田口卯吉の夢

著者 :
  • 慶應義塾大学出版会
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  • Amazon.co.jp ・本 (352ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784766420401

作品紹介・あらすじ

ネオ・リベラルな秩序構想

▼自己利益のみを追う人々が共存する、世界大に広がる秩序。これこそ、田口卯吉(1855-1905)の夢見たネオ・リベラルな商業共和国である。人々の情念が惹き起こした明治革命をかろうじてくぐり抜けた彼が、この世界像を手放さなかったのは、いったいなぜなのか。はたして、そのような秩序は可能なのだろうか――。妥協なき彼の思想を、『日本開化小史』をはじめとする彼自身のテクストと、同時代のコンテクストとを綿密にたどり、縒り合わせ、解き明かしてゆく。寄る辺なく、すべてがあわただしい時代の真摯な思考が、〈今〉を刺戟する。

感想・レビュー・書評

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  • 2013年に出版された本書は、明治期の自由主義経済学者として名高い田口卯吉の「政治思想」について分析したものである。

    本のカバーに掲げられた本書の宣伝文には「自己利益のみを追う人々が共存する、世界大に広がる秩序。これこそ、田口卯吉の夢見たネオ・リベラルな商業共和国である。人々の情念が惹き起こした明治革命をかろうじてくぐり抜けた彼が、この世界像を手放さなかったのは、いったいなぜなのか。はたして、そのような秩序は可能なのだろうか——。妥協なき彼の思想を、『日本開化小史』をはじめとする彼自身のテクストと、同時代のコンテクストとを綿密にたどり、縒り合わせ、解き明かしてゆく。寄る辺なく、すべてがあわただしい時代の真摯な思考が、<今>を刺戟する。」とある。

    まずは田口のテクスト読解はなかなか手強い。当時「輸入」された「文明史」に則って誤解されがちな部分があり、そうした誤解からまずは解き放つ必要があり、本書はそれを丁寧におこなっている(第2章「『日本開化小史』のhistoriography」および第3章「『日本開化小史』の筆法)。

    また田口の経済学の代表作である『自由交易 日本経済論』も『日本開化小史』で示された歴史観に基づいて読み解かれる必要がある。著者は第4章「「郡県」の政治学」でそれを見事に成し遂げている。「おわりに」にもあるようにこの明治期の郡県思想の考え方は、非常に重要で、本書の田口分析のキーとなる概念である。そして、田口が「郡県」商業社会の秩序構想を支える普遍妥当性をもつと考えていたものが、「利害」という社会統合原理であることが示されている(p.177)。この辺がネオ・リベラリズム的な部分なのだが、当然、それによって生まれる社会秩序は「よき社会秩序」なのかという問題が生じる。つづく第5章「「自愛」の秩序」では、田口が「自愛」の秩序がどのように可能となると考えていたのかを、同時代のスペンサー受容(加藤弘之や小泉八雲)などと比較分析をおこなっており、読み応えがある。

    以上の分析を踏まえて政治家田口が立ち向かった具体的な政治課題が地租増徴問題であった。第6章でも星亨、神田孝平、徳富蘇峰、谷干城、陸羯南らとの比較をおこない、田口の政治思想に深く切り込んでいる。

    田口は明治22(1899)年、「「変遷の大勢」において、維新を「戊辰革命」と呼び、「我戊辰の革命は、仏国の革命より甚だしき者ありと云はざるべからず」と述べている。……それは「経済的商業的の社会」の到来であった」(p.248)。そして、田口は明治23年の国会開設に「第二の維新」をみつつ議会において「国家財政上の諸疑問、租税、貨幣、銀行、鉄道、会社等の疑問」に関する識見をもつ「平民」こそが議員として選出されねばならないとしていたのであった。まさに<今>に刺さる慧眼と言えるであろう。

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著者プロフィール

法政大学教授

「2023年 『政治学入門 歴史と思想から学ぶ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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