おもてなしの経営学 アップルがソニーを超えた理由 (アスキー新書 55)
- アスキー (2008年3月10日発売)
- Amazon.co.jp ・本 (272ページ)
- / ISBN・EAN: 9784756151346
作品紹介・あらすじ
アップルの時価総額はなぜソニーを超えたのか?グーグル帝国はいかにして完成したのか?マイクロソフトで活躍した著者が自身の体験を交えながら、知られざるITビジネス成功・失敗の実態を解き明かす。業界を代表する3人との対談も含めて、激動のウェブ時代を生き抜くための「流れの読み方」がわかる決定版。
感想・レビュー・書評
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2009.09.14開始〜2009.09.17読了
<b>帯コピー:「熱烈ファンを生む組織とモノの作り方」
</b>
マイクロソフトに勤めた経験のある筆者が、iphoneなどのアップル製品を軸に、ユーザが本当に求めているものは「ユーザーエクスペリエンス」、つまり「おもてなし」にあるという論が、経験談とともに語られていく。
かつて、IT業界の頂点に君臨していたマイクロソフト。昔は今とは違う勢いがあり、それはアップルと双璧をなすものであったようだ。目指す方向が違ったために、マイクロソフトはメジャーとなり最終的には業界のデファクトスタンダードとなり、アップルは自らの主張を曲げずに推し進めたことでマイナーとなり、どんどんマニアックな方向へ進んでいった。
しかし、最終的にどちらの選択が正しかったのかは、iphoneの成功を見れば明らかである。
ユーザーに対する「おもてなし」を徹底的に作りこんでいく。それは、たとえマイナーであっても最終的には熱狂的なファンを呼び、次のファンを呼び込んでいくという、まさに日本の老舗旅館に見られる構図そのものだ。
日本の企業は、余りにも技術に寄り過ぎていたり、シェアを取る事にだけ躍起になりすぎていて、そのためならユーザーを騙しても良いという風潮さえある。しかし、本当の意味でユーザーが求めているものは、シェアを持っているというブランド力でも、圧倒的な先端技術でもない。
それはまさに、「おもてなしの心」以外の何物でもない。
お客様が何を求めているのかだけを純粋に追求することは、かつての日本人がもっていた心意気そのもの。
そこから生み出されたものには、ユーザーには見えないはずの製造過程をも、知らず知らずのうちに相手の心に何かを訴えかける力を持つ。
それは、うわっぺらだけの欺瞞で満ちたモノには絶対に表現できない、ホンモノだけが持つ感触。
わかりやすく言えば「魂」という言葉がぴったり当てはまる。
今の日本のアプリケーションや家電製品やウェブサービスに、「魂」は存在していない。
日本の未来は、自分達がもっていた心を取り戻せるかどうかにかかっている。
※しかしちょっと、マイクロソフトとアスキーという企業と、自分達がやってきたことに偏りすぎている感がある。後半の対談は筆者の人となりを理解するには良いし、今のIT業界のハシリみたいなのが見れるが、そういったことに興味がない人にとっては、あまり意味がないかもしれない。ということで☆は一個ダウンの4つ。
以下、抜書き。
[more]
<blockquote>「パソコン教室にでも行こうかな?」という発言を聞いたとき(略)「教室に通わなきゃ使えないようなものを作ってしまったのかァ」と結構落ち込んだ。
</blockquote>
技術者は、自分のもちうるスキルと、それを使うお客様との間にある圧倒的な差を把握しておかなければならない。こんなことは出来て当たり前だろう、ということはほぼ100%できないと思った方が間違いない。
<blockquote>YouTubeが力を入れたのは「共有のしやすさ」だ。
(略)ビデオをブログに貼り付けて他人と共有する」という作業を、徹底的に簡略化することで(略)クチコミによるマーケティングを最大限に利用することが可能になったのだ。(略)
「自分が面白いと思ったものを他人と共有したい」という人間の根本的な欲求に対して徹底的な「おもてなし」で応えつつ、同時に「ユーザー自身による自分の欲求を満たす行為が、サービスそのもののプロモーションになる」という仕組みを埋め込む。これらの施策で、ひとりのユーザーがほかのユーザーを呼び込むネズミ講のようなシステムを実現させて成功したのが、YouTubeである。
</blockquote>
YouTubeが爆発的ヒットをしたのは、確かにこれまでにあった「情報を共有する」ということに、リンクのしやすさを付加したのはデカい。正直、ブログのムーブメントに救われた感もあるが、もしそれを狙ってやっていたのだとしたら、スティーブ・チェンさんはやっぱりスゴい。
<blockquote>「床屋の満足」
これは「本来、顧客の満足を最優先すべき商売もしくはものづくりをしている人が、自分の満足を優先して行動してしまうこと」を意味する。
(略)世の中を見回して見ると、明らかに設計者の自己満足のためだけに追加された機能だとか、ありがた迷惑な過剰なサービスなどがたくさんある。
</blockquote>
これは本当にそう思う。最終的に出来上がってくるものが想像できたろうに、誰も止めなかったのか、と言いたい。でかい組織ほどこれが顕著になる傾向があるが、本来全員が同じ方向を向いていれば必ずどこかでストップがかけられたはずだ。
「床屋の満足」・・・覚えておこう。
<blockquote>米国中心のグローバル・エコノミーに飲み込まれつつある日本。「僕はエンジニアだからマーケティングはわからない」「私は商学部卒だからITのことはエンジニアに任せる」などといっていては、「技術とビジネスの両刀使い」がたくさんいる米国の企業と同じ土俵で戦うことはできない。(略)終身雇用制が崩れようとしている今、自分の知識労働者としての価値を高くするための努力をする席には、会社にではなく自分自身にあるのだから。
</blockquote>
日本のすべての技術者に持って欲しい心構え。これを信念として持っているからこそ、私は勉強を続けている。技術力だけでは、日本では年齢にも勝てない。
<blockquote>大企業で「なんでもっとスピーディにイノベーションを起こさせてくらないのだろう」と感じる人は、ひょっとしたらベンチャー企業向きの人かもしれない。
</blockquote>
ひょっとしたらも何も、その通りしょ。
だとすれば自分は100%、ベンチャー企業向きだ。
むしろ、イノベーションのためだけに仕事をしていると言ってもいいくらいだから。
<blockquote>米国と日本のベンチャー企業の最大の違いは、米国のベンチャー企業は最初から世界に向けたものづくりをしている点にある。しかしそれは「自分たちが作ったものが米国市場で成功するなら、世界で通用して当然」という楽観的な世界性は戦略があるだけのことである。
</blockquote>
英語が話せないという致命的な欠陥と、日本の市場原理が世界と余りにもかけ離れている点が、こういう差を生み出す。
自分もサービスを展開するのであれば、その舞台がインターネットだとしたら、常に世界戦略を意識しなければならないだろう。
<blockquote>雇用の際に(略)年齢制限を加えることが(略)米国では違法
</blockquote>
これがあるおかげで、日本ではSE35歳定年説がいつまでたっても崩れない。日本でも早く違法にしてもらいたい。
<blockquote>ウィンドウズ陣営はCD-ROMに焼いたベータ版のウィンドウズ95をビル・ゲイツに渡した(略)Cairo側はドキュメントだけで、実際に動くベータ版をビル・ゲイツに渡す段には全然きていなかった(略)ビルゲイツはその場でCairoプロジェクトの取り潰しを決めてしまった。</blockquote>
まぁこれがウィンドウズ95が爆発的に売れ、かつシステム的にはダメダメだった最大の理由なんだろうね。動くことだけを優先させすぎたために、システムとしての構成がボロボロだった。以降、ウィンドウズはひたすらこの頃のシステムとUIに引きずられるかたちになり、それはVistaや今のWindows7になるまで改革されなかった。
<blockquote>昔のマイクロソフトは「天を見て」いた人たちがたくさんいたから一緒に仕事をしていて楽しかったんだけど、今は「上を見て」仕事をする人たちばかりだね。
</blockquote>
天を見るとはお客様のことを見ることであり、上を見るのは上司の顔色や直近の自分の損得だけを見ること。もちろん自分は「天を見て」仕事をするのが信条だ。昔のマイクロソフトは、それはそれは面白かったのだろう。
<blockquote>サン・マイクロシステムズの「SUN」ばStanford University Networkの頭文字ということを知らない人は多い
</blockquote>
まったく知らなかった・・・。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
パソコン黎明期にアスキーで活躍し、マイクロソフトではWindows95のユーザ・インタフェースやインターネット・エクスプローラなどを手がけた著者が、自身の体験を元に、ITビジネスにおける成功の鍵について著している。
第1章では、著者自身のブログ記事を引用しながら「おもてなし」(「ユーザ・エクスペリエンス」の意訳)の重要性を解説している。第2章は『月刊アスキー』で連載していたITビジネスに関するコラムを、第3章では対談記事を再録している。
マイクロソフトの裏側を垣間見ることができるなど、著者の稀有な経験が活かされていて、楽しく読める。対談の相手も西村博之氏、古川享氏、梅田望夫氏と豪華で、それぞれに特色のある話になっている。
副題にある「アップルがソニーを超えた理由」は、個々の技術としては特出している点がほとんどないにも関わらず、アップルの製品が成功して理由と読み替えることができる。大きなポイントとして挙げられている“技術のわかる経営者とビジネスのわかるエンジニアの不足”には説得力を感じた。それが技術とビジネスの隙間を作り、魂のあるモノ作りができない理由だと思われる。 -
おもて読み終わったをキーワードにアップルのすごさを語っている。この本論よりも、実は後半の対談集のほうが面白い。特に古川氏とのマイクロソフト時代の話は、マイクロソフト全盛時代の理由がかいま見れるようんで興味深い。
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「おもてなし」についての含蓄に富んだ説明があるのかと思ったら、著者の思い出話・自慢話の本だった。ハズレ。
著書はマイクロソフト本社に勤務してWindows95の開発をした人。
「アップルはおもてなしがあって素晴らしいなぁ」という、マイクロソフトの人から見た、「昔のマイクロソフトはよかったなぁ」という回顧録です。 -
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mmsn01-
【要約】
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【ノート】
・新書がベスト -
本書によると、副題にある「アップルがソニーを超えた理由」とは、お客様に対するおもてなしの心である。これは言い得て妙な表現であると思う。ソニーだけでなく、日本が誇るべき家電企業の多くが、でかすぎる図体をもてあまし、4本の足並みさえそろえることができない恐竜にたとえられても仕方がない有様。それを尻目に、ジョブズ率いる超速効軍団アップルは、すべての商品のユーザビリティを統一し、ユーザの感性に訴えかける。まさに、「おもてなし(著者曰く「ユーザ・エクスペリエンス」の意訳)」によるものづくり。なぜ、これが日本にできなくて、アメリカにできるのか。著者はその理由について、「マーケットがわかるエンジニア」、もしくは「エンジニアリングがわかるマーケッター」が日本に少なく、アメリカに多いことに求める。確かに、周りを見渡すと、コスト意識がないエンジニアや、自分が扱っている製品を使えない営業がたくさんいる。なんとかしないと、これじゃ、全滅だぜ。
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中島聡本。blogと連載記事の抽出と対談2件という新書のくせに詰め込み過ぎな一冊。統一感にかけるが、ひとつひとつの内容はさすが面白い。マイクロソフト、ソニー、アップル、今のIT業界、ギークとスーツの辺りに興味を持たせる入り口になる一冊。
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対談の方が個人的に面白かったかな。まず、著者の凄さが分かる本。
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図書館で見かけたので。ブログのまんまなので、そっちを読んでいれば、改めて読む必要は無いでしょう。
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アップルがソニー~。の副題はどちらでもいいかな。
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筆者は、かつて直接ビルゲイツと一緒に働いたことのあるスーパー技術者です。
ユーザエクスピリエンスのことを「おもてなし」という翻訳で説明してくれます。
この考え方はIT業界だけでなく、他の業界でもエンドユーザ向け製品開発のヒントにもなると思います。
2009/12/31 -
Microsoftでウィンドウ95、同98、インターネット・エクスプローラー3.0、同4.0の開発に携わった、中島聡さんが物作りの姿勢を教えてくれる本。
個人的に、今年読んだ本の中で一番。面白い。ていうかタメになりすぎる。。。
『ビジネスとしてものづくりをする限りは「できるだけ安く、できるだけ良いものを」ユーザーに届けるという視点から最高のものを作るという、「おもてなしの美学」を追求すべきだと私は思う。』
多分、これ考えて作らないと、今から生き残るの厳しそう。まだ、戦っても無いけどねw -
すげー良書です!ただ、タイトルで損してる。Appleが日本を負かす日。くらい強烈なタイトルのが良いかと。日本ー世界のITを知り尽くした著者が日本の問題点を事実ベースで記す。
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中島聡氏の新書。
第1章では、『ユーザー•エクスペリエンス(user e xperience)』を『おもてなし』と訳し、appleが一連のプロダクトでいかにして世界中のファンの心をつかんでいるか、また一方でソニーやLGがなぜ同じようなプロダクトで大きく水をあけられてしまっているかを解説。
第3章は、IT、WEB界隈のキーパーソンとの対談3つで、どれもおもしろい。
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はじめに
第1章 おもてなしの経営学
第2章 ITビジネス蘊蓄
第3章 特別対談
Part1 西村博之 ニコニコ動画と2ちゃんねるのビジネス哲学
Part2 古川亨 私たちがマイクロソフトを辞めた本当の理由
Part3 梅田望夫 「ギーク」「スーツ」の成功方程式
あとがき
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著者ブログ「Life is Beautiful」もおもしろい。
http://satoshi.blogs.com/ -
ワクワクします。中島さんのお話も、巻末の西村博之氏、古川享氏、梅田望夫氏との対談も。
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Windows95やIE3.0の開発に携わった中島聡さんが、ソフトウェア・サービスのトップ企業について持論を展開する。
後半では、ひろゆき、古川亨、梅田望夫の各氏と対談。
とくにまとまりのある本でもないので、印象に残った部分から抜粋。
p.205
中「自分で決めると責任を負うから上司に仰ぐのが日本の会社。
全員がビル・ゲイツの思考(勝つこと)を持っているからその場で判断できるのがマイクロソフト。
一生懸命考えたけどあとからジョブズが来て一気に変わってしまうのがアップル。」
p.210
中「ブログについて常々思うのは、死後もずっと読めるようにしてほしい。」
古「何年たとうが預かってくれるサービスとか。市場の可能性。」
p.237
中「トヨタの話。ギークとスーツの素養を両方持っていたからできたカンバン方式。」
梅「そういう人がハードウェア領域には膨大にいたからものづくり大国になった日本。しかしソフトウェアの領域にはほとんどいない。
日本ではギークとスーツは憎み合う。米国ではあまりない。」
p.248
梅「80年代にソフトウェア産業にチャレンジしたのは、ゲーム系(任天堂の岩田さん他)とパソコン系(中島さん)。パソコン系で日本に残ったヒトは国際競争でマクロに見るとほぼ全滅した。かたやゲーム系は生態系を作り上げて世界的競争力を得た。
21世紀で一番可能性がありそうなのはインターネット系。そこにリーダーが生まれ、日本発の会社が誕生する未来を期待したい。」
p.258
梅「グーグルがここまで成長したのは、小さい会社のときに成長の種があるから。
上場した今もそれを変えないよう努力している。でも、15,000人の規模になっては自然とサラリーマンっぽくなってしまう。ハングリー精神が失われる。そうならないという強烈な意思がアンドロイドには感じられる。」
p.264
中「僕らの書いたブログが将来の人から見たとき新たな私塾の始まりだったら、やはり残しておきたいじゃないですか。」
なるほど、Windowsの中核開発者だから(=過去)、中島さんの言説には価値がある、のではないのだ。
ソフトウェア時代を俯瞰して、今ある問題、未来への課題解決策を導こうという姿勢、それを実現する能力があるから、読み手(私)は大いに納得する。
特に梅田さんとの対談では、日本の企業・ビジネスがこのままじゃまずいでしょ!という警句に満ちており、考えさせられる。
「日本発のコンテンツ産業はすごいですよ! アニメ! ゲーム!」
なーんてよく言っているけれど、本質的なソフトウェア・サービスの点では日本発で世界に通じているものなんてほとんどない。
あ、ひとつあった。PSネットワーク。あれがダウンして1億人以上が影響を受けたのは、まさにグローバル。
日本はいまさら「ものづくり」大国を目指しても仕方ない。
「サービスづくり」を真摯に考えて実行しないと。
といっても、本書にあるように「ギークvsスーツ」とかの問題で力を消しあっているようなところに光は差さないだろう。
どーする日本…。
あとはミクロな話だが、自分のキャリアをどうしようか、ということについても
色々考える材料がいただけた。感謝。 -
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マイクロソフトの黎明期にWindowsやIEを設計した日本人中島聡の書いた本。前半はユーザ・エクスペリエンス(本書で言うところの「おもてなし」)についての記述が続き、途中からは対談という形式で著者の半生を振り返っているという構成。特に後半部分(昔のマイクロソフトやアスキー社内の話)が読み物として面白いと思う。ただし主題はやや破綻している。
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技術バカではなく、ユーザー指向であるということ。Appleを始め、世の中で受け入れられている企業に共通すること。読んでいて、頷くことが多い一冊。
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品質とはなにかを考えさせてくれました。
確かに、いまのエンジニアは自己満足のために品質をあげる部分が多い。
それは人間であるかのためにしょうがない部分もありますが、そこに止まっていてはいけないことを教えてくれました。
いろいろ考え得させてもらいました。