- Amazon.co.jp ・本 (324ページ)
- / ISBN・EAN: 9784758412315
感想・レビュー・書評
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この人の書く作品は全部温かさがあってすき。
いつの日かきた道。そんな空耳が聞こえて降りた思い出の駅。たった1度お父さんと来た野球がとても心に残っていて、父親相手だからこそ聞きたいことも聞きづらい雰囲気があって。そんな子供心が懐かしかった。
当時を知らないけれど野球場や周りのイメージが伝わってきた。
北朝鮮のことも当時のことをこの小説で知れてよかった。
ファンタジーは苦手だけどこれはよかった。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
バルボンの話がいいね。
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50歳になる放送作家の工藤正秋は、阪急神戸線に乗車中、車内アナウンスの声が「いつの日か来た道」と聞こえて電車を飛び降ります。それは「西宮北口」を聞き間違えただけ。けれど、小学生の頃、西宮球場でプロ野球を初観戦した日を思い出し、球場跡地に建つショッピングモールへと足を踏み入れます。シネコン入り口横にひっそりとたたずむ阪急西宮ギャラリー。そこで回想にふけるうち、正秋は当時にタイムスリップし……。
ショッピングモールの名前は出てきませんが、もちろん阪急西宮ガーデンズのこと。5階のTOHOシネマズ西宮で映画鑑賞前に何度か立ち寄ったギャラリーも懐かしくて、一気読み。
当然野球の話も出てきますが、普通の野球小説とは趣が異なります。正秋の父親・忠秋は能登の貧しい農村の生まれで、北海道の開拓地を経て西宮へ。そこで出会った在日朝鮮人の女性・安子は、幸せな暮らしが待っていると信じて北朝鮮へ。タイムスリップしたことによって、今は亡き父親と彼をめぐる人びと、そして彼らを勇気づけたプロ野球、阪急ブレーブスの面々と出会います。
実在の選手の名前がたくさん出てくるばかりではなく、物語の一員となって登場します。正秋がまず会いに行くのは、数々の代打記録を持つ高井保弘選手。ロベルト・バルボン選手が出てきたときには、本の中の安子に声をかけたくなりました。「チコさん、今も日本にいるよ。福本がしょっちゅうチコさんの話をしてるよ」と。 -
勇者とは、昔の球団である阪急ブレーブスに絡むものだった。自分が生まれる前の古き野球界の話を軸に、不思議な時間経緯で話が進む。北朝鮮へ行ってからの話など、なかなかつらい記述もあったが、ぐっとくる話で没頭した。小説の形態をとってはいるが、登場する野球選手は実在だし(バルボンという選手は聞いたことがある。昔の学研ひみつシリーズの中で出てきたのを記憶)、歴史も多くの文献を参考に記されている。
自分はどこの地に対して、この話の主人公のような気持ちを持つんだろうか?とふと考えた。 -
私にとっての西宮球場は
マイケルジャクソンがコンサートしたところ、
なんだけど確かにブレーブスはあった。
そう思うと西宮には二つも
プロ野球の本拠地となる球場があったんだなぁと今更ながら思う。
昭和30年代はきっと豊かではない物資、
まだまだ戦後と言われる時代だったけれど、
右肩上がりの景気に乗り、
みんながとても希望に満ちていた、という風に理解している。
そしてまた、
時代に翻弄された人がたくさんいたのだ。
時空を越え、距離を越えて人のいつか来た道が交わる、
後半はとても、引き込まれた。 -
野球は全く詳しくない。ひと通りのルールは分かるしセパ両リーグの名称くらいなら認識している。某友人よりは遥かにマシなレベル。野球好きな人たちが多い環境だったからたま〜〜に球場まで試合を見に行ったこともある。でも1つのチームや1人の選手に夢中になったことは、多分ない。ましてや、何人もの人生が重なり合うような出来事は経験はない。
50歳を過ぎ、公私共に宙ぶらりんな立場にある自分。やり切れなさを抱えた正秋の耳にふと聞こえてきた声。声に引きずられるように正秋はこの場所へたどり着く。当時の面影は微塵もない大型ショッピングモール、遠い昔、ここは野球場だったのだ。
父が8歳の正秋を野球場に連れ出したのはたった1度。父は試合ではない何かをジッと見つめていた。正秋はこれを契機に野球に、阪急ブレーブスへとハマるのだが。
父の年齢をとっくに追い越した正秋は改めて『阪急ブレーブス』の歴史と、当時35歳であった寡黙な父に隠されていた過去とたくさんの勇者たちを知ることになる。
勇気を出せ、とひとに告げるには発する自らの勇気を試されているように感じた。覚悟が試されているような。
人生のターニングポイントにはいろんな状況下があるのだろう。あるいはひとから、あるいは場所から。野球を愛した彼等を後押ししたのが野球の神様でありますように。 -
1969年夏の西宮球場での阪急・西鉄戦から物語は始まる。単純な「昔、阪急ブレーブスというチームがあった!」ではなく、主人公正秋の父忠秋と安子の遠い昔の球場・日野神社での出会いと別れ、梶本・バルボン・高井たち懐かしの選手。「阪急」を繋ぎとして、北朝鮮への帰国家族の想像を絶する苦労と野球、キューバから日本に帰化したバルボン。中国で日本語ラジオ放送に耳を傾ける人たちなど、感動秘話がいくつも。終盤での安子からの手紙、主人公の応答は素晴らしい感動。私にとっても69年の阪急・近鉄優勝争いは忘れられない思い出であり、今も西宮北口周辺を徘徊することが多いだけに、身近な小説だった。「副題が西宮北口を連想させる掛詞であるとは、なるほど!オシャレ!」
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過去と現在がリンクし、様々なことが明らかになっていく。ほっこりした気持ちになれる。