つながる脳

著者 :
  • NTT出版
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  • Amazon.co.jp ・本 (288ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784757160422

作品紹介・あらすじ

脳科学はヒトを幸せにできるか。「脳と社会」の関係性から、脳の解明を目指す。

感想・レビュー・書評

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  •  脳の仕組みを知りたくて読むとがっかりするかもしれない。悩める脳科学者の姿を、彼の愚痴を聴く寛容さをもって、脳科学の課題を描きながら読むとなかなかいける。つまり、よくある脳に関する知識を高める本ではないということです。

     一方で、最後の第6章はこの本のタイトルともなっている『つながる脳』と章題されていて、この章題に著者のメッセージが強く現れている。社会学者の視点でヒトと社会を見つめ描いている。そしてそこに微かに現れる脳科学を役立てたいという信念と試行錯誤がそれまでの第5章迄に描かれていだのだと思い至る。 

    【おわりに】に
     〜〜自然科学には「絶対」というものは存在しません。しかし、僕たち科学者たちの仕事は、その境界のグレーゾーンを試行錯誤しながら、なんとか色分けすることなのです。
    科学は、そのグレーゾーンが広大で、はたしてシロとクロに分けることができるのか心もとないことばかりです。むしろ、グレーをグレーだとそのまま放置するという理解の方法はないのかと、、、
    〜〜
    と書かれている。
    これは科学の姿勢として私たちが馴染んできたものとはだいぶ違うものだけど、そういった捉え方から新しい何か、今迄見えてこなかった何かが見えるようになるのだろう。本書のなかにも随所に、そういった既成の説を疑い、かれの覗き見た、脳の可能性が描かれている。

    それが、それも、科学なのだなぁ。
    いずれそのどれかが、世の中の定説になり、ヒトがそれを舞台に世の中を見つめるようになるのかもしれない。


  • 「こころを科学する」心理学を学んできたけど、脳科学のことも、もっと知りたいと思うようになった。

    人は、相手がいないことには自分を認識することもできない。
    だから、脳科学もぜひ、人と人の関係性の中で発生する事象をもっと明らかにしていってほしいと思った。

    こころの病気も、脳から出る物質によって引き起こされているのだから。

    この本の核論ではないけど、「自分が、自分の行動を意識する前に脳がすでに活動を始めている」ということはやっぱりショックだな・・・

  • 脳科学の行く手にたちはだかる大きな壁-、技術の壁、スケールの壁、こころの壁、社会の壁。これらの壁に対して、最前線の脳科学者たちは、どのように問題を解決しようとしているのか。自由意志や社会的適応、ココロの理論、あるいは脳科学の実験環境や、話題のブレイン-マシン、インターフェイスなどを押さえながら、「脳と社会」の関係性から脳の解明を目指す気鋭の論考。     -20091228

  • う~ん・・よくわからない

  • 理研の脳科学総合研究センター(BSI)に所属する研究者による本。単なる脳科学の一般向け解説本ではなく、揺籃期にある脳科学の研究者としての率直な悩み・問題意識や、将来への展望がつづられている。

    脳科学は、脳の活動を直接的に観察することで、今まで主観的・抽象的な議論しかできなかった「こころ」の問題に実証的・還元的にアプローチして、一般にも注目を浴びている。しかし裏腹に、第一線の研究者の一部には、ここ10年くらい手詰まり感が強まっているらしい。その原因は、ひとつにはヒトの意識というナマモノを扱う難しさであり、もうひとつには脳の活動を記録する技術の未発達なことである。例えば著者が批判するには、情動反応を見る実験で刺激に使う喜怒哀楽の表情のサンプルがあまりにもハッキリしたもので、情動を見るというよりカテゴリー分け課題のようになっていること。また、神経細胞活動の記録は技術的な限界からごく少数のサンプルからとっており、それでもバイアスが低いことが経験的に知られているが、その低バイアスは、現実世界とかけ離れた硬直的な実験条件から来ている可能性。これらはまさに、現場の研究者からしか出てこない批判だ。「心の理論」や「ミラーニューロン」仮説に対しても、実証的な裏づけが乏しいとして批判的である。

    著者はそうした壁を破るために、脳のつながりを重視して、あえて複雑な社会性重視の研究を目指している。そのために研究デザインと、脳活動を記録する技術の両面から工夫をしている。まだ研究はぜんぜん途上であり、2頭のサルによる社会性の研究の成果も「まあ、そんなもんかしら」という域を出ない印象。しかしながら、クリアな結論が出ないのは志の高さの裏返し。そのうちまだ混沌としている行動経済学やら認知心理学との連携もできないかと期待させる。

    後半に、仮想空間やブレイン−マシン・インターフェイス(BMI)の話が出てくる。BMIなんかヒトでも実証されていて、怖い感じもあるが興味深い。

    その他メモ
    ・社会性の基本的な構成要素を「抑制」ではないかとしている。うん確かに。
    ・社会性昆虫の生得的な社会性と、ヒトの学習した社会性は異質なものではないか。
    →利他行動を遺伝子から説明するような議論にも批判的。「そう単純じゃないでしょ」ということだが、どうか。
    ・最後にカネだけではなく、リスペクトを回すという世界観を提唱。アメリカ帰りの人の意見として興味深い。

  • ここには「既に分かっていること」ではなく「まだ分からないこと」「これからやろうとしていること」が率直に書いてある。ここまで書いて同業者にアイデア盗まれるんじゃないの?と余計な心配をしてしまうほど。

  • 9.11で、アメリカは自分が攻撃されるとは思っていなかった、彼らは自分たちがヒューマニズムで守られていないことがありえるとは思っていなかった。というくだりや、金融の失敗は彼らがヒューマニズムではないものから別の立脚点を求めた実験なのだ、とか、おもしろい視点だった。

  • 大学発ブログ「この一冊」
    2011/10/01更新201118号紹介図書
    http://www.nvlu.ac.jp/library/bookreport/bookreport-072.html/

  • Wed, 29 Dec 2010

    理研の藤井先生によるサルの脳計測をつうじた社会性研究についての本.
    研究そのものというよりも,藤井先生自身の研究ライフについて書かれている本といっていいだろう.
    海外でのポスドク研究者事情や,脳研究でどういうことを実際に苦心してやっているのかという第一人称での記述がおもしろい.

    ただ,著者自身がのべているように,
    脳科学を通してどれだけ人間の社会性が明らかになったかというと
    そこに明確な答えは見出されていないのが現状であろう.

    萌芽的な領域であるがゆえに,手探りが続く.

    研究者のビビッドな生活を見てみたい人におすすめの本だ.
    逆に,知的好奇心からあらたな「知識」を得たい人に向けた本ではないといったところだろうか.

  • 著者は、理化学研究所 脳科学総合研究センターの脳科学者。適応知性研究チームのリーダーだそうだ。

    脳の「ネットワークは、脳単体で閉じていません。脳は、常に社会や環境とつながりをもち、そのつながりの中で働いています。つまり、神経細胞同士、友達同士、国と国の間まで、そのすべてが異なる種類の多層的ネットワーク構造を介してつながっているのです。そのような『つながる脳』の仕組みを理解することは、脳だけではなく、脳が作っている社会の仕組みを理解することになるはずです」

    なるほど

    ・2頭の猿の実験から、ヒトの幼児がおもちゃの取り合いをすることを説明したり、社会性の基本は抑制であり、抑制は余裕が生むという指摘などは、常識的で分かりやすい。

    ・ミラーニューロンについては、その意義を認めつつも、いくつかの疑問を提示している。

    ・仮想空間も試している。

    ・脳に電極を付けてやるブレイン・マシン・インターフェース(BMI)などという実験は、なんだかこわくて私はできないし、やりたくないな。

    ・ルール、戦略と戦術、コミュニケーション、「みんなだれかとつながりたい」などについての解釈が面白い。

    ・「カネをいくらもっていても幸せになれませんが、素敵な関係は一つ持っているだけで僕たちを十分幸せにしてくれる」という言葉がよかった。

    ・脳科学者の発想は、実に面白い。脳科学者風に色々考えてみることにしよう。

    ・おお、毎日出版文化賞を受賞している。面白いわけだ。

    ・他に、関一夫/長谷川寿一「ソーシャルブレインズ」、ジャコモ・リゾラッテ他「ミラーニューロン」、マルコ・イアコボーニ「ミラーニューロンの発見」を斜め読み。

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著者プロフィール

理化学研究所脳科学総合センター適応知性研究チーム・チームリーダー/適応知性および社会的脳機能解明が研究テーマ

「2014年 『談 no.99』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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