批判的工学主義の建築:ソーシャル・アーキテクチャをめざして

著者 :
  • NTT出版
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  • Amazon.co.jp ・本 (291ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784757160620

作品紹介・あらすじ

建築家・藤村龍至の思考を集成した、初の単著。
情報技術によるネットワーク化と経済のグローバル化が進むいま、建築や都市はどのように変化したのか。建築家は何ができるのか。巨大開発、ショッピングモール、物流倉庫など現代特有の建築の分析を通して、新しい建築・都市の原理を鋭く捉えるマニフェスト。

感想・レビュー・書評

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  • 小説のように読んだ建築専門書
    藤村龍至「批判的工学主義の建築」 私は建築家の本を基本的に読まずに来た。それは、それらの多くが非常に主観的で、情緒的で、気取っていて、それなのに非論理的で説得力に欠ける文章が並んでいたからだ。私の学生の頃、40年前は特にひどかったように思う。ところがこの本を読んで認識が変わった。

    とても良い。論理的である。歴史認識がしっかりしている。具体的である。勉強になる。

    「単純な工学主義の建築」と「反工学主義の建築」を止揚して、「批判的工学主義の建築」を提唱している。設計モデルにおける「漸進的進化」と「飛躍的進化」を止揚した「超線形設計プロセス論」すなわち、正反合の弁証法である。弁証法的建築論と呼ぼうと思う。

    IKEAとamazonとコンビニを「検索可能性」と「遭遇可能性」で分析している。ついでにgoogleとSNSも「検索可能性」と「遭遇可能性」で分析している。これは驚くほど説得力がある。目からうろこである。

  • 模型

  • 建築家/ソーシャルアーキテクトである藤村 龍至氏の視点による歴史の書。IA(インフォメーション・アーキテクト)を目指す人は読んだほうが良いと思う。

  • 今日の建築家像を、「グローバル/ローカル」、「表層/深層」という2つの軸で分析し、建築家の役割から設計プロセス、設計行為が提供する価値のあり方について検討しており、興味深く読んだ。

    グローバル×表層:アーティスト・文化施設
    グローバル×深層:マスター・アーキテクト、インフラ輸出
    ドメスティック×表層:ソーシャル・アーキテクト、ワークショップ
    ドメスティック×深層:エンジニア、耐震改修

    といった整理がなされているが、多様化し拡散しているように感じる現在の建築家像を、非常に分かりやすく整理されていると思う。藤村氏の意見では、マスター・アーキテクトとソーシャル・アーキテクトの役割が今後拡大していくのではないかとのことである。

    タイトルにもあるように藤村氏自身の実践はソーシャル・アーキテクトとしての取組みが中心になっているようである。

    単独のビルの設計プロセスの中で経験的に整理された「超線形設計プロセス」という設計の方法論が、市の公共施設の再編の議論や国土政策へと展開・応用されていくという本書の後半部分は、ソーシャル・アーキテクトの今後のダイナミックな展開を予感させ、非常に興味深かった。

    組織としての設計事務所ではなく、アーキテクトを軸に展覧会、設計教育、展示、ワークショップといった手法を動員して協働プロセスの中で課題を解決していくという新しいあり方について、認識を新たにすることができた。

  • 建築門外漢が読んでも刺激的。例え別分野であっても、藤村さんの“アークテクチャ”づくりに携わるときの思考と合意形成プロセスはすごく勉強になる。

    しかし建築はプロトタイピングでの手間のかけ方がすごい。一度作ってしまうと後戻りがきかないので、当然といえば当然…。

    最終章で、ステーションシティ開発を次々進めて日本の動員の風景を確実に変えつつあるJRに言及し、「JRというアーキテクチャそのもの」の対外的アピール、または輸出こそ日本のとるべき戦略である、と説く。この点は「日本2.0」での論考からそのまま引き継いでいる。

    ステーションシティ、すなわち巨大複合商業施設での新しい消費の舞台が経済成長へ…というロジックのようなのだけれど、そこはなんとなく直感的に違和感が残るのは、私が素朴な商圏に夢を見がちなヒッピー体質だからだろうか…?

  • 批判的工学主義の建築に関する詳細と、それを応用した方法論として超線形設計プロセス論を展開する本書は、本の厚みの割には図解や写真も多いため非常に読みやすく、すぐに読み切れる。応用事例の紹介が多く、設計やデザインに興味がないと中盤は退屈に感じるかもしれない。今後の展開が期待される批判的工学主義を理解するためには必読の一冊。

  • 日本はJRを生んだことに着目すべき。広大なアメリカの国土が航空産業や情報インフラのアーキテクチャを発達させたのに対して、小さな島が連続する日本の国土が建設産業やJRというアーキテクチャーを発達させた。

  • 同感です。最終章より引用。


     「ソーシャル・アーキテクチャ」とは現代の新しい時代の動員の力強さを十二分に理解し、その暴走を抑止しつつ、その可能性を、人と人をつなげたり、地域の課題を解決したりというように、社会によって(※原文ママ)よりよい方向へその可能性を誘導しようとする試みである。
     アーキテクチャのデザインは、かつてであれば建築家が担っていたのかもしれないが、情報環境の広がりを得た現代では、ウェブデザイナーやプログラマにその役割を譲ってしまったかのように見える。
     しかし、それが誤解のもとなのだ。ウェブデザイナーもプログラマも、アーキテクチャの設計の一部は担えても、全体は担えない。(略)
     したがって今なされるべきは、メディアそのものの精度や働きを高める方向もあるだろうが、より効果的なのは情報空間と物理空間をブリッジしてデザインする方向であろう。具体的にいえば、アーキテクチャのデザインにかかわる専門家たちをディレクションし、全体を設計するかつての建築家、あるいは都市計画家のような役割が期待される。その役割を改めて「アーキテクト」と呼び直そう。

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著者プロフィール

藤村龍至:建築家。東京藝術大学准教授。RFA主宰。アーバンデザインセンター大宮(UDCO)副センター長。主な建築作品に「すばる保育園」(2018)「鶴ヶ島中央交流センター」(2018)「OM TERRACE」(2017)など。主な著書に『批判的工学主義の建築』『プロトタイピング』がある。

「2018年 『BIOCITY ビオシティ 74号 エコロジカル・デモクラシーのデザイン』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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