言語が違えば、世界も違って見えるわけ

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  • Amazon.co.jp ・本 (337ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784772695336

感想・レビュー・書評

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  • かなり面白く読める内容。言語決定論を肯定する本としても希少な気がする。
    時代が時代なら、梵書の対象になったり、パリ言語学会の不受理対象の論文になっていたかもしれない、苦笑。

    言語そのものが文化に、文化が言語に影響しあうのでは?という仮説を、語彙論と意味論、語源学を引合いにだして明らかにしようする。

    前半半分と締めに色の話。
    色をどう感じ取っていて、その認知に言語が与える影響を客観的に測る。まさに世界が虚構ではないことを証明できないパラドックスのアレ!とはいえ、ちょっとは分かってきているよ、という救い。

    言語決定「学・論」は、まだ言い過ぎなのは納得できた。言語決定仮設だね。良書でした。

  • <「多彩」な言語学の世界への誘い>

    門外漢なので、言語学というのは論理学とか記号論とかそんな感じなのかな?と漠然と思っていた。本書を読んで堅いイメージがずいぶんとカラフルな親しみやすいものに変わった。比較文化人類学のようでもあり、認知心理学のようでもあり、また脳科学のようでもあり。実に多彩で可能性を秘めた学問のように思える。
    言語学者である著者は、そんな学問の横顔を、興味深い数々のエピソードで楽しく描き出している。
    その発展に寄与した言語学者も何人か登場する。世に科学者の評伝は数多いが、言語学者の列伝にはなかなかお目にかかれない、と思う。

    色彩の認識。音素の複雑さ。時制や格。自己中心座標と地理座標。男性名詞・女性名詞。
    さまざまな話題に触れられているが、個人的に興味深かったのは以下の話題:
    ・オーストラリアのグーグ・イミディル語の話し手は地理座標を元に位置関係を語る。これは、幼少時から、自分がどちらの方向を向いているのか訓練を重ねていることにもよるようだ(cf. 『イマココ』、『ソングライン』)。*グーグ・イミディル語の語り手とアボリジニが重なるのかどうかがよくわからなかったのだけれど。
    ・男性名詞と女性名詞を持つ言語を使う詩人が作る詩には、その名詞に伴う「性」のイメージまでも内包された豊かな情景が宿っている。名詞のジェンダーを失ってしまった言語に翻訳したときに、そのニュアンスは消えてしまう。

    言語と言語を比較するというのは、非常に複雑で困難なことなのだと思う。
    直感的に、日本語で考えるときと英語で考える(拙いのだが)ときでは発想が変わるような気がしているが、実はそれは言語のせいではなくて、例えばアメリカでは一般に、はきはきと主張しなければならないというような、そんな文化の背景が影響しているのかもしれない。
    言語は言語だけを切り離せるものではないから、解明はそれほど単純ではないのだろう。

    現実的でもないし、科学的でもないが、もしも100や200の言語を自在に操れて、自分がそれぞれの言語を使うときにどのように感じるのか、いわば内からの観察ができたらおもしろいのだろうな、とちょっと思ったりする。

    本書では言葉をレンズや鏡にたとえている。
    言語は牢獄という言葉も出てくるが、個人的には、牢獄のように囲うものというよりも、道具のように使い方次第のものなのだと思う。使いようによって枷にも翼にもなるものなのではないかと感じている。

    この分野、まだまだ鉱脈がたくさん眠っているように思える。著者のような、専門家でありつつ、一般読者の興味を上手に呼び覚ますような書き手が、またその後を教えてくれるのを待ちたいと思う。

    • 猫丸(nyancomaru)さん
      「言語学者の列伝」
      これだけでも読む価値がありそう。。。
      外国語挫折者なので、全然なのですが言葉は好きなので黒田龍之助の本とかは読んでます。...
      「言語学者の列伝」
      これだけでも読む価値がありそう。。。
      外国語挫折者なので、全然なのですが言葉は好きなので黒田龍之助の本とかは読んでます。
      http://www.hakusuisha.co.jp/essay/kuroda.html
      2013/01/10
    • ぽんきちさん
      nyancomaruさん

      > 黒田龍之介
      ご紹介ありがとうございます。
      ずいぶんいろんな言語に取り組んでいらっしゃる方ですね。
      スワヒリ語...
      nyancomaruさん

      > 黒田龍之介
      ご紹介ありがとうございます。
      ずいぶんいろんな言語に取り組んでいらっしゃる方ですね。
      スワヒリ語とノルウェー語とインドネシア語って、むちゃくちゃ違いそうです。
      すごい。
      2013/01/10
  • (15-38) 題名から予想した内容とはちょっと違っていたが、言語学の歴史が色を切り口にして熱く語られ、ふ~ん、へぇ~と大変面白く読んだ。色以外にも時間や方角・方向など私が普通に言葉として思い浮かべるものとは違うことを材料にして、言語による受け取り方の違いが研究されているとは知らなかった。
    全部理解できたわけではないがどんどん読めたのは、語り口が軽妙でユーモアに富んでいて、人間ドラマとしても読ませる話が散りばめてあったから。読んで良かった!

  • 高校生の頃にふと思った「私の赤は、他の誰かにとっても同じ赤なのか」問題、全く同じ疑問を持って、著者が10代の頃に友人と徹夜で話したというエピソードが出てきて笑った。脳内の画像をそのままのイメージとしてやり取りできる装置が開発されない限り、自分の赤が本当に万人にとっての赤なのかは、誰にも判らない。

    同じ「赤」でも完全な同一性の証明はできないのだから、言語が違えばそこにどれだけの差が出てくるか、想像に難くない。古代には「青」が無かったとか、言語体系として「青」「緑」の差を持たないとその2色(という概念が無いんだもんね)の分類に遅延が出るとか、生活圏の違いによる地理の把握の仕方の差異とか、生活から言語が生まれて、その言語がまた生活を決めて行くというのは面白い。そういえば日本にも都/地方へ向かうことを「上る」「下る」っていう本来とは違う意味で使う言葉があったな。
    個人でも文化でも「差異」をあたり前だと思えたら、いろいろとスムーズに行くような気がする。

  • ホメロスの詩における色彩表現の研究から、文化人類学、そして脳科学まで、人間の言語と認知がどのように関わり合い、それらによって社会がどのように作られてきたのか(あるいは逆に、どういった社会が、人間にいかなる言語と認知を要求するのか)について、言語学の歴史と論争を追いながら、事例をまとめた本。

    たとえば、古代ギリシア作品・旧約聖書・古代インド経典など、地域に関わらず、それらの時代の作品群には「青」という色彩表現は存在しないという。こういった研究から、人類にとって「青」は「黒・白・赤」よりも言語化に時間が必要だった推測されている(「緑」や「黄色」は「青」よりもさらに言語化されにくいらしい)。

    また、「前後左右」という言語表現を持たない民族は、その一方で「東西南北」について、常に認知しながら生活しているという。(ただし、植民地化により、その民族言語は失われつつあり、同時に特有の方向感覚もその民族から失われつつある)

    本書では、「言語を持たないからといって知覚できていないわけではない」という解説もされつつ、「言語は知覚に影響を与えている」という強い可能性も示唆されている(例えば色彩を知覚するときは、言語を司る左脳が活発になるそうだ)

    特に後半は複雑な構成だけれども、無理に結論付けず、不思議そのものを楽しみながら読むのが良いと思う。

  • まず、プロローグが秀逸。
    なかなかの分量だが、著者がこの本で試したいことを充分不可欠に語りながら、なおかつ読み物としても成立している。

    全体的に、言葉というものに少しでも興味を持っている人ならば面白く読み進められる内容。
    特に私は大学の専攻が認知心理学だったので(といってもほとんど勉強などしていないが…)、Part 2ブロックはまた違った側面からの関心も持って読むことができた。
    言語はどんなものであっても生来の枠組みに拠って起こるだけのものではなくて、それが時には鏡となり、時にはレンズとなって、特に文化的慣習を中心とした人間の思考にも影響を与えるものなのだ、というのがざっくりとした主張だとは思うが、実はガイ・ドイッチャー氏がその"影響"の存在を認めているヴォリュームはそれほど多くない、というのが率直な感想。
    言語の違いが思考や習慣を変える要素はあるが、それはあくまでもごく限られた分野においてのみで(少なくとも科学的に解明されているのは)、本質的には人間はどの言語を使い、どの国に住もうが同種の生物であるから、その根元的な精神性に大きな差異はない、言語の影響を過大評価してはいけない、というのが本当に著者が伝えたいことなのではないだろうか?

    一つ、不満というか消化不良な部分を挙げるとすれば、言語と思考の関係性について、もう少し文法面から探った深い考察を知りたかった。
    とりわけ日本語を母語とし、普段からこの種の疑問を抱えている私にとって、ヨーロッパの大多数の言語と異なる語順が、日常の思考パターンにおいてどのような影響を及ぼしているのか、という見解を読んでみたかったのだが、それについては著者も本書中で、文法については深く触れない、と言明している以上仕方ないか。

    また、特に第6章なんかにおいて顕著だが、既に過去の理論として広く否定されているものに対してさらに否定を重ねる、その語調が必要以上に手厳しいような気がしたのだが…。
    何か私怨でもあるんじゃないか? と思うぐらい。

  • さまざまな言語の違いが、それぞれの文化からいかに影響を受けているか、また、そんな言語の違いが、人の思考に如何に影響を与えているかを解説した本。
    言語間の違いを考えることがともすれば言語社会の優劣をつけることにつながっていた時代が過ぎ、逆にそんな差別を避けようと違いすら見ない振りをしている昨今の言語学に、「それは違うんじゃない?」と提言しているようにも感じられました。
    ひとつひとつの例が身近でかつ驚きに満ちているので、見た目よりも読みやすかったです。
    もっといろんな言語について知りたくなる一冊でした。

  • 閉じた扉の向こうで行われている、闇を手探りし続けるのは報われない作業であり、理解の光が差すまで休んでいようという誘惑に抗するのは難しいからだ。したし。もし私たちがこの誘惑に負けたら、あなた方の世界は永遠に来ないだろう。

  • 自然が明確な境界線を引いたところでは、文化が介入する余地はない。自然が引いた境界線にわずかでも不明瞭なところがあると、直ちに文化が侵入し、概念の識別に差が生じる。言語は、どのような情報の伝達を可能にするかによってではなく、どのような情報の伝達を強制するかによって、人間の認知に影響を及ぼす可能性がある。2012年12月16日付け読売新聞書評欄。2014年1月12日付け読売新聞書評欄「空想書店」で円城塔が挙げた5冊に入っていた。

  • 原題:Through the Language Glass: Why the World Looks Different in Other Languages
    著者:Guy Deutscher(1969-)
    翻訳:椋田直子


    【版元】
    http://www.intershift.jp/w_gengo.html


    【個人的メモ】
    ・原著は2010年刊行。言語学系の啓蒙書として面白い。
    ・欧米の学説史の文脈について、もう少し説明がほしい。
    ・言語学者の先生に伺ったところ、本書にも怪しい部分があるので、すべてを鵜呑みにせず(話題を人に話す前には)調べるように、とのこと。
    ・本書では、文化相対主義を奉じ言語相対論に(現在から見れば迂闊な形で)飛び付いた人びとが一蹴されている。


    【目次】
    プロローグ:言語と文化、思考 [006-033]

    ◎Part(1)言語は鏡
    第1章 虹の名前 ホメロスの描く空が青くないわけ
    「葡萄酒色の海」のミステリー 036
    古代ギリシャ人は色弱だったのか 051

    第2章 真っ赤なニシンを追いかけて 自然と文化の戦い 
    色感は進化する? 056
    キリンの首 066
    心の目 072

    第3章 異境に住む未開の人々 未開社会の色の認知からわかること
    色の違いと色の名前 077
    人類学のガリレオ 083
    三つの思考実験 088
    文化の勝利 097

    第4章 われらの事どもをわれらよりまえに語った者 なぜ「黒・白、赤…」の順に色名が生まれるのか
    驚くべき発見 101
    制約のなかでの自由 114
    色彩を超えて 120

    第5章 プラトンとマケドニアの豚飼い 単純な社会ほど複雑な語構造を持つ 
    文明の進んだ言語のほうが複雑か 125
    社会が単純なほど、多くの情報を単語内で表現 140
    大きな社会ほど新しい音素が出現しやすい 148
    複雑な社会ほど従属節に依存しがち 149

    ◎Part(2)言語はレンズ
    第6章 ウォーフからヤーコブソンへ 言語の限界は世界の限界か
    言語相対論――世界を知覚するレンズ 162
    ヴィルヘルム・フォン・フンボルト、登場 165
    「落ちる」という動詞のない世界 172
    ホピ族の時間感覚 177

    第7章 日が東から昇らないところ 前後左右ではなく東西南北で伝えるひとびとの心
    カンガルーとグーグ・イミディル語 197
    自己中心座標と地理座標 201
    鼻を南に向けて泣く 205
    海側の頬にパン屑 211
    絶対方位感覚 214
    記憶ゲームでわかること 219
    相関関係か因果関係か 231

    第8章 女性名詞の「スプーン」は女らしい? 言語の性別は思考にどう影響するか
    「ウーマン」は男性? 「飛行機」は植物? 241
    男性名詞・女性名詞の影響を確かめる実験 260
    言語の性別、その豊穣な世界 267

    第9章 ロシア語の青 言語が変われば、見る空の色も変わるわけ
    日本のアオ信号 270
    脳を覗いてみる 280

    エピローグ:われらが無知を許し給え [289-297]

    謝辞 298
    原注 (01)
    参考文献 (13)
    補遺 [色:私たちの目の仕組み] (27)
    解説 334

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