心を操る寄生生物 : 感情から文化・社会まで

  • インターシフト
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  • Amazon.co.jp ・本 (328ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784772695558

感想・レビュー・書評

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  •  知られざる、ショッキングな寄生生物の生態に圧倒される本。
     ヒツジの胆管の中でしか有性生殖ができないため、アリの脳の中に入り込む虫がいるという。その虫に感染されたアリは、昼間は他のアリと変わらないのに、夜になっても巣に帰らずに草の葉のてっぺんに登って草を食むヒツジに食べられるのをじっと待っている。アリは操られていることに気づかず、朝になると何事もなかったかのように巣に戻るという。
     また別の寄生生物は、神経化学物質でコオロギの行動を操作して、交尾ができる水辺に向かわせ飛び込ませるという。ほかにも何ともグロテスクで耳を疑うような寄生生物の生態が冒頭から次々と紹介され、おぞましくもページを繰る手が止まらない。

     なかでもいちばん衝撃的だったのは、ネコから人間に感染するトキソプラズマ原虫というもので、世界中の人口のおよそ30パーセントの人々が感染しているという。これに感染すると統合失調症に近くなり、自殺をしたり交通事故に遭う確率が高くなるという。
     歴史的にも人間がネコをペットとして飼い始めてから統合失調症が急増しているということを聞くと、実際にネコを飼っている人やペット業界に限らず、現代に暮らす我々を相当不安にさせる。

     人間の身体にも生まれたときから寄生生物が住み着いている。というより、人間と数千種の微生物は共生しているともいえる。
     近年になって、脳が人体をコントロールしているのではなく、臓器そのものがお互いに信号を出し合って制御しているという事実がわかってきたが、本書では腸が最も原始的な脳であることに言及し、そこで生息する腸内細菌の移植によって人格そのものまで変化することがあるというから驚きだ。

     そこからさらに著者のイメージは広がり、生物が根源的に持つ、感染に対する不安や嫌悪感が、人間関係のいざこざや引いては戦争を引き起こす原因になっているかもしれないという。後半はやや想像力を働かせすぎと感じたが、目に見えないほど小さい微生物によって我々の行動が操作されている可能性を思うと、すべての自然が持つ意図に畏怖すら覚える。

  • 人間や動物の体に棲む微生物が、宿主をコントロールするというお話し。

    トキソプラズマという寄生虫に感染されたネズミは、猫に対する恐怖心が薄れて猫に近づき食べられる。そして猫に寄生したトキソプラズマは、フンを介してまたネズミに戻るらしい。またインフルエンザウイルスに感染した人は一時的に社交的になるらしく、知らず知らずのうちに人混みでウイルスをばらまいてしまう。

    つまり寄生生物は宿主を巧みに操縦して、上手いこと自分たちの子孫を残しているという話なのだ。もしかしたら普段の行動や生活パターンも、自分の意思で決定していると思い込んでいるだけで、実は寄生虫や腸内細菌の命令なのかもしれない。

    しかしピロリ菌の除去と肥満の関連性やヨーグルトの整腸作用を考えると、すべての微生物が人体に有害というわけではないので、あまり神経質にならず上手に付き合えばよろしいんじゃないでしょうかね。

  • 衝撃的だった。寄生生物は宿主から栄養を摂取する程度と今まで思い込んでいた。また、気持ちの悪いもんだ、ぐらいの認識だった。まさか、脳に入り込み、行動を変化させることがあるとは、思ってもみなかった。
    腸内細菌の働き、影響も驚きだ。

  • 刺激的なタイトル同様、刺激的な内容でした。寄生虫が人間の脳を操っているなんて、そんなバカな、と思っていても、本書を読み終わる頃にはそのマサかを信じ込まされているでしょう。よく考えたら、カフェインをはじめとしてドラッグで我々の気分だとか考え方、行動が影響を受けることを認めるなら、同程度に少なくとも我々の気分やら行動が、体内にいる寄生虫や微生物に影響を受けてもおかしくないし、あり得そうです。最近はやりの第二の脳と呼ばれる腸と微生物との関係やら、はたまた感染への脅威が遺伝子を通して嫌悪感情、宗教やら文化、道徳を形作るというアイディアなどが紹介されていて、非常に刺激的な一冊でした。少なくとも人間の嫌悪、社会道徳、偏見などは、歴史的には寄生虫への感染の脅威を取り除くために進化してきたろうし、それらを変えるには、感染への脅威を減らすことが重要でありそうです。時間はかかるでしょうが。

  • ホモ・サピエンスの自尊心と大脳至上主義に一石を投じる快著(笑)‬

著者プロフィール

サイエンスライター。多くのメディアに科学記事を執筆し、数々の賞を受賞。
年間の最も優れた科学記事を掲載するアンソロジー
『ベスト・アメリカン・サイエンス・ライティング』にも選ばれている。

「2017年 『心を操る寄生生物』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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