世界屠畜紀行

著者 :
  • 解放出版社
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  • Amazon.co.jp ・本 (367ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784759251333

作品紹介・あらすじ

「食べるために動物を殺すことを可哀相と思ったり、屠畜に従事する人を残酷と感じる文化は、日本だけなの?」
屠畜という営みへの情熱を胸に、アメリカ、インド海外数カ国を回り、屠畜現場をスケッチ!! 国内では東京の芝浦屠場と沖縄をルポ。「動物が肉になるまで」の工程を緻密なイラストで描く。

感想・レビュー・書評

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  • 世界の屠畜、食肉を作る過程と差別について。
    ただし屠畜の面白さに気をとられて差別はわりとなおざり。
    語ってはいても他者目線の他人事。
    実際他人事だから自分のことのように語られても嫌だし(そこは筆者自身も意識して書いているようだ)屠畜の仕事を知ることは面白い。
    へーこういうふうなんだって面白がるには良い本。
    これを読むだけで終わっちゃったら嫌だ。

    中身はルポルタージュ、文体は興味がない人でも気軽に読めるエッセイ風。
    一人称が「ウチザワ」だったりする文章のノリはあんまり好きじゃないけど無駄のない線のイラストは良い。地図はみづらい。

    著者は徹頭徹尾「なにも知らない(利害のない・興味本位の・自分のアイデンティティや生活が脅かされることのない)部外者」の立場で屠畜を見る。

    人に会って、現物を見て考える姿勢があるところは好ましい。
    できあがった文章をポンと出すんじゃなくて、書きながら徐々に考えを深めていく、発見の過程をなぞっていくような印象。

    でも言葉を定義しないままに使ってすれちがっているようなところも結構ある。
    相手の考えを先取りして、「こうだろう」と思い込んだままストーリーを組み立てて勝手に反発しているようなところもある。
    最初からリベラルな目線の部分(たとえば犬食について)と、斜に構えてみている部分(たとえば「動物愛護」的な感覚について)でだいぶ態度が違う。

    「たくさんの肉を雑に食べるのではなく値段が高くなっても少ない肉を丁寧に食べるということをしたほうがいいんじゃないか」という言葉と「オーガニックビーフを買えない層がある」という言葉に矛盾は感じないのかとか、くりかえし描き出される「屠畜場面におびえない女子である私に驚く人たち」と、屠畜を特別視しないアメリカ女子への驚きをなんで同時に書けるんだろうとか、疑問に感じる。

    「自称さばさばして男らしい性格の女」な匂いがやや鼻につく。
    最後にちょこっと書いてある自分でやってみたってやつも獲ってもらった鳥をむしっただけで「つぶした」のとは違う。

    差別にしても「動物を殺す→かわいそう→差別」「宗教的タブー→差別」という単純な形しか考えていないように見える。
    殺すから差別されるんじゃなくて、差別したいから差別するための理由をつくるんだとか(だって殺すからダメなんだったら皮革加工で差別される説明がつかない)、殺したり血をみたりすることへの畏怖が直接差別につながるわけではないという視点はスッポリぬけている。

    屠畜の是非や差別は抜きにして、屠畜の仕事だけを描いてくれればこんなにモヤモヤしなかったのに。
    仕事だけを描いている部分は魅力的で、文句なく楽しめる。


    この本を読む間、イライラする部分が多々あった。
    それは自分になにがしか意見があるからで、この本の中に読み手が意見を掘り起こすためのとっかかりがたくさんあるということでもある。
    納得する部分もいやそれは違うだろと思う部分も、自分が考える糧になる。

  • 他の方もご指摘しているとおり、差別に関しては、「どぉしてだろぉー」と問い続けるモノの、どん欲に掘り下げようとはしていないように思います。
    自分たちが口にするモノを屠ったり・おろしている人達が差別されるのってヘンだよねと言う感覚はごくごく真っ当だと思うし、共感しますが、じゃぁ「この差別のある実態」と「私の感覚」との断絶はいかにして説明されうるのかというところが「やっぱりわからない、なっとくいかない」で片付けられている部分は多い(沖縄の章で触れられていたが―日本国内でも地域差はすごく大きいはず)。
    肉を扱う料理人にもおすすめの一冊。

  • 読了日 2018/10/09

    センセイの書斎の内澤旬子の全力エッセイ。
    読書会で紹介いただいた一冊。

    世界(日本、韓国、バリ、エジプト、チェコ、モンゴル、インド、アメリカ)各国の肉事情について。

    絵が丁寧で、言葉もわかりやすく、屠畜の様子がよくわかる。ただ、重さとか、匂いとかは、実物を見たいなと思う次第。
    私自身は肉食に大した忌避感もないので、純粋におもしろい、大当たりなエッセイだ!と喜んだのだが、そうでないひとのほうが多いのかもしれない。

    かわいそうだ、という表現は、わからなくないが、
    所詮感情論だ、と思う。
    生きるためには食べていかなければならないし、食べるからには、食物連鎖の流れを壊さぬよう、丁寧に屠畜するのが、良いんじゃないかなぁ。

    目次書き出すのは諦めた。結構どれもおもしろかったので、文庫買おうかな。

  •  2007年2月に初版発行だからずいぶんと遅れて読んだが、個人的にはこれが文句なしに2007年のナンバーワン。映画『いのちの食べ方』で不満だった部分が、構えることも、もったいぶることもなく、さらっと提示されているのがすごい。
    『いのちの食べかた』が意図的に切り捨てた部分……屠畜を生業とする人の技術やプライドが、まっすぐに見つめられている。それがあるからこの本は、全編に肉片と血しぶきをちりばめつつ、さわやかな感動を読者に与える。
     韓国、バリ、エジプト、イスラム世界、チェコ、モンゴル、アメリカ……そして日本。世界各地で、「動物」が「肉」になるところを、軽快な筆致と精緻なイラストでレポート。「日本人が肉をおおっぴらに食べられるようになって、もう150年」もたっている。にもかかわらず、「動物→肉」の間の矢印がじっさいどんな世界なのか、ほとんど言及されないし、習わない、映像にもならない。それどころか、昔からこの「→」……つまり屠畜に関わる人たちは、差別されてきたという歴史が日本にはある。疑問を持った著者は、世界中を旅して「動物→肉」の現場に立ち会い、一部始終をイラストにし、訪ねまくってきた。テレビでよくあるような、最初から結論ありきの取材ではなく、子供のような好奇心と、冷静な細部に対する観察眼をもって。360ページ2段組の1ページたりとも気を抜いたところのない、ものすごい密度のルポ。とくに、品川駅から徒歩5分のところにあるという芝浦屠場の、緻密かつ臨場感あふれる描写は文字通り血湧き肉躍る。読後、「あー焼き肉くいてー、ホルモンたっぷりの!」となること必定だし、これからも肉を食っていこうと思う人ならダレでも必読。

  • 「世界各国の屠場について、イラスト入りで丁寧に解説されていますね」
    「うん、この本に倣って屠畜と呼ぶけれど、屠畜の現場を実際に見て、スケッチしたイラストが非常に分かりやすいと思う。手順も、道具も、文化によって様々だし、こういうことを詳しく書いた本はあまりない」

    葉月は頷いた。確かに、こういう本は探してもあまり出てこない。
    少なくとも、本屋の目立つところには置いていない。

    夕飯の席でこういう話は、相手によっては嫌がるものなのかもしれない。
    けれど目の前で淡々と食事を続ける蛹は、そういうタイプではなかった。
    蛹は咀嚼しながら、手を止めて少し考えるように上を仰いだ。
    「ところで」
    と、食べ物を飲み込んでから、再び口を開く。
    「この本のもう一つのテーマとして、屠畜に関わる人の社会的地位というものがある。日本では、そういう仕事は低い身分の人が行ってきた歴史があるだろ。他国ではどうか、ということを、見学先でインタビューしているわけだ」
    葉月は頷く。
    「その辺も、色々と書かれていますね。文化や宗教が違えば、屠畜に関わる人の社会的地位も変わってくるんですねえ...卑しい仕事と見られている国もあれば、家畜を屠れるようになって一人前、という国もあるみたいですし...もちろん、数ある職業の一つに過ぎない国も」
    うん、と、蛹は頷く。
    そこまでは、別段、この本を読むまでもないことだというように。
    「そうして各国の様々な状況をリポートしているのだけれど……」
    「ええ、……何か、問題が?」
    「この著者の立場は一貫していて、肉を食べる以上は屠畜の現場というものを理解すべきだと考えている。その『理解』の中には、差別意識を消し去ることはもちろん、穢れや恐怖という感覚も無くすべきだという考えが見えるんだよね、何となくだけど」
    「ええ、確かに。間違ってはいないと思いますが、うーん……」
    何か腑に落ちないという様子の葉月に、蛹は同意するように、後を継ぐ。
    「間違ったことは言っていないし、俺自身はそういう感覚で生きている。家畜だけじゃなく、実験動物なんかも含めてね。でも、そう思えない人もいる。穢れや恐怖の感覚を、どうしても拭えない人がね。この著者は、そう言う人たちに対して、考えを改めるべきだという主張なんだ。理解し、共存しようという感じではない」
    「ああ、それ。何となく、著者の考えを押しつけられている感じがあるんですよね。書き方の問題かもしれないと思ったけど...」
    蛹は、わずかに首を横に振った。
    「穢れや恐怖の感覚というのは、もちろん歴史や文化や宗教が背景にあるわけで、その点については一応リポートしているんだ。でも、そういう文化や宗教的な思想が出来た背景については突っ込んでいない」
    「日本や欧米を含めた多くの国々で、なぜ屠畜が日常から切り離されたのか、ということですか」
    「そう。……うん、そういうこと」
    ようやく言いたいことがまとまったというように、蛹はわずかに笑って頷いた。
    「それはこの著者が述べるような、『可哀想』とか『残酷』という感覚だけじゃない。それはあくまで家畜に対する感情だけど、そもそも屠畜を日常から遠ざけた意図は、それが『死』だからだろう? 自分自身の死も含めての」
    「死を連想させるものをできるだけ遠ざけようとした、ということですか」
    うん、と。
    小さく、蛹が頷く。
    「文化も宗教も、結局のところ、『死』とどう折り合いを付けるか、ってことじゃないのかな」
    私感だけどね、と、蛹は付け加えた。
    「結局は、色々な背景を持った色々な人がいる、って話ですか」
    「すごくざっくりまとめたね……」

    • 猫丸(nyancomaru)さん
      「『死』とどう折り合いを付けるか」
      日本の場合は、当時の仏教の禁忌と関係があるのでしょう。
      「『死』とどう折り合いを付けるか」
      日本の場合は、当時の仏教の禁忌と関係があるのでしょう。
      2014/03/25
  • 屠畜イラストルポ。韓国、バリ、エジプト、モンゴル、チェコ、韓国、芝浦、沖縄、墨田、インド、アメリカに取材。羊、豚、牛などの家畜を屠殺・解体するプロセスだけでなく、日米のBSE対策のトレーサビリティ対応方法の違いなども詳述している労作。

    著者はあとがきで「屠畜が面白い」と感じる日本人は20人に1人だと指摘。肉は食べるけれど、肉が「作られる」プロセスを知らない大多数の人たちに屠畜を紹介したかったのだそう。非常に興味深かった。

    本書の大部分は雑誌「部落解放」に連載されたもの。

  • イラスト多用で見やすい。平易な文章で読みやすい。
    世間ではタブーとされている、みんなが大好きなお肉の「つくられ方」を取材する。
    また、日本だけでなく世界各国の屠蓄(著者は堵殺と言わない。)の現場や革製品などの生産現場を、現地の人・働く人の視点を大切に取材していく。
    “ウチザワは平気”と連呼することに、少しうっとおしさは感じるが、全体的にとても面白く読める。

    堵殺をするのは穢れた人々。
    昔はそんな風に差別されていたけれど、僕は肉が大好きだし、何事もプロフェッショナルな人たちって偉い。
    タブーをタブーとして見て見ぬするのはいやだ、でも映像はコワい!という方も是非。
    おすすめです。

  • 動物はいかにして食肉になるのか。

    自称リアル肉食女の私としては、自分が口にする食べ物について知ることに責任があると感じています。
    世界中の動物をシメる現場を取材した渾身のルポルタージュ。
    その壮絶な現実を明るいイラストで著者が描く。
    屠る仕事に携わる差別は日本と世界に差があるのか?という著者の疑問も追求されます。

    単行本の時から愛読しておりましたが、最近、文庫化されましたので購入しやすくなったかと思います。
    食べることから逃れられない現代人に是非読んで欲しいです。

  • 世界の屠畜(家畜を肉にするまでの過程)事情をレポート。屠畜にはどの国においても少なからずの偏見がある。南の島ではそれが少ないみたい(沖縄・バリなど)。インドでは最悪。日本や韓国なども。これを読んで、「肉を食べたくなる人」と「肉を食べる気を失くす人」と二つに分かれるでしょう。私は食べたくなるほう、でした。

  • 日本を含む屠殺(畜)現場のイラストルポなんだけど、サイコーにおもろい。皮剥いだり、切り分けたりする職人技がむちゃくちゃかっけーんだよね。芝浦って普通の人には見せてくれんのだろうか、マジに解体するとこ一回見てみたいわ。

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著者プロフィール

ルポライター・イラストレーター

「2023年 『ベスト・エッセイ2023』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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