怪物はささやく

  • あすなろ書房
4.02
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  • Amazon.co.jp ・本 (221ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784751522226

作品紹介・あらすじ

ある夜、怪物が少年とその母親の住む家に現われた―それはイチイの木の姿をしていた。
「わたしが三つの物語を語り終えたら、今度はおまえが四つめの物語をわたしに話すのだ。
おまえはかならず話す…そのためにこのわたしを呼んだのだから」

嘘と真実を同時に信じた少年は、なぜ怪物に物語を話さなければならなかったのか・・・

感想・レビュー・書評

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  • ブク友ヒボさんのレビューを読んで興味を持ち、早速入手してきました。確かに、厚みのある紙の質感と合間に挟まる挿絵の重厚感がダークファンタジー醸し出す絵本の様で、さながら児童書を手にしているようだった。児童書...なのかな。
    ーーーーーーーーーーーーーーーーー
    病弱な母と共に素朴ながらも幸せな日々を願い生きる、少年コナー・オマリー。スクールでは虐めを受け、毎晩、ある同じ悪夢に魘されている。彼は母の闘病生活を支え、回復を信じて疑わなかった。
    庭から見える丘の上の協会。その墓地を守るようイチイの木が立っている。母にとって特別なイチイの木。ある晩、そのイチイの木が怪物に姿を変え、彼に三つの物語を話しにやってくる。そして最後の四つ目の物話は、コナー自信が怪物に話す事になると、そう言った。
    ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

    抜粋

    「嘘と真実を同時に信じた自分に罰を与えようとするのだ。真実を話せばよいのだよ。ついさっき、おまえがしたように。」

    「善良であり、同時に邪悪だった。
    殺人者であり、同時に救世主だった。
    欲深い人間であり、同時に正しい考えの持ち主だった。身勝手な男であり、同時に思いやりのある人物だった。そんなことがどうしてありえる?誰からも見えなかった男の孤独は、見えるようになったことでかえって深まった。なぜだ。」
    ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

    苦しみたくない、開放されたい。でも、守りたい。コナーが語る四つ目の物語は、「人は大きな矛盾を抱え生きている」その物だ。
    彼は怪物に真実を話した。真実の物語を。そして今度こそ本当に手を放すことが出来たのだ。

    正に、平凡が正常化した大人に読んで欲しい物語だ。どうしようもうもない矛盾を、「どうしようも無いから」と視界から消した大人達へ。
    真実を話せばよいのだよ。ついさっき、コナーがしたように。

    • メイさん
      遅くなってごめんなさい。
      映画のタイトルも「怪物はささやく」です。(*^-^)
      遅くなってごめんなさい。
      映画のタイトルも「怪物はささやく」です。(*^-^)
      2022/05/03
    • NORAxxさん
      とんでもないです^ ^
      ありがとうございます。映像作品も見てみますね☆いつもありがとうございます♪
      とんでもないです^ ^
      ありがとうございます。映像作品も見てみますね☆いつもありがとうございます♪
      2022/05/03
    • メイさん
      こちらこそ、いつもありがとうございます。
      こちらこそ、いつもありがとうございます。
      2022/05/03
  • 「物語とは油断のならない生き物だ。物語を野に放してみろ。どこでどんなふうに暴れ回るか、わかったものではない」

    重病の母と二人で暮らす少年コナーの前にイチイの木をした怪物が現れて「三つの物語を聞かせたあとに、コナーが四つめの物語を話す」よう要求する

    そして語られる物語、コナーの生活や真実の第四の物語は、とても深くて、示唆に富んでいて、読み手によって様々な受け取り方ができる物語だと思いますが、自分は物語の持つ力について考えてみました

    「物語」は非常にやっかいな生き物で、様々なちからを持っていると思います
    「物語」は喜びや、悲しみや、怖れや、学びや、それはもう様々なものを与えてくれます
    いいことも悪いことも
    しかも、同じ「物語」でも読む人によって全く正反対の感情を呼び起こすこともあります
    それどころか、同じ「物語」を同じ人が読んでも、読むタイミングや何回読んだかによって受け取るものが変わってきたりします

    それって「人」と同じだと思いませんか?

    相手によって全く評価が違う
    会うタイミングで感情が変わる
    好きと嫌いが混在する

    「物語」とは「人」であり
    「人」とは「物語」なのではないでしょうか

    自分はそんなことをこの物語から感じました

    • 土瓶さん
      もう「まんじゅうこわい」みたくなってるんでは。
      もう「まんじゅうこわい」みたくなってるんでは。
      2023/06/06
    • みんみんさん
      稲川淳二で特訓だな( ̄(工) ̄)
      稲川淳二で特訓だな( ̄(工) ̄)
      2023/06/06
    • ひまわりめろんさん
      2億円恐い
      2億円恐い
      2023/06/06
  • 本作の内容も、著者(シヴォーン・ダウド、パトリック・ネス)のことも知らずに手にした本書。

    これって児童書ですよね...

    主人公は13歳の少年コナー。

    毎夜悪夢にうなされ、学校でもイジメにあい辛い日々を送っています。

    しかし、本当に辛いのは大好きな母親が病気にかかり日々弱っていくことで、コナーはどこかで母親が助からないと思っていること。

    そして、そんな状況から早く抜け出したいと願っていること。

    毎夜うなされる悪夢の中で、助けを求める母親の手をコナー自身が放してしまう。

    大切なものを繋ぎ止める為に掴んだ手を自らの意志で放してしまう。

    そんな矛盾を人間は持ち合わせているという事実。

    あまりにも深い。

    ハッピーエンドではない児童書で、ただ毎日を過ごしているだけの大人が読むべき一冊。

    説明
    内容紹介
    2017年6月、待望の映画化!
    47歳で亡くなったカーネギー賞作家シヴォーン・ダウドの遺したアイディアを、
    2011年にカーネギー賞を受賞した気鋭の作家パトリック・ネスが引き継ぎ完成させた、喪失と浄化の物語。
    13歳の少年コナーは、“それ"を飼い慣らし、乗り越えていくことができるのか・・・・・・?
    内容(「BOOK」データベースより)
    ある夜、怪物が少年とその母親の住む家に現われた―それはイチイの木の姿をしていた。「わたしが三つの物語を語り終えたら、今度はおまえが四つめの物語をわたしに話すのだ。おまえはかならず話す…そのためにこのわたしを呼んだのだから」嘘と真実を同時に信じた少年は、なぜ怪物に物語を話さなければならなかったのか…。
    著者略歴 (「BOOK著者紹介情報」より)
    ネス,パトリック
    1971年、米国ヴァージニア州生まれ。南カリフォルニア大学卒業。1999年に渡英。一般向け読み物を2冊出版した後、YA向けの3部作“Chaos Walking Trilogy”シリーズを刊行。第3巻でカーネギー賞を受賞

    ダウド,シヴォーン
    1960年、英国ロンドン生まれ。オックスフォード大学を卒業後、国際ペンクラブで人権擁護などに携わる。デビュー作の“A Swift Pure Cry”でブランフォード・ボウズ賞を受賞。2007年に逝去。書きためていた3、4作目が死後刊行され、『ボグ・チャイルド』(ゴブリン書房)で2009年カーネギー賞を受賞

    池田/真紀子
    1966年、東京生まれ。上智大学卒業。英米文学翻訳家(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)

    • NORAxxさん
      ヒボさん、こんばんは^ ^
      なんとも心にずっしりと来そうな作品ですね...。後悔を題材にした物語(想像ですが)は私自身心当たりがなくとも心苦...
      ヒボさん、こんばんは^ ^
      なんとも心にずっしりと来そうな作品ですね...。後悔を題材にした物語(想像ですが)は私自身心当たりがなくとも心苦しくなってしまうので、暗黒書物大好きマン唯一の苦手分野です。でも何故だろう、ダークファンタジー要素があるんですかね??唆られてしまいました。
      そしてまたもやタイムリーな偶然なのですが、この作品の翻訳をした池田真紀子さん。私が先日読んでいたボーンコレクターの翻訳家様と同じ方でした!!ビックリですΣ(๑º ロ º๑)
      2022/02/22
    • ヒボさん
      NORAxxさん、おはようございます。
      ボーンコレクターと同じ翻訳家さんだったんですね!(◎_◎;)
      気づいてませんでした^^;
      本作はまさ...
      NORAxxさん、おはようございます。
      ボーンコレクターと同じ翻訳家さんだったんですね!(◎_◎;)
      気づいてませんでした^^;
      本作はまさにダークファンダジーでしたよ。
      なんてったって家の裏にあるイチイの木が怪物となってコナーの前に現れちゃいますからねぇ。
      でも、何より児童書とは思えない精神性というか心の内側を描いた作品でした。
      こんな一冊に出会えるのでジャケ書いもやめられません(笑)
      2022/02/22
  • 13歳の子に「真実を話せ」「真実を話せ」って酷だわ…。
    そして最後はなんだかよくわからなかった。
    2つの気持ちは矛盾しつつも表裏一体ってこと?

    モノトーンのイラストは凄い。

    怪物のセリフはフォントを変えてあるのだが、微妙な違いしかなくてわかりにくい。
    どうせ変えるのなら、もうちょっと違いがちゃんとわかるくらいにフォントを変えて欲しかった。

    ママ本人ももちろんだけど、おばあちゃんが可哀想。

    本書は『ロンドン・アイの謎』の著者が遺した原案を元に、全く別人の著者が書き、『ロンドン・アイの謎』とは別の翻訳者による作品。

    『ロンドン・アイの謎』の著者がやはり原案を遺し、翻訳者は『ロンドン・アイの謎』と同じである『グッゲンハイムの謎』を借りてきてあるので、そちらの作品に期待。

  • 母親の病気が悪化し、学校でも孤立しているコナーのもとに、イチイの木の怪物が現れる。
    怪物は言う。「おまえに三つの物語を話して聞かせる。わたしが語り終えたら、おまえが四つめを話すのだ」
    怪物がコナーにもたらすものとは。


    ずっと読みたいと思っていたのに本屋さんで出会えずKindleにもなく、やっとお取り寄せしました。

    モノクロの挿絵が文章にかかるように描かれていたり、見開き一面に黒々と広がっていたり。それは話の内容を象徴するかのよう。

    全体的に暗くて救いがない、つらい話だった。

    「そのうち、こう考えるようになった。ぼくはどうやら早く終わってほしいと思ってるみたいだって。そのことを考えなくてすむようになりたいらしいぞって。待ってることから、もう解放されたかった。あの孤独から、一刻も早く解放されたかった」

    コナーが打ち明ける真実。本当の気持ち。
    本当の気持ちを認めることってすごくきつい。
    自分の本音に気づいて、そんなことを考えてしまう自分が恐ろしくなったり嫌になったりするのはすごくよくわかる。時に、矛盾する本音をたくさん抱えていっぱいいっぱいになっちゃうこともある。怪物が言うように、人間とは本当に【複雑な生き物】なんだな、と。

    「人の心は、都合のよい嘘を信じようとするものだ。その一方で、自分をなぐさめるための嘘が必要になるような、痛ましい真実もちゃんと理解している。そして人の心は、嘘と真実を同時に信じた自分に罰を与えようとするのだ」

    コナーが自分の恐ろしい本音に気づいていて、そんなことを考えている自分は罰を受けるべきだと一人で悶々と考えているのも悲しい。
    なかなか出来ないかもしれないけれど、本当の気持ちを認めて、吐き出すことが必要だなと思った。
    考えてしまうことはしょうがないし重要ではない。その先でどう行動するかが大切。

    素敵な言葉とか考え方がたくさんあったんだよなぁ
    おばあちゃんがコナーと自分は気が合わないと言いつつ「でも、おたがいに学ばなくちゃならない」として、コナーのママをふたりの共通点にしていることにもグッときた。本音を認めて、この共通点から始めようとしているの、いいなって。
    お母さんがコナーに「後悔なんかしなくていいの。怒るのは当然なんだから」と伝えるのも泣けた。

    はじめは恐ろしくて忌々しいようだった怪物が、ちょっとずつ可愛らしく?身近に思えてきた。
    お母さんとのお別れの場面で、コナーがちゃんと立っていられるように支えてくれていた怪物。
    怪物とはコナーの中にいたのかなと考えると、コナー強くなったねとまた泣ける。

    すごく大切な本に出会えた。また何度も読み返したいと思えるお話。


    「人生とは、言葉でつづるものではない。行動でつづるものだ。何をどう考えるかは重要ではないのだよ。大切なのは、どう行動するかだ」

  • ある夜、怪物が13歳の少年とその母親の住む家に現れた。それはイチイの木の姿をしていた。怪物が3つの物語を語り終えたら、少年が4つめの物語を話さなくてはならないという。
    3つの物語はどれも定型から外れており、少年を追いつめる。なにより自分で自分を追いつめていくさまが痛々しい。

  • 挿絵がとてもたくさんだったが、それが気になるでもなく、不思議としっくりきていた。

    物語という形で、人間の本質、現実を容赦なく伝えてきた怪物。

    「人生とは、言葉でつづるものではない。行動でつづるものだ。何をどう考えるかは重要ではないのだよ。大切なのは、どう行動するかだ。」

    どれほど自分勝手に残酷なことを願おうとも、例えば殺したいほど憎いと思っても、死んでほしいとまで願っても、行動に移さない限りその真実は善でも悪でもない。現実になったものは、自分が望み、考えたこととは関係ない。それなのに、自分に罰を与えようとしてしまう人の心の不可思議。

    この物語に、静かに暴れ回られました。

  •  この本を知ったのは、ブクログさんの書評から。児童向けでホラーで、課題図書っていうくくりになってて、ホラーなのに、児童向け?ホラーなのに、課題図書?って思って、興味を持ったことがきっかけ。

     主人公コナーは、序盤はとにかく可愛くないガキ。自分に向けられる感情はいいものも悪いものもすべて無視して、一人達観して、平気なふりをして生きる。怪物が初めて現れたときも、「どうせなら、連れて行けば?」とまるで人ごとのような素振り。ああ、可愛くない。
     でも、そんなコナーが、怪物の話す物語を聞き、物語が自分の考えていた結果と違うものばかりだと知ったときから、考え、悩み、思いあぐねて変化していく。私、このあたりから、コナーのこと応援し始めた。
     コナーが、自分にどんなことがあってもそれを人ごとのように振る舞い、他人に決して自分の本心を見せないのは、「自分は間違っている」という考えに固執していたから。だから誰にも、自分の本心なんて知られたくなかったんだな。でも、怪物の物語を聞くにつれて、真実は一つじゃないのかも・・・という考えが頭をよぎるようになったんだろう。このあたりから、私は、コナーを思って泣いた。

     彼が呼んだ怪物。怪物は、コナーを認めるために来た。「間違いなどではない。その真実を母親に話せ」と言いに来た。そして、母親の今際の際に、真実を話すコナー。真実なんて、誰にも言わない。そんなものは存在しない、と自分の本心を否定すらしていたコナーの、なんという変わり様。
    深い。これ、児童が読んで、理解できるのかな?私は一回読んだだけでは理解できませんでしたが・・・

     この物語は、ハッピーエンドではないと思う。でも、私はこの物語を読んで気づいたことがある。
     まちがっていることは、実はまちがっていないのかも知れない。自分の考えがまちがっているかどうかは、行動に移してみて、その結果を見るまでは分からないのだ。
     つまり、この物語のその後、コナーの十数年後は、ハッピーになっているかもしれないな。

  • こんなにシンプルに、人間の持つ矛盾や二面性を描いた物語は読んだことがない。
    主人公は13歳の少年だけれど、何歳だろうと、自分の本心を見ないようにしている人はたくさんいる。
    なんでもない、大丈夫、そんなことは思ったこともない。その本心の内容が、反社会的であったり、非人道的と思われそうなことだったり、自分が悪く思われそうなことだったりすればするほど、人は自分の本心を抑えつける。なかったことにしてしまうのだ。
    でも、大抵の場合、それは失敗に終わる。なんとはなしににじみ出てしまうのだ。それを他人に察知されてしまって、苦しい状況に陥ってしまう。

    コナーが絶対に認めたくないこと。それは自分の中にある身勝手な思い(と自分では思っている)だ。
    それを認めてしまうということは、すべてを否定してしまうことだと思うから、彼は必死で目をそらす。
    夜毎現れる怪物が語る物語も、すべては同じことを物語っている。
    人間の二面性。簡単に善悪で決着がつけられないもの。善でもあり、悪でもあるのが人間なのだ。
    魔女である女王は、農民の娘を殺しはしなかった。でも国を支配したいと願っていた。王子は、国を守りたかった。そのために自らの手で愛しい娘を殺したのである。魔女は、していない罪で裁かれるべきだっただろうか。王子はその罪のために国を追われるべきだったのだろうか。
    アポセカリーは確かに嫌な人間だった。それでも薬剤師としての腕はあったのだ。司祭はアポセカリーの技術は時代遅れだと思っていた。イチイの木にも触れさせなかった。にも関わらず、自分の娘が死にそうになった時、それまでの信念をあっさり捨ててアポセカリーに頼ろうとした。
    コナーは怒ったけれど、私も司祭は身勝手すぎると思った。「誰だってそうするだろ」とコナーは言ったが、司祭は自分の信念を簡単に曲げてしまったのだ。そんな人がこの先司祭として存在していけるだろうか。
    第三の物語は物語の体をなしていない。言葉ではなく行動で綴られた物語だからだ。ここでハリーが放つ言葉が凄まじい。
    「自分は特別なんだって得意げな顔をして、自分の苦しみは誰にも理解できっこないって顔して、学校を歩きまわってるコナー・オマリー」
    「罰を受けたがってるコナー・オマリー」
    本人にしたら、絶対認めたくない発言だ。断固否定するであろう言葉だ。それなのに、ぐっさり突き刺さって、そのあまりの痛さで破壊的行動に出てしまう。
    暴れたら罰を受けることができる、という気持ちが、無意識のうちにあるのだ。だからそのあとで、「退学処分です」といわれて、どこかホッとするのだ。
    しかしこの校長先生は傑物である。本物の教育者だ。ここで彼を放り出すことが何の解決にもならないことを、そしてそんなことをしたら、教育者としての誇りも失ってしまうことをちゃんとわかっているのだ。
    コナーは辛い状況にあるし、いじめもある。でもちゃんとした大人が周囲にいる、ということはひとつの救いでもある。今の日本にあるいじめの問題でも、こういう大人が周囲にいたら、もっと違う方向へ進むのではないかと思わずにはいられない。

    13歳という年齢の不安定さは、洋の東西を問わないのだな、と思う。
    自分の弱さを認めるというのは、いくつになっても難しいし恥ずかしいことだ。
    「いじめられている」「親の死を予感して怯えている」などの状況は、もちろん自分自身のつらさもあるが、それを人に知られることのほうがずっと辛いという心情もあるのだ。
    いじめに介入して手助けしようとするリリーに対する怒りは、大人から見れば身勝手に見えるけれども、そもそも「助けてもらう」という状況そのものが屈辱的だし、母親の闘病に関しても同情される方が傷つくということもある。特に男の子は。
    リリーが友達にしゃべってしまったのは女の子らしいネットワーク作用だったのだろう。でもその根底に潜むかすかな優越感を、コナーは感じてしまったのだ。
    同情には優越感が必ず潜んでいる。そのことは案外忘れがちだ。

    コナーに対して「つらい気持ちはわかるよ」と皆がいう。そのときの「つらさ」とは「母親が重い病気にかかっていて、もしかしたら死んでしまうかもしれない」というつらさだ。
    しかし、当事者たるコナーにはもう一段深いつらさがある。
    別れのつらさの予感に耐えかねて、早く終わって欲しいと望んでしまう自分の身勝手さである。だから罰を欲しているのだ。
    介護殺人で、「身勝手な理由により」と判決文で言われるのは、まさにこの部分なのだと思った。自分が楽になりたいから殺してしまった、そのことを身勝手というのだ。
    コナーはそれができなかった。それを望んでしまう自分が許せなかったのだ。だからあんなに苦しんでいたのだろう。
    第四の物語をコナーが語らなくてはならなくなる場面では、息をするのも苦しくなった。コナーのつらさや苦しさが圧倒的に迫ってきて、涙が止まらなくなった。

    それでも。どんなに痛くて苦しくても、自分の真実から目を背けてはいけないのだ。目を背けている間は苦しみは続く。真実を語り、ボロボロに傷ついたら、初めてそこから傷は癒えていくのである。

    もし私が中学生のときにこの作品に出会ったとしたらどんなふうに感じただろう。
    「それでもホントのことなんか言えないよ」と思ったかもしれない。受け止めてくれるだろうと思える相手がいなければ、本当のことなど言えはしないのだ。

    最後でおばあちゃんと本音で話すことができてよかった。気が合わないことは認め合った上で、でも共通点を通じてやっていけるかもしれない、と思うあたりは示唆に富んでいる。

    複雑な世の中になってくると、単純な勧善懲悪の話や、簡単な二元論がもてはやされるようになる。わかりやすいどんでん返しや、派手な展開で楽しみたいと思うようになる。
    でも、現実は善悪が複雑に絡み合っていて、そう簡単に割り切れるものではないのだ。割り切れないとみんなが認めていかないと、真実を表に出すことは難しいだろう。

    ところどころで見開きで入る挿し絵が素晴らしい。物語と相まって非常に効果的だった。

  • ある種「救済」の物語。
    不気味な序盤、お決まり?のいじめっこ、合間にはさまるヒリヒリとした瞬間、避けられない運命、ファンタジー世界を行き交いながらも足元は1人の少年の心象と残酷な現実に根付いている。

    余談だけれど、手元にあるのは近くの中学校の除籍本。
    とにかく多感で、理想と現実の軋轢に苦しんで、もしかしたら主人公の少年と同じ境遇に見舞われるかもしれない中学生には良い読書になったのではないかなぁ、と思ったり。

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