人類進化の謎を解き明かす

  • インターシフト
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  • Amazon.co.jp ・本 (344ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784772695510

作品紹介・あらすじ

・・ヒトの心や社会ネットワークはいかに進化したか?・・

私たちはいかにして「人間」になったのか、
心や社会ネットワークはどのように進化したのか――
謎を解く鍵は、「社会脳」と「時間収支(1日の時間のやりくり)」にある。

この新たなアプローチによって、類人猿から現生人類まで、
進化のステージが初めて統合される。

・人類進化の鍵は、「社会脳」と「時間収支」が握っていた。
・人類の脳の増大についての通説は間違っている。
・ネアンデルタール人の絶滅は、脳と緯度の関係に注目せよ。
・なぜ言語や音楽が生まれたのか。
・肉食や料理は、進化とどうかかわるか。
・ヒトは本来、単婚なのか、多婚なのか。
・複雑なヒトの社会やネットワークはいかに生まれたか。
・「死後の世界」と宗教の役割

・・ダンバー数(気のおけない仲間の数は150人)で知られる著者による
驚きの知見満載の最新作!

::著者:: ロビン・ダンバー
オックスフォード大学の進化心理学教授。
ダンバー数や社会脳仮説の提唱者として知られる。
邦訳書は『友達の数は何人?:ダンバー数とつながりの進化心理学』、
『ことばの起源』、『科学がきらわれる理由』。

::訳者:: 鍛原多惠子
翻訳家。訳書は、エリザベス・コルバート『6度目の大絶滅』、
マイケル・コーバリス『意識と無意識のあいだ』、マット・リドレー『繁栄』など多数。

::目次::
第1章: 人類とはなにか、いかに誕生したのか
第2章: なにが霊長類の社会の絆を支えたか
第3章: 社会脳仮説と時間収支モデル
第4章: アウストラロピテクス――時間収支の危機をどう解決したか
第5章: 初期ホモ属――脳の増大をもたらした要因
第6章: 旧人――料理と音楽、眼と脳
第7章: 現生人類――なぜ繁栄することができたのか
第8章: 血縁、言語、文化はいかにつくられたか
第9章: 新石器時代以降――私たちが「人間」になった理由

::絶賛::
心のはたらきについて素晴らしく力強く説明してくれる。必読!
――『ニューサイエンティスト』

感想・レビュー・書評

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  • 摂食と移動、社交、休息に必要な時間収支モデルを使って、人類の進化を考察する。霊長類では、社交時間と集団規模は正比例する。生息地の豊かさ(降雨量に依存する)と集団の規模によって移動時間が決まり、それが大型霊長類の生物地理学的分布の制限要因となる。

    人差し指の長さの薬指に対する比率(2D:4D)は、胎児が子宮内でさらされたテストステロン濃度の影響を受ける。オスどうしがメスを争う多婚種では2D:4D比が小さく、単婚種では1に近い。体の大きさの性差ともあわせて、現生人類につながる種はどれも多婚だったと思われる。

    アウストラロピテクスが生息した土地での予測時間収支を合計すると、7%超過する。これを、食性を変えること(肉、骨髄、シロアリ、根や根茎)、水辺や洞窟で暮らすことによって解決していた可能性がある。また、チンパンジーよりも、ヒヒに近い食べ物探しをしていたと推測される。

    初期ホモ属(原人)は身体と脳が大きくなり、大きくなった脳は共同体が大きくなったことを意味するので、時間収支はエルガステルで30%、エレクトスで34%超過する。エルガステルが出現した180万年前に、熱帯アフリカの気温が2℃下がり、休息時間を減らすことができた。歩幅が大きくなったことにより、移動時間を短くできた。火を使った証拠が豊富に見つかるようになるのは50〜40万年前からで、これ以前は料理が習慣にはなっていなかったと思われる。笑いはエンドルフィンの分泌を促し、3人まで影響を与えるので、社交時間を減らした可能性がある。

    ハイデルベルク人の脳容量は、30万年前に飛躍的に増えた。火を使いこなす時期の後なので、肉を料理したことが要因と思われる。ネアンデルタール人は、網膜から入ってくる情報を処理する後頭部が発達しており、眼窩が現生人類より20%大きいのは、高緯度地帯の弱い日射しに適応したためかもしれない。共同体の規模は、ハイデルベルク人と同じ約110人で、前頭葉は大きくなかった。多くの人を巻き込み、タイミングを合わせるリズムによって共時性が得られる音楽によって、社交時間を減らした可能性がある。

    火を灯として使うことで、活動時間を伸ばすことができた。解剖学的証拠からは、発話能力は50万年前に旧人とともに進化したようだ。言語に不可欠なメンタライジング能力は、眼窩前頭皮質の容量と相関があり、アウストラロピテクスは2次、初期ホモ属は3次、旧人は4次、現生人類は5次の思考意識水準にあったと推測できる。遺跡で見つかった道具から原材料の移動距離は、ネアンデルタール人では70%が25km未満だが、現生人類では60%が25km以上で、より大規模な社会ネットワークがあった。衣服に付くヒトジラミは、頭髪に付くアタマジラミから進化し、DNAの変異によると、10万年前から衣服を身に着けるようになったことがわかる。

    方言は、出身地が同じであり、互いに血縁のある人々の共同体を特定することに役立つ。病気の温床である熱帯では小さく結束の強い共同体を形成するが、植物の生育期が短く、盛んな交易関係が必要な高緯度地域では、集団の規模や同じ言語が話される地域が大きい。

    新石器時代の定住地の人々は、同時代の狩猟採集者より小柄で、農業による栄養の推定回収率は食べ物探しよりかなり低いことから、定住に転換した背景には、きわめて深刻な理由があった。共同体の存続期間は、構成員に要求する犠牲の大きさに比例する。酒は大量のエンドルフィンの分泌を促す。オオムギとヒトツブコムギは、パンではなくビールをつくるために栽培されたらしい。神を熱心に信じる人は、他人に対して親切に振る舞い、集団の規則を守る傾向が強い。

    これまでの人類進化の議論は、主に脳の拡大がいかにして実現されたかといった点に注目されてきたが、本書は、脳の大きさと集団規模、活動時間を包括的に考察している点が画期的だ。特に、集団の規模が大きくなることによって必要になる社交の増大を、笑い、音楽、言葉、酒によって解決してきたとする考察は、それぞれの発生時期の議論は残るものの、これらが現代社会でも大きな役割を果たしているという意味で興味深い。

  • 人類進化の起点となった革命は何か?

    二足歩行?
    言語、道具や火の使用?
    それとも農耕の発明?

    著者は真の革命は"定住"と"単婚"にあったと答える。
    面白いのは、どちらも積極的に選んだというより、止むにやまれぬ事情から踏み出したというのが実情に近い。
    しかもそれは元に戻せない、不可逆の道だった。

    まず、定住から。
    この理由は単純で、ズバリ襲撃に対する備え。
    ちなみに農耕が発明されるのは、定住の開始から数千年後のこと。

    じゃあ、何が止むに止まれぬだったかと言うと、定住地に人びとがけっして進んで集まってきたわけではないからだ。
    狩猟採集時代より食べ物が粗末だし、決定的に栄養不足。
    しかも高密度で暮らすのは相当な心理的ストレスで、メスにとってそのコストはきわめて高かった。
    このコストを分散するためもあってか、安全のため集団で暮らしたい気持ちと、離合分散したいという気持ちの妥協が、狩猟採集社会だったのだ。

    しかし、踊りや歌、言語を用いた物語、そして宗教が、これらのストレスを解消し、適切な規模をもつ共同体の社会的つながりを促進するメカニズムが完成して、定住は一気に加速していく。
    こうして社会的ストレスが解消されると、集団はさらに大規模化していった。

    移住から定住へという流れとともに、多婚から単婚への転換も画期的だった。
    しかも単婚も、行動や認知に重大な変化を要求する、きわめて特殊な進化状態で、ひとたびこの状態に入ると、もう後戻り不能。
    認知上の要請から脳がいったんそのように配線されたら元に戻るのは難しい。

    何が起こったか?
    まず多婚社会で、一緒に食べ物探しをするメスの数が少数の場合、オスが社交的になる理由はない。
    なぜなら、交尾を求めてさすらうオスにとって利点などないからだ。
    ただ、メスの密度が増し、彼女らが食べ物探しをぞろぞろと集団で行ない始めると事態は変わってくる。
    そうなると、オスにとって社交的であることは進化上有利に働くためだ。
    そして集団のサイズが大きくなると、子殺しの脅威が劇的に増え、メスはオスに用心棒として保護求め、駆け落ちに似た形で1組のペアが生まれ、永続的な関係を開始する。

    つまり、子殺しのリスク回避が、単婚という特殊な配偶体制を生み出したのだ。
    単婚は同時に同性への不寛容と縄張り意識を生む。
    のちに定住地の規模が増大すると、男性の目を盗んで配偶者の女性と浮気しようとする者が出始める。
    これによりヒトは、言語に基づいた形式的な婚姻契約を進化させるキッカケとなった。

    相手かまわず交尾したりする種に比べて、単婚種は脳が大きい。
    脳の大きさは、人類の進化を可能にした基本的原理の1つだ。
    もう一つは時間収支。
    一日のうち活動できる時間は限られていている。
    主要な活動(摂食、移動、休息、社会的関係の形成)にどう時間を割り振るか。
    脳が大きくなると、その脳を維持するために摂食に費やす時間が増える。
    すると、移動や社交に費やす時間が減ってしまう。
    つまり、集団の規模が大きくなれば脳も大きくなり、それに応じて時間収支の調整が必要になってくる。
    相互に連関しあっているのだ。

    脳は成長と維持にきわめて高いコストがかかる。
    脳はその質量を維持するのに必要なエネルギーの約10倍ものエネルギーを消費する。
    脳のエネルギーをまかなうためには、十分な食べ物を手に入れる必要があり、限られた時間で効率よく食べ物を見つける戦略が必要になる。
    同時に我々は、ネットワーク内の仲間に、どのように自分の社会関係資本(時間と情動)を振りわけるかにも心砕かねばならない。
    時間が足りるのか?
    なぜ、協力して守るべき地域を唐突に広げて、共同体を拡張し、各個体が大きな脳のコストを払う羽目に陥ったのか、と愚痴りたくなってくる。

    死中に活を求めた結果というわけではないだろうが、時間収支を劇的に改善する方法を見つけていく。
    それが"笑い"であり、"言語"なのだ。
    "笑い"は、それまで1対1の行為だった"社会的毛づくろい"を、同時に複数人に行なえる行為に変えた。
    しかも"言葉"があれば、"笑い"はもっと効果的になる。
    それまで一種の合唱でしかなかったのを、言語が進化させることで、"笑い"の性質は永遠に変わった。

    言語の副産物として生まれた"冗談"も、志向意識水準の次元が高くなければ理解できないことを考えると、認知に与えた影響は大きい。
    なぜ、これほどの言語があり、かつ無数の方言があるのだろう?
    それは言語が、小規模で排他的な共同体をつくるために進化したためだ。
    決して技術にかかわる情報を交換するためのものではなかった。

    歌や踊り、宗教、はては料理の発明も、脳容量の増加に寄与し、社交時間を増加させ、時間収支を改善させる。
    それがまだ集団の規模を拡大し、脳の容量を増大させ、と正のフィードバックを繰り返す。

    脳の容量の増加と言うが、問題なのは頭蓋容量ではなく、新皮質、すなわち前頭葉の容量のこと。
    ここで違った箇所を増大させたのは、ネアンデルタール人だった。

    ネアンデルタール人の後頭部には「出っ張り」があるが、ここには視覚処理を担う後頭葉がある。
    彼らは、私たちよりずっと視覚に頼って生きていた。
    なぜか?
    それは彼らが暮らした場所に関係がある。
    冬は日が短く、夏も日射しが弱い高緯度地帯での生活は、大きな負担を視覚に強いた。
    弱い日射しに進化が出した答えは、視覚系の増大だった。
    大きい網膜をもっていれば、日射しが弱くてもより多くの光を集められる。
    大きい網膜はそれを入れる大きな眼球を必要とし、その結果、彼らの脳は全体から見れば不釣り合いなほど視覚に特化したのだ。

    じゃあ、なんで同じように高緯度地帯に暮らしてる現生人類は、そうならなかったのか?
    我々も、社会認知にきわめて重要な働きをする、脳の前方領域の発達がおろそかになってもおかしくなかったのでは?
    まぁそれは、俺たちがアフリカから出るまでに、十分発達させてたからだよ、と。
    ネアンデルタール人の言語は精巧でないし、志向意識水準も我々より劣る。
    彼らが残した文化はたいしたことはなく、メンタライジング能力にも欠けるから、ネットワークは狭く、先を見通す能力もお粗末だった。
    そのため絶滅は避けられなかったんだろうね、と。

    どうだろうな。

  • ちょっと時間がたつとあっという間に謎は謎ではなくなる。
    でも私が仕入れた知識の源はこの本だったのかと思いました。
    ちょっとだけわかりやすくした論文か教科書を読んでいる気がした。友達の数は何人のほうが面白かったし読みやすかったです。

  • 放送大学

  • 狩りの時間、食事の時間、毛繕いの時間などを含む、総時間収支という考え方は興味深かった。

  • どうだったっけ

  • 献本にていただく。

  • 多くのパラメータを「社会脳仮説」と「時間収支モデル」の2つに収束させることでこれだけスッキリと人類の進化を捉えられるというのが面白い。
    あくまで仮説やモデルであり、新たな考古学的発見によって修正を余儀なくされることもあるだろうが、非常に俯瞰的な取り組みに思える。

  • 配置場所:摂枚普通図書
    請求記号:469.2||D
    資料ID:95160962

    ヒトの心や社会ネットワークはいかに進化したか?私たちはいかにして「人間」になったのか、心や社会ネットワークはどのように進化したのか―謎を解く鍵は、「社会脳」と「時間収支(1日の時間のやりくり)」にあります。「ダンバー数」で知られる著者が、人類進化のステージを初めて統合しています!薬学生の必読書です。
    (生化学研究室 大塚正人先生推薦)

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著者プロフィール

オックスフォード大学の進化心理学教授。ダンバー数や社会脳仮説の提唱者として知られる。邦訳書は『友達の数は何人?』『ことばの起源』『科学がきらわれる理由』。

「2016年 『人類進化の謎を解き明かす』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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