文化進化論:ダーウィン進化論は文化を説明できるか

制作 : 竹澤 正哲 
  • NTT出版
3.31
  • (3)
  • (2)
  • (5)
  • (2)
  • (1)
本棚登録 : 184
感想 : 9
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (403ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784757143302

作品紹介・あらすじ

近年、人間行動の進化に対する関心が高まっている。単に遺伝子の影響からのみ進化を説明するのではなく、人間の「文化」についての学習や継承の影響を科学的な手法で検証する分野が成長してきた。本書はこうした諸潮流を、「進化」を軸にして展望する。

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • ダーウィンの進化論を社会学に当てはめる。著者は生物学者。
    ダーウィンの主張のエッセンスは、変異、自然選択、継承、であり、これらは社会的現象でも起こりうるとされ、生物学で起こったようなサブカテゴリー(心理学、文化人類学、経済学)の統合が起こるだろうと予測する。社会現象は複雑であるが、自然科学の分析ツールである、細かい単位に分けて単純化しモデル化してその動向を検証するという行為は社会学でも成り立つ。経済学でも実験や同条件に絞った比較はより多く行われており、徐々に浸透している。
    文化は、遺伝子に基づく変化よりもずっと早く起こる、つまり縦よりも横の伝播力が強くマスメディアなどで一気に広まる。環境の短い時間軸での大きな変化への対応はむしろ文化が遺伝子よりも大きな役割を果たしておりこれが人間と他の動物の繁殖度の差を説明できるかもしれない。

  • とても興味深いテーマだが、自分の頭ではまだ十分に理解できなかった。

  • 文化についての研究を進化的亜枠組みで統合しようとする取り組み
    統合とは?
    - 社会科学と自然科学の統合
    - 社会科学の内部における諸領域の統合
    - ミクロレベル(個人)とマクロレベル(社会)を結合する理論的枠組みが存在していないから
    - 文化進化論の国際的な統合

    「種の起源」とは、かつて、そして時として今なお、超自然的で不思議な力、あるいは神の力とされてきた二つの減少に初めて科学的な説明を提示した書物である
    - 1, 自然界に見られる生物の驚くべき多様性
    - 2. これらの多様な生物が持つ、複雑で手の込んだ適応構造

    自然界の多様性は単純ん三原則よって成り立っている
    - 個体間にバリエーションが存在する
    - 資源には限界があり、一方個体群のサイズは拡大し続けるため、生存競争が起きること
    - 形質は親から子へ、生食を通して継承されること
    その結果「自然選択」すなわち「個体の生存と生殖の機会を増大させる形質は次世代に受け継がれる可能性が高く、個体群内部での頻度が高まる。したがって時がたつにつれて、有益な形質が次第に蓄積され、組み合わされ、それまでは創造主の御業とされてい、目、翼などを形成する」

    “異なる言語と組成と、異なる種の組成、そして、どちらもゆっくりと発展していくという証拠は、奇妙な類似を示す。好まれる言葉が生存競争を経て生き残っていくというのは、自然選択である。” [1-1]
    ダーウィンは説明するために比喩を用いたわけではない。言語の変化は自然選択に「少し似ている」わけでも「いくつかの点で似ている」わけでもなく、まさに自然選択「そのもの」なのだ。

    通常科学者は、「文化」という言葉をより広い意味で用いる。
    「文化とは、模倣、教育、言語といった社会的な伝達機構を介して他者から習得する情報である」という定義を採用する
    文化を行動というより情報としてみなしている

    文化と行動は区別する必要がある[1-2]
    - 文化の定義に行動を含めると、文化のせつめいが行動という観点に偏る恐れがあり、それでは有意義な説明にはならない
    - 行動の原因となるのは文化だけではない

    東アジア人の思考スタイルは「全体論的」で欧米人の思考スタイルは「分析的」[1-12]

    子供はある意味「文化的なスポンジ」で、周囲にいる人々から知識をどんどん吸収している
    中でもよく研究されているのは言語。大人になるまでに子供は六万語を習得する。平均して1日に8−10語習得していることになる。[1-21]

    生物科学は数十年あけて一つの理論的枠組みのもとに統合されてきた。その枠組みとはダーウィンの進化論である。

    くちばしの大きいフィンチは小さいフィンチよりも大きな種子を食べることができるのでより多くの食物を得ことができる。そのためより繁殖の可能性が高まる。これを「適応」と呼び、ここでは大きいフィンチの方が適応度が高く、子は親から大きいくちばしを受け継ぐ。そして年月が経ちこの変異、生存競争、継承遺伝のサイクルが進化的変化を生む。[2-4]

    各地の言語が急速に消滅しつつあり、そのスピードは生物種の絶滅のペースをはるかに上回っている。[2-20]
    一つの言語の中でも、不規則動詞は使われる頻度が少ないものから徐々に消滅し、一握りの単語しか残っていない。[2-21]
    ダーウィン自身、忘れにくい単語が生き残りやすいプロセスを予想していた。
    “生存競争は、各言語の単語や文法に絶えず起きている。より短く簡単で使いやすいものが常に優勢となる。”[2-22]


    フィッシャーとライトが集団遺伝学モデルとして知られる一連の数学的ツールを開発した。そのおかげで、大進化と小進化のつながりを厳密に検証できるようになった。[3-73]

    宗教的特徴は垂直の伝達、特に母親にもっと影響されていた。学生がカトリックかプロテスタントかユダヤ教徒かは母親の宗教からはっきりと予測できた。これは宗教的信念が何百年、何千年とほとんど変わらない理由や長く存続している理由になるかもしれない。

    融合伝達による同質化を妨げる要因の一つは、「人は自分の文化的特徴が似た人から学びやすい」ということ

    人気の物語の反直感的要素は2〜3だったが、不人気の物語には反直感的要素がないか5~6だった。

    長年にわたって民族誌学者が観察してきた堅牢な文化的伝統、すなわち、様々な社会が、頻繁に人間の移動が起きていながら独自の慣習や風習を維持してきたことは、同調の産物突見ることができる[3-3`]

    生物学では、方向性のない進化的変化を「遺伝的浮動」あるいは「中立的な変異の蓄積」と呼ぶ。
    浮動は今では重要な進化プロセスとして認められている[3-38]
    現在では生物学者たちは浮動を帰無仮説(証明したい仮説ー自然選択ーの反対の仮説)とみなしており観察されたパタンの変化が偶然(すなわち浮動)から期待できる数値から著しく離れている場合は、自然選択が働いたとする。

    もし浮動が唯一のプロセスである場合、モデルは以下のように予測する。[4-28]
    - 遺伝的バリュエーションは徐々に減少していく、そして最終的に珍しい対立遺伝子は消滅し、唯一の対立遺伝子が残る。
    - 無作為に起きるという浮動の性質ゆえに、集団ごとに定着する対立遺伝子は異なる。
    - 小さい集団はサンプリング誤差の影響を受けやすいため、浮動は集団が小さいほど早く進む

    ディズニー映画の101が公開された後ダルメシアンの人気が増したのは文化不動からの逸脱であり、選択が働いたことがわかったように、作為的なプロセスを確認するのに帰無仮説として文化浮動が役に立つことを示している。

    生物進化でボトルネック効果が繰り返されるとその都度、珍しい対立遺伝子が失われ、遺伝的多様が低くなっていくのと同様に、文化進化でもボトルネック効果が繰り返されると手本となる人がいなくなり、文化的多様性が低くなる。

    言語の進化と遺伝的進化には驚くべき類似が多く見られるので、言語は進化的な分析に向くと言える[5-1]

    言語進化について長く真実とされてきたのは、言語は系統的につながっており、集団が地形や紛争のために分断されると、既存の言語から新たな言語が生まれ、年月が経つうちに、それぞれの中で変化が蓄積してきたという筋書き。[5-2]

    単語の変化のスピードは単語が日々の会話で用いられる頻度ではないかと見ている[5-15]

    文書の伝達と生物の遺伝との相似に注目し、系統学的手法を用いて、写本の進化の歴史を再構築した[5-17]

    コリンズ理論-帝国の面積の増減は
    - 戦争の勝利
    - 資源
    - 兵力
    [5-22]

    誘導されたシミュレーションでは名声バイアスのシミュレーションよりはるかに多様な矢じりのデザインが生まれた。[6-22]

    研究者は実験によって歴史を何度も再現し、変数を操作し、振る舞いを正確に記録することができる。

    科学的知識には多くの点で異なる様々な考えや見解が内包されている、それらの考えや見解は、科学的方法によって検証される。すなわち、それぞれの見解は一連の仮説を内包しており、それらが観察や実験によって検証されるのだ。そして加瀬越が検証に耐えた学説は学術論文として発表されたり教科書に引用されたりして次世代のあ学者に優先的に伝えられる。すなわち「選択」されたことになる。こうして、時とともに世界の状況をよりよく解説できる学説が数を増やし、より正確な科学知識をもたらす。[7-16]

    科学は自己の利益が大義を推し進めるように組織されている(ハル)[7-20]
    なんの評価も得られないのであれば、研究を発表する気にはならない。

    行動経済学で用いられる利他的傾向は、文化的な集団選択の結果と見られている。

    アオアトリのさえずりの多様性は中立浮動モデルと一致する。[9-12]

    人間以外にも多くの種が1対1の社会的学習をし、地域的な文化の伝統を持っているが、蓄積する文化、すなわち、効果的な改良が何世代にもわたって積み重なっていく文化を持つ種は、人間でのようだ。それが人間の文化を決定づける特徴と言えるだろうし、ダーウィンが進化を「変化を伴う継承」と評したことを思えば、この特徴ゆえに人間の文化は完全にダーウィン的な進化を遂げるのだろう。

    進化的方法によって文化の変化を深く理解することは、現実世界での実際的な利益の向上につながる可能性がある。喫煙、飲酒、偏った食慣習といった健康に害を及ぼす行動の多くは文化的に伝達されることが示されている[10-16]
    こうした行動の広がりに、何らかの社会的影響が関与しているとされているが個々の事例にそれがどう影響するのかは曖昧なまま。文化の小進化プロセスを熟考すれば、こうした現象をより深く理解し、その拡散を防ぐことができるかもしれない。

  • 「生物学分野で用いられる系統学的手法と動的モデルの真価は、その厳密さにある。言語学者と文献学者は、歴史的系統樹を直感に基づいて構築するが、生物学者や文化の系統を研究する学者は、最尤法やベイズ推定法といった定量的な統計学的手法を用いて、明白かつ正確な基準を備え、統計的確実性を推定できる系統樹を作成する」(p.200)、「系統学的手法は、文化的に伝達された人工物、行動、写本、あるいは言語を、従来の非公式で主観的な分類法よりも正確に再構築する方法を提供する」(p.316)とはいつても、なにによつて比較するかは結局、主観をまぬがれえないやうにも思ふのだけれど。
    「カービーらが出した結果は、そうした共通の特徴が、文化進化の産物であること、つまり、言語が、言語に特化しない、より一般的な認知プロセスに適応したことを示唆しているからだ」(p.228)。メモ。

  • 歴史

  • 最近、気になっている概念として、文化の進化というのがある。ここが整理できると色々なことがスッキリするはず。

    というわけで読んでみたのだが、う〜ん、今ひとつかな?

    著者は、ダーウィン進化論の考えをベースに、定量分析とか、数理モデルとか、実験などの自然科学的な方法論を入れる、社会科学を統合できる、みたいな主張。

    確かに、なるほどのところもあるのだが、まだまだ統合の日がやってくるようには思えないな。

    が、こうして形として整理してくれたので、私の文化の進化ということに対するモヤモヤの理由がよくわかった。

    つまり、文化の進化という時に、ダーウィン的な進化とスペンサー的な進化があるということ。

    スペンサー的な進化は階段的なもので、社会がだんだん高度で複雑なものに発達していくというもの。初期の人類学とか、マルクスの唯物史観とかにも通じる議論。

    一方、ダーウィンの進化は、樹形図的なもの。どんどん枝分かれしていて、多様性が増していく。何かがより良いというわけでなく、多様な適応地形に応じて、最適なものが残っていくプロセス。

    この2つの概念が混在していたので、これまで文化の進化についてうまく考えられなかったんだな〜。

    多様性がますダーウィン進化については、著者の議論の方向はよくわかる。(ただし、数理モデルみたいなのが、文化のコンテンツを理解する日がくるとは思わない)

    一方、今気になっているのは、どちらかというとスペンサー的な進化概念だな。

    これは、文化人類学などによって、批判された考え方で、またこの本でも、一蹴されている感じ。

    が、文化の進化が、単なる多様化や適応というだけでない高度化、複雑化があると想定することはできないのだろうか?

    つまり、人間の意識がより高まって、非暴力的な方に変化していると考えることはできないだろうか?という議論。

    これは、スティーブン・ピンカーの「暴力の歴史」で示唆されていたもので、これはかなりの信ぴょう性があるきがする。

    一方、これがスペンサー流の進化論につながる危険性も同時に感じる。

    うん、ここが私の今の引っかかりだな。

  • 2017年5月14日に紹介されました!

  • 貸し出し状況等、詳細情報の確認は下記URLへ
    http://libsrv02.iamas.ac.jp/jhkweb_JPN/service/open_search_ex.asp?ISBN=9784757143302

  • 請求記号 389/Me 72

全9件中 1 - 9件を表示

著者プロフィール

エクセター大学(イギリス)人類生物学部准教授。

「2016年 『文化進化論』 で使われていた紹介文から引用しています。」

野中香方子の作品

  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×