明治の外交力: 陸奥宗光の「蹇蹇録」に学ぶ

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  • 海竜社
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  • Amazon.co.jp ・本 (329ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784759311709

作品紹介・あらすじ

現代と様相が重なり合う明治期に、日本の生存を全うした陸奥宗光の外交文書。平成の危機をどう乗り越えるか。

感想・レビュー・書評

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  • 明治の外交力の背後に横たわる教養力《赤松正雄の読書録ブログ》
     
     デモクラシーはどうしようもない政治であるが、かつて存在したどの政治制度よりましな制度である―ウインストン・チャーチルのこの言葉は、今一段と真実味を増す。政権交代後の民主党政権の惨状を見せつけられている現在、「国民が既に大正デモクラシーとその後の軍人の支配を経験していて、クーデターなどしてもどうなるものでもないことを知っている」とはいえ、ニヒリズムやファシズムの台頭を懸念する声は少なからずある。そんな時に岡崎久彦『明治の外交力』(前述の言葉はあとがきより引用)を読み、天を仰ぐ思いがする。

     日本の民主主義の基礎を築いた陸奥宗光。日清戦争に直面した際の彼の回想メモ『蹇蹇録』。もはや明治の回想録でさえ、漢文の素養がないものにとって、決して読み易くはない。私もかつて挑戦しようとしたが、断念した。それを岡崎さんは、分かり易く解きほぐしてくれている。つい、百年あまり前の日本にこんな指導者がいたことに改めて深い感嘆の思いを抱く。岡崎さんの『陸奥宗光とその時代』を読んでからもう十数年が経つが、一層深刻になっている日本に、陸奥のようなリーダーが出てこないことに慨嘆せざるを得ない。

     一体なにゆえに彼我の差は大きいのか。その要因の一つに挙げられるのがリーダーの持つ教養かもしれない。岡崎さんが五、六年前に書いた『教養のすすめ』は、五人の明治の知の巨人たちの器の大きさを描いて余すところがない。福沢諭吉、西郷隆盛、勝海舟、安岡正篤と並び陸奥宗光が取り上げられている。陸奥宗光については、「孤高を恐れぬ才学双全の人」と評しているが、人生で三回の勉学集中期間があったとのくだりが興味深い。

     一回目は、幼少年期。一家離散の悲運にあいながら徹底して漢学を学んだ。二回目は、西南戦争の際に政府転覆の企てに失敗して入獄した四年半。ベンサムの哲学などを翻訳。三回目が41歳からの二年間の外遊時。ヨーロッパで憲法や議会制度を学ぶ。こうした時期にそれこそ寝食を忘れ徹底して勉強をした様子が書かれており、唸るばかりだ。

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著者プロフィール

岡崎久彦

1930年(昭和5年)、大連に生まれる。1952年、外交官試験合格と同時に東京大学法学部中退、外務省入省。1955年、ケンブリッジ大学経済学部卒業。1982年より外務省調査企画部長、つづいて初代の情報調査局長。サウジアラビア大使、タイ大使を経て、岡崎研究所所長。2014年10月、逝去。著書に『隣の国で考えたこと』(中央公論社、日本エッセイスト・クラブ賞)、『国家と情報』(文藝春秋、サントリー学芸賞)など多数。

「2019年 『戦略的思考とは何か 改版』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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