- Amazon.co.jp ・本 (142ページ)
- / ISBN・EAN: 9784763007131
感想・レビュー・書評
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終戦記念日。
浜田知明の作品集を図書館の書庫から自宅へうつしゆっくり目をとおした。
浜田知明は、大学生の頃にはじめてふれた。当時気になる本、映画、美術展もろもろに浸かっていたので一体どこの美術館だったか朧げだったが、本書の略年譜からみて、たぶん神奈川県立近代美術館主催の「浜田知明ー彫刻による風刺」展だろう。(ちょうど20年か..
浜田知明は本来銅版画で有名になった作家なので、彫刻をふんだんに紹介した件の美術展が初体験というのは幸運だったと思う。銅版画ほかも構成されており忘れられない時間になった。
自身の戦争体験をモチーフに、強烈なインパクトを与える風刺画で有名な作家だが、私には彼の彫刻作品の方が心に残った。特に「詩人」という作品が。「イスラム幻想」など男女の交歓も余韻を残した。
浜田知明(1917-2018)は、熊本出身。東京美術学校を卒業後ほどなくして召集され、翌1940年には中国大陸へ派遣されている。
4年間の華北戦線に従事し兵役満期で除隊されるが、その翌年にはまた召集され、敗戦までの約一年間を伊豆七島、新島で過ごしている。
〈初年兵哀歌〉シリーズが有名だが、もっと柔らかいタッチの作品も発表している作家である。
風景を描きながら人を表現し、残酷でストレートでありながらその底には人間への深い愛情が込められている。
戦前、戦中、戦後を生きた彼のような芸術家がいたことは、日本の財産と思えてならない。
本書におさめられた作品集も、
巻末におさめられた文章も、未来に渡って、できるだけ多くの人の目にふれることを願う。
時代の流れ、当時の気配が伝わってくる。軍隊という組織や戦争について、いかに不条理が支配するのか。核の時代にあって、戦争の意味合いが変わったことも。
そして、結局「勝利者」からの断罪という軍事裁判で裁かれた以外には、日本国内で何らけじめ(戦争責任の追及)をつけずうやむやにした。戦後75年。この国にはそういう気質がずっと変わらずあるのだということもまた、忘れてはいけないのだと気づかされる。
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(補記:
1953、54年の作品「風景」は描写ではなくフィクションとのこと。
浜田知明の作品集は、所有するのに勇気がいり今まで買い求めたことはなかったのだが、この度いろいろ思うところあり、1番好きな「詩人」が表紙の『浜田知明ー版画と彫刻による人間の探究』熊本県立美術館(2001年)を購入。その34、35頁に解説があった。
実際にこのような残酷な風景も同時代に存在したかもしれないが、親友や戦友を大戦で失いつつも、たまたま浜田知明自身は死屍累々の最前線勤務ではなかった。詳細をみるコメント0件をすべて表示