癒しのナショナリズム: 草の根保守運動の実証研究

  • 慶應義塾大学出版会
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  • Amazon.co.jp ・本 (228ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784766409994

作品紹介・あらすじ

「新しい歴史教科書をつくる会」とは何だったのか。「つくる会」につどう自称"普通の市民"たちのメンタリティを実証的に分析し、現代日本のナショナリズムの行方を問う。

感想・レビュー・書評

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  • 「つくる会」末端組織についてのフィールドワークとその論考。
    反「サヨク」をキーワードとした決して右ではないが、自称「普通の市民」たちの不思議な寄り合い所帯の実態とそれが孕む今後の不健全なナショナリズム化傾向への警鐘。
    普通であることを誇張しなければならない集団は果たして普通か?

  •  本書は、(一昔前によく聞いた)「新しい歴史教科書をつくる会」を調査したもの。
     私はすでに『文化ナショナリズムの社会学』を読んでいたので、3章の論文(by上野陽子)は興味深かった。他の章はすべて小熊英二の担当。

    版元リンク
    http://www.keio-up.co.jp/iyasi/iyasitop.htm

    【目次】
    序文(二〇〇三年二月) 小熊英二 [001-010]

    第一章 「左」を忌避するポピュリズム――現代ナショナリズムの構造とゆらぎ 015
    「下からのナショナリズム」運動/「価値観の揺らぎ」からの脱出/無定形から「保守」へ/天皇の位置/「保守の言葉」に回収される揺らぎ

    第二章 「新しい公民教科書」を読む――その戦後批判を点検する 043
    個人主義だけがエゴイズムか/「防衛義務」の安直な強調/「国体論」との類似/マルクス主義の市民観にも似ている/戦後思想への無理解/強烈な欧米コンプレックス

    第三章 〈普通〉の市民たちによる「つくる会」のエスノグラフィー ――新しい歴史教科書をつくる会神奈川県支部有志団体「史の会」をモデルに 069

    問いの設定/先行研究の批判的検討/『歴史認識と授業改革』/『文化ナショナリズム の社会学』/研究対象・研究方法
    1「史の会」のエスノグラフィー
    「史の会」の風景/沿革/組織構成/運営方法
    2「史の会」を支える三タイプの参加者たち
    Ⅰサイレント保守市民/インタビュー:サイレント保守市民/ 
    Ⅱ 市民運動推進派/インタビュー:市民運動推進派/ 
    Ⅲ 戦中派/インタビュー:戦中派/各タイプ間の温度差/新しい「保守」と昔ながらの「保守」/運動支持派と運動推進派/「つくる会」本部への批判(運動論・組織論)/「弱気な日本」を嘆く声―「史の会」の最大公約
    3 〈普通〉の市民たちの限界
    個人主義的な保守市民たち/教科書問題ブームのその後/普通の市民たちによる草の根保守運動とは
    資料編

    第四章 不安なウヨクたちの「市民運動」 小熊英二 187
    「市民運動」との類似性/参加者たちの思想傾向/「普通」の意味するところ/「史の会」の構成/今後の展望

    あとがき 上野陽子 [225-228]

  • めちゃめちゃ面白かった。学生さんの卒業論文が元になってるのですが、多分その立場でしかできなかった参与観察の内容が非常に刺激的。「つくる会」の関連支部に入っていっての調査なのですが、いわゆる「左」でもない、その会の主張にも共感するような立場からの観察とレポートが非常にいいです。そして自らを「ふつう」と規定するサイレント保守というのがすごく、発見でもありしっくりもくる。最後に小熊が書いている「そして彼らが考える<普通でないもの>が、彼ら自身の内面の投影であるのなら、それは決して消滅することはなく、永遠に発見され続ける。(中略)そして将来において、この本を読んでいるあなたが、<普通でないもの>として発見されてゆくことがありえないとは誰にも保証できないのである。」っていう言葉が、予言的に不気味であり重い。

  •  10年前に刊行された本だが、近年の「ネット右翼」や排外的ヘイトスピーチ、あるいは政治におけるポピュリズムの台頭に共通する社会的基盤の分析として今もって有用である。

  • 「となりのウヨク」を罵らずに考えた珍しい本だと思う。特に、一定の共感をもって「史の会(つくる会の支部)」を観察した上野の視点と、それを前後で補った小熊の構成がいい。

    「つくる会」よりも「つくる会」を生んだ土壌そのものを警戒する小熊は、人々の不安が「普通でないもの」を発見する行為、排除の暴力へとリンクする危険に気づく。そこまでの道のりが平易な言葉で描かれ、理解しやすい。「ふつう」の生活の結果として右傾化をとらえたそのバランス感覚に拍手。

  • 実証的な社会学研究として洗練されているわけではないが、非常に興味深い現象を扱っており、現代日本のナショナリズムのあり方を知る際には一読に値する。文体も読みやすいのでさくっと読めた。

  • 約4年ぶりの再読。
    自分の立ち位置を求める人々の腑分けが面白い。

  • もう少し小熊さんのパートが多かったらな。

    今のネトウヨ関係に続くフツーの人による他人には他人の思惑や考えがあるという当たり前の事を無視した上で出てくる「あの人達ってイヤねえ、ウザくて」感をすくい取った本。

  • グローバリゼーションの結果、伝統的なムラ共同体が解体しますが、小熊のみるところ、そこから遊離した個人による「都市型のポピュリズム」こそが、この運動の本質でした。この運動は、それまでの政治運動のように、業界団体や村落共同体、あるいは労働組合や都市上京者の新たな共同体に基礎を置いていません。その意味で、従来の運動とはまったく異質だったことに小熊は注目します。

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著者プロフィール

慶應義塾大学総合政策学部教授。
専門分野:歴史社会学。

「2023年 『総合政策学の方法論的展開』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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