わすれもの

著者 :
  • ビーエル出版
3.67
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本棚登録 : 407
感想 : 28
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  • Amazon.co.jp ・本 (32ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784776408000

作品紹介・あらすじ

大きな公園のベンチに、ぽつんと置き去りにされたひつじのぬいぐるみ。それは小さな『わすれもの』でした。ひつじは、カラスにつつかれたり、ベンチから転げ落ちたりしながらも、迎えが来てくれると信じています。けれどあたりが暗くなり、夜になると雨も降ってきて…。-昔、どこかに忘れてきた大事なものに、もう一度出会える絵本です。

感想・レビュー・書評

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  •  表紙の、灰色がかった背景の中、ベンチにぽつんと座っている、ひつじのぬいぐるみの絵からは、何とも言えない寂しさが漂ってきそうな雰囲気があるが、はたして、それは本当にそうなのだろうか?

     その寂しい雰囲気は、昼間の大きな公園を描いた、始まりの見開きからも感じられ、細かいところを見てしまう私としては、その中から、ひつじのぬいぐるみがいるらしきベンチを見つけたが、全体的に緑の多い風景にも関わらず、ぬいぐるみが一人で取り残されているといった事態に、何か徒ならぬ事が起こっているのではないかと、妙に気になってしまい、それは物語に於いても、そのベンチをすれ違う人達が、「なんで こんなところに おいてあるのだろう」と気にかけている姿からも肯けるものがあった。

     その後、散歩に来た親子連れの子どもが持って帰りたいと言ったが、持ち主が探しにくるかもしれないからと、お母さんが引き止めるのを聞いた、ひつじのぬいぐるみは、「そうだよ。むかえにきてくれるんだから、だめだよ」と、心の中で呟くのを見ると、どうやら、何か訳ありの様子である。

     しかし、その後もカラスに食べ物と間違えられてつつかれている内に、ベンチから転げ落ちてしまい、せっかくのきれいな体が汚れてしまうという、惨めな気分の中、日は暮れていき、辺りが段々と暗くなってきた頃、幸いにも猫の親子に助けられて、再びベンチに戻る事が出来た、ひつじのぬいぐるみは、その猫のお母さんに昼間の出来事を話し出す。

     それは、家族みんなで公園に遊びに来た時、ひつじのぬいぐるみを抱えて歩いていた「ミナ」は、ベンチの横の植え込みにいたチョウチョが気になり、ぬいぐるみをちょっとだけベンチに置いておくつもりが、チョウチョを追いかけていき、お母さんに呼ばれて、そのまま行ってしまったのだという。

     そんなひつじのぬいぐるみを気遣って、猫のお母さんは、今夜雨になるから家に来ないかと誘うものの、「だってぼく わすれものだもの。ここでまってなきゃ」と、頑なにベンチを離れようとはせず、最初は忘れられていることに腹を立てていた、ひつじだったが、次第に心配や悲しみが湧き起こってきてしまい、そんな彼の姿を見ていると思わず、お母さんを待つ、迷子の子どものような心境に駆られてしまい、切なくなる。

    どうしてるかな。
    ないてないかな。
    ぼくが いないって きづいたかな。
    もしも きづいてなかったら どうしよう。

    ぼくも おうちに かえりたいよう…


     ひつじのぬいぐるみの、彼を主観にした雨を一人寂しく見上げる絵や『すてられたら むかえはこないけど わすれものは むかえがくるんだ』の言葉も胸に迫る中、実は表紙の絵も一度本編を読めば、あの場面だと分かり、表紙に込められていたのは、絶望ではなく希望であったことが分かるのだが(ひつじを見守る猫たちの温かさも印象的)、私が更に注目したいのは、絵本特有の楽しみ方の一つ、『文章には書かれていない物語を絵から楽しむ』ことの素晴らしさであり、これを知ることによって、更に二倍にも三倍にも、物語の奥行きの深さが増していく、そんな絵本だけの楽しみ方を、是非知って欲しいのです。

     そんな物語の深さとして、本書で挙げたいのが、はたして本当にミナは、ひつじのぬいぐるみのことをずっと忘れていたのか、ということであり、まずは、ひつじの首に付けられた蝶ネクタイについて、扉絵や始まりの場面では付けられていて、最初の見開きに描かれている、おそらく、初めてひつじのぬいぐるみに出会った時の絵には、それが無いことから、これは誰かが彼に付けたのだろうということが推測でき、それは、終盤の絵や最後の見開きではっきりと分かることから、こうして自分の時間をかけて、何かを作るくらいの思いの込め方をしているものに対して、あっさりと忘れるなんてことがあるのだろうか、というのが、まず一つ。

     そして、もう一つは、それを証明する決定的瞬間でもあり、上記した始まりの見開きの大きな公園の絵を、ひつじの回想場面と比較しながら、よくよく見てみると、顔かたちまでは分からなくても、着ている服の色やそこに置かれた物は、はっきりと分かることから、今度はそれを、ひつじのぬいぐるみが猫に助けられている絵をよくよく眺めて見つけたものと比較することで・・そう、お互いタイミングが悪く気付かなかっただけで、ミナはやっぱりひつじのことを・・・。

     これが分かることで、一見シンプルに感じられる物語も味わい深いものとなり、改めて、両見返しを見直した時に、それらの絵に説得力がより増してくるのを感じられたことから、子どもにとって、ぬいぐるみは、大人が考えるような、たかがおもちゃや作り物なんかでは決してない、特別な存在なのであり、たとえ子どもが大きくなったときに、ただのぬいぐるみと思う日が来るのだとしても、その当時、一緒に過ごした事によって、当時の子どもの心に、きっと良い作用を及ぼした楽しい記憶は、決して、変わらないのだろうと、私には思えてならないのです。

  • 家族で公園に遊びに行くにも連れてくるほどお気に入りの、羊のぬいぐるみなのに、ベンチの上に置き忘れてしまったミナちゃん。小さい子あるあるだなぁ。お家に帰ってから大騒ぎだったのでしょうが、そんなことは、忘れられた羊の知ったこっちゃないよねぇ。きっと迎えに来てくれると、ミナちゃんを信じて耐える姿がいじらしくてホロリとします。やさしい猫の親子がいい味出していますね。

  • 〝散歩にきた男の子が、公園のベンチにポツンと坐っている、小さな羊の縫ぐるみを見つけて「あれ、持って帰りたい!」「だめよ。持ち主が探しに来るかも、しれないでしょう?」・・・<そうだよ。迎えに来るんだから、ダメだよ>小さな羊は、そっと、心のなかで、呟きました...猫の親子がベンチに近づいてきて「あんた、捨てられたのかい」と、お母さん猫がたずねると<違うよ、ちょっと忘れ物になっただけ!>「忘れ物?」<そう、忘れ物。捨てられたら迎えは来ないけど、忘れ物は迎えが来るんだ。ミナは、きっと来るよ・・・>〟

  • 4歳3ヶ月。図書館。

    とても気に入って読んだ本。

  • 健気に女の子を信じて待つヒツジ。きっと普段から大切にされていたからそう思えたのでしょうね。
    女の子も本当は早くヒツジを取りに行きたかったけど、雨の夜の中は行けずに、翌朝まっすぐ取りに行った。思いが通じ合っていてよかった。
    可愛らしい優しい絵の絵本です。

  • 絵がとてもかわいいです。捨てられたんじゃない。忘れてるだけ。健気でとてもかわいい羊ですが、切なくなります。これからもミナちゃんの側にいれたらいいなと思いました。心があたたかくなる一冊です。

  • ひつじのぬいぐるみが朝靄のなかで迎えを待ってるシーンがとても好きです!

  • 公園のベンチのわすれもの、
    羊のぬいぐるみ。

    ぬいぐるみは待ちます、待ちます、
    必ず迎えに来てくれると信じて。

    健気だわ。
    可愛いわ。

    元に戻れてよかったわ。

    お日様一杯浴びて干されてるのが気持ちよさそう。
    よかったねぇ。

    猫の親子がいい。

    この絵が、そこはかとなくいい。

  • 公園のベンチにぽつんと置かれたひつじのぬいぐるみ。
    からすにつつかれたり、猫に心配されたり。
    でも、ひつじのぬいぐるみは「わすれもの」になっただけだ。
    持ち主のミナは自分はいないと眠れないので今ころどうしているだろうと、不安に思う。
    雨が降った翌朝、女の子がお母さんと探しに来て、無事再会出来るのだった。

    わすれものになった、なんだかいい表現だ。


    レビュー登録は17日だけれど、読んだのは16日。

  • 7歳児の感想:ひつじのぬいぐるみがかわいい!カラスにつつかれてリボンが取れちゃったのがかなしい。

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著者プロフィール

豊福まきこ  東京都出身。武蔵野美術大学造形学部卒業。広告代理店でグラフィックデザイナーとして勤務したのち、フリーランスのイラストレーターに転向。現在は絵本を中心に児童書関連で広く活動中。絵本に『わすれもの』『おどりたいの』『おくりもの』(ともにBL出版)がある。

「2021年 『こりすのクリスマス』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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