アインシュタイン vs. 量子力学: ミクロ世界の実在をめぐる熾烈な知的バトル

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  • 化学同人
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  • Amazon.co.jp ・本 (338ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784759815948

感想・レビュー・書評

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  •  量子力学の解釈問題に興味が湧いたので手に取った。
     「アインシュタインといえば、ほとんどの人が思い浮かべるのが相対性理論である。彼はほぼ独力でニュートン力学の世界観をひっくり返すこの理論をつくりあげたのであった。しかし一方で、彼は、相対性理論と並ぶ現代物理学の柱である量子力学に強く反対した人物としても–相対性理論の創始者としてほどではないにしろ–有名である。(略)では、なぜアインシュタインは量子力学を受け入れることができなかったのか?量子力学への不満をあらわしているとされる彼の言葉として有名なものに、「神はサイコロを振らない」「だれも見ていないときには月は存在しないのか」「気味の悪い遠隔作用」といったものがある。これらはそれぞれ、量子力学の非因果性、非実在性、非局所性に対する不満をあらわしている。アインシュタインがこれらを受け入れることができなかったのは、古い世界観に固執していたからではなく、これらを認めることは物理学そのものを不可能にすることになるからであった。」(p.11)
     本書は、書名の通りアインシュタインと量子力学の対決を軸として、量子力学黎明期〜完成期になされた議論を追いかける内容となっている。量子力学は、今となっては大学学部生が習うぐらいで、(例えば超ひも理論などに拡張されることはあるかもしれないと思うが、少なくとも弱重力場下での近似理論として)その計算手法としての枠組みに関しては疑問を持たれていないだろう。しかし、そんな今日にあっても、黎明期にアインシュタインが述べた疑問は依然有効である。つまり、量子力学が予言する結果をどう解釈すれば良いのかという問題(「解釈問題」)である。最後の2章では、この問題に答えるために提案された3つの解釈「多世界解釈」、「軌跡解釈」、「時間対称的な解釈」が紹介される。以下、著者によるとこの中で最も有力な「時間対称的な解釈」についてまとめておく。
     普通の問題設定では過去の時刻t_0での状態から現在の時刻tにおける系の状態を求めるというものだが、シュレディンガー方程式の時間反転対称性から、原理的には未来の時刻t_1での系の状態を用いて「もし今(時刻t)測定をしたならば系の状態がγであることを見出したであろう確率」を求めることができる。「それゆえ、時刻t_0でαであり、時刻t_1でβであるときに、もし時刻tで測定をしたならば系の状態がγになる確率」というものを求めることもできるはずである。(略)時刻t_1の状態βがQの固有状態である場合、tとt_1のあいだで外力が加えられていなければ、シュレディンガー方程式によって得られたtの状態もQの固有状態である。すると、時刻t_0での状態が(およびt_0からシュレディンガー方程式によって得られた時刻tでの状態)がなんであれ、ABL規則から、時刻tで測定したときの系の状態がQの固有状態である確率は1となることは簡単な計算でわかる。(略)時刻t_1における測定前から物理量Qは確定した値をもっていたということができる。」(p.272)しかし、これでは時刻tにおける系の実際の状態を測定できないのではないか(時間対称的な解釈の実験的検証はできないのではないか)? そこで、「時間対称的な解釈」では「弱測定」というものを考える。弱測定は系と計測器の相互作用が極限にまで弱くなっているので、時刻tで弱測定を行っても系の状態を乱さないはずだというわけである。この際、「同じ系」を多数用意してそのそれぞれに対して弱測定を行うわけだが、そもそも時間対称的な解釈がどのようなものだったかを思い出すと、「同じ系」とは時刻t_0における状態が同じだけでは不十分で、時刻t_1における状態も同じものを事後的に選別する必要がある。時間対称的な解釈の長所は、量子力学の解釈に関して問題になってきた非局所性・実在性・決定性・波動関数の完全性を両立させることができる。

    序章 古典論の危機と量子論の誕生
    第1部 量子論の創始者としてのアインシュタイン
    1章 アインシュタインによる革命–粒子としての光
    2章 ボーアによる革命–飛躍する量子
    3章 アインシュタインによる二度目の革命–因果律の危機
    第2部 量子力学の誕生
    4章 量子力学の完成–ついに全貌を見せた新しい力学
    5章 不確定性関係の発見–位置と運動量は同時に測定できない
    6章 相補性概念の発見–測定装置と対象は切り離せない
    第3部 量子力学の反対者としてのアインシュタイン
    7章 可動式二重スリットの思考実験–不確定性関係は成り立っているか
    8章 光子箱の思考実験–相互作用なしで測定は可能か
    9章 EPRの思考実験その1–量子力学は完全か
    10章 EPRの思考実験その2–自然界に非局所性はあるのか
    第4部 アインシュタインはまちがっていたのか
    11章 多世界解釈と軌跡解釈–量子力学の解釈のさまざまな試み
    12章 時間対称的な解釈–過去と未来が現在を決める
    おわりに
    ブックガイド
    付録解説
    参考文献リスト
    索引

  • 20191005 中央図書館

  • 『アインシュタインvs.量子力学』というタイトルから手軽な内容を想像していましたが、「ミクロ世界の実在をめぐる熾烈な知的バトル」という副題のほうが相応しいとても内容の濃い一冊でした。量子力学の哲学的な解釈についての論争が一番の読ませ所ですが、そこにいたるまでの、量子力学の歴史、不確定性原理の種類とそれぞれの解釈、EPRのパラドックスの提議されてからの経緯など、入門書としては、どれもかなり深く踏み込んだ内容となっていて充実しています。巻末に数式をまとめているのも便利です。

  • 請求記号 421.3/Mo 66

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著者プロフィール

1971年兵庫県姫路市生まれ。現在、大阪大学大学院人間科学研究科准教授。博士 (理学)、博士 (文学)。専門は科学哲学。主な著書に『科学とはなにか』(晃洋書房)、『量子力学の哲学』(講談社現代新書)、『科学哲学講義』(ちくま新書) 、『アインシュタイン vs. 量子力学』(科学同人)など。

「2020年 『時間という謎』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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