陸軍航空隊全史: その誕生から終焉まで (光人社ノンフィクション文庫 802)

著者 :
  • 潮書房光人新社
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  • Amazon.co.jp ・本 (401ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784769828020

作品紹介・あらすじ

黎明期の青島航空戦に始まり、ノモンハン、中国戦を経て、太平洋戦争の本土防空に至る日本陸軍航空の総括!大正4年、所沢に初の航空大隊が置かれて以来、30年間の航跡。

感想・レビュー・書評

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  •  本書は,『陸軍航空隊全史』の題名の通り,日本陸軍航空隊の誕生から終焉までの30年間の航跡を,この一冊だけで一望できる稀有な書物であり,1987(昭和62)年に朝日ソノラマから単行本として発行されたものが,今般,光人社NF文庫から再版される形で発行されたものである.
     著者は,海軍航空隊の華々しい航空戦記が数多く出版されて広く知られているのに比して,陸軍航空隊の活躍が巷に知られていないという状況を受けて,これが歴史の中に埋没されぬうちに記憶すべく,本書を執筆したと,1987(昭和62)年当時に「あとがき」で述べているが,それから四半世紀を経て,改めて本書が発行に至った現実を見るに,その労力は全く報われたといえよう.
     さて,本書の内容であるが,飛行戦隊・飛行師団・航空軍というような,部隊単位での視点から,各戦闘――青島攻略戦,支那事変,ノモンハン事件,そして大東亜戦争での諸戦闘――を描く点がその特徴である.したがって,各作戦に於ける参加部隊の編成などは事細かに記載されており,その為に本文中では表が多数使用され,これは全部で49枚に及ぶ.この資料的価値は計り知れないものである.また,目立たないながら航空隊に於いて重要な役割を果たした飛行場大隊や,航空隊と同じく空を主戦場とした挺身連隊にも多くのページが割かれ,更に,海軍航空隊や陸軍地上部隊との関係性や,各部隊の指揮官の人間像とその人事,航空機を筆頭とした機材,或いはパイロットなど要員の教育など,極めて幅広い問題を取り扱っており,体系的に陸軍航空について知ることができる.
     ただ,問題点もある.その最大のものは,本文中に写真が1葉たりとも使われていないことである.無論,モーリス・ファルマン機やI-16,「剣」など,単語を見るだけで,その姿かたち,要目まで思い浮かぶような玄人読者ならば特に問題はないのかもしれないが(それでも,退屈ではあろう),それ以外の読者にとっては,例えば三式戦について「ドイツのメッサーシュミット109型を思わせるように格好いい」と文章だけ述べられたところで,苦痛でしかないであろう.潮書房光人社の発行する書物の,貴重かつ豊富な写真に期待するのは私だけではあるまい,これについては爾後の改善を願うものである.また,幅広い問題を取り扱う弊害として,どうしても記述が散漫としてしまう点も挙げざるを得ず,写真の問題と相まって,本書は上級者向けの感が強くなっている.
     しかしながら,『戦史叢書』のような“高嶺の花”に手が届かない戦史ファンにとっては,本書の価値は全く下がるものではないであろうし,機材の写真に限れば,他に良い資料が幾らでも存在するので決系的問題とは為らないだろう.また,各航空機やエース・パイロット,諸戦闘などの局所に焦点を当てた書物ならば,血沸き肉躍る素晴らしい航空戦史が幾つもある.
     繰り返しになるが,本書は陸軍航空の通史を,部隊単位での視点から読むことができる稀有な一冊なのであり,この点に関心のある読者には,一読する価値は十二分にある.また,蛇足ながら付言すれば,ウォー・シュミレーションゲームのプレイヤー諸氏にとっても,本書は心強い参考資料となることは間違いないであろう.

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