ドイツの地方都市はなぜクリエイティブなのか:質を高めるメカニズム

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  • Amazon.co.jp ・本 (188ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784761513641

作品紹介・あらすじ

10万人の地方都市でありながら、全国平均の2倍のGDPを誇る経済力、ドイツ1位と評される創造力を持つエアランゲン。外国にルーツを持つ市民が多く、700以上のNPOがパブリックサービスを担い、行政・企業・市民の連携が日常化する社会。多様で寛容で自立したプレイヤーによる、小さく賢く進化し続ける都市のつくり方。

感想・レビュー・書評

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  • エアランゲンというドイツの南部ミュンヘンから北へ200キロの10万人都市。77㎢の面積で、フェルトやニュルンベルクと隣接した都市を紹介しています。
    25ある郡独立都市のひとつ。
    stadmitte(中心市街地)は中世都市の要素があって、地壁で囲まれ、教会、市役所、市場、広場があります。大学町でもあり、シーメンスの医療開発部が。MP3はここの研究所で開発(つまり優秀)。GDPは77622ユーロ。
    文化も充実。文化フェスも盛んで、
    詩人の祭典という文学フェスが年に1回。
    国際コミックサロンが2年に1回。
    フィギュアフェア(人形のパフォーマンス)も
    2年に1回開催されています。
    街の歴史も記述。17世紀に三十年戦争後に人口が激減し、ボロボロに。20年後プロテスタント系に居住権が与えられ、フランスで迫害されていた帽子、手袋、皮なめしの技術を持つその人々を受け入れたことで輸出が発展。
    19世紀、中欧再編成の影響で伝統市場を失い、19世紀末には帽子工場を閉鎖。がその後小高い丘で冷蔵庫トンネルをつくりビールを製造して栄えた、など、まだまだ記述は続く。

    街を捉える俯瞰的思考は、ドイツは鳥の眼、日本は蟻の眼と表現。
    引っ越して住民登録をするとウェルカムセットがもらえる。マイバッグにはリサイクル用のごみ袋、市内の地図、ボランティア参加のための案内、市営のミュージアム、図書館やプールやローカルバスの紹介、地元紙のクーポン券、スポーツや文化施設や教育機関へのアクセス案内、市の歴史や統計本「エアランゲン・ポートレート」パンフは住民登録手続きから住むまでのステップ、一時滞在、永住、亡命、問い合わせ先、ドイツ語習得コース、納税カードの場所や自動車登録の場所も。

    人口10万人のうち、15%が外国人で140か国に至る。帰化人を含めると25%になる。
    移民、難民の人々への配慮や対応についてもあり。
    低所得者住宅は、外国人がかたまらないよう配慮されています。平行社会化するから。

    産官学で地域資源を可視化。インフォテインメント
    科学の夜長というイベントを2年に1回開催し、
    130か所で大学、研究所、企業、病院が一斉に門を開く。30000人が参加。大学と企業は協力しあい、インターンも行われ、そのまま就職する学生もいます。
    双方にメリットを生んでいる。
    余暇はボランティアに熱中。長期休暇は1か月もある
    14歳以上のボランティア率は36%
    フェラインという制度はNPOやクラブに似て、自由に加入、脱退できる素晴らしい制度。
    森の体験センター、総合スポーツクラブ、男性コーラス、アート、スカウト、キリスト教青年会、郷土と歴史、教育、文化、ビール祭り、消防団も。
    フェライン数はドイツは60万人。日本は5万。

    自転車道は200kmもあり、3万台が走る。
    クラインガルテン(市民農園)はフェラインが運営していて500万人が利用、会費は年160ユーロ。バーベキューもできて大切な交流の場。
    ドイツと日本の圧倒的な違いは、歴史への執念。
    ドイツはアーカイブを持ち、重要なものが蓄積。
    写真集や本を出版。記念碑的な場所にツアーもある。

    市営劇場を使ったユダヤ人によるクレズマーというフェスが年に1回。
    劇場を離れ街のなかにみんなでとびだし、いろんな場所をめぐり食べ飲み4時間を対話形式で行う演劇。

    ドイツの自治体は独立性が高い。連邦制。
    権限の強さよりも街そのものに求心力があるかどうかが大切。町の人々が地域に愛着や誇りを感じているか。
    歴史への執着、街の自意識が質を高めている。
    アップデートがカギ。

    学校は、学業以外の学校行事やイベントはフェラインとタイアップ。上手に連携して、学校は基本午前中で、学業そのものに集中することができる。

    もう1冊読んだドイツの日常の本と少し違う印象だけど、どちらもドイツの本当なのだろうなぁと思います。
    行ってみたさが倍増しました☆(≧▽≦)

  • 1.最近、地域の活性化について興味を持ち、いくつか本を買ってきました。やはり、ヨーロッパの都市開発は参考になる部分が多いので、今回はあまり目を向けてなかったドイツを買いました。

    2.ドイツのエアランゲンという都市がなぜ地域住民に愛されているのかということが書かれています。まず、市民が地域のために様々な活動に取り組んでいることが特徴的です。仕事以外にもボランティア活動(主にスポーツ教育)に取り組んでいる。また、議会員にも積極的に取り組んでいるため、地域全体が一丸となっている様子が書かれています。
    次に、企業も拠点地の生活の質を高めることに力を入れており、かつ従業員の福利厚生に繋がるため、企業が地域から愛されるきっかけをつくることになります。また、その逆もあり、従業員が地域への愛着が生まれ、良い循環か生まれます。
    最終的には、自治体の投資→資源の呼び込み→都市の魅力を高める→質の高い労働力の確保→企業、自治体の収益および財源の増益のサイクルをつくることを目的としています。

    3.地域が廃れる原因としては、住民が地域の問題に対して無関心なことが1番大きな原因だと思いました。日本でも限界集落を分析すると、「職がないから仕方ない」「魅力がない」と言ったことを多く聞きます。しかし、エアランゲンでは、70%以上の住民が地域のことを好きと答えており、愛着を持っています。資金があるから、政策が充実しているから移住するということではなく、地域住民がボトムアップ型で行政と連携してる姿は今の日本に必要な考え方だと思いました。

  • 目標11.住み続けられるまちづくりを
    お薦め図書
    https://library.shobi-u.ac.jp/mylimedio/search/search.do?target=local&mode=comp&materialid=00079375

  • もう1冊の本と中身がほとんどl変わらない

  • そもそもドイツは「劇場大国」という一面があり、多くのまちに「我々の劇場」がある。市民のライフ・スタンダードなのだ。(略)
    職業と教育が密接なドイツでは、劇場学などを勉強した劇場運営者が魅力的なプログラムをつくっていく。一方、劇場は座席の数しかチケットを販売できず、よほどロングランにならなければ黒字化が難しい収益構造となっており、結局かなりの税金が投入されて維持されている。

    都市のクリエイティビティを測る指標
    ドイツでは、都市間の競争がさまざまなかたちで展開されている。言い換えれば、都市を評価する指標や調査が多数存在するということだ。
    2010年に「ドイツのクリエイティブ・クラス」という調査が発表された。この指標はアメリカの都市経済学者リチャード・フロリダ氏のもので、工業化のプロセスを経て、知識社会化した都市の成長力をみる指標だ。工業化の時代は労働者と資本があれば都市は発達したが、知識社会の時代はクリエイティブ層が都市発展のエンジンの一つになる。
    創造性の指標になっているのが、「技術(テクノロジー)」「才能(タレント)」「寛容(トレランス)」。それに関わる人材がどのぐらいいるか、それにまつわる動きがどれぐらいあるかがポイントになる。
    この三つの指標を見ていくと、まず「技術」はソフトウエアやエレクトロニック、バイオテクノロジー、エンジニアなどの人材を指す。さらに特許の数がどれぐらいあるかが問われる。さらに起業数や産業界が研究分野にどれぐらい投資しているかということがポイントになる。
    「才能」については、IT関係、数学者、物理学者、建築家、教育関係者、芸術家、デザイン、エンターテイナー、スポーツ、メディア関係の職業を指し、ほかにも学士号を持つ人材がヒューマンリソースとして指摘されている。
    ユニークなのが「寛容」だ。「異なるもの」に対していかに受け入れられるだけの余裕があるかということだが、具体的には外国生まれの者、同性愛者、俳優、音楽家、監督、デザイナー、写真家、ダンサーなどを指している。
    ドイツのコンサルティング会社agiplanが国内の413の郡と郡独立都市をこの手法で調査したところ(「ドイツ・クリエイティブ・クラス2010」)、ミュンヘン(2位)、シュトゥットガルト(4位)、ベルリン(8位)といった大都市を抑えてエアランゲンが1位に輝いた。

    こうしたオープンドア・イベントのパッケージ・プログラムともいえるのが「科学の夜長」だ。「科学」をテーマに3都市内にある大学、研究機関、企業、病院など130箇所が土曜日の午後6時から翌日午前1時まで一斉に門戸を開く。人びとは12ユーロのチケットを購入すれば、どこにでも入ることができる。
    →20-30代の参加が最も多い

    はそれを実践する

    添付:「未来インデックス2030」(ケルン経済研究所の都市ランキング2015)

  • 社会

  • ドイツ南部バイエルン州のエアランゲンという都市の取り組みを紹介している。

    人口約10万人とそれほど大きな都市ではないが、エアランゲン大学を中心に歴史的にも産業で栄えた背景を持っており、戦後はシーメンスが拠点を置く都市として、一定の経済的な基盤を持っている都市である。

    連邦国家であるドイツらしく地方分権が徹底しており、国と各州だけでなく、さらにそれぞれの都市や地域コミュニティが自律して地域の課題を解決するための取り組みを行っているというところが、非常に興味深かった。

    特に、フェラインと呼ばれるドイツのNPO組織がカギになっているように感じた。町会とは異なり趣味やボランティア活動等の目的を一にする人たちの集まりではあるが、それが地域ごとにドイツ全土で60万団体も組織されているとのことで、学校、会社、自治体といった枠組み以外にそれらをつなぐ人間関係が築かれるという点で、社会保障や課題解決にも役に立っているのではないかと思われる。

    また、エアランゲンのメインストリートの風景は、非常に気持ちがよさそうだった。かつては車道が中央に走っていた通りを木陰や野外図書館なども広がる通りに変えていったということは、非常に興味深い取り組みだと思う。

    産業、人的ネットワーク、都市空間など様々な面でクリエイティブで人が中心の都市をつくっているという点で、参考にしたいところが非常に多かった。

  • 歴史的・制度的背景から、ドイツの地方都市は独立性が高く、地域の課題は地域で解決していく基盤が出来ている。
    基盤とは、例えば、地域の歴史やアイデンティティを再確認し、地元愛や地域への愛着、誇りといった感情を育てる機会(多種多様な町をあげてのイベント等)が多く企画されており、人々の中にそうした風土が出来上がっていることが言える。
    さらに、こうした季節や記念日等をきっかけにしたイベントは、地域内の人々のコミュニケーションを生む。自由に意見を交わし、課題や価値をオープンにできるこのような環境から、「都市の創造性」が生み出される、と筆者は述べる。
    上記のような人々の意識に加え、ドイツではフェラインという非営利組織が多く存在し、地域の人々の生活の質を高める様々な活動を行なっている。この活動には地元の企業がスポンサリングしており、こうして生活の質が高い魅力的な都市の形成が質の高い労働力の確保につながり、地元企業の収益増や、自治体の財源増、といった好循環を生み出していると筆者は分析する。

    印象的だったのは、行政だけでなく、企業や地域の人々(フェラインなど)とが協働により、魅力的な都市を作り上げている点だ。日本の地方を見ていると、行政が移住者、訪問者を増やそうと苦慮している一方、地域の人々の多くはそこまで愛着が強くはなく、無関心であるような印象を受ける。特に、知識層は地方に留まらず、都心へ流出するイメージが強い。それは、都心の方がクリエイティビティに溢れていて、新しいからだと思う。
    この本では、人口10万人ほどのドイツの地方都市エアランゲンを例にとり、都市のクリエイティビティは人口規模に比例しないことが主張されている。人口規模が小さい地方都市であっても、都市の質を高める循環が機能していれば、クリエイティブな都市を実現できる。

  • エアランゲンというドイツの地方都市の魅力や街の力を感じさせる読みやすい本である。連帯という概念はとても参考になった。キーワードとして、今後調べていきたい。

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著者プロフィール

ドイツ在住ジャーナリスト。エアランゲン市(バイエルン州)在住。
京都の地域経済紙を経て、90 年代後半から日独を行き来し、エアランゲン市での取材をはじめる。
2002年から同市に拠点を移す。両国の生活習慣や社会システムの比較をベースに環境問題や文化、経済などを取材。
「都市の発展」をテーマに執筆。また講演活動のほか、エアランゲンで研修プログラムを主宰。
著書に『ドイツの地方都市はなぜクリエイティブなのか』(2016 年 学芸出版社)、
『ドイツのスポーツ都市 健康に暮らせるまちのつくり方』(2020 年 学芸出版社)など。

「2020年 『ドイツの学校には なぜ 「部活」 がないのか』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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