わが子よ: 出生前診断、生殖医療、生みの親・育ての親

制作 : 共同通信社社会部 
  • 現代書館
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  • Amazon.co.jp ・本 (246ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784768457412

感想・レビュー・書評

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  • 結婚して子どもが生まれ、家庭を築く。
    当たり前のことのようだが、ことが滞りなく運ばない場合もある。
    授かった子が出生前に非常に重い障害を抱えていることがわかったらどうするか。
    子どもが欲しいけれども子宝に恵まれなかったとき、不妊治療に臨むのか。
    子どもができたけれども、育てることが著しく困難な状況にあったときはどうするか。
    本書では、「出生前診断」、「生殖医療」、「養子縁組」という3つのテーマで、それぞれの当事者に取材し、その生の声を集めている。
    2013年4月から翌14年6月にかけて、共同通信社が配信した連載企画「わが子よ」の記事の書籍化である。

    最初の「出生前診断」は、羊水検査によって判明する染色体異常などにより、生まれる子が障害を持つことがわかった人たちである。中絶を選んだ人、生むことを選んだ人、そもそも出生前診断を受けない選択をした人、そして医療従事者。それぞれの声を拾っている。検査率が高く、また障害が判明した場合の中絶率も高いイギリスの事例も紹介されていて興味深い。
    出生前診断に関しては、「命を選ぶのか」「神様に逆らおうとしている」との感覚を持つ人もある。妊娠の幸福感から一気に絶望感に襲われる人もあり、生むことに決めても、生まないことに決めても、いずれも重い選択である。
    記事連載中には、「障害者の切り捨てにつながりかねないから即刻連載をやめて欲しい」といった、読者からの厳しい声もあったという。
    出生前診断自体についての情報が十分であるとは言えない中、突然の「宣告」に戸惑う人もいる。障害のある子を授かったときに、実際問題としてどう対処していけばよいのか、手探りで情報を探る人も多い。
    この問題は、親だけに背負わせるには重すぎるし、伝えられる情報も得てして少なすぎる。
    専門家による丁寧なカウンセリングも大切だろうが、実際に障害を持つ子を育てている親のアドバイスが非常に心強かったという経験談が印象的である。
    何よりも、「出生前診断」で網羅的に将来の障害が予測できるわけではないことを思えば、障害があっても暮らしやすい世の中を目指していくべきなのかもしれない。
    優生思想につながりかねない診断の運用には重々慎重でなければならないだろう。

    「生殖医療」には、人工授精(精子を子宮に送り込む)、体外受精(卵巣から卵子を取り出して受精させた後、子宮に戻す)、顕微授精(体外受精の1つで、卵子に精子を注入する)、第三者提供の精子・卵子を使うもの、代理出産などが含まれる。
    高度な技術が生まれれば生まれるほど、「やればできるかもしれない」可能性が生じる。これは、ときに残酷である。可能性がゼロでない限り、やめられない人はいる。やらなければゼロだが、やればわずかでも可能性があるとなったら、苦しくても頑張ろうと思う人はいるだろう。結果、経済的にも精神的にも逼迫することもある。
    夫婦のどちらかに克服できない問題がある場合、精子・卵子提供という道を選ぶ人もいる。子どもがその事実を知らされず、何らかのきっかけで血のつながりがないことに気づく場合もある。そうした場合、往々にして、家族が大きく揺らぐことになる。

    「養子縁組」は、日本ではさほど多くない。「特別養子縁組」と呼ばれる制度は、原則として六歳未満の子どもを養父母と縁組する制度で、実親との親子関係はなくなり、戸籍上、実子と同じ扱いになる。望まない妊娠などで親が育てられない事情があり、家庭裁判所が認めれば成立する。これとは別に「里親」は、養育を必要とする子どもを家庭で育てるための、児童福祉法に基づく制度である。里親は子どもの養育を「委託」されることになる。日本では親が養育できない子どもの大半は施設で暮らしている。2012年のデータで「特別養子縁組」の成立が年間339件、里親の元で暮らしている子どもは約4500人、施設で暮らしている子どもは約31000人とのことである。
    幼い頃に子どもを引き取った親は、どの時点で血のつながりがないことを明かすかに悩む。ある程度大きくなった子は、赤ちゃん返りをして親を「試す」こともある。
    さまざまな問題にぶつかり、ときに乗り越え、ときに反発し、子どもたちは大きくなっていく。

    家族とは、親子とは何か。血のつながりと共に過ごした時間と、どちらが大切なのか。
    技術の進歩や時代の流れの中で、今までにない新しい親子関係が出てきた場合、どのように向き合っていけばよいのか。そのための「支援」とは何か。
    血がつながっていてもいなくても、家族の「形」とは、それぞれの家族がそれぞれのやり方で作り出していくしかないのだろう。
    さまざまに考えさせられる1冊である。

  • 2015年3月新着

  • たくさんの出来事と意見が収められています。もちろん単一の答えはありえません。ただし、出生前の「命の選別」はよくないこと、という点が多くの場合は前提となっているような気がします。が、それも含めて答えは多様と個人的には感じています。

  • 日本の妊婦の100%近い人が受けているだろう超音波診断。これも出生前診断だと言い切ればいいのに、なぜそう言わないんだろう?と思いました。
    羊水検査は望んだ人が受けることが多いけど、超音波診断は受けるかどうか希望を問わずに為されているところに大いに問題があると思うんだけど。
    超音波診断で四肢の異常が認められたり、赤ちゃんが夫婦の望む性別でないという理由で中絶されることはないのか、その辺は全然取材されていませんでした。
    がん検診もそうだけど、検査ならなんでも受けないより受けた方がいいという妄信はもう卒業して、どうしても必要な検査だけを選んで受けられるようになりたいものです。
    不妊治療をどこまでするか、養子を迎えることの抵抗をどう減らすかといった問題についても取材されています。多くの人の心情が集められ、正解は示されません。
    正解はそれぞれの心の中にあるということなのでしょう・・・・。

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