戦争虚構と真実: 冷徹なる戦争論 (光人社ノンフィクション文庫 784)

著者 :
  • 潮書房光人新社
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  • Amazon.co.jp ・本 (261ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784769827849

作品紹介・あらすじ

一兵士として、ニューギニアの最前線で戦ったみずからの実体験を踏まえ、世上に流布、既成事実と化している「戦争の嘘」をするどい洞察力と精緻な分析力で分かり易く解き明かす。作意的な証言、恣意的軽率な判断で形づくられた「戦争の真実」なるものの虚構を凝視。公正な客観的歴史観を提示する太平洋戦争研究。

感想・レビュー・書評

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  • ニューギニア戦線を戦い抜いた兵士が、その目で見た戦争がある。戦後の様々なジャーナリズムによる「残虐非道な日本軍」というレッテルに筆者は真っ向から反論する。勝者によって語られるのは歴史の常であるが、我が国のように自国のマスコミが嬉々として自国を貶め例はあまりないだろう。なぜか。その理由は戦争責任を「一部の軍部」に押しつけて、自分はイノセントな被害者であったと思い込み、喧伝する責任逃れの姿勢にあるのではないだろうか。軍部の残虐性、狂気の様をあげつらうほど、それは特殊な人間の所業であって、自分たち銃後の人間には罪はないと信じることができるのだ。しかし本当にそうだったのだろうか?戦時中の朝日新聞をはじめ各マスコミは戦争を煽っていたのだが、それは政府による検閲や弾圧のせいだけだろうか?その前に一般的な国民と共に、戦争への熱狂があったのではなかったか。
    そうした歪んだ歴史観からは民族の誇りは生まれない。戦地で死んでいった無名の兵士たちも浮かばれないだろう。動機も戦略も間違っていた戦争であったのは確かだけれど、兵士たちの人間性までをも貶める必要なない。本書では「人肉食」「従軍慰安婦」というトピックにも触れ、その存在には懐疑的である。少なくとも筆者のいた部隊〜決して楽な戦場ではなく、極限に近い飢餓も経験している〜ではまったくその兆候はなかったという。それがあったのかどうかは分からないけれども、少なくとも一般的なものではなかったのではないかと思われる。
    歴史というものは何が真実だったのかを決定することは難しい。人間は俯瞰から全てを見渡すことなどできはしないのだから。どこまで行っても「少なくともこれは事実だったようだ」という曖昧な事象の積み重ねでしかないのかもしれない。ただそれでも筆者がこの本で伝えたかったことは、絶望的に過酷な戦地にあって、なお人間性を失わずにいた無名の兵士たちの存在を、偏見のない目で見通し、後世に伝えることだけなのかもしれない。それが生き残った人間の責務だと信じているのであろう。
    勿論、自分自身がその身を置いていた戦場を、客観的に観ることは難しいだろう。それでも筆者はその困難に挑戦し、鋭い洞察と分析を行っている。
    自虐に陥らず、しかし愛国心のあまり不都合な事実から目を背けることなく、 日本人が、日本人としての誇りを失わずに生きていく為に必要な冷静さと知性とをもって、先の戦争をもう一度捉えなおす必要があると思う。

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