現れる存在―脳と身体と世界の再統合

  • NTT出版
4.35
  • (8)
  • (7)
  • (2)
  • (0)
  • (0)
本棚登録 : 209
感想 : 9
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (442ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784757102675

作品紹介・あらすじ

心は「脳の中」にあるものではない。脳と身体と世界の相互作用から「創発」するものである。ロボット、赤ちゃん、人工生命など、豊富な事例を交えながら提起する、「心」への斬新なアプローチ。身体性認知科学の古典的名著、待望の翻訳。

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  •  「脳」と「身体」および「認知」「思考」「運動」についての常識がガラガラと崩れる本である。脳と身体が切っても来れない関係にある、世界を私達が思ったよりかなり「雑に」認知しているということに気づける本である。
     グラフィックレコーディングの描き方の話で「チャンク」の話を言いだしたのは自分だと信じて疑っていないのだが(笑)、結局のところ「チャンク」すなわち一時的な短期記憶の記憶量はその単位時間当たりにできる運動に相当する分らしい。五感等で相当量の情報が脳に入ってきているはずだが選択的に用いているのがこの量であるというのは別の本で分かっていた。
     本書では更に別の角度から「認知」「思考」「運動」について事実を暴いていく。言ってしまえば高度な知性というものがあるというよりは、ある状況になったらこれを行うというルールベースがあり、パターンマッチングにより行動として引き起こされる「だけ」なのだということである。
     特にヒトの為すことが知性的に見えるのは、長期記憶、迷走神経を含む脳だけでない身体全体で「思考」と「行動」をしていることによるものだということだ。
     「脳の大統一理論」「情動はこうしてつくられる」と併せて読みたい本である。「生態学的知覚システム」当たりは先に読んでおくと良さそうだ。

  • ・心の発生の物語。

  • ひー難しい〜。特に創発現象の力学的説明とダマシオ夫妻の登場する神経制御の辺り。アフォーダンスやサッケードやモダリティの説明が必要な人種はお呼びじゃないようで。ハイデガーのDaseinが出てきてだいぶ降参(汗)よく見ればこの本、原題がそもそも「being there」なんだわ。

    「自然は倹約家であり、最大限に環境を利用する」ってのは巷でもよく聞くけど…。
    確かに、ノイズやエラーや遅延や個体差を無視するのが抽象化だけど、現実はそんなきシンプルでも美しくもない。経済モデルならそれでも役に立つこともあろうけど、認知や意識の問題はそういうことしてるとあまり近づけない気がするな。
    どこにも説明されてないけど、「★数字」が原注で「☆数字」が訳注です。

    坂の怖さを学習したハイハイ赤ちゃんが、歩けるようになるとまた学習し直し…とはビックリした。こういう学習って、脳だけじゃなくて身体機能込みで学習するんですねー!
    あと、動力も駆動装置もないビクトリア朝のオモチャ、「PDW」って、所謂「スリンキー」のことかしら?

  • 人間の認知、思考のメカニズムを、脳だけでなく身体や外部環境、公共言語といった社会システムとの相互作用の中で理解しようという発想に立った本。

    原著は約20年ほど前に書かれた本であり、最近のAIに関する研究内容を反映しているわけではない。しかし、そのような技術的な動向の背景に、そもそも認知や思考というものをどのように捉えるかということに対する深い洞察が必要であり、そのような観点においてはこの本は現在においても決して古びてはいないということを強く感じた。

    人間の思考は脳内のニューラルネットワークにおける電気信号の処理だけで行われているわけではなく、身体という物理的な環境から得られる力学的なフィードバックを使いながら、動作をダイナミックに制御している。そうであるからこそ、外界の環境に関する情報を脳が一元的に処理して最適な動作を筋肉に指示するという方法よりも圧倒的に素早い反応が可能になるし、老化や一時的な怪我という身体機構の変化に対しても柔軟に対応していくことができる。

    また、脳は途中のアウトプットを紙に書いたり、概念を言語化したりすることで、自身の情報処理能力を拡張し、そうでないときよりも圧倒的に複雑な思考を行うことができている。さらには、途中のアウトプットを外部に出力することで、そこから異なる成果(創造)を生むこともできるようになる。

    これらの発想で脳の情報処理を分析していくことで、人間の認知や思考について、より広い視野から理解をすることができるようになるだろうと筆者は考えている。

    また、著者は本書の中で脳科学や情報処理に関する幅広い見解をバランスよく取り上げており、決して一つの見方で脳のあり方を把握しようとしない。このことが非常に大切であるとも感じた。

    脳は融通無碍で、使えるものを(中途半端な形であっても)活用して、最も楽に、つまり計算量の少ない形で求める結果を得るという能力に長けている。生物全般の進化過程にみられることではあるが、このような効率的な形で変化、発展していく脳を理解するためには、筆者のような幅の広い思考が求められるのであろう。

  • 本書は、『身体化された心』(ヴァレラ、2001)から多大な影響を受けているため、併読をお勧めする。

    本書では、ヴァレラが反対した「認知の本質は表象である」という考え方に好意的である。
    情報処理に基づく分析手法(ただし、中央集権的ではなく、再帰的ネットワークという)を多用している。
    このような科学的アプローチを媒介にして、身体・行為・世界から心を説明する試みを可能にしている。

  • 貸し出し状況等、詳細情報の確認は下記URLへ
    http://libsrv02.iamas.ac.jp/jhkweb_JPN/service/open_search_ex.asp?ISBN=9784757102675

全9件中 1 - 9件を表示

著者プロフィール

1957年生まれ。イギリス(スコットランド)のエジンバラ大学哲学教授(論理学形而上学講座)。心の哲学および認知科学の哲学を専門とし、特に「身体性認知科学」の世界的リーダー。

「2015年 『生まれながらのサイボーグ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

アンディ・クラークの作品

  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×