日本人のリテラシー―1600‐1900年

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制作 : Richard Rubinger  川村 肇 
  • 柏書房 (2008年6月1日発売)
  • Amazon.co.jp ・本 (322ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784760133901

日本人のリテラシー―1600‐1900年の感想・レビュー・書評

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  • [掲載]2008年8月10日朝日新聞
    [評者]耳塚寛明(お茶の水女子大学教授・教育社会学)
    ■格差生む読み書き能力の浸透を描く

     アメリカ屈指の日本教育史研究者ルビンジャーが観察しているのは、16世紀終盤から19世紀までの民衆、とりわけ圧倒的多数を占めた農民の読み書き能力である。定説では、江戸期日本社会は寺子屋の普及などによってすでに識字率が高く、それが明治以降の義務教育の普及と急速な近代化を可能にした。このテーゼを近代化流リテラシー研究の関心とすれば、ルビンジャーのスタンスはやや異なる。

     彼は、花押(かおう)や署名、日記、農書などの資料を駆使して、読み書き能力が社会諸層に浸透していく過程を描く。だれのどんな読み書き能力がどのように獲得され用いられたのか、そしていかなる社会経済的状況がそれを可能にしたのかに、焦点を合わせる。だから17世紀以降、農村指導層の読み書き能力が次第に農民へと浸透していく過程を明らかにするとき、地域や性別、身分による格差を伴っていた事実を彼は浮かび上がらせる。それをもたらした商業化や交通基盤整備の進展に言及する。

     同時に、読み書き能力が人々を差異化し身分を固定化する役割を果たしたことにも注目する。本書で提示された仮説群については、今後専門的な吟味を要するだろう。だが、日本社会の格差に注目した社会史的リテラシー研究の企ては、現代に連なる問題提起として評価されてよい。

     明治期、陸軍が新兵の読み書き能力を調べた壮丁調査からわかるように、江戸期の読み書き能力の格差は近代日本に引き継がれた。そしていま、自分の名前を読み書きできるという意味での読み書き能力の格差は、圧倒的に小さくなった。全国学力調査は、学力の地域格差が格段に小さくなったことを教える。

     しかし格差の歴史は幕を閉じたのではない。読み書き能力は学力へと姿を変え、地域や性別ではなく経済的文化的階層による学力格差がなお残存し、拡大する兆しを見せる。読み書き能力と同様、学力は地位の差異を固定化する道具として使われる。ルビンジャーが歴史の中に探索したリテラシー問題を、私たちの社会はまだ克服していない。

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