一〇五度

著者 :
  • あすなろ書房
3.68
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本棚登録 : 395
感想 : 49
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  • Amazon.co.jp ・本 (255ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784751528730

作品紹介・あらすじ

イスのデザイナーになりたい中学3年の真は、編入した学校で出会った梨々と共に、学生イスデザインコンペに挑戦することに。コンペ出品のイスの背もたれの角度は、105度。

感想・レビュー・書評

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  • 自分のやりたいことを持っているのもすごいけど、そのためにちゃんと勉強まで頑張れるのがすごい。そして、弟のことまで。プロダクトデザイナーだという作者ならではのリアルな描写もとてもよかった。

  • 「イス」職人の孫に生まれた主人公の真は、祖父の血を引き、イスマニアに育ちます。
    一方で、同じようにその血を引く父親は「安定志向」を絵に描いたような「わからずや」で、成績を上げ、上位の大学へ進学し、安定した収入のある会社へと就職するよう、真へプレッシャーをかけ続けます。
    父親への反発と、自分のやりたいことを突き詰めるために「イス」のデザインコンペティションへと参加することを決意する真。

    親の過度な期待を背負い、苦しみながら生きている真の姿には胸が痛みましたし、ラストのシーンでも一定の成果を上げながらも父親の評価を覆すことができないなど、ある意味で非常に「現実的」な作品であると思います。

    この作品の中で繰り返し語られるテーマの一つは、「好きなことを仕事にすることはしんどい」ということ。趣味として続けるのではなく、他者からの評価(収入を含めて)がさけられない「職業」として、自分の想像力や創造力だけで勝負していく生き方には相応の覚悟が必要であるということが伝わります。
    決して、平坦ではなく、また壁の多い道ではありますが、「行くべくして行く道」であるならば、どのような困難にもめげずに立ち向かってゆく、その心意気が欲しいと思います。

    中学校の2018年度の読書感想文コンクール課題図書のひとつですが、「後味があまりよくない(ハッピーエンドではない)」あたり、少しハードルが高いかもしれません。


  • 椅子オタクの2人がコンペに向けて奮闘する過程で、椅子作りのことも色々と知ることが出来ました

    椅子作りの環境にも恵まれていたけど、この2人の情熱はすごいなあ

    2人の応募作品も見てみたい

  • イスのデザイナーを目指す中学生の話。
    途中で歩み寄りを見せたかに思える父親との関係がこじれるラストシーンに、少し拍子抜けしてしまった。
    クリエイティブな職を志している学生におすすめしたい。

  • 中学三年生の春、真は競争率の高い中学校に合格し、編入することになった。
    自己紹介で、「好きなことは?」と聞かれた真は、とっさに「イスです」と答えてしまう。
    常にイスに意識がいってしまう程、イスが好きだから。
    イスに「人の気配」を感じるからだろうか。

    このように物語は始まる。好きなものがあることに羨ましさを感じながらも、“イス好き“に共感してくれる子って少ないだろうなぁと思いながら読み進めていく。
    (中学校って少数派が過ごしにくい場所だから)

    学校図書館にある『イスのデザインミュージアム』という本をきっかけにして、真は女の子と出会う。
    髪を短くしていてスラックスをはいている彼女は、どうやらイスについて詳しそうだ。
    彼女は、早川りり。イスについていろんな話ができる彼女と過ごしていくうちに、イスのデザインコンペに挑戦しようと二人はチームを組むことになる。

    お互い自分のことを変人と思われていることをサバサバっと話すシーンが好きだ。イス好きは、見た目では分からないけれど、スラックスを穿くりりは目立つ。
    好奇な目で見られたりからかわれても、意に介さず「自分の権利をふつーに行使しただけ」って、すごくかっこいいし魅力的だ。
    好きなものを共有できて、互いに刺激し合って高め合える友だちと出会えたことは、本当に幸運なことだと思った。

    好きなことがある(夢中になって目指すことがある)って強い。

    父の存在は真にとって足枷のようでもあるが、父の反対が、真の行動を駆り立てる原動力の一つにもなっている。
    また、父の紹介で、普段会えないようなデザインを仕事にしている方達から貴重な経験談失敗談を聞く機会も得ていく。怖い存在だけじゃない父の姿も見せてくれている。
    (この年頃の子には親ではない大人と話すことはすごく刺激になる価値のあることだと思う)

    何よりこの話の要は、おじいちゃんの存在。
    おじいちゃんの一言一言が心に残った。
    「思いきりだれかに寄りかかると、相手が支えきれなくなっちまう。ちょいと寄りかかる程度がいいんだ。…でな、向こうも困ったら、こっちにちょいと寄りかかる。人間なんてのは、だれだってだれかに寄りかかって生きてんだよ」

    105度のいすと人間関係。
    これから、イスを見る時、思い出すかも。



  • 椅子のデザイナーを目指す少年とモデラーを目指す少女がコンペに挑戦する。二人の関係性やまわりとの葛藤は気になるが、わりとあっさり書かれる。それよりも、その道の厳しさを示すために父に業界の人の話を聞きに行かされるのだが、その話がリアルで心に刺さる。

  •  今年度の課題図書。
     大木戸真は、成績優秀で体も丈夫な中学3年生。父親に怯えて勉強しているだけの自分に忸怩たる思いを抱いている。
     やりたいことはイスのデザイン。
     父親にはその夢を全否定されている。
     そんな真が、スラックスをはいた女子梨々と出会い、「全国学生チェアデザインコンペ」に挑戦することで、自分の「行くべくして行く道」をつかむ物語。

     105度。これがこの本の背骨だ。今の真が作ろうとしているイスの背もたれの角度。
     この角度は「もたれる」ための絶妙なバランスを作る。
     そう。105度で生きていけるようになりたい。
     それはとてもしなやかな角度だ。
     きっとその角度で生きていけるようになるためには、何度も何度も作り直すことになるんだろうな。もう今までこんなに作り直してきたんだけどな。でも投げずに、それでもまだ次を作ろうとする気持ちが、人を内側から輝かせてくれるんじゃないかと私も思うから、まだ作ることをやめたくないと思う。

  • ★2018年度読書感想文課題図書(中学生の部)


    一〇五度は何の指数か。
    正解が描かれたところで、思わず表紙の絵をまじまじと見る。
    きっとこれが一〇五度。
    確かに、そういった意図で描かれただろうイラストに、思わず笑んだ。


    中学生に読ませる、という視点で考えると、イスというマニアックなモチーフ(?)は導入としては入りにくいかもしれない。まさかイスに興味がある中学生は稀だろうし、文章の中でもそこまで興味が惹かれるモノとして描かれているとも思われない。(というか、やっぱり素人には分かりにくい。)なので、イスの細かい描写に直面した本の苦手な中学生が読み進めていくのは結構苦しいのでは?と思ってしまった。
    (個人的にはそういったマニアックな内容を持ってくるところは好きなのだが、いまいち文面でイスの魅力が伝わっていないような気がする。まぁ無理もないか。)

    が、内容を見ていくと、登場人物の設定や人間関係が随分分かりやすく、入りやすいといえば入りやすいかも。
    ストーリーは、イスのコンペに挑戦する中学生二人の挑戦の物語だし、人間関係においては、強力すぎる父親の存在に悩む息子の葛藤だし、主題も、好きなことを仕事にしていくことの厳しさ、だし。

    イスに興味を持てれば面白いかなぁ…?
    私は多少なりと、イスのコンペに挑む二人の悪戦苦闘やら、イス職人という在り方やらを記述の中から楽しむことが出来たけれど、これ、全然イスに興味も何もない中学生が読んで楽しめるのかな?
    設定も、登場人物も、面白いとは思うけれど、いまいちその面白さが生かし切れていないような気もする。

    一番違和感があったのが、父親。
    今時こんな昭和な父親いるだろうか?
    自分がそうではないから思うのかもしれないが、時代錯誤感が拭えないというか…。
    いい大学出ていい企業に就職できても、大企業が倒産も普通にありえるし、それ以上に過労死とかが冗談にもならない時代だ。官僚だって、政治家の尻ぬぐいで左遷とか自殺とか普通にありそう。
    今時、いい大学にいい企業が一番、とか言うか?
    それがまず個人的には違和感でしかなかったが、まぁ自分と考えが違うだけでそういう人もいるのかな。
    個人的には、イスがそれだけ好きなら、好きなことやらせてあげたらいいじゃん、と思う。
    普通の企業に入ったって、全然安泰な世の中じゃないと思う。好きに生きればいい。でもその責任は自分で取る。そういうふうに育てればいいのに。
    同級生に「あいつは気が利く」だとか言われている父親のあまりの頭の固さに、読みながらイライラしまくりでした。
    あとは、真と梨々と力あたりに、いまいち生きてる人間臭さが感じられないというか、キャラっぽいなというのが少し気になった。表紙絵の影響もあるのかもしれないが、漫画のキャラみたいだなぁという感じ。

    作者はイタリアでプロダクトデザイナーをされている方で、そういうことを考えると、作中のイスやらプロダクトデザインに関する記述は、きっと好きなことに対する情熱をもって書いたんだろうと思えて、そういうのはすごくいいなと思う。
    主題は、好きなことで生きていくことだとか、家族との葛藤だとかそういったことだろうと思うけれど、結局、作者がイスやプロダクトデザインについて語っている文章が、一番生き生きしていてよいのかもしれない。

    個人的には、面白く読めた。
    中学生の感想も聞いてみたい。

  • 大木戸真は祖父の仕事であった椅子のデザイナーをめざす中学3年生

    進級を節目に編入した都内の中高一貫校で出会った早川梨々と意気投合し「全国学生チェアデザインコンペ」に挑戦する

    まわりの目を気にせず自分の生き方を貫く梨々
    堅実なエリートコースを強いる父
    体が弱く父母に溺愛されている弟

    真はさまざまな人との出会いを通して柔軟な考え方を学び、梨々と協力してコンペの出品作をしあげていく

    理想の背もたれの角度「一〇五度」をめざす2人の“椅子オタ”がさわやかに描かれる青春小説

    Cコード0093(一般対象の単行本)だが児童書8083の棚にも並べてほしい一冊

  • 中学生で既にはっきりとやりたい夢が決まっていて
    それに突き進んでいく情熱に心引かれた。
    自分も何か今からでも始めてみたいなと思った。
    製作の場面では阿吽の呼吸という感じで進み引き込まれた。2人のその後を見てみたいなぁと思った。

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著者プロフィール

『水色の足ひれ』(第22回ニッサン童話と絵本のグランプリ童話大賞受賞・BL出版)で作家デビュー。主な著書に『スーパーキッズ 最低で最高のボクたち』(第28回うつのみやこども賞受賞)『ぼくのネコがロボットになった』『リジェクション 心臓と死体と時速200km』『雨の日が好きな人』(以上、講談社)、『セイギのミカタ』(フレーベル館)、『つくられた心』(ポプラ社)、『一〇五度』(第64回青少年読書感想文全国コンクール中学校部門課題図書)、『アドリブ』(第60回日本児童文学者協会賞受賞)、『世界とキレル』(以上、あすなろ書房)など。
イタリア在住。日本児童文学者協会会員。季節風同人。

「2023年 『おはなしサイエンス AI(人工知能) ロボットは泣くのか?』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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