史記 武帝紀 7 (ハルキ文庫 き 3-22)

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  • 角川春樹事務所
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  • Amazon.co.jp ・本 (413ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784758438155

感想・レビュー・書評

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  • 眼を閉じた。眠りに落ちているのかどうか、よくわからなかった。即位してからの55年間のことが、一瞬の出来事のように、順序もなにもなしに浮かんでは消えた。
    眼を開く。桑弘洋の顔があった。
    「長かったであろう、おまえ。俺がいなくなっても、おまえは苦労するぞ。すまんな。兄弟のように生きてきた。俺が先に行く。だから、俺が、兄だろうな」
    劉徹は、笑ったつもりだった。それ以上に眠りたかった。生きることは、煩わしいぞ。それに較べて、死ぬのはたやすいことだ。自分がそう言ったのかどうか、劉徹にはわからなかった。眠る。訪れてきた眠りは、深く、もう終わることもないのだ、と思った。(317p)

    最終巻である。大変面白く読んだ。今回私は一巻置く度に、「史記」原書を紐解いてきた。李広、霍去病、衛青、匈奴、張騫、李広利、そして司馬遷の列伝を読み、中島敦「李陵」と読み比べることで、北方氏が何を描こうとしたのか、おぼろげながら分った気がする。時代に左右されない漢としての戦い、生き方を書こうとしたのだ、と思う。同時に、つくづく司馬遷の偉大さを見た。

    だから、大胆に定説を覆して新しい漢(おとこ)の姿を描いてみせる。中島敦「李陵」が描くように、李陵は蘇武に引け目を感じていたわけではなかった。司馬遷は史記を書いたあとに腑抜けのようにはならなかった。劉徹・武帝は老害を晒して最期を迎えなかった。

    そして、最も意外で最も腑に落ちたのは、桑弘洋の最期であった。歴史書では昭帝の時代になって、桑弘洋は霍光と対立して、謀反事件に連座して処刑されたとある。武帝の時代を生き延びた桑弘洋がそんな無思慮に謀反に連座することは明らかにおかしい。そこには武帝に殉死を禁じられた彼の見事な死に方があったのである。李陵も、おそらくバイカル湖の麓で老死したはずだが、桑弘洋、蘇武、司馬遷と同じく最期の描写はなかった。この巻で最期の描写があったのは、冒頭にあるように劉徹のみである。蓋し、武帝紀であるからだろう。
    2014年4月30日読了

    • kuma0504さん
      あやごぜさん、おはようございます。
      こちらこそ、いつも私の昔のレビューを探してくださり、ありがとう御座います!

      正直、本読みが多いブクログ...
      あやごぜさん、おはようございます。
      こちらこそ、いつも私の昔のレビューを探してくださり、ありがとう御座います!

      正直、本読みが多いブクログ仲間の中に、北方謙三の「史記」を全巻読んでレビューしている、ましてや水滸伝シリーズを読破してレビューに落としているのは、あやごぜさんだけです。ずっと寂しく思っていました。私は水滸伝シリーズは文庫本になって一挙に毎月読む方針だったので、ブクログには楊令伝の文庫本からしか載っていないのですが、このまま楊令伝に移らしてください。アクティビティで北方謙三を見れば、一覧が立ち上がるはずです。
      2023/08/07
    • あやごぜさん
      kuma0504さん。お返事ありがとうございます。

      水滸伝シリーズ(「楊家将」「血涙」含む)は、読書の楽しみを存分に味合わせてくれるシ...
      kuma0504さん。お返事ありがとうございます。

      水滸伝シリーズ(「楊家将」「血涙」含む)は、読書の楽しみを存分に味合わせてくれるシリーズで大好きです~。
      “文庫本で一挙に毎月読む”ということで、その期間はまさに“水滸漬け”だったのですね~。最高です!
      お恥ずかしながら、水滸伝、楊令伝を読んでいた頃は、まともにレビューを書いていなかったので、(岳飛の頃からボチボチ備忘録程度に書き始めたという・・・(^_^;)
      楊令伝のレビューは1巻と15巻だけになってしまうのですが(*・_・*)ゞ
      kuma0504さんの楊令伝のレビューを読ませていただくのが楽しみです~。
      2023/08/07
    • kuma0504さん
      あやごぜさん、こんばんは。
      そうなんです。1〜2年が水滸伝年間になって楽しかったです。当然、楊家将も血涙も読んでいます。というわけで、早くチ...
      あやごぜさん、こんばんは。
      そうなんです。1〜2年が水滸伝年間になって楽しかったです。当然、楊家将も血涙も読んでいます。というわけで、早くチンギス紀が始まらないかなとワクワクしています。これも楊家将から見れば長い長いシリーズに入るので。

      いつも「いいね」ありがとう御座います。岳飛伝に入るまでは、ちょっとイレギュラーになるので、律儀に「いいね」しなくてもいいですから。でも楊令伝読んでいただけたら嬉しいです。
      2023/08/07
  • 余韻に浸れます。
    また1から読みたいなあ。

  • 読み終えた。感動。中国歴史ものでここまでの読後感を得られたのは、昔、吉川英治の「三国志」を読んで以来ではないか。
    前半は、どちらかというと漢の目線で匈奴と戦う戦記物。後半は漢、匈奴のそれぞれの人物たちの生きざまに焦点を当てた物語。7巻通して全く飽きることがなかった。
    北方謙三さんの作品は、昔のハードボイルドものしか読んだことがなかったのですが、中国歴史ものも人物のキャラが立っているし、行きもつかせぬストーリー展開で、本当に素晴らしいですね。恐れ入りました。なかなかここまでの物語には出会えないと思います。あー面白かった!

  • まずは全7巻に及ぶ歴史小説を読み終えた達成感が凄い。紀元前の中国を生き抜いた男達の生き様という熱い塊が胸の中にドシンと落ちてきたような感じがする。
    国があって、民がいて、争いがあって政治があって。時には厳しい自然に晒されても尚、信念を持った人は生を貫くのだという力強いメッセージが込められている。ハードボイルド小説(と言われている?)ってものに手を出したのは多分これが初めてだと思うんだけど、自分が普段読んでるような本に出てくる言葉遊びなんてものが一切なく、簡潔かつ事象だけを綴り続ける骨太な文章は圧巻の一言……めちゃくちゃ著名な大先生の本捕まえて何言ってんだコイツって話なんですけど、思ったままの感想なんです。
    巻を追うにつれて読み終わる間隔が短くなっていったのは、そういうことでしかありません。想像もできないくらい遙か昔の時代のお話かと思いきや、現代に通じる訓示みたいなものが詰まった魅力あふれる作品でした。
    ちなみに、羊の肉と鹿の肉がめちゃくちゃ食いたくなる。ジビエだ。

  • 第七巻。ついに完結。

    何だか登場人物達の“思い”が、しみじみと伝わってくるような巻でした。
    色々あったけれど、皆がそれぞれの思いを噛みしめて生きていくのだな・・という感じ。
    ラストの、-別れだな、李陵ー。ー別れだ、蘇武ー。と、目だけで思いを伝え合う場面は、こみ上げてくるものがありました。

  • 北方版史記を読み終えた。劉徹、衛青、霍去病、桑弘羊、蘇武、李陵、霍光そして司馬遷を通しての前漢の長いお話。綺羅星のごとくちりばめられた英雄達。特に印象的だったのは、人も住まない極寒の北海に流された蘇武の生きるための闘いと変わりゆく心。国とは?その意味を見つけていくくだり。
    歴史はこの後、霍氏の誅滅。王莽による漢の滅亡。劉秀の漢の再立。へと続いていくことを現代人の私たちは知っているが、変わらず英雄達の苦悩も果てし無く続く。北方版三国志よりも心に焦点をおいて描いているところに、特徴あり。

  • 終わってしまった、という寂しい気持ち。
    劉徹の思いを受け取った桑弘羊、カッコよかった。
    蘇武の思いを受け取った李陵、カッコよかった。

  • 図書館で借りて読んだ。

    こういう終わりもありなんだろうなあ。

  • 全7巻

  • 全巻読了。
    李陵と蘇武と頭屠の涙で終わるのか。
    素晴らしい。

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著者プロフィール

北方謙三

一九四七年、佐賀県唐津市に生まれる。七三年、中央大学法学部を卒業。八一年、ハードボイルド小説『弔鐘はるかなり』で注目を集め、八三年『眠りなき夜』で吉川英治文学新人賞、八五年『渇きの街』で日本推理作家協会賞を受賞。八九年『武王の門』で歴史小説にも進出、九一年に『破軍の星』で柴田錬三郎賞、二〇〇四年に『楊家将』で吉川英治文学賞など数々の受賞を誇る。一三年に紫綬褒章受章、一六年に「大水滸伝」シリーズ(全五十一巻)で菊池寛賞を受賞した。二〇年、旭日小綬章受章。『悪党の裔』『道誉なり』『絶海にあらず』『魂の沃野』など著書多数。

「2022年 『楠木正成(下) 新装版』 で使われていた紹介文から引用しています。」

北方謙三の作品

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