自由貿易神話解体新書: 「関税」こそが雇用と食と環境を守る

著者 :
  • 花伝社
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  • Amazon.co.jp ・本 (219ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784763406439

作品紹介・あらすじ

TPP=関税撤廃の愚
自由貿易の神話と現実
気鋭の論客が問う「反自由貿易原論」
官・業・学癒着のムラ社会により形成された神話の数々――「専門家」を名乗るインサイダーたちのまやかしに、もうだまされるな!
「市場原理主義的構造改革路線」でも「土建国家的ケインズ主義路線」でもない第三の道――「エコロジカル・ニューディール」を探る

感想・レビュー・書評

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  • ピグマリオン症=経済学のモデルにとらわれて、現実を見ない。

    ラグランジュの未定乗数法=経済学に出てくるのは不思議。
    収穫逓減の法則が工業製品には間違い。
    動学的に拡大されることを静学的分析では無視する。

    「思想史の中の近代経済学」「相対性理論の考え方」

    リカード・モデルの欠点=静学的分析と収穫逓減。セイの法則が成立するという前提。労働資本が国の中に固定している。
    マーシャル「経済学原理」で収穫逓増に触れていた。

    ソフトウェア産業は収穫逓増だから、貿易は利益を生む。農産物は収穫逓減だから市場が広がっても利益は増えない。
    収穫逓増産業であれば、貿易の利益を受けられる。

    セイの法則が成り立たなければ、生産性が向上すると失業が増える。

    クルーグマン「国際貿易の理論」=中心国と周辺国の不平等の拡大に言及。
    村上泰亮「反古典の政治経済学」新古典派の自由放任主義を批判。

    資本輸出があると途上国にも有利に働く。保護主義で幼稚産業を保護育成しなくても、資本導入で工業国化(収穫逓増産業)できる。

    自由貿易化で中国とインドは利益を受けたが、農村部は疲弊した。

    クルーグマン「クルーグマンの国際経済学上下」
    速水祐次郎「開発経済学」=ビスマルクの保護関税政策。
    イギリスの輸入代替政策=川勝平太「日本文明と近代西洋」

    東南アジアは一次産品に特化させられた結果、植民地化した。
    日本の関税自主権はなかったが当初は20%と関税が高かった。
    かつては、関税は主要な税源。明治時代は10%以上。
    戦後、自動車に40%の関税をかけたため、日本の自動車産業が生まれた。

    自由貿易で生産を効率化しても、需要が伴わないから雇用には結びつかない。

    農産物の特徴=価格弾力性が低い(価格によって需要は増減しない) 生産がダブつけば価格は急落する。自由化によって安定性が失われる。
    急落すれば農村の失業が増えて、疲弊する。急には増産できない。中国でも失業者が増えて都市にあふれる事態に。

    アメリカの農業補助金によって綿花の国際価格が下落する=攻撃的保護主義=WTOの指摘を受けた。

    補助金より関税のほうが公平。

    農地の大規模化をするのが市場原理主義の考え方。しかし農業危機を回避できず、農業収入の低下を招く。

    環境経済学では自由貿易の弊害について触れていない。
    非主流派の経済学者は触れているものもある「環境経済学の新世紀」

    クルーグマン「自由貿易は問題が多いにせよ、他の代替え政策よりはマシ」

    宇沢はTPPに反対。「経済解析 展開編」
    宇沢弘文「TPPは社会的共通資本を破壊する」「TPP反対の大義」

    市場原理主義は不均衡を生み出す・低所得者の増加、総需要の不足。

  • 「自由貿易」という神話がある。
    それは理論的にはリカードの比較生産費説やさらにそれを発展させたヘクシャーオリーンの説を根拠にし、数学モデルを援用しながら、体系建てられたものである。
    また、第二次世界大戦の歴史的な教訓から平和と繁栄をもたらすものが「自由貿易」だというものがある。
    さらに、発展途上国が先進国になるために必要な処方箋としての「自由貿易」という語られ方がある。
    それら全ては事実に反する神話であり、保護貿易が果たした歴史的な役割を無視したものである、というのが本書の主張だと思う。
    私もこの見解にほぼ同意するものである。
    現在の資本主義世界経済の形成において、貿易の果たしてきた役割は良くも悪くも非常に大きなものだ。それは、近代国家の形成がそれによるものだと言っても過言ではないくらいのものだからだ。資本主義の歴史は500年前の新大陸の発見と新大陸との貿易から始まる。近代世界システムと呼ばれるウォーラーステインの説明がそれを証明しているのだが、その説明を本書は補強していると感じた。歴史上自由貿易を推進するのは覇権国家と呼ばれる経済的、軍事的に最も強力な力を持った国だ。かつての大英帝国や今のアメリカだ。
    そしてそれは世界全体の繁栄になるものではない。大英帝国は植民地を拡大するためにその推進を図り、アメリカも1パーセントの利益集団のためにそれを推進するだけで、本書でも指摘される様に大量の失業者や飢餓を生み出す。
    貿易はこの社会を形成してきた非常に大きな要素であって、その逆ではないという認識がまずは大事なのかもしれない。

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著者プロフィール

序章、第3章、第5章
1969年信州生まれ。1994年京都大学農学部林学科卒業。2000年京都大学大学院農学研究科博士課程単位取得。2002年同博士(農学)。早稲田大学アジア太平洋研究センター助手、(財)地球環境戦略研究機関客員研究員等を経て、現在、拓殖大学准教授。著書に『社会的共通資本としての森』(宇沢弘文氏との共編著、東京大学出版会、2015年)、『自由貿易神話解体新書』(花伝社、2012年)、『中国の森林再生』(御茶の水書房、2009年)など。

「2015年 『社会的共通資本としての水』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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