放射能汚染 ほんとうの影響を考える:フクシマとチェルノブイリから何を学ぶか (DOJIN選書)

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  • 化学同人
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  • Amazon.co.jp ・本 (256ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784759813401

作品紹介・あらすじ

福島第一原発事故による放射能漏れは、人びとにどのような影響を及ぼすのか。チェルノブイリ原発事故から25年、この間に発表された報告書や論文に示されたデータを詳細に読み解くことで明らかになってきたことは何か。いつ終わるとも知れない原発事故。放射能汚染という現実に直面したいま、どう対処していけばよいのだろうか。チェルノブイリの教訓を生かすべく、疾病の発生リスクを分析する疫学も学んだ小児科医による、原発事故への処方箋。

感想・レビュー・書評

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  • 本書は党派性を持たず、真摯に放射能汚染について科学的な吟味がなされており、かなり好感が持てる。前掲書のアジるスタイルに比べるとかなり誠実だ。もちろん、原発推進や過度な安全論とは何の関係もない話だ。もし一冊読むならこれがおすすめである。

  • 報告書や論文を読む限り、チェルノブイリ原発事故が旧ソ連にもたらしたものは、政府に対する不信感や慢性的なストレスであり、25年経った今も、多くの人びとが苦しめられている。

  • 広島県立図書館には東日本大震災のコーナーがある。期間限定だったはずが延長され、いまだ書籍が増え続けている。震災の記録とともに、放射能やエネルギーに関する本も充実しておりその姿勢には頭が下がる。図書館という限られたスペース、無尽蔵に本を増やせるわけではない。この本も、そこで手に取った一冊。

    長いこと、震災関連の記録には目を通せなかった。福島原発の報告書やいわきの地震・津波の写真記録本も入手はしてあるものの、開いていない。当時の写真を見れば涙が出てくるばかりで、時系列を追ったレポを読むとあの時期が鮮明に思い出されて息苦しくなり頭が痛くなる。今もあまり変わらない。それは、この未曾有の大災害を個人的な経験としてしか捉え切れていないからなのだと思う。ちゃんと向き合えていなかった。

    最近は少しずつそうした本を読み始めている。人間と心・感情は切り離すことはできないけれど、知識がいかに大切かということもこの災害をとおして身に沁みて分かったから。

    この本は小児科の先生が書かれているので、母親・子どもの立場に立った見解が多い。専門的な記述も多く一部難解だけれど、参考になる部分はたくさんあった。主に福島とチェルノブイリのデータとの比較。表やグラフが多く科学的に冷静な分析がなされている。しかしチェルノブイリはまだ25年分のデータしかないので、それ以上の予測となる部分には広島・長崎の例もしばしば登場する。

    ○ リスクコミュニケーションの記述には大きくうなずいた。例えば基準値を引き上げるなら、科学的根拠を分かりやすく示す必要がある。原発事故のような目に見えない恐怖ならなおさら、誠実な態度を貫かねばパニックを引き起こすだけ。そういう意味で日本はリーダー不在だった。ジュリアーニ市長やケネディ大統領のリーダー手法が後半に詳しく紹介されている。

    ○ 放射能が引き起こす(土地を離れること等を含む)ストレス問題。チェルノブイリでも、これが後々まで最大の問題となっている。母親の不安症と、子どもの情緒障害との間には明らかな相関がみとめられている。

    ○ 不安をとりのぞくには、母親が自ら放射能をコントロールできていると自信を持つことが大切、とは著者個人の経験から。奥様はガイガーカウンターを手に、あらゆるものを測定して生活なさっているそうで、それが安定につながっていると。「そこまでしなくても…」と突き放してはいけない。そうすると母は孤立してしまう。不安をしっかり受け止めてあげるのが大事。

    この部分はとても胸に突き刺さった。なんとか不安をおさめられればと自分がいろんな人にとった態度は、実はまったくの逆効果だったんじゃないかと思う。遅くなったけれど気づけてよかった。故郷の農家等の人々を思うと複雑な気持ちもあるのだけれど。

    この本は事故後1カ月ほどで執筆されている。1年半以上が過ぎて、近頃はデータも増えてきて様々な分析がされている。子どもを持つ母親は10年以上も不安を抱え続けて過ごしたというチェルノブイリの記録もある。子どもがいないあなたには分からない、と言われると返す言葉がないけれど、少しでも理解したいと思い続けている。

    放射能、という言葉が先走りして生活習慣に悪影響が出るのを、実際自分も経験し目の当たりにしてもきた。チェルノブイリでは、放射能の直接的影響よりもこの精神的悪影響が甚大だったと言われているが、家族や知人が福島にいる身としてもそのとおりだろうなと感じる。不安につけこんだ詐欺まがいの商売も横行している。

    まったく同じではないとはいえ先例があるのだから、学べるところは学んでいかなければと思う。正解がない部分が多く難しくはあるけれど、「知識は困難に立ち向かう武器となる」という著者の言葉に共感する。

  •  著者は小児がんや感染症が専門の医師。政府に批判的な立場から,今回の事故による放射線の健康被害を論じる。ただ報道が危機を煽りがちであることを憂慮していて,バランスのとれた指針を模索。
     政府の初動対応,特にリスクコミュニケーションを強く批判。第一章では,枝野官房長官の記者会見の文字起こしに,傍線をつけていちいち疑義を呈する。パニックにならないように呼び掛けるあまり,矛盾をはらんだ説明になったり,事態の悪化に追従できなかったりしたことを問題とする。
     ただ,ある会見では説明が十分でないと言い,別の会見では専門的でわかりにくいと言うのは,ちょっと政府に酷かも。人々の情報要求は,住む地域や興味によってそれぞれだから,政府発表で納得する人もいれば,もっと深く知りたい人もいる。知りたい人はさらに別の手段で調べればいいわけで,政府発表で必要十分な情報を提供しきれるものではないのではとも思う。
     小児癌と疫学についての第四章は,本書の真骨頂だろう。放射線による健康への影響の事例を見ながら,疫学の考え方の基本が学べる。チェルノブイリでは,小児の甲状腺癌増加のほかに有意な癌リスク上昇は観察されないこと,子供の白血病が集団発生していても放射能汚染の影響とは決めつけられないこと(セラフィールド)。
     第六章「処方箋」では,著者自身の行動指針が示される。自分が妊婦なら,年間5mSvで一時避難,独身男性なら普段と変わらぬ生活,子供の母親だったら年間10mSvで除染を呼び掛ける,など。人によっては参考になるかもしれない。
     著者のHPでいくつか記述の訂正がされている(http://dr-urashima.jp/)が,ほかに少し不安な記載も。内部被曝についてのBqからSvへの換算で,核種毎に半減期を考慮した換算係数の話を述べて,「素朴な疑問なのだが、ここでいう半減期とは物質としての半減期か、体内での半減期か、あるいはその両方なのだろうか?」(p.56)これは当然両方で,ちょっと調べれば分かること。
     誤植訂正された「癌発症率」→「癌死亡率」にしても,疫学の章ではスクリーニングによるバイアスで癌による死亡でないと比較できないとちゃんと説明してるのに,どうして間違ったんだろ?

  • 著者は小児がん医療が専門。少し読みづらいが、主旨としては、100mSv以下の低線量の放射線では科学的に発がんや他の疾病との関係を証明することは難しく、むしろその点を気にしすぎてストレスを溜めたりや運動不足になったりするのは本末転倒・・。正しく怖がるための知識を訴えてる感じ。また、著者自身が考えるとるべき方針が書かれており参考になる。実際、少しもやもやしていたが、本書を読んで放射線を気にしすぎるがゆえに健康的な生活が阻害されるのであれば、それは本当にナンセンスだな・・と思った。むしろ、こんな時だからこそ、原発事故前よりも健康的に生活する必要すらある(発がん率をさげるためにも)。というわけで、もちろん事前の放射線量に対する注意は必要であるものの個人的には別にアウトドアやスポーツを我慢する必要はないなと思った。いろんな情報が出回っていてその多くが断片的で強調されているが、ある程度この本に書かれていることが理解できたので、そういった情報にも対処しやすくなった気がする。本書ではがんの仕組みなど原理的に説明してくれているところもよかった。

  • 小児科医による
    原発事故への処方箋

    福島第一原発事故による放射能漏れは、
    人びとにどのような影響を及ぼすのか。
    チェルノブイリ原発事故から25年、
    この間に発表された報告書や
    論文に示されたデータを読み解くことで
    明らかになってきたことは何か。
    いつ終わるとも知れない原発事故。
    放射能汚染という現実に直面したいま、
    どう対処していけばよいのだろうか。
    チェルノブイリの教訓を生かすべく、
    疾病の発生リスクを分析する疫学も学んだ
    小児科医による、原発事故への処方箋。

  • 小児科専門医が、福島第一原発事故と健康影響について、チェルノブイリの事故と対比しながら解説。
    過度に不安を抱くことのないようにというメッセージに共感する。
    ECRRの主張の強引さの解説もありがたい。
    ただ、事故後の緊急出版のためもあってか、文章が荒く、読みにくい点もいくつかあった。

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著者プロフィール

東京慈恵会医科大学教授

「2019年 『ハーバード式 病気にならない生活術』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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