人手不足なのになぜ賃金が上がらないのか

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制作 : 玄田 有史 
  • 慶應義塾大学出版会 (2017年4月14日発売)
  • Amazon.co.jp ・本 (336ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784766424072

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人手不足なのになぜ賃金が上がらないのかの感想・レビュー・書評

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  • 2000年代前半、「仕事のなかの曖昧な不安」で若年層の"こぼれ落ちる人々"研究の第一人者となった玄田さんが、この本のタイトルとなっている「人手不足なのになぜ賃金が上がらないのか?」という極めて太い問いを行って、その1問のみの答えを巡って21名の研究者や実務家がその回答を披露、批評するという極めてユニークで知的な書。

    この問いの回答は当然に複数あるし、多面的である。特に印象に残っている論考は、「給与の下方硬直性による上方硬直性」説、「(2000年以降で最も雇用を増やした)介護・医療分野での昇給規制」説、「団塊世代の再雇用および女性の就業率向上に伴う雇用弾力性の充実」説、「コーポレートガバナンス強化およびグローバル経済の不確実性の高まり対策」説などである。おそらくどれもが賃金の上がらない明確な理由であり、かつ複雑に絡み合っているのだろう。

    このうち、会社を経営していてもっとも身近に感じる説は、「給与の下方硬直性による上方硬直性」と「コーポレートガバナンス強化およびグローバル経済対策」なのではないだろうか。行動経済学の原理として、人は得る喜びよりも失う悲しみの方が大きく、強く感じる(損失回避特性)。また、通常、人は現在の給与水準に生活をアジャストさせているので、給与が上がるよりかは下がるほうが実生活へのインパクトが大きい。給与が下がると給与を上げた時のモチベーション上昇以上のダウンが生じる。他方、コーポレートガバナンスの強化に伴い経営者は、株主還元や短期利益確保に対する配慮が以前よりもせねばならい。またリーマンショック的な世界経済の影響を受けやすくなって、結果として、給与以外での出費(や貯蓄)を余儀なくされており、人件費が上昇することに対して抑圧的なバイアスがかかることになる。

    この本は、それぞれの研究者がそれぞれの角度や手法で1つの問いの答えを得ようとするので、「知の武道会」と見えなくもない。他方、導かれる答えは同じものだったりすることも多いので、総括編集の玄田さんが序文で書いているように「読者の関心の近い層から自由に読む」ことをオススメする。また実は骨太の問いは2問あり、「賃金を上げることが今後可能だとすれば、いかにして実現できるのか?」という2問目の問いについての解答があまり言及がなかったり、「当面は難しそうだ」、「***についてより議論の高まりが待たれる」的な結論で終わってしまっているものが散見されたように感じ、これは残念であった。唯一、「団塊世代の再雇用、女性の就業率向上」主犯説は、明確にそれらの雇用の吸収が終わった後に真の人手不足が生じて賃金上方がある、と言っていたが、マクロで賃金を上昇させるとはそれほど難しいということなのだろう。。

  • 本書のテーマは今やエコノミストや経済学者のみではなく国民的関心事ではないだろうか。本書の「原因は一つではない」との視点に納得する思いをもった。
    賃金を上げようとしない経団連の圧力は眼に見えるからわかりやすい。大手企業は内部留保をひたすら増やしながら賃金に回さないのだから財務大臣から「守銭奴」と言われても仕方がない。
    しかし原因が「制度」や「規制」などの社会システムの場合、変革することは一朝一夕には難しそう。
    本書の専門家による多角的な検証は、それぞれ胸にストンとおちると同時に「日本を賃金が上がる社会にする」ことの困難さも理解できた。
    また、本書の考察のように原因が複合的ならば一つや二つの対策では不十分だろうし、日本の縦割り行政の下では実効ある政策の実施は難しいのではないかとも思えた。
    本書を日本の現状を的確に分析した実にタイムリーな本であると高く評価したい。硬い経済書にもかかわらず一気に夢中で読んでしまった。

    2017年7月読了。

  • 本書では様々な観点から経済学者陣が本書のタイトルについて論じている。
    中でも就職氷河期世代の影響が昨今の賃金へ影響を与えているという説は面白い。感覚的には企業が悪いと短絡的になってしまうが、この問題では日本の労働慣行(新卒一括採用)が問題であると感じた。
    その他には非正規社員の増加により、入社間もない新卒社員にやらせるべき簡単な業務がなくなるという、経験の不足にはとても良く理解できる。
    これほどにも厚みのある本は、一つに様々な学者に割り当てた枚数の少なさが功を奏したのであろう。みな結論を明確に示し、詳細な論拠に関しては論文に席を譲っている。
    なんとなく分かったつもりになって、賃上げ問題を論ずる前にまずは本書を熟読すべき!

  • 賃金の情報硬直性。構造的な問題があるか?

    医療福祉分野は、介護報酬制度による賃金抑制。
    人手不足だが賃金をあげると採算がとれない。

    名目賃金の下方硬直性の裏返し。
    賃上げの不可逆性のため、下方に硬直的だと上方も硬直的になる。

    成果主義の普及。

    企業は誰のものか=従来の主要なステークホルダーだった従業員は、今はコスト要因として見られるようになった。

    バス運転手の時間あたり賃金は下落傾向。生産性が上昇しない。新規参入障壁が低い=値上げができない=運転手の賃金を上げられない。

    就職氷河期世代の生産性が上昇していない。

    欲しい人材と働きたい人材のズレ。
    企業内OJTが減った=即戦力を求める傾向。
    off-JTは効率が悪い。しかし、OJTの余裕がない。

    構成バイアスによって平均賃金があがらない。
    女性の割合が増えた、パートタイムが増えた。高齢者再雇用が増えた。

    高齢化、非正規化の影響。
    保険、税金などの非消費支出の上昇。

    国際競争によって、国内産業の介護医療などの賃金も引きずられる。賃金の伸縮性。

    氷河期世代の能力開発の遅れ。

    正規社員と非正規社員が同一労働で賃金の違いが見られる。正規社員が既得権層となり、正社員の留保賃金が低下し組合の賃上げ要求も抑制気味となる。

    給与の資格給制度。

  • 『人手不足なのになぜ賃金が上がらないのか』

    【書誌情報】
    四六判/仮フランス装/336頁
    初版年月日:2017/04/20
    ISBN:978-4-7664-2407-2(4-7664-2407-7)
    Cコード:C0033
    税込価格:2,160円
    https://www.keio-up.co.jp/np/detail_contents.do?goods_id=3347


    【目次】
    基本データ 人手不足と賃金停滞〔玄田有史・深井太洋〕
    序  問いの背景 〔玄田有史〕

    第1章 人手不足なのに賃金が上がらない三つの理由  〔近藤絢子〕
     ポイント 【規制】 【需給】 【行動】
      1 求人増加の異なる背景
      2 医療・福祉:介護報酬制度による介護職の賃金抑制
      3 「人手不足イコール労働力に対する超過需要」ではない可能性
      4 名目賃金の下方硬直性の裏返し
      5 複合的な要因解明が必要

    第2章 賃上げについての経営側の考えとその背景 〔小倉一哉〕
     ポイント 【制度】
      1 賃上げ率と賞与・一時金の動向
      2 経団連の主張と主な特徴
      3 成果主義の普及
      4 経営環境の変化
      5 今後も不透明は漂う

    第3章 規制を緩和しても賃金は上がらない
    ――バス運転手の事例から 〔阿部正浩〕
     ポイント 【規制】 【制度】
      1 バス需要の増加と深刻な運転手の人手不足問題
      2 バス運転手の仕事と労働市場の特徴
      3 バス運転手の賃金構造の変化
      4 なぜ賃金水準は下がったのか
      5 バス運転手の労働市場の問題か

    第4章 今も続いている就職氷河期の影響 〔黒田啓太〕
     ポイント 【年齢】 【正規】 【能開】
      1 「就職氷河期世代」への注目
      2 同一年齢で見る世代間賃金格差
      (1) 学歴別・性別によるちがい
      (2) 雇用形態別の給与額
      (3) 給与額増減の要因分解
      (4) 「就職氷河期世代」の労働者数に占める割合について
      3 「就職氷河期世代」の賃金が低い理由
      4 氷河期世代の悲劇

    第5章 給与の下方硬直性がもたらす上方硬直性 〔山本 勲・黒田祥子〕
     ポイント 【行動】
      1 下方硬直性によって生じ得る名目賃金の上方硬直性
      2 名目賃金の下方硬直性が生じる理由とエビデンス
      3 企業のパネルデータを用いた検証
      (1) 利用するデータと検証方法
      (2) 過去の賃金カットと賃上げの状況
      (3) 名目賃金の下方硬直性と上方硬直性の関係
      4 日本の賃金変動の特徴と政策的な含意

    第6章 人材育成力の低下による「分厚い中間層」の崩壊 〔梅崎 修〕
     ポイント 【制度】 【能開】
      1 「欲しい人材」と「働きたい人材」のズレ
      2 「分厚い中間層」の崩壊
      3 New Deal at Workのジレンマ
      4 企業内OJTの衰退
      (1) 長期競争よりも短期競争
      (2) 経験の場の消失
      5 解決策は実現可能な希望なのか

    第7章 人手不足と賃金停滞の並存は経済理論で説明できる 〔川口大司・原ひろみ〕
     ポイント 【正規】 【需給】 【能開】
      1 問題意識――パズルは存在するか
      2 企業の賃金改定の状況とその理由
      3 労働者の構成変化が平均賃金に与える影響
      4 女性・高齢者による弾力的な労働供給
      5 労働供給構造の転換点と賃金上昇
      6 賃金が上昇する経済環境を整えるために――人的資本投資の強化

    第8章 サーチ=マッチング・モデルと行動経済学から考える賃金停滞 〔佐々木勝〕
     ポイント 【需給】 【行動】
      1 日本だけの問題なのか
      2 標準モデルから予想できること
      3 モデルは循環的特性を再現できるか
      4 なぜ賃金調整は硬直的なのか
      5 賃金硬直性の帰結と背景

    第9章 家計調査等から探る賃金低迷の理由――企業負担の増大 〔大島敬士・佐藤朋彦〕
     ポイント 【年齢】 【正規】 【制度】
    1 世帯の側からの視点
    2 世帯主の勤め先収入
    3 世帯主の年齢分布
    4 高齢化・非正規化の影響
    5 増加する賃金以外の雇主負担
      (1) 上昇する社会保険料率
      (2) 非消費支出比率の上昇
      (3) 世帯主の勤め先収入
      (4) 1人あたり雇主の社会負担
    6 社会保険料率等の引き上げの影響

    第10章 国際競争がサービス業の賃金を抑えたのか 〔塩路悦朗〕
     ポイント 【規制】 【需給】
    1 高齢化社会と「あり得たはずのもう一つの現実」
    2 パズルは本当にパズルなのか――国際競争に注目する理由
    3 イベント分析の対象としてのリーマン・ショック
    4 検証1:求職者は対人サービス部門に押し寄せたか
    5 検証2:求職者の波に対人サービス賃金は反応したか
    6 検証結果のまとめ
    7 労働市場で何が起きているのか? 図解
    8 今後の課題:なぜ対人サービス賃金は硬直的なのか

    第11章 賃金が上がらないのは複合的な要因による 〔太田聰一〕
     ポイント 【正規】 【需給】 【年齢】
    1 原因は一つではない
    2 非正規雇用者の増大
    3 賃金版フィリップス曲線から
    4 誰の賃金が上がっていないのか
    5 議論――「世代リスク」にどう対処するか

    第12章 マクロ経済からみる労働需給と賃金の関係 〔中井雅之〕
     ポイント 【需給】 【正規】
    1 日本的雇用慣行の特徴から労働需給と賃金の関係を考える
    2 労働需給と賃金は必ずしも連動しない
    3 需給変動と内部・外部労働市場
    4 雇用の非正規化と一般の時間あたり賃金の動向
    5 労働市場の課題と労働政策

    第13章 賃金表の変化から考える賃金が上がりにくい理由 〔西村 純〕
     ポイント 【制度】
    1 賃金の決まり方
      (1) 賃金表
      (2) 三つの要素
    2 昇給の仕組み(三つの方法)
    3 昇給額決定の実際
      (1) 「積み上げ型」の賃金表
      (2) 「ゾーン別昇給表」の登場
      (3) ベースアップ
      (4)賃金表変化の背景
    4 賃金を上げるために

    第14章 非正規増加と賃金下方硬直の影響についての理論的考察 〔加藤 涼〕
     ポイント 【正規】 【年齢】 【行動】
    1 なぜ賃金は上がりにくくなったのか――問題の所在
    2 賃金が硬直的な下での正規・非正規の二部門モデル
    3 賃金の下方硬直性と上方硬直性
    4 人的資本への過少投資と賃金の上方硬直性

    第15章 社会学から考える非正規雇用の低賃金とその変容 〔有田 伸〕
     ポイント 【正規】
    1 社会学と国際比較の視点から
    2 日本の非正規雇用とは何か
      (1) 正規/非正規雇用間の賃金格差
      (2) 賃金格差の強い「標準性」
      (3) 非正規雇用の補捉方法の特徴
    3 なぜ日本の非正規雇用の賃金は低いのか
      (1) 格差の正当化ロジックへの着目
      (2) 企業による生活保障システムと格差の正当化
      (3) もう一つの正当化ロジックと都合のよい使い分け
    4 非正規雇用の静かな変容
    5 なぜ賃金が上がらないのか――非正規雇用に着目して考える

    第16章 賃金は本当に上がっていないのか――疑似パネルによる検証 〔上野有子・神林龍〕
     ポイント 【需給】 【年齢】
    1 上がらない賃金? 
    2 賃金センサス疑似パネルからみた名目賃金変化率
    3 賃金総額の変化の分解
    4 結論――上がらない賃金と人手不足傾向の解釈

    結び 総括――人手不足期に賃金が上がらなかった理由 〔玄田有史〕

    あとがき
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人手不足なのになぜ賃金が上がらないのかの作品紹介

“最大の謎”の解明に挑む!

働き手にとって最重要な関心事である所得アップが実現しないのは、なぜ?
22名の気鋭が、現代日本の労働市場の構造を、驚きと納得の視点から明らかに。

▼企業業績は回復し人手不足の状態なのに賃金が思ったほど上がらないのはなぜか? この問題に対して22名の気鋭の労働経済学者、エコノミストらが一堂に会し、多方面から議論する読み応え十分な経済学アンソロジー。
▼各章は論点を「労働需給」「行動」「制度」「規制」「正規雇用」「能力開発」「年齢」の七つの切り口のどれか(複数もあり)を中心に展開。読者はこの章が何を中心に論議しているのかが一目瞭然に理解できる、わかりやすい構成となっている。
▼編者の玄田教授はまず、本テーマがなぜいまの日本において重要か、という「問いの背景」を説明し、各章へと導く。最後に執筆者一同がどのような議論を展開したかを総括で解題する。
▼労働経済学のほか、経営学、社会学、マクロ経済、国際経済の専門家や、厚生労働省、総務省統計局、日銀のエコノミストなど多彩な顔ぶれによる多面的な解釈は、まさに現代日本の労働市場が置かれているさまを記録としてとどめる役割も果たしている。

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