短編小説の、英語と日本語翻訳を乗せてくれている本。朗読CD付き。英語の勉強でもしようという試み。
この本を読んで一番感じたのは、ゆっくりと読むことは結構大事だということ。『ささやかだけれど、役に立つこと』と『レーダーホーゼン』は読んだことがあったけど、今回の方が断然心に響いた。
やはり原文で読むと違うぜ!と得意になりたいところだけれど違う。そもそも村上春樹さんのは元は日本語やし。英語だから一文一文しっかりと意味を考えながら読んだのが良かったんだと思う。特にカーヴァーさんは無駄を削ぎ落とした文体が特徴の人だから、一文一文がとても大切になっていたように思う。肩が少し縮こまっていたり、蛍光灯の明かりだったりがとても不吉に見える感じは最初に読んだときはほとんど見落としてしまっていたと思う。英語用に買ったけど、違う意味でためになった。
個別の感想
『レイニー河で』
ベトナム戦争に徴兵された主人公。その戦争に意義も正義も感じられない主人公は逃亡を計画するが…ていうかんじの話。
主人公は大学を優秀な成績で卒業。ベトナム戦争に関してもある程度明確な意見を持ち(穏健な反対派)、軽い政治活動みたいなこともやっていた。
いざとなれば自分には何だって出来るし、正義のためなら戦争に行って死ぬこともいとわない勇気を持っていると思っていた。ただ、今回の戦争は正しいとは思えなかったし、だから反対の立場を取っているだけだと。そこに徴兵通知が届く。
良心に従うならば、兵役から逃げるのが正しい。この戦争は命をかけるほどに正しいものではないから。でもそれが出来ない。
どうしてかっていうと、逃げた後の地元での悪評だったり、今の生活を捨てていくことが怖いから。平凡な人生が失われてしまうのが怖いから。
それは正しいことのはずなのに、彼は逃げることも出来なかった。自分ではやるときはやる男だと思っていたのに。
追いつめられて彼は泣き出してしまう。でも、それも号泣ではなくて、ただの嗚咽だった。
「私は卑怯者だった。私は戦争に行ったのだ。」というのが結びの言葉。
主人公の考えの善し悪しとかはよくわからないけど、 とてもフェアに自分と向き合っていたと思う。 ジーンときた。
『ささやかだけれど、役に立つこと』
男の子が誕生日に車にはねられた。男の子の父親と母親、誕生ケーキの予約をしていたベーカリーショップの無愛想な店員の話。
カーヴァーさんの別の小説『大聖堂』について村上さんが「立派な人物が一人も出てこない、とても立派な小説」て言ってた気がするけど、それを思い出した。
立派といえるほどの態度で事態に向き合った人はいないし、やったことも人並みはずれたものではないと思う。たぶん。
でもそれで、冗談みたいに悪い方向に向かっていた事態に、救いみたいなものが感じられる様になった。状況は好転しないし、今後の見通しがついたっていうわけでもないのにしっかりと話が完結する感じがあった。不思議だ。
『レーダーホーゼン』
レーダーホーゼンが原因で離婚した夫婦と娘の話。奇妙な話だし、合理的な理由なんてないんだけど、読み終えるとなぜか納得できるような気がするのが不思議。