ウエハ-スの椅子 (ハルキ文庫 え 2-1)

著者 :
  • 角川春樹事務所
3.45
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本棚登録 : 4440
感想 : 359
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  • Amazon.co.jp ・本 (205ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784758431026

作品紹介・あらすじ

「私の恋人は完璧なかたちをしている。そして、彼の体は、私を信じられないほど幸福にすることができる。すべてのあと、私たちの体はくたりと馴染んでくっついてしまう」-三十八歳の私は、画家。恋愛にどっぷり浸かっている。一人暮らしの私を訪ねてくるのは、やさしい恋人(妻と息子と娘がいる)とのら猫、そして記憶と絶望。完璧な恋のゆく果ては…。とても美しく切なく狂おしい恋愛長篇、遂に文庫化。

感想・レビュー・書評

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  • 上質なレースに包まれた向こう側を見ているようだった。幸福と共に感じる強烈な孤独とはこういうものか。
    美しく静かな絶望の描かれ方が凄い。
    なぜこの人なのだろう。などという短絡的な言葉ではかたづけられない主人公「私」の心情。
    ストーリーに織り込まれる幼少期の回想で、「私」は閉じた自分と向き合うことになる。美しい文章で紡がれる数々の記憶がきらきらもするし、残酷にもうつる。この独特の空気感が、ざ江國さんだと思った。
    最後は、仕方ないにも、あきらめにも似た、これくらいがいいかもしれない、という着地。
    自己を満足させるには傷を負うこともあると、タイトルの意味にも感じられて痛い。
    一冊まるごと心の葛藤(心模様)こういうのが結構好きだと思った。

  • ホテルの静かな部屋で1人読むものではないな、と反省した。
    あまりに途方もない絶望の物語だから、明るいところで読まなくちゃ。
    冬より夏、夜より昼。カラッとした天気の日に読むべきもの。

    読んでいるうちはいい。読み終わったとき。物語の魔法が解けて、現実が帰ってきたとき。自分に忍び寄る絶望にゾッとして、でもそれは間違いなく自分が呼びつけた者なのに。

    孤独という名の絶望なしには生きられない。それは不幸なのかもしれないけど、でもホッとする。ああ帰ってきた、といつも思う。結局ここが自分の居場所なのだ。

    たっぷりたっぷり愛情を注がれて育ってきて、今だってそうなのに。どうして私は孤独ぶりたがる?何を格好つけているんだろう。
    遅くかかった麻疹は重い。いい加減に現実を見て、地に足つけて生きていく人生を受け入れたいのに。

    • 大野弘紀さん
      感想なのに、ウエハースの椅子の解説を、読んでいるみたい。ずっと、読んでいたい。
      感想なのに、ウエハースの椅子の解説を、読んでいるみたい。ずっと、読んでいたい。
      2020/07/05
  • きらきらひかる、落下する夕方、と三角関係の作品を続けて読んだあとだったので、登場人物が少なく、ストーリー展開も大きく変化がない今作で、少し物足りなさを感じた。
    しかし、それゆえに、文章の温度感を深く味わうことができ、恋人との別れが差し迫っている様子をひしひしと感じとれた。
    シンプルなストーリーに丁寧な心情描写を肉付けしていくようなスタイルが好きで、そういう意味では、江國香織作品の中では、この作品が一番それに近いと思う。
    この作品は、日曜の昼下がりに、日当たりの悪い部屋(よく言えば日陰の落ちついた部屋)で読むのがいちばんいい。

  • 解説に書いてあるようにストーリーがないです。
    狭い池が繰り返しの日々の中で、僅かに変わっていく機微を描いているような感覚でした。

    「上手く一人に戻れるように」
    「道があると思うことがそもそも錯覚なのよ。人生は荒野なんだから」

  • ウエハースの椅子は…目の前にあるのに決して腰を下ろせない。
    仲の良い両親に大切に育てられているのに、何故か幼少期より絶望に囚われて生きている私の恋物語り。
    画家を生業とし、ときおり訪ねてくる7年越しの妻子ある恋人との時間のためだけに生きている37歳の私。
    6つ下の妹は、長続きしない恋ばかり。
    今は年下の大学院生と恋愛中。
    絵を描くこと…好きなことが仕事として安定し、姉妹中も良い。
    恋人はお風呂のカビとりをしてくれるし、旅行にだって連れて行ってくれる。
    過不足なことなどひとつもない。
    優しい恋人。甘い時間。狂おしい熱情。
    だけど、幸せであればあるほど、それは絶望でしかない。
    語りたいことは多くあるけれど、これを語るとネタバレにもなるし、自分の心の内をさらすことになる。
    今年の15冊目
    2018.8.13

  • 子どもの頃の甘い記憶と、紅茶に添えられた角砂糖にたとえられた、38歳の中年女の甘やかされた生活。
    まるで詩のように、交互に、ぽつぽつと語られている。

    ときどき江國さんの言葉たちに閉じ込められたくなる。

    「すみれの花の砂糖づけ」にどこか似ている。

  • 読んでいると砂糖漬けにされていくような感覚を味わう小説

  • 恋愛の最高地点じゃん。と思ってしまった。ああ、書き手は女だなとも。好き。

    二人だけの狭い世界に生きる、希望と不安を「今」「記憶」「絶望」から描いてる。

    「私の恋人は優しいが、優しければ優しいほど、私は自分が架空の存在であるような、彼の産物であるような気がする。」
    自分の孤独が絶望になり、その絶望を遠ざけるためにどう抗うか。恋人という存在が鍵になるのだけど、存在が大きいからこそ、自分から切り離したくなる矛盾した気持ち。自由の代償みたいにまたやってくる絶望。人間ってよわいねえって思う。よわいから、出来るだけ暇をなくさないといけないかも、とちょっと余計なことも考えた。
    愛情の話ではない、恋愛の話。

  • とりとめのない、女性によく見られる心のわずかな動きを、素敵な言葉で、一見柔らかく、実は残酷に、激しく表してるなと思いました。

  • 大好きで何回も読み返してしまいます。
    自分も恋人も、一度も名前を明かさないまま話が進んでいくところが、奇妙な美しさがあり好きです。

     「わたしははじめて、恋人が絶望に似ていることに気づいた。」

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著者プロフィール

1964年、東京都生まれ。1987年「草之丞の話」で毎日新聞主催「小さな童話」大賞を受賞。2002年『泳ぐのに、安全でも適切でもありません』で山本周五郎賞、2004年『号泣する準備はできていた』で直木賞、2010年「真昼なのに昏い部屋」で中央公論文芸賞、2012年「犬とハモニカ」で川端康成文学賞、2015年に「ヤモリ、カエル、シジミチョウ」で谷崎潤一郎賞を受賞。

「2023年 『去年の雪』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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