心理療法家の気づきと想像―生活を視野に入れた心理臨床

著者 :
  • 金剛出版
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  • Amazon.co.jp ・本 (280ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784772414524

作品紹介・あらすじ

セラピストのあり方とは?心理療法で最もだいじなこととは何か?心理的援助の技術を高めるためのさまざまな原則を事例に則して解説。

感想・レビュー・書評

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  • 有名な心理の先生の経験談やものの見方など、臨床的なことについての雑感が述べられている。少々観念的過ぎる。自分が経験を積んだ上でひとつひとつかみ砕かないと多分わからない系かもしれない。

  • 特に前半の、心理療法家の研鑽の手引き的な部分は、自分の中で指針になる

  • ・かつてフロム・ライヒマンの治療を受け、作家となったハナ・グリーンがライヒマンについて、自分が病から回復できたのは、何よりも治療者が予め抱いていた考えを喜んで捨ててくれたからであり、「彼女(ライヒマン)は、自分自身の理論を証明するために、自分の患者を利用しない優しい性質を備えていた」と語った言葉をこころに留めたい。

    ・今から半世紀近く前、私が家庭裁判所の調査官に入職した頃は、科学性、科学的という言葉が強調して語られていたように思う。数値化されたものに信憑性があるとみなす傾向があった。
    非行少年のロールシャッハ・テストのデータを統計的に処理して作成された、非行予測、再犯予測尺度なるものが注目されたり、夫婦関係調整事件では夫婦の和合度の可能性を知ろうとするテストなども試作されたりしていた。これらは基本的にベクトルが一方向へ向かうという考え方を元にしている。だが、私は非行を犯した少年たちに面接し、時に家庭や学校、職場などを訪問して、ことの判断にかかわる要因は多元にわたり、しかも多種類であり、意見書を作成するのに矛盾した要因をどう整理し、まとめるかにいつも呻吟していた。ベクトルの方向が一直線に向かう考え方で対処できるのは、環境要因に恵まれ、非行性も進んでいない少年のように思われた。

    ・人はさまざまな対象に自分の気持ちを仮託し、写し出す。中井は、投影の対象としての樹木の性質を次のように述べている。「樹木は一般に陽に向かって伸びる。身近であり、身体的自己の表象でありえ、主役的である。高さであり、明るい空間にある。白昼的、好日的、生命的、凝縮的、上昇志向である。大地に根ざし、影を作って保護する」。
    これは真に本質的指摘であるが、樹木が「ひと」をあらわすのにふさわしい特質がもうひとつあるように思われる。「樹木」は種が落ち初が成長する場所や移植された場所で、そこの風土の中で成育する。一方、人は自分の生物学的要因、親子や家庭環境、国籍など自分の存在の根幹にまつわる要因を何ひとつ選ぶことができない受け身の中でこの世に誕生し、自分の所与の要因を受け止めながら生きていく。

    ・シベリヤ抑留の記憶、飢えと過酷な労働、亡くなった戦友を凍土に埋葬する悲しみ、やがて次は自分が…という虚無と望郷の念…。それに先立つ戦時中の軍隊内での理不尽な下士官の暴行…。J氏は噛みしめるように言葉を選びながら話された。当時の生、その日、いやその一瞬の厳しい時間を生き延びさせ、凌がせたのは、消灯後、凍てつく宿舎の暗闇の中、故郷の家族、とりわけ母親の手作りのおはぎを思い出すことだった、という。「毎日、食べ物、甘いもの、それがとりわけ母親と結びついていました。抑留された仲間も食べ物と家族を結びつけて思い出話をしていました」「不思議でした。真っ暗で凍えそうに寒く、ひもじい、ベッドは硬い、でも、おはぎを口にしたときの感じ、桑を摘んできて母親に褒められたときのこと、思い出すと静かに眠れたのです…」と語られた。

    フォーカシング指向心理療法 上下 ジェンドリン
    回想法の実際 黒川由紀子
    心理療法の本質 川原隆造


    ・彼女は園長と新人で誠実だが不器用でことがうまく運べず、しばしばL子から罵倒されていたC先生の手をぎゅっと握ってじっと一点を凝視しながら、園長が手紙を読み上げるのに聴き入った。「ずっと離れていたけど、元気にすごしていますか。お母さんは今、遠いところで一生懸命勉強の毎日を送っています。あと四年たって、L子が六年生になる春休みに、私はまっすぐ一番にL子に会いに行きます。待っていて下さい。」
    L子は母親が服役中であることを悟ったようであった。大きく肩で息をしてから「あと四年だって…」と目をつぶって呟いた。
    やおら「私、四年たったらどんな子どもになっているのだろう、そうだ、どんな子どもになればいいか一生懸命考えてこれから暮らすの!」と叫んだ。園長はL子をしっかり抱き寄せながら、「どんなL子ちゃんに育ってるか、楽しみ」と語りかけた。

    ・土居健郎は真髄を説いた著書の中に、相手のこころを理解することの難しさ、大切さを現した格言、「伝えられたものを伝えられたままに受け取ることは教養である」(ゲーテ)を引用している。

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著者プロフィール

一般社団法人日本心理研修センター代表理事・理事長。大正大学名誉教授、同大学客員教授。北翔大学大学院客員教授。
臨床心理士。博士(文学)。専門は臨床心理学。
1959 年奈良女子大学文学部教育学科心理学専攻卒業。1959-65 年家庭裁判所調査官(補)、1962-63 年カリフォルニア大学大学院バークレイ校留学。1965 年大正大学カウンセリング研究所講師、1993-2008 年大正大学人間学部および同大学大学院人間福祉学科臨床心理学専攻教授。2008 年北翔大学人間福祉学部教授、大正大学名誉教授(2009 年より客員教授)。
近著『聴覚障害者への統合的アプローチ』(日本評論社、2005 年)、『新訂増補 子どもと大人の心の架け橋』(金剛出版、2009 年)、『心理療法家の気づきと想像』(同、2015 年)、『ジェネラリストとしての心理臨床家』(同、2018 年)など。

「2019年 『子どものこころに寄り添う営み』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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