- Amazon.co.jp ・本 (399ページ)
- / ISBN・EAN: 9784766000061
感想・レビュー・書評
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映画でカットされた箇所も含め、読み応えのある名作だった。1930年代、アメリカ南部メイコームの町を舞台に、黒人青年の婦女暴行事件が持ち上がる。
この物語は、事件に関わる弁護士アティカスを父に持つ私(スカウト)の回想シーンから始まる。
「ディルがやって来たあの夏は…」
兄のジェム10歳、ディル7歳、そして私6歳は、姿を見かけたことのないお隣のブー・ラッドリーをなんとか外に連れ出そうと試みるが…
子どもの頃の風景やそこで暮らす人々、楽しかった遊び、怖かった経験、それら凝縮された思い出が見事に描かれている。
学校に上がったスカウトは家と学校は違うのだと感じるようになる。学校では兄と遊ぶことを禁止され、受持のキャロリン先生から「あなたに字を教え込まないようお父さんに言いなさい」と言われ反発を覚えてしまう。弁当を持ってこれないウォルターを食事に誘ったスカウトだが、下品な食べ方につい文句を言ってしまう。毅然とした態度で諌めた料理人カルパーニアが偉いと思った。
「お友達に口出しして辱めるなんて思い上がりもほどがある!」
学校に行きたくないと打ち明けた娘に根気よく、納得いくまで話して聞かせる父アティカスの姿が印象に残った。
男手一つで二人の子を育てるのは大変だが、子どもであっても一人の人間として尊重しているなぁと思える場面がいくつもあった。親子間の距離がとても近い。弁護士としてもその姿勢を決して崩さないアティカスを好ましく思った。
63ページ(236〜298)にわたる法廷シーンは圧巻。中でも陪審員への長い弁論の最後にアティカスが言った「法廷において万人は平等につくられている。彼を信じてください。」の言葉にぐっときた。判決が下された後、ジェム(七年生)スカウト(三年生)の二人は新たな事件に巻き込まれてしまうが、助けてくれたのが会いたかった人だとわかり、本当に良かった。
黒人差別は根深く、白人の中にも階級差別がある。偏見と差別に負けることなく、一歩でも半歩でも前に踏み出す勇気が皆にあれば少しずつだが状況を変えることができる。
この本は文字が小さく二段になっているが、読み始めるとすぐに物語に引き込まれてしまう。ニグロなど差別用語もそのまま使われており、新訳本と比べながら読んでみても良かったと思う。
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ずっと持っていたのに、なかなか読まなかった本。
有名な「名作」と言われる本ほど、そんなことは無いかしらん?
(言い訳?)
ストーリーは、ご存知の事と思いますが今一度。
主人公スカウトは2歳の時に母親に死に別れ、
優しく思いやりのある弁護士の父アティカスと、
口うるさいけれど親身になって世話をしてくれる、
お手伝いさんのカルパーニア、
威張ったりもされ、けんかもするけれど、やっぱり仲良しの兄ジェムと暮す女の子。
学校に通いだしたスカウトは、理不尽な出来事に悩んだり、
放課後や夏休み、様々な「冒険」をしたりして過ごしているが、
ある時、父アティカスがある事件の容疑者を弁護することになり…
人種差別が根強い地域で、
婦女暴行の容疑をかけられた若い黒人の弁護を引き受けたアティカス、
スカウトや兄ジェムはそのせいで学校でも町でも
親戚からも嫌なことを言われ、悩み、父親に疑問を投げかけるが…
本当に正しいこと、良心に沿う事は、誰の事も傷つけない。
こうして、本によってアティカスに出会えたということは、
実際出会っているのと同じこと。
色々なことがどんどん起こって、無気力になったりする昨今。
自分はどうしたら良いのか?と考える事さえ投げ出したりしたくなるけれど、
こんな時にアティカスなら、どうする?と
思える人がいる、と言うのは心強い。
その人の言いなりになるという事ではなく、
自分の良心の、正義の、本当の声を聞く、と言う事。
まさに良書と言うにふさわしい、素晴らしい作品。
「良書は友達の中の最良の友である。
現在もそしてまた、永久に変わるところがない。(タッパー)」
これは、通っている図書館が挟んでくれたしおりに
書いてあった。
まさしく、その通りです。
作者はトルーマン・カポーティの幼馴染で、
登場するディルはカポーティがモデル、と言う
楽しいおまけつき。 -
著者と幼なじみだったカポーティをモデルにした少年が登場するとは聞いていたのだけど、出た瞬間、絶対これだと思いましたよね。
どっから見たってカポーティですよね。
揺るぎなさにちょっと吹いた。
しかし主筋は軽い話ではない。
1930年代、無実の黒人を弁護する白人弁護士の娘が主人公で、黒人を弁護するということだけで一家は不穏な状況に置かれる。
裁判の行方は、非常にシビアだ。
この時代の現実はこうだったのだろう。
しかし、何十年経ってはいても、今もさして変わらない無根拠な差別を抱く人はいるのだろうと思うと、暗い気持ちにもなる。
現在の日本にも似たような差別は実際にあるのだし。
ただ、暗いだけの話かというと、むしろその逆で、読後感も悪くない。
語り手が少女であり、彼女の日常が生き生きと丁寧に(いささか長すぎるほど)描かれていることから、ノスタルジーの甘さが全編を覆っている。
それを良しとするかどうかは読者の好みだと思うが、この時代のリアルな生活を読めたのは興味深かった。 -
ようやく読めた。1960年発表で、ナチスが台頭する頃のアラバマ州メイコームという街が舞台。主人公スカウトは女の子なのにオーバーオールを着て殴り合いの喧嘩も厭わない、気の強い女の子。アメリカの南部。いろんな状況を知らずに読むと、古い翻訳なのもあって理解が追いつかないところもあるのでは?と思う。人種差別や貧困、男女観とか、8歳の女の子の語りにハッとさせられる部分と、そうではないところとあった。それでも発表当時は新しい視点だったのだろうとも思う。
アメリカという国が、黒人に対する差別とともに、「働く」ことに高い価値を置いて「働かない」ということに対して差別的であることも伺える。いわゆるチャヴであるユーイル一族をどう扱うのか。善良な市民が、明らかに無害で不具の黒人を有罪にしてしまうこととも重ねて、ちょっとしか出てこなかったけど、ドルファス・レイモンドの存在は光ってた。正しくまっとうできちんとしている世間さま、その中身ってどんなものでできているのだろう、と、スカウトの目を借りて見る読者。
映画の写真がついてるせいかアティカスが良いお父さんすぎてひねくれ者としては斜めに見てしまう部分があったのだけど、続編ではそうではないらしい。ということでがぜん続編も読みたくなった。