内向の世界帝国 日本の時代がやってくる

著者 :
  • NTT出版
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  • Amazon.co.jp ・本 (268ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784757122499

感想・レビュー・書評

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  •  過去の経済覇権国である、スペイン、オランダ、イギリス、そして今の覇権国であるアメリカの現在・過去・未来を歴史的に追いながら筆者が次の覇権国と予想する日本の共通点を挙げていく話が圧巻だった。
     筆者の前書でも主張していた、鉄道網のエネルギー効率の高さによる就労人口の集中が生産効率を向上する話もより説得力を持たせてくれる。
     

  • 多分意識が変わったから自分のアンテナに引っかかるようになってきたとは思うのですが、一時は日本経済破綻論で埋め尽くされれていた新刊コーナーにも、この本の著者である増田氏等のような日本経済成長論を述べる人が増えてきたように思います。

    根拠のない楽観論は危険だとは思いますが、数年前から読み続けている増田氏の考え方には納得出来るものが少なからずありました。特に他先進国と比較して、鉄道網の発達をベースとした大都市の発展、省エネ社会の早期成立等が主なものです。

    この本で特に印象に残ったのは、イギリスが覇権国家となった状況と現在の日本は似ているというものでした。イギリスも、またあのアメリカでさえも世界覇権を求めていたのではなく、転がり込んできたという考え方(p46)は私の知る限り初めてであり、大変興味を持ちました。

    今後は、これに対する反対する立場(本来の日本経済破綻本)と比べながら、日本経済の発展を見つめていきたいと思います。

    以下は気になったポイントです。

    ・中国は外貨準備用に保有する金(ゴールド)を、600トンから1054トンに増やしていたことが明らか(2009年4月27日)になった、6年前から少しずつ着実に買い貯めてきた(p3)

    ・中国は農村部に住む民衆の生活水準向上をしないで外貨準備として貯めてきた、一方日本の場合は、高度経済成長期に稼いだ外貨は、国民生活向上のための消費財、生活・生産インフラ改善のための原材料や資本財の輸入拡大によって均衡していた(p6)

    ・日本経済は対外資産がゼロ(金利、配当収入がゼロ)になっても、貿易収支の黒字を維持する力を持っている、中国・韓国と異なり、先進国からの中間財・資本財の輸入に依存せず、原材料のみの輸入で貿易収支の黒字確保が可能(p15)

    ・アメリカはどんな大物(上院院内総務のマンスフィールド氏、元大統領のモンデール氏)を駐日大使にしても日本擁護派(日本の良さを理解してしまう)ことに失望した(p32)

    ・アメリカはガソリンエンジンの小型・軽量化という自動車と発達されたと同時に、1930年初頭に世界中の原油の70%を生産及び消費を行っていた(p55)

    ・日本のエネルギー効率が高いのは、第一次オイルショックの前(1970年代初頭)において欧米より格段に高かった、実現できている理由は、1)三大都市圏への人口集中、2)大都市圏における旅客鉄道網の機能性の高さ、である(p57、58)

    ・鉄道網の機能性の高さは、1)列車が通り抜けていく通過駅構造の拠点駅、2)駅前大型商業施設の発達、3)企業を枠を超えた相互乗り入れ鉄道網等による(p61)

    ・日本は、漫画・アニメ・ゲーム・ケータイで特に強い、知的エリートや中年男性には理解できない女子子供のための大衆商品・サービスで伸びているという点で、妬みや恨みを買ったりしないという点で、経済覇権国になる資格は十分にある(p64)

    ・オランダからイギリス(スペイン、フランスではなく)、イギリスからアメリカ(フランスやドイツでなく)への覇権移動は、平和的・友好的に起きている、1689年にイギリスは大陸に領土を持つことを諦め、オランダと同一人物を国家元首にした、アメリカはイギリスへ巨額の戦費調達支援をしている(p65)

    ・イギリスが自由貿易を主張したのは、自国より経済発展が遅れている国に対してのみであり、オランダのような先進国に対しては「航海条例」のような保護貿易を主張した(p82)

    ・イギリスにとってアメリカは有望な植民地ではなかった、その証拠として、ニューホーラント(ニューヨーク市一帯)を、南アメリカのスリナムと交換した(p104)

    ・欧州の優秀な軍事力と、不潔極まる都市環境で育った病原菌の威力で、押しかけた地域の大半で貴金属や宝石を略奪してきたのが実態(p107)

    ・近代市場経済が世界帝国になったのは、オランダ(対ベルギー)・イギリス(対フランス)・アメリカ(対カナダ)であるが、共通する特徴として、言語が一つ(方言がきつくない)であったこと、この原則からすると、中国・インド・ロシアが覇権国家になる可能性は低い(p149、153、162)

    ・自分の母国語さえできれば一流大学の大学院で博士課程を全単位修得できるのは、アメリカと日本のみ(p228)

    ・危機に断固たる決断で対処する政治家を擁する国は、決定的な間違いを犯しやすい、逃げまわる場合は致命的は間違いは殆ど犯さない、例外は戦争(p235)・模範解答が正解であるような条件が壊されてしまったから危機を迎えているので、危機にエリートが決断するのは根本的に間違っている(p238)

  • おすすめ度:90点

    本書は、2009年8月14日までの期間、ブログ『松藤民輔の部屋』に掲載された原稿に大幅加筆、再構成されたものである。
    本書で提起されている「エネルギー効率史観」という新しい視点は、面白く、納得できるものである。
    オランダ、イギリス、アメリカへという覇権の流れをエネルギーの効率の高さをもって説明する論理はとても興味深い。
    欧米のクルマ社会とは異なる、日本の鉄道網の充実さによる就労人口の集中が生産効率を向上させると主張している。
    大衆向け文化・産業が花開く日本が、放っておいても自然と、覇権国家に位置することになるのである。

著者プロフィール

1949年東京都生まれ。一橋大学大学院経済学研究科修了後、ジョンズ・ホプキンス大学大学院で歴史学・経済学の修士号取得、博士課程単位修得退学。ニューヨーク州立大学バッファロー校助教授を経て帰国。HSBC証券、JPモルガン等の外資系証券会社で建設・住宅・不動産担当アナリストなどを務めたのち、著述業に専念。経済アナリスト・文明評論家。主著に『クルマ社会・七つの大罪』、『奇跡の日本史――花づな列島の恵みを言祝ぐ』、(ともにPHP研究所)、『デフレ救国論――本当は恐ろしいアベノミクスの正体』、『戦争とインフレが終わり激変する世界経済と日本』(ともに徳間書店)、『投資はするな! なぜ2027年まで大不況は続くのか』、『日本経済2020 恐怖の三重底から日本は異次元急上昇』、『新型コロナウイルスは世界をどう変えたか』(3冊ともビジネス社)、『米中貿易戦争 アメリカの真の狙いは日本』(コスミック出版)などがある。

「2021年 『日本人が知らないトランプ後の世界を本当に動かす人たち』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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