帰還兵はなぜ自殺するのか (亜紀書房翻訳ノンフィクション・シリーズ)

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  • Amazon.co.jp ・本 (392ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784750514253

作品紹介・あらすじ

ピュリツァー賞作家が「戦争の癒えない傷」の実態に迫る傑作ノンフィクション。内田樹氏推薦!

本書に主に登場するのは、5人の兵士とその家族。 そのうち一人はすでに戦死し、生き残った者たちは重い精神的ストレスを負っている。
妻たちは「戦争に行く前はいい人だったのに、帰還後は別人になっていた」と語り、苦悩する。
戦争で何があったのか、なにがそうさせたのか。
2013年、全米批評家協会賞最終候補に選ばれるなど、米国各紙で絶賛の衝撃作!

「戦争はときに兵士を高揚させ、ときに兵士たちを奈落に突き落とす。若い兵士たちは心身に負った外傷をかかえて長い余生を過ごすことを強いられる。
その細部について私たち日本人は何も知らない。何も知らないまま戦争を始めようとしている人たちがいる。」(内田樹氏・推薦文)

感想・レビュー・書評

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  • イラクに派兵され、PTSD(心的外傷後ストレス障害)やTBI(外傷性脳損傷)を負った兵士・元兵士たちを追ったノンフィクションである。
    ジャーナリストである著者は、長きにわたって軍に同行し、イラク戦争に従軍する兵士たちを取材してきた。そしてその報告をまとめた本を出版する。兵士たちとの関係はそこまでのはずだった。だが、関係は切れなかった。凄惨な場面に遭遇した後、本国に戻った兵士たちの多くが、あるいは自殺願望を持ち続け、あるいは家族に暴力を振るい、あるいは集中力をなくし、以前のような日常に戻れないと訴えてきたのだ。そこで著者は彼らとともに、もう少し歩むことになる。
    静かに、しかし容赦なく、かつ丹念に、その筆は、歯車が狂ってしまった兵士たちを、そして彼らに翻弄される家族たちを描き出す。著者はノンフィクション・ジャーナリズムと称しているが、それぞれの人々の感情を克明に記しつつ、それについての判断を挟まない。読み手は登場人物1人1人に入り込んだように、ともにあがき続けることになる。

    兵士たちは自分がなしたこと、なしえなかったこと、それによって失われた仲間の映像に、執拗に苛まれ続ける。そしてまた、他の誰もがPTSDに罹るわけではないのに、自分がそうなってしまったことで、自らが「タフ」でないと感じて苦しむ。
    どうして自分はこうなってしまったのか。なぜいつまでも克服できないのか。出口は見えない。
    そしてそれは多くの場合、怒りとなって、身近なもの、配偶者や恋人、幼い子供に噴出する。向けられたものにとっては理不尽な怒りである。やり場のない怒りは、兵士自身だけでなく、家族をも壊していく。

    邦題は「帰還兵はなぜ自殺するのか」だが、その「なぜ」に答えはない。
    原題の"Thank you for your service"のserviceは兵役を指すが、いったいそれが何のためなのか、読んでいるうちにわからなくなってくる。作中にも何度か「ご奉仕に感謝します」というフレーズが出てくる。国家に対して、何か崇高なものに対して、仕えたはずなのに、その結果得られたものは名誉でもなく栄光でもなく、壊れた「自分」なのか。

    イラクに派遣された兵士のうち、かなりの数が自殺し、また自殺願望を抱き続けているものは多い。それに対していくつもの治療プログラムも組まれているが、特効薬というほどの解決策は見出されていない。そして必要とするものすべてが治療を受けているわけでもない。

    戦場は苛酷だ。つまるところ、人が人を殺す場所であり、自分も死ぬかもしれない場所だ。先刻まで至極元気だった屈強な男が、血まみれで亡くなることもありうる場所だ。そうした場面を見聞きして、辛くもそこから生き残ったとして、心に傷を負うのは無理もないことだろう。
    直接戦地で戦った兵士たちは多くの場合、貧困家庭出身の若者だった。心に傷を負い、除隊したとして、その後の生活は非常に厳しいものになる。運よく治療プログラムに登録され、運よく社会生活に戻る一歩を歩み始めるものもいるにはいる。だが「運よく」とは言ってももちろん、「何の苦労もなく」からはほど遠い。

    私にはこの本を論評することはできない。個々の兵士たち、家族たちの苦しみを論じることはできない。
    重苦しい気持ちのまま、「なぜ」が渦巻く。
    最後のページを閉じても、「なぜ」は消えない。
    これはそういう本なのだと思う。

    • 薔薇★魑魅魍魎さん
      この本、私も読みました。他の様々の資料も調べて、政府がひた隠しにする自殺者の本当の実数も把握しています。

      こういう人たちを、かつては ...
      この本、私も読みました。他の様々の資料も調べて、政府がひた隠しにする自殺者の本当の実数も把握しています。

      こういう人たちを、かつては 情けない 根性無し 失格者 非国民 とさげすみ、強制的に矯正するようにしたという歴史を『日本帝国陸軍と精神障害兵士』(不二出版 2006年)で知りました。

      私には、そのなぜに対しては、その重苦しい気持ち 重苦しい現実を晴らし失くすためにも、 戦争をしないようにする こと以外にはないのではないかと思います。
      2015/10/07
    • 薔薇★魑魅魍魎さん
      読んだり映像を見たりする以外に戦争を知らない私の身近な戦争といえば、祖父の実体験を聞くことでした。

      15年前に80歳で身罷った祖父は、...
      読んだり映像を見たりする以外に戦争を知らない私の身近な戦争といえば、祖父の実体験を聞くことでした。

      15年前に80歳で身罷った祖父は、酔うと♪ここはお国の何百里・・・と歌いだし、かなり酔っぱらうと 戦争は酷いでぇ 妊婦も屈強な兵隊も いたいけな赤ん坊も 可憐な少女も みいんな一緒くたや ぼろきれみたいにずたずたにされる 声も血ぃもなあんにも出えんと物みたいに無くなってしまう と呟いていました。

      何の変哲もない普通の穏健な小市民でしたが、満州で、なるべく銃剣を持って人殺しをしないで済むように、しかも出来るだけ殴られたりしないように、潤沢な食料の恩恵を被ることの可能なように、高級軍人専用の料理人に化けたそうです。

      それでも何人か殺したといいます。戦争だから仕方がなかった、殺さなければこっちが殺されるところだったと述懐した祖父をそのあと、小2の私は子供をあやすように頬ずりをして抱きしめて、二人はいつまでも無言のままでいました。

      2015/10/07
    • ぽんきちさん
      薔薇★魑魅魍魎さん

      コメントありがとうございます。
      そうですね。考えれば考えるほど、戦争をしないという解決策しかないように思えてきま...
      薔薇★魑魅魍魎さん

      コメントありがとうございます。
      そうですね。考えれば考えるほど、戦争をしないという解決策しかないように思えてきます。こんな「割に合わない」ものはないように見えます。
      貧困層の若者が使い捨てのように遇されているのも痛ましいことです。
      この本には出てこないですが、当然、「向こう側」にはさらに傷ついているイラクの人々もいるわけで。

      彼らの血の上に達成される「大義」って、そうしなければ得られない「正義」って、やはり間違っているのではないか。

      お祖父さまのお話、胸に迫ります。多くのものを抱えていらっしゃったのでしょうね。
      2015/10/07
  • 戦争に行き、身体ではなく心に傷を負って戻ってきた帰還兵たちのドキュメント。統計などの高所大所からの話はほとんど出てこない。数人の帰還兵と、その家族の物語だ。家族は言う。彼は戦争に行って、別の人になってしまった、と。
    アメリカはしょっちゅう戦争をしている国だから、アフガン戦争や湾岸戦争ばかりではなく、古くはベトナム戦争に従軍した兵士で、いまも悪夢やパニックに苦しんでいる人がいるという。日本でそういう話はあまり聞かないが、なかったわけがない。
    彼らが精神的外傷を受けたのは、戦友を助けられなかったり、敵や民間人を自分の手で攻撃したり、命の危険にさらされたり、直近で爆弾が爆発して脳にダメージを受けたからだ。ならばミサイルのスイッチを押したり、ドローンを操縦して敵を攻撃するリモート戦争を推進するのが解決策、ということにならないだろうか? 問題はそこにあるのだろうか? 兵士も精神的なダメージを受けるだろうが、殺されかけた民間人はもっと深刻な精神的ダメージを受けるのではないだろうか?
    ライオンが獲物を殺してノイローゼになるという話は聞いたことがない。人間はたぶん、殺し合いに向いていないのだ。歴史が始まって以来、のべつまくなしに殺し合いを続けてきたにも関わらず。

  • 戦場の過酷さと共に、雄々しくあらねばという考えも、帰還兵を苦しめているように思える。助けを求めることを不名誉と思い、苦しい思いを抱えることは自分の弱さと考え、何に苦しんでいるのか語ることができない。戦争は戦場にだけあるのではないということを、ただただ兵士たちの帰還後を辿ることで突きつけてくる。
    こうやって苦しんでいるのは、アメリカ兵だけではないだろう。相対して戦ったアフガニスタンやイラクにも、今のシリアなどにも、過酷なものを抱えている人たちがたくさんいるのだろう。私たちはどうすれば、戦わずにすむのだろうか。

  • 帰還兵の物語というとオブライエンの『本当の戦争の話をしよう』が思い出されるが、これはイラク戦争からの帰還兵を追ったノンフィクション。第二次世界大戦、ベトナム戦争からの帰還兵とイラク戦争の帰還兵は当然それぞれの苦悩があったかと思うが、帰還後の精神的ストレスについてはトラウマの症状が異なるという。前線があるかないか、明確な戦場が区切られていないイラクでは360度、気の抜けない環境であったことが指摘されている。
    ノンフィクションではあるが、帰還兵のその後の生活、本人を取り巻く家族の苦悩、米軍によるメンタルケアの実情などが生々しく物語られていて、さながら複数の主人公が存在する小説を読んでいるかのようである。描かれている状況は悲惨だが、それにしても、アメリカがここまでのケアを実施するためにどれほどの予算が必要か、その想像にも慄く。

    日本では戦争を知る生存者も少なくなり、過去の認識も歪んだまま安易に語られるようになった現在、戦争の爪あとがこのような形で残される、そしてこのような本がきちんと評価されるアメリカに敬服する。
    なお訳者のあとがきに記載があるが、日本からイラクへ派遣された自衛隊員1万人のうち、帰還後の自殺者は28人とのことである。

  • 2022/07/26 読了

    戦争自体が終わっても、それによって受けた身体的な傷、精神的な傷の影響は終わらない。
    アメリカの5人の兵士とその家族に焦点を当てた、ノンフィクション作品。

    日本でも自衛隊の人は同じ傷を受けることもあるようだ。
    やっぱり戦争のない世界であり続けるよう、努力し続けたいと思った。

  • ↓利用状況はこちらから↓
    https://mlib3.nit.ac.jp/webopac/BB00532497

  • 3.56/587
    内容(「BOOK」データベースより)
    『本書に主に登場するのは、アダム・シューマン、トーソロ・アイアティ、ニック・デニーノ、マイケル・エモリー、ジェームズ・ドスターの五人の兵士とその家族。そのうち一人はすでに戦死し、生き残った四人は重い精神的ストレスを負っている。妻たちは、「戦争に行く前はいい人だったのに、帰還後は別人になっていた」と語る。戦争で何があったのか、どうしてそうなったのか…。イラク・アフガン戦争から生還した兵士200万のうち、50万人が精神的な傷害を負い、毎年250人超が自殺する。戦争で壊れてしまった男たちとその家族の出口なき苦悩に迫る衝撃のレポート!』


    冒頭
    『 はじめに
    彼の不安そうな目を見ればだれにでもわかった。震える手を見ればわかった。部屋にある処方された三本の薬瓶を見ればわかった。激しい動悸を抑える薬と不安を和らげる薬と悪夢を最小限に抑える薬だ。ノートパソコンのスクリーンセーバーを見ればわかった。原子爆弾の火の球と「イラクなんてクソ食らえ」の文字だ。そして、ここに来てからずっと書きつづけてきた日記を見ればわかった。』


    原書名:『Thank You for Your Service』
    著者:デイヴィッド・フィンケル (David Finkel)
    訳者:古屋 美登里
    出版社 ‏: ‎亜紀書房
    単行本 ‏: ‎390ページ
    発売日 ‏: ‎2015/2/10

  • 主にイラク、アフガニスタンの戦争から帰って来た兵士は、PTSDや脳損傷により苦しみ、自殺してしまう。

    兵士や家族の日々を坦々と記録してある。

    戦争は、戦闘が終わってもなお、人々を苦しめ続けるもの。

  • 精神面を掴んでくる、強い共感を生む本だった。

  • 東洋経済202187-14掲載

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著者プロフィール

ジャーナリスト。「ワシントン・ポスト」紙で23年にわたり記者として働き、2006年ピュリッツァー賞受賞。
その後イラク戦争に従軍する兵士たちを取材するために新聞社を辞めバグダッドに赴く。2009年に本作『TheGood Soldiers』を上梓。

「2016年 『兵士は戦場で何を見たのか』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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