旧字旧かな入門 (シリーズ日本人の手習い)

  • 柏書房
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  • Amazon.co.jp ・本 (251ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784760119974

作品紹介・あらすじ

本書では、明朝体活字の旧字体を常用漢字と対照表にして示し、歴史的仮名遣・字音仮名遣の一般原則をポータブルに纒めると共に、現在ではなかなか見られなくなった用字法や用語の一覧を掲げて旧字旧仮名の文章を綴るための手引となるやう編輯しました。

感想・レビュー・書評

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  • 序文より引用する。
    >併しなほ、當用漢字字體表による字體整理、そして現代假名遣ひの徹底は、つい百年前の自國の文化との間に大なる斷絶を作り出したことは否めません。
    >明治大正といふ歴史上近代に屬する時代に普通に讀まれてゐた文字さへ、現代の日本人には讀みづらい舊字舊假名の文字であり、況てや現代に生きる私達が舊時代に則つた漢字と假名で文章を綴ることには多大な困難を覺える状況に際してゐます。
    >百年前、私達の曾祖父らはどのやうな文字を讀み書いてゐたのか、其れに理會し得ないで、文化の繼承等出來るものではありません。

    ■本書の特徴
    新字体や現代仮名遣に特化した「現代表記」に最適化されたデジタル環境で旧字体・歴史的仮名遣の文章を綴るための手引として編まれたと序文に云ふ。
    印刷史研究の専門家の著作であるため旧字体に関する記述は信頼できるものになってゐる。漢和辞典の旧字体を戦前に用例の存在しない「拡張旧字体」だと切り捨てるなど実際に戦前の書籍に触れてきた人間ならではの知見が詰まってゐる。
    本書における旧字体とは、実際に作られてきた活字の字形を根拠とし、字形にばらつきがある場合には優勢なものを選ぶ方針である。常用漢字の字体が『康煕字典』に一致する場合でも、歴史的にはそれとは異なる字体が通用した場合はそちらを選んだと云ふ。

    ■ターゲット層
    現代にあって主にデジタル機器で旧字体・歴史的仮名遣の文章を綴る人向け。予備知識は求められてゐない。

    ■感想
    本書では旧字体新字体対照表に掲出されてゐないが解説で旧字体が存在することが明かされる漢字がいくつかある。正直言って不便である。
    仮名遣に関しては怠るを「をこたる」と表記したり(p.77)、字音仮名遣に「ネウ」が存在しないと記す(p.98)など誤りがあって信用の置けない代物となってゐる。、また、歴史的仮名遣の原理に触れず、ただ現代仮名遣のこの語はかう書くと列挙するに留まってをり、仮名遣の学習には向かない。
    第3章「用字・用語」に関しては宛て字や単なる難読語の項目が代用字・代用語と混載されてをり利便性に欠ける。別けてほしかった。

    ■覚書
    著者は漢和辞典が「はしごだか(髙)」を俗字として載せることに不満があるらしい。手書きでは「髙」に作るとも明朝体活字では「高」に作るのが常識だと云ふ。筆写字形に於ける「正しい字」と活字字形に於ける「正しい字」は決して同じではない所を、戦後の「国語改革」は同じにするやうに目指されたため、手書き文字と活字との差異に躓く人が現れるやうになってしまったと。

    「常用漢字表」に旧字体として掲げられた「康煕別掲字」は常用漢字と画数が1画以上異なるものに限って掲載されてをり、JIS X 0208規格では2画以上異なるものだけを、JIS X 0213では「康煕別掲字」をすべて収録したものの、画数が同じで常用漢字と字形が異なる旧字は規格化が見送られてしまったと云ふ。現在では異体字セレクタなどの技術により情況は多少改善した。

    旧字体をあくまでも実際に過去に使はれた活字の形とする場合、漢和辞典からは旧字体の有無やそれが何如なる字形であるかは知り得ないと云ひ、理由を3つ挙げる。
    ①一つの字に対して複数の字形の活字が流通してゐた状態のなかから新字体として一つの形を選んだものがあり、別に採用されなかった形の方を旧字体とする正当な理由がないため。
    ②漢和辞典に掲出されてゐる旧字体は必ずしも実際に用ゐられた形ではないため。漢和辞典において字源解釈から存在しなかった字体を作り出す場合を著者らは拡張旧字体と呼んでゐる。
    ③当用漢字表発表時に字体の変はらなかった漢字に就いても活字や写植で新字体の設計をするときに新しくデザインしてしまったものがあるため。明朝体特有の意匠である筆押さへの除去などが該当する。最近では筆押さへを付けただけのものを旧字体と称する代物もあるとか。

    当用漢字に於ける漢字制限に先立ち、戦前の時点で大新聞各社は漢字制限を行ってをり、仮名に開いたりや代用語や代用字などの計劃が行はれてゐたと云ふ。

  •  仮名の方は基本的なことしか書いてなくてやや退屈ですが、旧漢字のほうは情報充実。漢和辞典で「旧漢字」と出ているのが必ずしも「旧漢字」とは限らないという真実・・・

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著者プロフィール

分析書誌学・印刷史研究者、タイポグラファー、ブックデザイナー。

「2007年 『デザインのことば』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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