- Amazon.co.jp ・本 (372ページ)
- / ISBN・EAN: 9784766423518
作品紹介・あらすじ
▼ホロコーストの胎動を聴け
ホロコーストはなぜ起きたのか ――。
ホロコーストはドイツだけで起きたのか?
実はホロコーストは、その多くが戦前のドイツの国境線の外で起きたことだった。
ホロコーストは強制収容所のみで起きたのか?
ユダヤ人は、現実には死の穴の縁で殺害されたのが半数にのぼり、
収容所ではなく、特別なガス殺の設備で殺害された。
加害者はすべてナチスだったのか?
殺害に携わったドイツ人の多くはナチスではなかったし、
そもそも殺害した者のほぼ半分はドイツ人でさえなかった ――。
ヒトラーとスターリンの狭間で、完膚なきまでに国家機構が破壊され、
無法地帯に陥ったその地で、一体何が起こったのか。
極限状況における悪(イーブル)を問い直し、未来の大虐殺に警鐘を鳴らす世界的ベストセラー。
感想・レビュー・書評
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ホローコーストに関する以下の誤解を事実に基づき解き明かしている。
・ヒトラーは狂人であった
・ホローコーストはドイツで行われた
・ホローコーストはドイツのユダヤ人の問題であった
・ホローコーストは強制収容所で起きた
・ホローコーストはすべてナチスによって行われた
自分も含め、アウシュビッツ=ホローコーストだと認識している人が多いと思うが、本書により、それはホローコーストを遥かに矮小化していることが理解できるし、ヒトラーが決して受け入れがたいが確固たる思想を持ち、極めて戦略的な行動を取ってきたことがわかる。ホローコーストが極めて戦略的に実施されたことは条件が揃えば現代でも起こりうることを示しており、ホローコーストについて理解することがこのような悲劇を繰り返さないことにつながることを筆者は訴えている。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
この本を読んで、過去に読んだホロコースト関係の本を改めて見返したくなった。ひとまず本棚に登録したレビューを再読。
『ブラック・アース』全体を通じたレビューは上巻にまとめて記載したので、こちらはそのリストを並べてみた。
https://booklog.jp/users/sawataku/archives/1/476642350X
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『イェルサレムのアイヒマン――悪の陳腐さについての報告』 (ハンナ・アーレント)
https://booklog.jp/users/sawataku/archives/1/4622020092
いわずと知れたアイヒマン裁判を哲学者アーレントが傍聴し、分析したもの。「悪の陳腐さ」という表現がぐっとくる。
『増補 普通の人びと: ホロコーストと第101警察予備大隊』(クリストファー・R・ブラウニング)
https://booklog.jp/users/sawataku/archives/1/4480099204
ホロコーストが「アウシュビッツ」だけではなかったということを如実に示す記録。
『アウシュヴィッツは終わらない―あるイタリア人生存者の考察』(プリーモ・レーヴィ)
※『これが人間か』という原題に近いタイトルで再刊されている
https://booklog.jp/users/sawataku/archives/1/4022592516
アウシュビッツに収容され生き残った著者によるもの。フランクルの『夜と霧』と並べて賞賛されるが、個人的にはこちらの方にぐっとくる。
『溺れるものと救われるもの』(プリーモ・レーヴィ)
https://booklog.jp/users/sawataku/archives/1/4022630221
『これが人間か』よりもさらに胸に刺さる。著者は本書刊行の一年後に階段の手すりを越え(おそらく)自ら命を絶った。
『夜と霧 新版』(ヴィクトール・E・フランクル)
https://booklog.jp/users/sawataku/archives/1/4622039702
アウシュビッツに収容され生き残った精神分析医による本。ホロコーストの証言と言えば真っ先にこの本が挙がるだろう。
『私はガス室の「特殊任務」をしていた』(シュロモ・ヴェネツィア)
https://booklog.jp/users/sawataku/archives/1/4309224954
アウシュビッツでゾンダーコマンドをしていた数少ない生存者の証言。1992年に語り始めた著者、2006年にもとになるインタビューが行われた。
『アウシュヴィッツを志願した男 ポーランド軍大尉、ヴィトルト・ピレツキは三度死ぬ』(小林公二)
https://booklog.jp/users/sawataku/archives/1/4062194937
『ブラック・アース』の中でも登場したホロコーストの現状を外部に伝えようと奔走したヴィトレト・ピレツキの伝記。最後が悲しい。
『第三帝国 ある独裁の歴史』(ウルリヒ・ヘルベルト)
https://booklog.jp/users/sawataku/archives/1/4040823400
ナチスが政権を取り、ユダヤ人への迫害を強めていく歴史を知るにはこのコンパクトにまとめられた一冊がその役に立つことだろう。読みやすくわかりやすい。
『独ソ戦 絶滅戦争の惨禍』(大木毅)
https://booklog.jp/users/sawataku/archives/1/4004317851
2020年新書大賞に選出された。ホロコーストの話がメインではないが、切っては話せない独ソ戦を日本語で理解するには最も適切と思われる。
『ショアー』(クロード・ランズマン)
https://booklog.jp/users/sawataku/archives/1/4878932236 (レビューなし)
映画も観た。ものすごく長い映画で今観るのも難しいが、スクリプトが収められた本がこれ。この映画もまたアウシュビッツだけがホロコーストではないし、ドイツ人だけがホロコーストを起こしたのではないことがわかる。
『アウシュヴィッツ収容所』(ルドルフ・ヘス)
https://booklog.jp/users/sawataku/archives/1/4061593900 (レビューなし)
アウシュビッツ収容所長であったヘスによる手記。ある意味、空恐ろしい。 -
実際にヒトラーにとっては、人類の歴史などそのものとしては存在しなかった。「世界の歴史で起きたことなど、良かれ悪しかれ、どれもこれも人種の自己保存本能の表れにすぎない」とヒトラーは喝破した。過去のことで記録にとどめておかねばならぬことは、自然の構造を歪ませるユダヤ人どもの絶え間ない試みだけだ。これはユダヤ人が地球上に住んでいる限り続くことになろう。「この秩序をつねに破壊するのはユダヤ人どもだ」とヒトラーは口にしていた。強者は弱者を飢えさせるべきだが、ユダヤ人は弱者が強者を受け支えるように事を運ぶことができた。これは通常の感覚では不正ではないが、「存在の論理」を侵害していたのだ。ユダヤ的思想によって歪まされた宇宙においては、闘争は思いもよらぬ結果を招来することがありえた。適者生存どころか適者の飢えである。この論法ではドイツ人はユダヤ人が生存しているかぎり、常に犠牲者となろう。最優等人種としてドイツ人は最大のものを受けるに値するが、失うのもまた最大なのだ。ユダヤ人の自然に反する力は「将来を殺す」のだ。
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