マタギ 矛盾なき労働と食文化

著者 :
  • エイ出版社
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  • Amazon.co.jp ・本 (175ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784777913121

感想・レビュー・書評

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  • マタギとは、熊やウサギなどの野生動物を狩猟し、食すだけの人たちのことではない。山間地に暮らし、狩猟は勿論のこと、渓流ではイワナやヤマメを釣り、奥深い山に分け入りキノコや天然のマイタケ、山菜を収穫し、他の主たる仕事も担いながら生計を立てている人たちのこと。本書は、マタギの人たちに暮らしに何年にもわたって密着し、その生活、文化、生き方などを、写真も織り交ぜながら、著者ならではの視点から綴ったドキュメンタリーともいうべき1冊。

  • マタギというのは聞いたことはあったが、実際にどんな人たちなのかというのはほとんど知らなかった。鉄砲もって山に入って熊をしとめるとかその程度の知識しか無かった。

    しかし、この本を読むことによって専業のマタギというのはもうほとんどいないこと、チームを組んで狩りをすること、熊だけを狙う訳ではないこと、キノコもとることなどなどいろんなマタギの文化を知ることが出来た。

    こういう世界があるのだなぁと感じさせてくれる良著。

  • マタギの生活、というか主に猟に付いていった話、自然の恵みは素晴らしい、みたいな話ばかり。ちょっと不満だった。でも熊や兎の解体風景は普段見ることもなく、それに吸い込まれてなんとか最後まで読んでみると、山言葉や禁忌の話が出てきた。が、その部分でのアプローチに疑問があり、それだけでマタギは語れない、というものだった。学術的興味はない、一緒に山に入って楽しみたいのだ、と。たしかに本書もそういう内容。学術を勝手に期待した自分が悪いのか。
    それで、もう一回読み直せば、確かに自然の恵みをいただく暮らしの紹介。タイトルの「マタギ」だけみると誤解するかもしれないが「矛盾なき労働と食文化」は、確かに内容を語っている。

  • いまや消えつつある、秋田のマタギが伝える猟・漁・山菜採り、そしてそれらを支える鍛冶を16年間追い続け、カラー写真でリアルにレポートした一冊。血がダメな人は見てはいけない。マタギは、例え雪が腰まである季節であっても、「しのび」と呼ばれるほど静かに、道なき深い山々、ときには崖を登ったり滑り降りながら何時間も歩き続け、食料を探す。引きずられていくツキノワグマの姿はリアルであるが、それを解体する作業は「けぼかい」という祈りから始まるあたりに、山の信仰の重みを感じる。クマの捌き方も詳細に写真付きで紹介されていて、見応えがある。獲れた肉の分配は「マタギ勘定」といって、誰が撃っても均等に分配される文化があるという。これは北方の狩猟採集民族と同じである。

  • 豊富な写真と読みやすい文章で大変面白かった!
    熊の解体シーン(けぼかい)に眼を見張る。普段、私達はお肉を食べようと思えばスーパーに行き、切り身のお肉を買えるわけだが、マタギは深い山奥へ足を運び大変な思いをして獲物をしとめ、解体することろから始める。
    マタギでなくとも、スーパーに並ぶ肉になる前に、誰かが同様のことをしてくれている。安心で安全な生活の営みを誰かがこうして支えてくれているのだなと思うと感謝しかない。
    狩猟以外にも茸取りや魚釣り、マタギ流火の起こし方、料理の仕方など興味深い話が盛りだくさん。
    マタギ文化、ひいては民俗学にご興味のある方、オススメです。

  • 著者はカメラマンである。

    一緒に山に入り、一緒に笑い、酒を飲み、寄り添ってそれを写真に収める。学術的なアプローチは一切ない、と著者自身がいう通りの身の丈大の記録であり、いわば生活実感としてのマタギが描かれている。

    サブタイトルにある「矛盾なき…」とは、自然への畏敬を忘れずムダを作らないことを言っているようで、そうした提言めいたものとか、後継者がおらず、継承がされ得ないことへのややウェットな感懐はどうしても出て来るわけだが、基本的には記録として興味深い…というか面白い本だった。

    なんといっても、しとめたクマやウサギの解体シーンは、それだけで目を見張りたくなる。

  • 献本PRにて当選し、著者より頂いたもの。,,「マタギ」と呼ばれる人々の生き方がリアルに書かれており、一本の映画を見ているような錯覚に陥る。都会育ちの自分にとって、もしこういう場所に生まれていたたらまた違った人生になっていたのだろう、、、、と想像してしまった。,,熊のけぼかい(解体)は圧巻。皮をはぎ、肉を切り、脂を集める様子が克明に写っている(ちょっと怖い。。),著者の言うように、普段食べている肉・魚もだれかが解体をしてくれているのだ。感謝の心を忘れずにいたい。

  • もっと難しい本だと思っていたのだけれど、思っていた以上に写真満載でとっつきやすく、あっというまに読了。現代のマタギの生のレポート。マタギの文化もまさに絶滅危惧種であるということが、わかってはいるけれど非常に残念。しかし現代の日本人にはこの文化を維持し続けることは無理ではないか...とも思う。

  • 現代に生活するマタギの狩猟について、写真入りで書かれている。
    「邂逅の森」(熊谷達也)を読んでから、マタギの生活に興味が湧き、関連書籍を調べているときに本書を見つけた。
    自分も幼少の頃に父親が仕留めた熊を食べた記憶があり、熊狩などの狩猟にはもともと興味があった。実際に狩猟をしてみようと思うほどではなく、もっぱら山歩きに興じていたので、マタギの藪漕ぎなど、ほんとにすごいもんだと思う。

  • 作者のコメントがさらにうっとうしかったです。

  • 秋田・阿仁地区のマタギたちの生活。
    生活そのものがマタギというよりも、たまにマタギ活動をしているという現実。そうせざるをえない現実。
    マタギの技や知恵が失われていくのはもったいないと強く思うが、温暖化や社会生活の変化により、マタギとして生きていけなくなってきているのだからしょうがない。
    こうして写真つきで残っていくのは、素人目で見てとてもわかりやすいし、意義深いことだと思う。

  • 熊の皮を剥いだ生々しい写真が載ってる。著者の独善的な考え方にはあまり共感できなかったけど写真は良かった。

  • 本書は秋田・阿仁地区に住む現役マタギたちの猟や生活風景を撮影したカメラマンの16年の記録を写真と文章でつづったフォトエッセイです。時代が変化し、消えつつある彼らの存在を収めた貴重な記録です。

    これは、本書の姉妹編とも呼べる「女猟師」を読んで、こっちもできれば読んでみたいなぁと思い、手にとって読んでみようと思いました。内容は秋田・阿仁地区に住む現役マタギたちの猟や生活風景を撮影したカメラマンの16年の記録であり、あらゆる意味でも貴重な記録であると思います。

    彼らのアイデンティティーともいる、山と調和した生活、その厳しさと熊やウサギ、川魚に山菜やきのこなどの豊穣な恵みがもたらす世界と、時代の移り変わりから、マタギという生き方そのものが、過去のものになりつつあるというある種の「哀しさ」をにじませたフォトエッセイであると思いながら、本書を読み終えました。

    冒頭からツキノワグマを「けぼかい」という言い方でナガサ(マタギの使う山形なの一種)一本で解体し、食肉にする技術は、長年の修行の思わせるもので、一連のプロセスを残酷だという方もおりますが、僕は決して目をそむけてはいけないものだと確信を持ってここに記させていただきます。さらには、冬の山にウサギを追い、皮をはいだウサギがほぼすべて筋肉でできていることを写真で確認し、あの動きの俊敏さはここからくるものであったのかと改めてそう思いました。

    そのほかにもシンプルな仕掛けだけで岩魚を釣っていくマタギや、天然ものの舞茸を鳥に山の中へと奥深く入っていく話。そして、筆者をこの世界にいざなうきっかけとなったマタギであり、ナガサを作る鍛冶職人であった西根正剛氏との出会いと別れなど、本当に盛りだくさんの一冊でした。

    作中で子供が熊の骨付き肉をかじっている写真がありますが、こういうのを見て自分も熊肉の鍋(マタギの世界では獲物はたいてい鍋にするという)を食してみたいなと思うのでした。

  • まず,タイトルで心が惹かれます。矛盾少なく生きることの大切さ,そしてその難しさ。読み終わった後に「ふぅ~~」と深いため息つきたくなる良著でした。「マタギ」という言葉は恐らく有名であるのに,「マタギ=狩猟民族」以上のことをほとんどの人が知らない。この本は「生き方」というアプローチからマタギを見てみようとした筆者による,マタギの本です。素敵なエッセンスがある本です。

  • 文化の継承という意味で、こうした書物は貴重。
    狩猟の後継者がいなくなった後は、自然との共生は後世にどう伝えていけばよいのだろうか。

  • やまのひと

  • 以前から、マタギには関心を持っていました。いわゆる[絶滅危惧」と呼ばれる方々、、です。ですが、北東北で生きていく人間にとって、その精神は相通ずるというか、そのもの、という気がしていました。呼んで、一層、その感を強くしました。

  • 秋田の山猟師、マタギについて書かれた本です。
    内容としては、そんなに難しいことは書かれていないし、カラー写真を掲載しているので狩り部員と言わず興味があるなら幅広い年代の方でもすらすら読めます。

    マタギは人でありながら山に民でもあります。著者は彼らを取材しながら、少子高齢化で跡取りを悩み、また同じマタギとしての道を歩む若者が少ないことを心配する彼らの姿に次第に焦点を置いてきています。

    とにかく読んでみてください!

  • すばらしい良書だった。
    マタギとともに、息を切らしながら猟について廻り、「けぼかい」を見て、ともに飲む。
    ともに行動することでマタギという人たちの姿を映しだそうという、この写真家さんの試みは完全に成功している、と思う。

    マタギについての研究書も、マタギの人から聞き書きなんかもそこそこあるけど、どうにも読みにくくて、手に取りにくかったが、この本は読みやすくて、よくわかり、しかもおもしろかった。

  • 戻れないけれど、これからの参考になると思う。

  • シャトゥーンというヒグマパニック本があまりに怖かったので、
    「マタギ!勇敢なる戦士よ、我らを守りたまえ!」
    という気持ちで手に取った。

    自分のマタギ観は全てが間違っていたことを学んだ。
    ただ、真実の姿を知ってもマタギに対しての敬意は無くならなかった。

    独自の慣習や文化があると思うのだが、それはまた別の著書を探すことにする。

  • イメージではなく、現代のマタギの生活が記された良書。クマやウサギの解体シーンが衝撃的なので要注意。

  • 気負わない田中さんの視点がよい。
    現代のマタギの生き様が、よくわかり
    感心した。
    生まれ変わるなら、マタギになりたい。
    山とともに生きる人々。

  • 肉食女子ですがさすがに熊には手が出ません。

  • 写真がたくさんなのが良い。筆者が感傷的なのがうっとうしい。

  • マタギ集落に通ったカメラマンの記録。 生業としてのマタギはすでに存在せず、現代のマダギは仕事の休みをとって山に入り、ジムニーを駆って林道を進む。 そこには何の気負いもない。 漁法として毒薬流そうが発破かけようが川には魚が溢れていたが護岸工事をしたとたんいなくなった。
    熊の解体過程の写真が印象的。

  • 週間ブックレビューで紹介されていて読んだみたいなと思い、購入しました。

    マタギといえば、銃ひとつで熊と格闘する老人というイメージしかなかったのですが、この本で紹介されているマタギは良い意味でそんな私の先入観を裏切るものでした。勿論、熊は未だに獲るようですが、大地からの恵みとして畏敬の念を持って熊と接し、仕留めた後は、肉も、骨も、皮も全てを捨てることなく十分に活用する姿があったのです。

    話しは変わりますが、欧米の環境保護団体はこういった昔ながらの生活に根ざした狩猟(イルカ漁や捕鯨など)に対し、単に、知能が高い生物の捕獲というだけで攻撃的な態度をとりますが、もう少し彼らの生活の背景、歴史について学んでほしいと思いました。

    話しを戻しますが、マタギは熊以外にも、兎を獲ったり、山菜をとったりしていることに驚かされました。彼らは自然の恵みを十分に生かして生活しているのですね。ただ、彼らも、狩猟だけでは生活ができないので、最近はもっぱら兼業で生計を立てているとのこと。そして、今後、マタギの後継者がどんどん減っていくことなど、彼らを取り巻く環境は必ずしも明るいものではないようです。

    豊富で貴重な写真の数々に触れ、一度、秋田県阿仁町に行ってみたくなりました。


    読書期間: 2009.10.13~10.19

  • 今年読んだノンフィクションでベスト級の一冊。東北の山奥のマタギの村を14年間に渡って取材した著者によるルポルタージュだ。上段に構えず、ただマタギたちと歩いた経験をつづった筆致からは、失われていくマタギという人々への哀悼の念が透けて見え、エコや自然保護といった浅薄なものを越えて胸に迫る。掲載された写真も素晴しい。オススメです。

  • 日本の山の民として狩猟採集生活をしていた
    マタギたち。
    消えゆく日本の肉食文化を
    カメラマンが写真で綴っています。

  •  タイトルから、マタギの話のマタギキ?とか、古老の伝聞を集めて論じたマタギ研究の書、と思って手にしたのですが、あにはからんや、秋田・阿仁地区に住む現役のマタギたちの猟や生活を、共に歩き・食べ・語り・撮ったカメラマンの16年間にわたる記録、フォトエッセイでした。
     山とともに暮らすマタギの生活。彼らは熊を追うだけではありません。ウサギ、川魚、茸など、山からさまざまな恵みを頂いているのです。著者は現役マタギたちと猟や生活をともにし、一緒になって楽しみながら(これがよく、伝わってきます)、淡々と描いています。それだけに、これはいきいきとした、生の記録です。そして今後、ますます貴重になる、人の営みの記録です。
     真冬、スコップだけで魚をとる「ジャガク」。試みること3度、4時間。獲たものは10cmほどのヤマメと小さなハヤ1尾ずつ。
    そしてこのジャガクをできる人は62歳。伝えるべき人も、また、いない。今のマタギを知る象徴的な一文が、心に残ります。
     無論、マタギの漁法や、熊の解体、ウサギ猟の仕方を知っても、多分、いまの田舎暮らしで役に立つことはないでしょうが…。デモね、この歳になってもなお、知らなかったことと、頁を繰るごとに次々と出会えるうれしさは格別です。
    (H)

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著者プロフィール

長崎県佐世保市出身。
佐世保南高校→島根大学農学部→日本写真学園
雑誌、冊子等の撮影、執筆を生業とする。
秋田県の阿仁マタギとの交流は20年に及び“マタギ自然塾”としての活動を行う。
狩猟採集の現場から「地の力」とそこに暮らす人々の生活を常に見つめてきた。
「マタギ 矛盾無き労働と食文化」は阿仁マタギの里での生活を活写。
熊、ウサギ、岩魚、山菜、キノコと山の恵みを享受してきたマタギの暮らしを追った。
今は引退されたり、亡くなられた多くのマタギ達との様々な体験が記録されている。

「2023年 『完全版 日本人は、どんな肉を喰ってきたのか?』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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