- Amazon.co.jp ・本 (443ページ)
- / ISBN・EAN: 9784751735404
感想・レビュー・書評
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保立道久著『歴史学をみつめ直す』(校倉書房 2004)。日本の近世をどうみるか、どちらかというとマルクス主義歴史学の本である。
マルクスの『資本論』の中に、日本の近世のことを「純粋な封建社会」と書いた部分があることは有名な話。しかしマルクスという人は、時々論争相手に皮肉をこめて、某の主張の通りなら現実は理想的な○○だ……といったような書き方をすることがあり、日本が「純粋な封建社会」だというのも、その類の表現だというのが、著者の詳細な論証による結論である。日本は西洋史的な封建社会とはいえず、マルクスの用語でいえば、アジア的生産様式の社会だったという判断である。かの不破哲三も若いころ研究者としてこの問題の論文を書いたが途中で撤退したらしい。
アジア的生産様式とは、要するに西洋とは違う東洋的な封建制度に近いものと思うが、東洋的な封建制度の意味を知らない人が多いようなので、広辞苑を引いてみよう。
「封建制度 ①天子の下に、多くの諸侯が土地を領有し、諸侯が各自領内の政治の全権を握る国家組織。中国周代に行われた。」
領主たちはそれぞれ独立し、これはいわば「純粋な地方自治」だといえなくもない。アジアは、多神教や汎神論が広まっているので、政治も一極支配は強くない。日常俗語の「封建的」などという言葉しか知らないと、アジア史は理解できなかろう。
アジアは西洋史のような発展段階とは異なるアジア的生産様式であるというのがマルクスの論理である。この本の副題は「封建制概念の放棄」。「封建」などという曖昧で通俗な概念に捕われていては正しい認識は不可能であり、放棄すべきだという。私もおおよそそうなのではないかと思っていたので、これは有難い本だった。しかし日本では、マルクスの見解は、そのようには理解されなかったようだ。
明治の日本人は、西洋の中世史を読んで、そこに書いてあることをことごとく日本の近世に当てはめようとした。そして暗黒の江戸時代像が作られていった。佐藤常雄『貧農史観を見直す』 (講談社)によると、江戸時代のことを当時は、左派陣営も明治政府と同じ主張をしていて、「奇妙な一致」だと書いている。明治政府側は、追い付き追い越せ、日本の歴史には学ぶべきものは何もない、脱亜論で行こうというわけなのだった。左派は、西洋史的な意味での「純粋な封建社会」であれば西洋史と同じ発展段階を経て次の段階の革命が期待できる、そうあってほしい、あるべきだということだったのではなかろうか。これはいわば左翼脱亜論である。詳細をみるコメント0件をすべて表示