、手に入る。その情報をベースにして、自分なりの”まちづくり”をプランしていくわけ。当然、普通に暮らしている人たちに、いかにそういった情報をうまく提供できるかということが、公務員の仕事の一つだと思う。それは当然のこととして批判が出るし、反対が出るということは当たり前だと思って、受け止めざるを得ない。(p.62)

    本当の観光行政というのは、僕は根本からのまちづくり、地域づくりだと思うよ。そこに生活している人がやっぱり誇らしく生きていける地域とはなにかと。『論語』に「近き者説び(よろこび)、遠き者来たる」(近くの民が喜べば、遠くのものも来るのだ)という言葉がありますが、その通りだと思いますね。(p.64)

    「公害が人々の生命や健康への侵害行為だとすれば、歴史的環境の破壊こそは住民の精神生活への挑戦である。一度歴史的環境が失われたあとの、住民の精神的欠落感は、ことにその人が地域に誇りを抱いていればいるほど、堪えがたいものであると言えよう」、これを読んだ時は本当にそうだと思った。
    なにも町並みは建物だけじゃない、鎮守の森、家の前を流れるせせらぎ、町外れのお地蔵さんや松の木などのシンボルツリーの数々、自分の生まれ育った地域の「ふるさとのシンボル」は歴史的環境であって、その価値は数量的に換算することはできないんだが、「らしさ」を保全することが、その町の文化を守ることであり、僕流に言えば「村並み保存運動」そのものだ。(p.86)

    “市民参加”とか、“住民参加”という言葉が公の文章の中で一人歩きしているんだけれども、僕は言葉があべこべだと思っているんです。本来、“市民主体”というものが前提にあって、その後に“行政参加”という言葉が出てくるのが、本来の地域づくり。
    けれども、“市民参加”ということになると、主役は行政になって、行政に関わっている人たちが、「じゃあ、市民との対話を」ということになるんですね。それで、誰を対象にしていくかというと、“肩書きのある”人。石畳のところでも言ったが、役場の人間が付き合う住民というのは、常に会長さんですよ。(p.115)

    旅をするということは井の中の蛙にならなくてすむ。自分の町を外からよく眺めることができる。(p.180)

  • ○テーマにひかれて読んだ作品。
    ○書きぶりが鼻につくため、素直に読みにくい。

  • 組織の中の公務員とそれから飛び出した公務員との違いがよくわかる。

  • 岡田文淑氏いわく、「今社会教育の中で生涯学習という言葉がしきりに使われているけれども、あれはお茶やお花を嗜むために生涯学習という言葉があるんではなくて、そういう日常の、私たちが地域に生活基盤を持って、やっぱり自治というものを、しっかりと地域の中に根付かせていくことの基礎的なものを身につけていくことか生涯学習ということなんだと思ってる」

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著者プロフィール

1954年生まれ。中学生の時に大杉栄や伊藤野枝、林芙美子を知り、アナキズムに関心を持つ。大学卒業後、PR会社、出版社を経て、84年、地域雑誌『谷中・根津・千駄木』を創刊。聞き書きから、記憶を記録に替えてきた。
その中から『谷中スケッチブック』『不思議の町 根津』(ちくま文庫)が生まれ、その後『鷗外の坂』(芸術選奨文部大臣新人賞)、『彰義隊遺聞』(集英社文庫)、『「青鞜」の冒険』(集英社文庫、紫式部文学賞受賞)、『暗い時代の人々』『谷根千のイロハ』『聖子』(亜紀書房)、『子規の音』(新潮文庫)などを送り出している。
近著に『路上のポルトレ』(羽鳥書店)、『しごと放浪記』(集英社インターナショナル)、『京都府案内』(世界思想社)がある。数々の震災復興建築の保存にもかかわってきた。

「2023年 『聞き書き・関東大震災』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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