駅鈴 (くもんの児童文学)

著者 :
  • くもん出版
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感想 : 13
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  • Amazon.co.jp ・本 (347ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784774325064

作品紹介・あらすじ

「重大な知らせを伝える。それがわたしたち駅家の仕事だ」メールも電話もない時代。駅鈴を鳴らし、馬で駆け、急を知らせた人たちがいた-。近江国(滋賀県)を舞台にした奈良時代の感動ストーリー。

感想・レビュー・書評

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  • 天平11(739)年(奈良時代)近江の国。都の官司や国司から出される使者(駅使)が通る駅路には30里ごとに駅家が置かれ、馬が用意されていた。使者はここで馬を替え、休息をとる。駅長の祖父、駅子の父を持つ13歳の少女、小里の夢は駅子になることだったが、女ゆえ認めてもらえず歯痒い思いをしていた。ある日小里は、駅鈴を探している官人の従者、若見と出会う。彼は宮仕えをしながら歌を詠んでいた。
    戦・天災・遷都・謀略などの障害に遭いながらも、自分の夢を追い続ける少女のひたむきな姿を、駅路を走る駅子のようにスピード感たっぷりに描く。





    *******ここからはネタバレ*******

    駅使が訪れ、慌ただしくなる駅家の情景から始まるこの物語は、社会が動く度に情報が行き来する駅路のように、先へ先へと話が展開し、息をつく間も持たせない。かといって、殺伐とした話が続くわけでもなく、全体的には穏やかな読み心地のよい作品です。

    また、舞台が奈良時代という作品には多く出会ったことがなく、この点からも稀少性があります。

    惜しむらくは、最後の部分で何もかもうまくいってしまうことでしょう。主人公はその時17歳、読者も中学生を想定しています。もう何か課題を与えたままの終わりかたでもよかったのではないかと思ってしまいました。

    300ページを超える長文ですが、物語は平易。会話も現代文です。高学年でも充分読めます。

  • 前から気になっていたので手にした。

    奈良時代のおはなし。
    駅鈴(はゆまのすず)は、京からの使者・駅使(はゆまづかい)の馬の鞍にかけられ、歩みにあわせて鳴る。
    小里(こざと)は駅使を泊める駅家(うまや)の子で、駅使を先導する駅子(はゆまのこ)になりたいと思っている。
    ある日、歌を詠むのが好きな駅使・井上若見(いのうえのわかみ)に出会い……。

    はじめは、小里はなんでそんなに駅子になりたいの?、なにがいいの?、なんて思っていましたが、おもしろかったです。
    駅家は、特別な人々をもてなす公的な厩と宿、という特殊な場所で、一片の使命感があるのだなと徐々に納得しました。
    文章も絵も媚びるところがなく、YA女子におすすめです。
    責任について考えるところもあります。
    遣唐使しか知らないところに遣渤海使の存在を知ったり、大伴家持や安積親王が登場しておぉと思いました。
    何より、万葉集が登場するのが胸熱でした。
    万葉集4,500首のなか最多なのが、恋の歌・相聞(そうもん)で、小里といっしょに歌をおくられるどきどきを感じました。
    話にも起伏があって飽きさせません。
    はじめに地図あり、おわりに年表あり、和製ファンタジー好きな大人にもおすすめです。
    著者のほかの作品も読んでみたいと思いました。

    草枕 旅にしあれば 早馬の 鈴が音響み 遥けく思ほゆ
    うちひさす 宮道はいまだならずとも 馬打ちわたし 通う駅路

  • 児童書の棚だけに置いておくのは惜しいなあ。大人が読んでも面白い。ターゲットの中学生には、(難しい表現があるわけではないが)歴史物、それも奈良時代と古いし、本に厚みがあるので、ちょっとハードルは高いかもしれない。ジャンルを問わずよく読む子なら、小学校高学年でも楽しめる。
    当時の様子を本当によく調べている上、人物造形も、文章もいい。これくらいの時代は、近世より男女差別はなかったのかもしれない(女性の天皇もいたわけだから)ので、主人公の少女が女ながら駅子を目指すという設定にも、そんなに違和感を感じないし、ちょっと恋愛要素はあるものの、それが職業を持つ女性の生き方とどうかかわるかまでは進まないので、その辺りも上手くまとめているなあ、と思う。
    先日読んだ『庭師の娘』と比べると(国も時代も違うから本当は比べられないのだけど、女性の職業としては認められていない家業を継ごうとする少女の物語に恋愛もあり、のYAという点では同じ)ずっと主人公が魅力的だし、ストーリー運びも巧み。どちらか中学生に薦めなさいと言われれば圧倒的にこっち。万葉集の歌や時代背景もよくわかって、勉強にも役立つ。
    児童文学を大人向けより劣ったものと思う人は多く、実際そう思われても仕方ないような書き手も多いのだけど、久保田香里は違う!と言いたい。

  • 電話もメールもなかった奈良時代の日本が舞台の物語。

    久々におもしろいなーと思った児童書。

    『空色勾玉』とかが好きな人にはおススメの1冊。

  • 奈良時代、急な知らせや大事な知らせを国から国へ伝えるためにつかわれた「駅屋(うまや)」。「駅鈴(はゆまのすず)」を携え知らせを伝える人たちを次の駅屋へと
    導くのが「駅子(うまやのこ)」の仕事。小里は、女の子には無理だといわれながらも父のような駅子にあこがれている。

    とてもよかった。文章に、本当に馬がかけていくような疾走感があって読んでて気持ちよかった。しっかりした文章ながらも読みやすく、奈良時代をしっかり感じさせながらも親しみやすい。駅子として認めてもらうこと以外にも、駅屋の乗っ取りや、地震など小里には大きな災難もどんどんふりかかるが、小里は打ちのめされたり逃げたりしながらも困難を乗り越えていく。若見と小里の距離感、おたがいが成長しても変わらない関係やふたりの気持ちに、心がむずむずする。若見が、なよっとしていながらも気持ちをしっかり持っているのがいい。おくった歌の意味を小里があまりわかっていなかったりするのもいい。じっさまや真刀、恵麻呂、豊主さまを始め、牧長さまや十喜女などのちょっとしかでてこない脇役たちもとてもいい味だしている。

  • 聖武天皇の時代,近江国の馬の駅伝のような仕事の基地となる駅家に生きる人々を生き生きと描いている.難波宮の遷都のあれこれなど時代の空気もよくわかる.女の子でありながら駅子になるという夢を持つ小里と舎人の若見とのほのぼのとした恋も楽しい.いろいろな困難を乗り越えて夢を叶える小里が眩しい.

  • 奈良時代。奈良の都と各地を結ぶ駅路には30里ごとに駅家が置かれ馬が用意されている。使者はここで馬を代えながら先へ進んでいくのだ。小里は女にはムリだと言われている駅子になることを夢見ていた。大伴家持や阿倍仲麻呂、遣唐使船、大仏建立、平城京など、歴史でおなじみの言葉がでてくるが、決して難しくなく、少女小里とその周りの人々、そして初恋などが生き生きと描かれている物語。

  • まだ電話も郵便もなかった奈良時代。
    大切な知らせはどうやって、遠くまで伝えられていたのでしょうか?
    人々は馬に乗り、平城京から各地に延びた道路を走って伝えました。道路に約十六キロメートルごとの間隔で設置された「駅家」の「駅子」がこの、知らせを伝える「駅使」を迎え、次の駅まで送っていました。
    重大な知らせを持った使者を、きちんと次の駅まで送り届ける…これは、そんな駅子を目指した女の子の話。

  • すっごく面白かった!天平の代、近江国。平城京や国府からの使者が道中 馬を交換し、休息をとる馬家。その長の孫、小里。小さな頃から父や馬子の仕事を見ていた小里はいつか自分も!と思うが「女は」と言われ相手にされない。そんな小里が従者として立ち寄った若見と出会う。
    馬家の活気や馬に乗る疾走感、山火事の熱風、地震の恐怖、次々と起こる出来事にワクワクしたりドキドキしたり忙しい。小里と若見の初々しい感じもいい!w
    作者の他の本ももっと読みたいと思う!
    解説の年表を見て「墾田永年私財法」って習ったなぁ!と笑ったw(図)

  • 小里のまっすぐさが心地良い。
    離れても、忘れることができない。
    それは心が求めてるから。

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著者プロフィール

岐阜県生まれ。2004年、『青き竜の伝説』(岩崎書店)で第3回ジュニア冒険小説大賞を受賞しデビュー。『氷石』(くもん出版)で第38回児童文芸新人賞、『きつねの橋』(偕成社)で第67回産経児童出版文化賞・JR賞を受賞。他の作品に『きつねの橋 巻の二 うたう鬼』(偕成社)、『緑瑠璃の鞠』(岩崎書店)、『駅鈴』『もえぎ草子』(くもん出版)、『千に染める古の色』(アリス館)など。

「2022年 『やくやもしおの百人一首』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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