2008年版学習指導要領を読む視点

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  • 白澤社
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  • Amazon.co.jp ・本 (219ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784768479254

作品紹介・あらすじ

教育はどこへ向かうのか?今後10年の日本の教育に大きな影響を及ぼす改訂の問題点を読み解く。

感想・レビュー・書評

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  •  一昨年末だったわね、教育基本法が改正されたのは。世間の人々にとって教育基本法が変わったことなんて自分の生活には何の関係もないよね、という人たちはけっこういるでしょ。そ、フツーの人には何のことだかもよくわからないしね。でも、学校にもそう言う人はけっこういるみたい。あたしの学校にもね、
     「教育基本法がどう変わろうとこの子の置かれたきびしさは変わらない」
    なんて、顰めっ面で何かに浸っている御仁がいるわ。
     でもね、今年の春に学習指導要領が改訂になったでしょ。このために教育基本法を変えたんだと言えないこともないしね。なにしろ、小泉首相以来の新自由主義(弱肉強食)と新保守主義(親米国家主義)路線の教育改革がこの学習指導要領ではっきりしてきたんだと思うよ。
     それにしても現場だって、組合だって、ボッとしているよねぇ。まいったなあ、としか言いようがない。人権・同和教育もこの学習指導要領ではたいへんな危機になっちゃうんだ。少しはあせって欲しいな。で、いったい何が変わったんだろう。と思っても、学習指導要領を直接読んでもどこがどうなってんだかわかんないよね。そしたらこの本だよ。見た目もタイトルも購買意欲をそそらない地味ぃな本なんだけど、中身は半端じゃないのだな。
     昨今の解説書なんて、学習指導要領のまさしく解説であって、何がいいとか、悪いとか何にも書いてないよね。こんなふうに変わったので、これからはこうしましょうみたいな、毒にも薬にもならない書き方でしっかりかつ無批判に毒だけ注入するようなのばっかしだよね。ところがこの本はこの新しい学習指導要領に批判的な論客たちがそれぞれの視点で好きなように批判的に読み解いているのですよ。どうやら誰ぞが編集したと言うより、日本の教育改革の流れに危機感を感じた良心的な出版社が七人の侍ならぬ十三人のゴルゴ13を集めて書かせたものみたい。
     総論的な批判(ジェンダーの観点を含む)から各教科ごとの批判、それと今回の改訂の目玉の小学校英語や大きな柱になってる道徳教育なんかにもわたって全部で十三章ある。ずらっと並べてみるとこんな感じね。

     第1章 総論① 「教育改革」と学習指導要領の改訂(竹内常一)
     第2章 総論② 「車の両輪」とは何か(子安潤)
     第3章 総論③ ジェンダーの視点から読み取れるもの(木村涼子)
     第4章 国語 言語能力重視に内在する課題(阿部昇)
     第5章 国語(古典) 「古典重視」にひそむ危うさ(加藤郁夫)
     第6章 社会 社会科等における愛国心教育システム(小野政美)
     第7章 理科 「理科教育の充実」の意味(吉永紀子)
     第8章 家庭 家庭科の学習指導要領を読む(鶴田敦子)
     第9章 道徳① 道徳教育の貧困(松下良平)
     第10章 道徳② 「道徳」の構造的欠陥(藤井啓之)
     第11章 外国語活動 「小学校英語」を考える(寺島隆吉)
     第12章 総合的な学習 戦後史の中の「総合的な学習」とこれから(金馬国晴)
     第13章 特別活動 特別活動の終わり(新谷恭明)

     ほらほら興味あるところだけでも読んでみたくなるでしょう。自分に必要なところだけでも読んでいくといいわ。なにしろ今回の学習指導要領の改訂では学力の問題や愛国心教育をねらいとした道徳教育の強化なんかが全面的に出てきているのね。安倍元首相が言ってたように戦後民主教育を精算するものとして打ち出してきたのが今回の改訂なんだと思う。戦後民主教育ってかなり普遍的価値のあるものだったから、六〇年も続いてきたんだけど、教育基本法を変えてしまえば、あとはガタガタと崩れていきそう。この本が歯止めになるといいけど。


    ☆☆☆☆ 緊急出版なんだけどどれも実に内容が濃くって、すぐに役立ちそう(?)。あっ、役立つかどうかよりもこういうあぶない教育改革の時代に自分の教育観をきっちり鍛えることが必要だと思うの。そのためにヘンな解説書なんか読んじゃダメ。まずはこの本を読んで骨のある読み解き方を身につけなくちゃね。

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著者プロフィール

1935年生まれ
東京大学大学院修士課程修了、國學院大學教授、2005年に退職、名誉教授。
〈主な著書〉
教育・生活指導・子ども論に関するものとしては、『生活指導の理論』(明治図書出版、1969年)、『教育への構図』(高文研、1976年)、『若い教師への手紙』(高文研、1983年)、『子どもの自分くずしと自分つくり』(東京大学出版会,1987年)、『日本の学校のゆくえ』(太郎次郎社、1993年)、『学校ってなあに 10代との対話』(青木書店、1994年)、『竹内常一 教育のしごと』全5巻(青木書店、1995年)、『子どもの自分くずし、その後』(太郎次郎社、1998年)、『少年期不在』(青木書店、1998年)、『教育を変える』(桜井書店、2000年)、『おとなが子どもと出会うとき、子どもが世界を立ちあげるとき』(桜井書店、2003年)がある。
国語教育に関するものとしては、岡野弘彦・中野孝次・竹内常一共編『国語教材を読む1』(風信社、1979年)、同『国語教材を読む2』(同、1981年)、『読むことの教育』(山吹書店発行、績文堂出版発売、2005年)がある。

「2005年 『国語』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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