春期限定いちごタルト事件 前 (Gファンタジーコミックス)

著者 :
  • スクウェア・エニックス
3.67
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感想 : 28
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  • Amazon.co.jp ・マンガ (173ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784757522305

感想・レビュー・書評

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  • 甘美の味はスイーツの先にだけ待ち受ける、と思われる。

    直木賞作家なる肩書も付きました大人気ミステリ作家「米澤穂信」氏ですが、それはさておき。
    氏がデビュー当初から連ねている“日常の謎”と「学園ミステリ」の文脈に沿っていけば代表作と言って過言ではない『小鳩くんと小佐内さん』――じゃなかった〈小市民〉シリーズ、その第一作のコミカライズです。
    『氷菓』を第一作とする〈古典部〉シリーズと双璧をなすといえばわかりやすいかもしれませんね。

    そんなわけで本作の評価ですが、漫画として悪い点は見当たらず手堅くまとまっています。
    妥当と見るか凡庸と見るか人により評価は分かれそうですが、特筆すべき点はないともいえます。
    その評自体に面白みがないよと言われてしまえばそれまでですが……。
    よって、ここからのレビューはせいいっぱい面白くしていくよう善処してまいりますのでお願いいたします。

    まず本作の描き方は〈小市民〉シリーズとして導入編に当たることを考えれば間違ってはいません。
    その上、間口を広げるという目的に絞れば役割は十全に果たしていると思う次第です。
    この辺については実際に読了いただいた十人中九人はそうだとうなづく感想なのではないでしょうか。

    一見してパンチには欠ける印象であっても、ミステリらしく読者をあざむいていく(この場合は消極的に)スタンスのあらわれと考えれば納得かと。
    と。あまり漠然とした話で泳がすのも本意ではありませんね。ここはあえて着眼点を紹介しておきます

    話の流れの中で自然と誘導される形になりますが、目に見えていけ好かなくならないよう振る舞う探偵役の小鳩くんと、今はスイーツ好きなだけの小佐内さん、その両名からなる主人公ペアの関係性にご注目ください。
    この際はスタートを派手に決める必要はなく、小市民らしくゆるり大勢を見極めていけばいくがよいかと。

    付随して、やたら持って回った言い方で説明される小鳩くんと小佐内さんの「互恵関係」の芯となる部分は後編で明らかとされます。数多くの原作未読の方にとって疑問であろう、両名が恋人でもないのになぜ行動を共にするのか? という回答にも繋がっているのでここは見逃していただきたくはないところです。

    それと内容としては原作から「プロローグ」~「おいしいココアの作り方」までの四編を収録。尺とテンポと漫画の構成上、要点をかいつまむ形になるのでユーモア成分はちょっぴり割引の20%OFFくらいでしょうか。
    持ち味は消えていないものの、取り扱う事件が人が死なない日常路線であるがためにミステリ要素だけを拾っていくといささか淡白に受け取られるのが痛いところといえるかもしれません。

    良くも悪くも原作に忠実なので原作の完成度の高さを改めてしろしめすことになりそうですが、小鳩くんの一人称視点と独白をうまく制御してまとめた技法はなかなかに高レベルだったと思います。
    シリーズ第一作であるだけにシンプルであり、比較もやりやすいだけに並行して読み進めるのも良いかと。

    ちなみに各短編の内容についての紹介はここでは控えますが、中でも「For your eyes only」は白眉。
    この種の題材はやはり漫画向けだというのがよく出ているほか、スパっと切り捨てられるラストに無情感が良く出ていて好きです。その辺は色を出さずにまとめ切ったこの作画の饅頭屋先生の味ともいえるでしょう。

    それとキャラクターデザインについては小鳩くんと小佐内さんの両人については満点と言っていいと存じます。表紙を飾るふたりは万人が想像する普通人を、シンプルなラインから実現されています。
    原作に表紙絵は存在したと言え、担当された「片山若子」さんは抽象画寄りの画風ということもありそのまま漫画に落とし込むのは難しいわけで。饅頭屋先生はスタンダードなふたりを表出していただいたわけですよ。

    あと、それと。ちょっとゆがませることが似合ったり、にじませることを前提としたデザインなのだと、後知恵から悦に浸ってみる私もいましたが、その辺はいらない話でしたね。失礼しました。

    ただ、ひるがえって小鳩くんの友人である「堂島健吾」のデザインに関しては原作から拾える情報と印象を軸にすればこう出力されてしまうのもわかる気がします。
    ただ、あとがきで饅頭屋先生が触れていらっしゃるように老け顔になりすぎた感はあります。

    これはこれでアリだと思うのですが、険が出すぎて(「老け顔」の情報量と華のなさの二点で)逆に色がついてしまった印象なので同じ画面にいると絵面が彼の方に引っ張られるのが難点だと思います。
    今後〈小市民〉シリーズが展開していく上では原作の描写を拾いつつ、主人公ふたりと並んだ時になじむようバランスを取った堂島健吾のデザインが求められるのかもしれませんが、今後は定かではありません。

    以上。
    毎巻の巻末には原作の米澤先生が二ページほどのコメントを寄せてくださっていますが、今回はまじめなミステリ講義に続いてマザーグースを和訳したような「タルトがぬすまれたうた」をお出しいただきました。
    センスに脱帽です。ミステリ作家なる人種はこの紙幅であればこそ、最大限ユーモアを発揮されようとはりきられるかもしれません。同じくミステリ作家つながりで「城平京」先生を思い出す私でした。

    一方、余談と断っておきますが同じく「スクウェア・エニックス(Gファンタジー連載)」から発刊された〈小市民〉シリーズのコミカライズでも構成担当も付き、演出面でコミカライズとしての色も加えた『夏期限定トロピカルパフェ事件』の方に軍配が上がる印象です。
    話は独立している上、前提部分は説明されているのでそちらから読み始めても問題はないでしょうし。

    とまれ、本作は別方面の良さを発揮されていますのであしからず。
    あくまで作家性の違いが出たか否かの違いなので、本作を貶めるとかいう意図はありませんのでご留意ください。先述した通り、本作については口を広げるのが目的です。
    というわけで未読の方は、くれぐれも油断して奥の方――にまで、立ち入ってくださいませ。

  • 【あらすじ】
    小市民を目指す高校生、小鳩くんと小佐内さん。平穏な日々を望む二人なのに、その周囲には一風変わった謎がいっぱいで…??

    【感想】

  • 久々に掘り出してきて読んだので登録.このあと発刊された『夏季限定トロピカルパフェ事件』を買ったのは,この春季限定〜が面白かったからに他ならない,秋季限定〜も是非コミック化してほしいものだ.小鳩と小佐内の出会いが気になるが,中3からの付き合いだというし,冒頭のそれがそうなのだろうか? 前巻では小鳩の推理好きな面が垣間見られる.そんな簡単に短時間で工具でもない限り自転車の鍵は壊せないと思うのだが……?

  • 小市民を目指す高校生、小鳩くんと小佐内さん。平穏な日々を望む二人なのに、その周囲には一風変わった謎がいっぱいで…??

  • 小市民シリーズのコミック化。日常の謎、だけどこのシリーズは何か暗い部分を含んでるなー

  • コマ割りいいなぁ

  • 2012年4月16日

    装幀/里見英樹

  • 夏期より原作に忠実

  • 小佐内さんが普通にかわいらしくてイメージと違ったが、これはこれで良いか。

  • まさにタイトルにピッタリの名前の漫画家による米澤作品・小市民シリーズのコミカライズ。
    かわいらしい絵で、読みやすいですが、小鳩君はサワヤカすぎて、原作での、なんとなく敬遠したくなるような鼻につく雰囲気が伝わってきません。
    小山内さんもキュートで、まったくどんよりしていません。
    全然地味でも陰気でもなさそうです。
    彼らの性格をあまり忠実に表わすと、絵的に問題があるのかもしれませんが。
     
    吉口のハンドバッグ紛失事件は、学生が何人も登場するため、コミックで読んだ方がわかりやすかったです。
    高田がラブレターをしのばせたのが事件の原因でしたが、高田君は吉口さんに告白したものの、振られたそうです。
    大村君が吉口さんと付き合うことになったとか。
    この後日談、原作にあったかしら?

    ココアの作り方の話も載っていました。
    原作でも(これってそんなにこだわる話?)と思って読みましたが、コミックでも、ポイントが細かすぎて私にはやっぱりどうでもいいことだなあと思いました。
    その日常の些細なミステリーを突き詰めるのが、原作者の持ち味なんですが。
    オリジナルを読んだこともあり、気軽に読めた一冊です。

    原作者があとがきを書いていました。
    「頓悟(とんご)」と「漸悟(ぜんご)」という難しい言葉を知りました。
    「頓悟」:最初から探偵は全てお見通し:亜愛(ああ)一郎、小鳩くん
    「漸悟」:推理を重ねて最後に見つける
    という違いがあるそうです。

    さすがは博識、と思ったら、続けて、コミック化にあたり「タルトがぬすまれたうた」を作ったとして、不可解な歌詞が掲載されていました。
    あまりに謎すぎて、ふり幅の広さを感じました。

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著者プロフィール

1978年岐阜県生まれ。2001年『氷菓』で「角川学園小説大賞ヤングミステリー&ホラー部門奨励賞」(ヤングミステリー&ホラー部門)を受賞し、デビュー。11年『折れた竜骨』で「日本推理作家協会賞」(長編及び連作短編集部門)、14年『満願』で「山本周五郎賞」を受賞。21年『黒牢城』で「山田風太郎賞」、22年に「直木賞」を受賞する。23年『可燃物』で、「ミステリが読みたい!」「週刊文春ミステリーベスト10」「このミステリーがすごい!」でそれぞれ国内部門1位を獲得し、ミステリーランキング三冠を達成する。

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