悲劇の軍艦 新装版: 海軍魂を発揮した八隻の戦い (光人社ノンフィクション文庫 361)

著者 :
  • 潮書房光人新社
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  • Amazon.co.jp ・本 (247ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784769823612

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  • 4-7698-2361-4  247p 2002・10・14 ?

  • 元海軍将校が描く、太平洋戦争において連合軍と死闘を繰り広げた8隻の艦艇の生き様と死に様。まるで艦に魂が宿っているかのように感じられるそれぞれのドラマに胸を打たれる。



    ⚪︎ミッドウェーの勝利 (潜水艦「伊号一六八」)
    空母4隻を失ったミッドウェー海戦で、米空母ヨークタウン撃沈を成し遂げ一矢報いた潜水艦の戦い。護衛駆逐艦を突破し、ヨークタウンに雷撃するまでの緊張感あふれる盲目航行と雷撃するタイミングの決断、そして空母をやられ怒り狂って追いすがる駆逐艦から逃げおおせるまでを描く。
    敵の本丸に忍び寄る緊張感と、それを乗り越えて絶好のタイミングを捉えて一撃で息の根を止めるカタルシスの瞬間。潜水艦の戦いの醍醐味を体現した艦だった。
    最後、艦長がサイダーでのささやかな祝杯を部下から勧められるという形で物語を締めるのが、達成感や、また、サイダーの爽やかなイメージと、長時間潜航での緊張感や濁った空気からの解放感とがリンクが感じられて良い。


    ⚪︎ソロモン夜戦の死闘 (軽巡洋艦「神通」)
    勇壮というよりは華奢で端正なシルエットとは正反対に、堂々と水雷戦隊を率いて、コロンバンガラ島沖海戦においては、敵を察知すれば集中砲火を浴びる危険を顧みず率先して探照灯を照射し、攻撃を受けて炎上し、艦体が断裂して前部のみになってもなお砲撃を止めず、敵の砲火を一身に吸収して配下の駆逐艦たちが攻撃する隙を作り出した戦いぶりが胸に迫る。


    ⚪︎空母直衛に死す (防空駆逐艦「秋月」)
    マリアナ沖海戦では遊弋する潜水艦の脅威にも関わらず、不時着した航空機の乗員を救助し、レイテ沖海戦では、空母「瑞鳳」へ向かう敵魚雷の前に立ちはだかり、沈没した。艦隊の守護者、消耗艦として設計されたその本分を全うした姿だった。自分の本分は何かを自覚し、それを実行できる勇気を見せた艦だった。


    ⚪︎オトリ部隊の気概 (戦艦「山城」)
    レイテ沖海戦。海軍に入ってこのかた、一度も陸上勤務の経験がないという船乗りの中の船乗りのような西村司令官を乗せた戦艦「山城」含めた西村艦隊は、「大和」「武蔵」などの栗田艦隊のレイテ湾突入のための囮として散った。栗田部隊に向けられるはずの砲弾を、魚雷を自分たちで吸収しよう、そうして彼らがレイテ湾に突入さえすれば、大戦果は間違いなしだという悲壮な決意のもと見事囮の役割を果たした西村部隊だが、本命である栗田部隊がレイテ湾に突入することはなかった。
    死を運命づけられた者たちの悲壮で勇敢な決意でさえ、報われることはないという戦争の無情さが悲しい。

    ⚪︎精鋭空母、比島沖に没す (航空母艦「瑞鶴」)
    真珠湾、珊瑚海、南太平洋と暴れ回った精鋭空母が、最後には練度の低い搭乗員や旧式機ばかりしか載せないまま、囮としてレイテ沖海戦で散っていくのが虚しい。


    ⚪︎ガ島輸送に任じた最速艦 (駆逐艦「長波」)
    敵艦を沈めるための魚雷を持ちながら、実戦配備されるやガダルカナル島輸送任務を命ぜられ、相手にするのは航空機、守るべき商船や、共に敵艦を葬るはずの僚艦は次々と沈められていく。米重巡群との遭遇により、ようやく本領発揮の機会が訪れるも、その後は再びオルモック輸送任務に就き、輸送船を送り届けた帰投中に遭遇したもう一隊の輸送船を護衛中に空襲により散った「長波」の最期は誰も知らない。ガダルカナル、レイテと、日本にとって最も厳しい戦いの中、休む暇なく輸送任務を戦い続け、空襲の混乱のなか誰に看取られることもなく姿を消した「長波」の最期には感傷を禁じ得ない。


    ⚪︎傑作条約艦ペナン沖に潰ゆ (重巡洋艦「羽黒」)
    この艦に関しても、ドラマチックなエピソードとかたくさんあるはずなのに、表面的な艦歴紹介みたいな感じで終わってる気がする。他の本とかだとペナン沖海戦で僚艦「神風」を逃がすために先行させて、自ら英駆逐艦を引き受けて沈没したという風になってるけど、この本だとまるで「神風」との連絡の齟齬でバラバラのうちに沈んじゃったみたいにも読める部分もあるし。
    連合国の条約重巡洋艦の追随を許さなかった性能を持ち、スラバヤ沖、珊瑚海、ミッドウェー、マリアナ沖、レイテ沖と主要海戦で活躍した艦が、最後は味方駆逐艦を逃がして、敵駆逐艦の群れに包囲されて終わりを迎えるのは、軍記物に出てくるような英雄武将の最期を思わせる。
    かたちがカッコ良くて好き。
    2014年の記事で、「羽黒」は、東南アジアの違法サルベージ会社によってクレーンで脆くなった部分が千切られてスクラップにされて売られてるらしい。


    ⚪︎斃れてなお主砲を仰ぐ (戦艦「榛名」)
    大日本帝国海軍有数の武勲艦の呼び声も高い戦艦「榛名」。高速戦艦として、開戦当初から他の金剛型戦艦3隻とともに太平洋を駆け回るが、姉妹艦は次々と海の底へと消えてゆき、残された「榛名」は重油の不足により動くこともままならず、港に停泊中に空襲を受け、大破着底した。しかし、「榛名」は最期の時にあっても武勲艦の意地を見せ、敵編隊の一番機や指揮官機を撃墜する活躍を見せた。そして、大破着底後も、「榛名」艦上には軍艦旗がはためいていたという。
    開戦当初はその速い足を活かして暴れまわり、足が動かなくなればその手にもつ武器で戦い続け、そして大破着底させられてさえも最後まで健気に闘志を消さなかったその姿が胸を打つ。



    太平洋戦争は惨めでみすぼらしい負け戦、この本に登場する艦艇たちも八面六臂の活躍をみせながらも、最後はことごとく海中に没していった。しかし、彼らの散り際にみせた、最後まで自らの責務を果たそうとする姿、他者のために自分を危険に晒す姿、最後まで戦うことをやめないその姿は、太平洋戦争の惨めな敗北の景色のなかで、ただその姿だけがただ美しい光を放っているように思える。しかしそれは、いのちが燃えつきる間際にみせる美しく悲しい輝きなのだ。どうかこれから、二度とそのような悲壮な輝きが発揮されるような時代が訪れることがありませんように・・・と願うばかりだ。

  •  この手のにいはいっつも潜水艦って出てくるけど、潜水艦は軍艦じゃないのに・・・と思ってしまってごめんなさい。しかし、潜水艦・駆逐艦・巡洋艦・巡洋戦艦・戦艦・空母と多岐にわたって読めたのは面白かった。随所随所に入る写真や図も良かった。最初に、地図で何処で何が沈んだのかと書かれていたので分かりやすかったです。
     着底した榛名の写真がまた哀しいながらも、堂々としていました。

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