ハイジャック犯は空の彼方に何を夢見たのか (亜紀書房翻訳ノンフィクション・シリーズ II-2)

  • 亜紀書房
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  • Amazon.co.jp ・本 (376ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784750514321

作品紹介・あらすじ

アメリカでは社会の閉塞感を背景に、1961 年からの11 年間に159 件のハイジャックが発生した。犯人たちは何を求めて凶行に及び、何を手に入れ、そしてどうなったのか。

劇的なハイジャックを成功させ国外へ逃亡した黒人帰還兵と白人女性のカップルは、その後運命のいたずらでブラックパンサーに深く関わり、フランスへ逃れ、やがて別れる。
彼らのドラマチックな物語を中心に、数々の事件の顛末と多彩な手口、またハイジャック防止のための規制をめぐる当局と航空業界のせめぎ合いを、スリリングに描きだす傑作ノンフィクション!


ひとは何を求めて“テロリスト”になるのか!?

感想・レビュー・書評

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  • ノンフィクション
    犯罪

  • ヴェトナム帰還兵の黒人男性ホルダーとマッサージパーラーで
    働くチャーミングな白人女性カーコウ。ふたりの偶然の出会いは
    アメリカ史上最長距離・最高時間のハイジャック事件を引き起こ
    すことになった。

    本書はこのふたりの事件を中心に据え、アメリカ航空業界がハイ
    ジャックのパンデミックに陥っていた1961年から1972年にかけて
    のハイジャック事件史になっている。

    当初の計画とは違ったが、見事ハイジャックを成功させたホルダー
    とカーコウ。ホルダーがヴェトナムで体験した地獄、軍隊内部で
    の差別、犯行に至った動機や手段、そして実際のハイジャックの
    模様、ふたりの「その後」が詳細に綴られている。

    手に汗握るという感じでこの部分も面白いのだが、その多くは失敗
    に終わったハイジャック事件の変遷と、多発するハイジャックの防
    止に頭を悩ませるアメリカ連邦航空局と各航空会社の攻防が
    非常に興味深い。

    持ち込みが制限された手荷物はX線検査機を通され、旅客は
    金属探知機を通過しないと航空機に搭乗できないという現在
    からは考えられないくらいに警備はゆるゆる。

    それでも発券カウンターで搭乗客に不審な人物がいないかの
    チェックはじめたが、それも忙しくなればあってなきがごと
    し。ハンディ・タイプの金属探知が常備されるようになって
    も、故障で使用できなかったり絶対数が足りなかったり。

    今から考えれば「どうぞ、乗っ取って下さい」と言っている
    ようなもの。

    航空各社が積極的にハイジャック防止に努めて、現在のよう
    な煩わしくはあるが厳重な警備体制が出来上がったのかと思っ
    ていたのだが、これが違った。

    いつ起きるかも分からないハイジャック犯の為に、多額の費用
    を掛けて安全対策を取るより、ハイジャックされてキューバへ
    飛んだ機体を買い戻す方が安上がりだったらしい。

    だから、伝説のハイジャック犯クーパーなんてのが表れちゃっ
    たのかもね。身代金とパラシュートを要求して、大金と一緒に
    空の彼方へ消え、その行方は今も不明だとか。

    「ここではない、どこか」。ハイジャック犯はみんなそんな
    夢を見ていたのかもしれないね。

    ただ、9.11アメリカ同時多発テロ以降はハイジャック=テロのよう
    になってしまったけれど。

  • 「語源的には、「ハイジャックする」という動詞はギャングが貨物トラックを乗っ取るときに使った「Hold your hands high, Jack!(手を高く上げろ、ジャック!)」という命令に由来する。」

    1961年以降のアメリカ。ハイジャックが始まる。当時、金属探知機や手荷物検査はなかった。それをするには費用がかかり、また、時間がかかるからである。だから、ハイジャック犯がキューバを目指していた時代でも、それにかかるコストと導入のコストを比較して、無検査の方針が決まった。

    しかし、時は流れ、金目当ててハイジャックする者、アルジェリアに亡命するためハイジャックする者が現れた。本作では、アルジェリアに希望を求めた男女のハイジャック犯が特集されている。ハイジャック後は、反アメリカ組織ブラックパンサーでの生活、その後のフランスへの亡命、そしてアメリカへの帰国が書かれている。

    結局、どこにも希望の地はなかった。何かを得るためには、長い時間の積み重ねが大切だ。ハイジャックは犯罪だ。だれも認めてくれない。

  • この亜紀書房さんのノンフィクション・シリーズは、2冊目です。
    (ちなみに、1冊目は『帰還兵はなぜ自殺するのか』。これも良書です。)

    本書は、2013年度、アメリカの主要なメディアで激賞されたノンフィクションらしいです。
    そういう評判・評価を抜きにしても、面白い本でした(言葉の表現が適当かどうか難しいですが)。

    さて、内容ですが、アメリカで発生したハイジャック事件の数々のちょっとした歴史を織り交ぜながら、若いカップルのハイジャック事件が中心に描かれています。

    そう、ある若いカップルが起こしたハイジャック事件のノンフィクションです。

    そのハイジャック事件とは、アメリカ史上最長距離、最長時間になるハイジャック事件となります。

    1972年。ウエスタン航空701便。

    ハイジャック犯は、ベトナム戦争からの帰還兵の黒人男性とその恋人の白人女性のカップル。

    黒人男性の名前はホルダー、白人女性の名前はカーコウ。

    当初の計画からずれたものの、ハイジャックに成功し、乗客・乗員は無事で、「若きカップル」は夢と希望を抱いて亡命を果たします。

    ハイジャックしている機内の状況も、筆者の細かな丁寧な取材によるものなのでしょう。
    機内の様子、パイロット、ハイジャック犯の心理、行動、人間らしさが伝わってきました。
    小説を読んでいるような錯覚でした。
    でも、あくまでノンフィクションです。

    そして…。

    何よりも、亡命した後の「若きカップル」を待ち構えていた数奇な「運命」「人生」。
    この部分が、本書の後半を占めますが、男性(ホルダー)の、あるいは、女性(カーコウ)のたどった人生に想いを馳せずにはいられませんでした。

    1960年〜1970年。
    アメリカの独特な文化・雰囲気。
    若者は、その時代の青春を謳歌し、ある者は反体制・平和を訴え、ある者は薬物に走り、そして、やがて、平凡な大人に戻っていく…。

    しかし、この二人のように大人になりきれなかった若者もいます。
    「訳者あとがき」の言葉を借りれば、無事に「軟着陸できなかった」者。

    本書を読み終えた後、なんとも言えない想いにかられました。
    何を夢見て、そして、実際に何を見たのだろうか、と。



    以下、本書の本筋からずれますが、この本を読んで知ったこと。

    本書で知ったのですが、今では考えられないくらいに、飛行機の搭乗手続きが簡単だったことも知りました。
    持ち物検査、X線検査もなかった。そして、保安官や警備員ですら配置されない空港も。
    だから、簡単に機内に刃物や爆弾などを持ち込め、「ハイジャックの黄金時代」があった。

    ハイジャック事件が起こるたびに、規制を求める声が強まり、規制強化を求める法案を可決しようと議会も動きます。(当然ですね。)

    しかし、「検査に時間も莫大なお金もかかる」など、あれこれ理由を掲げ、ロビイ活動をする航空業界。そして、その法案を廃案にもっていくという、今となっては考えられない過去があったことも知りました。

    良質なノンフィクションです。
    筆者の丁寧な取材に基づいた内容、適度な訳注もついていて、わかりやすかったです。

    おすすめです。

    最後に。

    個人的な希望ですが、亜紀書房さんには、良質な海外のノンフィクションをどんどん翻訳し、出版して欲しいです。

    すでに、『帰還兵はなぜ自殺するのか』、そして、この『ハイジャック犯は空の彼方に何を夢見たのか』という良質なノンフィクションを出版しているのですから。

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著者プロフィール

『New York Times』『Slate』元コラムニストで、『Wired』誌の寄稿編集者。コロンビア・ジャーナリズム・レビューの「新進若手ライター10 人」に選ばれる。著書に『Now the Hell will Start』がある。

「2015年 『ハイジャック犯は空の彼方に何を夢見たのか』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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