GOZOノート 2 航海日誌

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  • 慶應義塾大学出版会株式会社
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  • Amazon.co.jp ・本 (304ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784766423402

作品紹介・あらすじ

言語のアヴァンギャルドをひた走る吉増剛造
自選エッセイ・コレクション第2巻 〈旅〉

北海道、東北、沖縄、世田谷、月島、アメリカ、ブラジル、フランス、アイルランド、インド……
1960~80年代の混沌とした世界を、夢のようにかけまわった、旅の記録/記憶。
〈GOZO〉とともに、日本を、世界を旅する一冊。
解説:長野まゆみ

2016年6月から始まる東京国立近代美術館の〈吉増剛造展〉にあわせて記念出版

特別付録として、投げ込み詩付き

デザイン=服部一成

感想・レビュー・書評

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  • 一言、期待以上に面白かった。普段、間をおかずに再読することはないのだが、私はすでに何日か携えて繰り返し電車の中で紐解くことを楽しみにしている。

    慶応義塾大学出版会が、日本を代表する詩人、俗な権威主義的な言い方をするなら、ノーベル賞に最も近い日本人作家、吉増剛造の随筆を、全3巻の自選エッセイ・コレクションとして刊行したことは個人的な喜びを超えて、時宜を得ているだろう。この出版会の最近の活躍がめざましい。何よりも、まとまって吉増氏の文章が読めることが喜ばしい。

    第1巻が詩をめぐる論考、第2巻が「旅」の記憶、第3巻が映画・写真・絵画・イマージュを主題とする。『GOZOノート2:航海日誌』は、しかし、精神的かつ物理的な旅によって記憶の貯蔵庫に蓄積され、この類稀な精神を通して再び面影を鮮明にしつつ揺れ動くイマージュ群に、分かりやすく的確でありまた創造性豊かな言葉によって、時間軸に支配されない生命性を与える。詩人が詩人の観点で詩的に思索するとはどういうことか如実に伝える。簡単で短い読みやすい文章が、どれほどの深い含蓄を持つことか。

    300頁ほどの中に、45の詞章ともいうべき文章が並ぶ。時期的には、1961年から1989年まで。地理的には、NYから北海道、インド、アイルランド、伊勢、沖縄、遠野、阿佐ヶ谷、世田谷、ブラジル、パリ。裏町をたどり街の形成とそこに住んだ透谷や朔太郎や俊太郎やイェイツや芭蕉や蕪村や馬琴やボードレール、様々な詩人の内面にまで旅をする。吉増氏もひく伊勢物語や新古今のように、現実世界の挿話と、その想起する詩人の自己への潜心が、読む人に驚きをもたらす。単に、詩人の内面の風景でもなければ、旅の記録でもない。地理的に水平方向の旅をしながら、彼は常に垂直方向へ旅をするようだ。

    彼の目を借りれば、私たちも、宇宙の奥底に人知れずうごめく目に見えぬ塵に、命の宿るのを、それが紙面に息吹を踊り出させるのを垣間見る。そんな噴火口のような存在の穴を、この詩人は世界中の隅々に見出して帰ってくる。

    本書のほぼ真ん中に、詩論と呼べそうな一文がある。そこまでに旅を題材にした短い緒章を読み進めた人は、詩が発生する現場をめぐるやや哲学的な吉増氏の論考にも自然とすんなり入って行ける。その、一見抽象的と思える思考に新古今をめぐる思索が続き、読者は再び場所的なあるいは人名的な具体性を持った旅の記憶と戯れながら、現実世界の様々な土地を吉増氏の記憶と共に旅をして、いつの間にか詩人の、あるいは、自分自身の心の底をさらに深め掘り下げる作業をやすやすと行ってしまう。吉増氏の言葉は、精神、肉体、現実世界、過去、あるいは記憶を一身に集めて具体的で、阿佐ヶ谷や世田谷やパリやアイルランドを知る私の意識は敏感に反応するし、記述された未だ知らぬ土地を訪れる際は、この本を携えて、高次の旅行案内としたい。

  • 【献本+招待券プレゼント】"GOZO"読んで美術館へ行こう!2016年6月7日-8月7日東京国立近代美術館『声ノマ 全身詩人、吉増剛造展』豪華献本+招待券15名様プレゼント!【2016年5月30日まで】
    http://info.booklog.jp/?eid=904


    言語のアヴァンギャルドをひた走る吉増剛造
    自選エッセイ・コレクション第2巻 〈旅〉

    北海道、東北、沖縄、世田谷、月島、アメリカ、ブラジル、フランス、アイルランド……
    1960~80年代の混沌とした世界をかけまわった旅の記録/記憶
    解説:長野まゆみ

    吉増剛造と「旅」は切り離すことはできない。
    詩人は、世界中を旅しては、その心象風景を特異な文章で表してきた。
    〈GOZO〉とともに、日本を、世界を旅する一冊。

    2016年6月から始まる東京国立近代美術館の〈吉増剛造展〉にあわせて記念出版!
    投込詩付き

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著者プロフィール

1939年、東京生まれ。1957年、慶應義塾大学文学部入学。在学中に岡田隆彦、井上輝夫らと「三田詩人」に参加、詩誌「ドラムカン」創刊。1964年、処女詩集『出発』。『黄金詩篇』(1970)で第1回高見順賞。『熱風a thousand steps』(1979)で第17回歴程賞。『オシリス、石ノ神』(1984)で第2回現代詩花椿賞。『螺旋歌』(1990)で第6回詩歌文学館賞。『「雪の島」あるいは「エミリーの幽霊」』(1998)で第49回芸術選奨文部大臣賞。2003年紫綬褒章。「詩の黄金の庭 吉増剛造展」(北海道立文学館/2008)。『表紙 omote-gami』(2008)で第50回毎日芸術賞。2013年旭日小綬章、文化功労者、福生市民栄誉賞。2015年日本芸術院賞、恩賜賞、日本芸術院会員。「声ノマ 全身詩人、吉増剛造展」(東京国立近代美術館/2016)。「涯テノ詩聲 詩人 吉増剛造展」(松濤美術館/2018)。映画「幻を見るひと 京都の吉増剛造」(2018)が国際映画祭10冠。七里圭監督作品「背」(2022)主演。映画「眩暈 VERTIGO」(2022)が国際映画祭50冠。『Voix』(2021)で第1回西脇順三郎賞(2023)。第6回井上靖記念文化賞(2023)。「フットノート 吉増剛造による吉増剛造による吉増剛造展」(前橋文学館/2023)。

「2024年 『DOMUS X』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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