痕跡本のすすめ

著者 :
  • 太田出版
3.41
  • (6)
  • (30)
  • (30)
  • (7)
  • (2)
本棚登録 : 391
感想 : 61
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (160ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784778312978

作品紹介・あらすじ

一冊の古本には、前の持ち主によって刻まれた、無数の「痕跡」が残されています。そんな「痕跡本」は、物語の宝庫。本と人との、誰も知らない秘密やミステリーが隠れています。本書は、世界初となる「痕跡本」の本。稼代の痕跡本コレクターである著者が、めくるめく痕跡本の世界へと、あなたを誘います。

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • 「言葉はこうして生き残った」の河野道和さんがすすめていた本を紐解いた。痕跡本を読むことも本の愉しみ方のひとつだと思う。

    著者は、とてもユニークな痕跡本を約60冊用意する。そこから様々な「物語」を読み解く。ただし、推理小説とは違って、「答え」はない。そういう推理小説は嫌いだと思う人には物足らないかもしれない。私は考古学ファンで、いつも答えのないサスペンスに接しているようなものなので、「あゝこういう角度から、本という〈遺物〉も楽しめばいいんだ!」と再発見した。そしてこの本、「造り」という点でも様々な工夫があります。奥付にも仕掛けがある。装丁屋さんにも参考になりそうな本です。河野道和さんありがとうございました!

    痕跡本には時に深い「物語」がある。特に本に書き込みをした年齢と手放した年齢との差を、古沢さんと同じように私も推理する。そこから、複雑な人生(妄想)が私の頭の中に展開されていくだろう。
    「高橋亮子 ボクちゃんーその世界」(1977年)この「画集」に挟み込まれた画と同じ雑誌の切り抜き。わたしも一時期マンガ単行本を買い集めていたことがあるので、この人の気持ちもわかる気がする。
    ‥‥18歳。新しい大学生活に膨大な雑誌は持っていけない。お母さんに言われた様に雑誌を処分することに決めた。中学生の頃から大好きだった高橋亮子先生の画集を買った。雑誌の処分の合間に画集と同じ絵を切り抜いて挟み込んだ。雑誌にはわたしの甘酸っぱい思い出の全てがある気がした。時を隔てて、2005年。46歳。子供に恥ずかしくて、隠してきたさまざまな趣味の本は一括して処分して、子供の自立を機会にわたしも自立する。‥‥などなど。

    或いは、私の「蔵書」の「痕跡本」の行末を推理する。痕跡本なので、ひと山100円どころか、古本屋行きさえも検討されなくて、ブルドーザーがゴミとして処分する未来は、あえて見ない。私はスマホを手にする前は、本の終わりの奥付やカバーの裏に読んだ直後の感想を書くことが多かった。その後に「ワープロ」で清書すると、わりと良い書評がかけるからである。細かくびっしりと書いた痕跡本は、やがて私の蔵書が「◯◯文庫」として郷土の図書館に寄贈された後に、研究者の研究対象となる。やがて一冊の評伝にまとめられて‥‥いかん、妄想とはいえ書いていること自体が恥ずかしくなってきた。

    これからは、ひと山百円のワゴンを見るのが楽しくなりそうだ。




  • 長年、古本を買い続けていたりすると、まれに‘傷物’と呼ばれる本に当たる。破れや汚れ、他にも文章にアンダーラインが引いてあったり、感想や落書きのようなものが書き込んであったりする。

    古本屋では大抵安価で売られている、そのような‘傷物’の本にスポットを当て、‘痕跡本’と命名したのがこの本の著者、古沢和宏さん。
    愛知県の犬山市で【古書 五つ葉書房】という古本屋を開いている方だそうだ。
    この方が秘蔵の‘痕跡本’たちを披露してくれるのだが、語り口が古本愛と豊かな妄想に満ちていて実に良いのだ。

    例えば古沢さんを‘痕跡本’道に引きずり込んだ運命の本、前の持ち主の怨念を感じる『まだらの卵』日野日出志。

    若輩者の私などはこんな本に当たったら、すぐに捨てるかなにかすると思うが、古沢さんは違う。

    「この本に残された傷の正体、それは狂気などではなく、かたちを変えた日野さんへの愛そのものだったのかもしれません。」p014

    古沢さんは、本というモノも好きなのだろうが、それ以上に人の気配、人の痕跡を愛しているんだろう、と思った。

    私自身は本に書き込みを入れることを一切しないのだが(たぶん、幼い頃に絵本に落書きをして母親にしこたま怒られたのだろう)古本で‘痕跡本’をみつけると(いい意味でも悪い意味でも)当たりだ、と思う。
    この前ネット新古書店で買った新書は、アンダーラインと感想(「そうだそうだ」「ww」など)が書かれていて、前の持ち主と一緒に読んでいるような、頭の中を覗いているような気分になった。

    私も今度‘痕跡本’をみつけたら、いろいろ妄想してみよう。

    • 猫丸(nyancomaru)さん
      5552さん
      如何に書物が貴重だったのか判ります!
      それと「マルジナリアでつかまえて」も同趣向の本みたいです。
      5552さん
      如何に書物が貴重だったのか判ります!
      それと「マルジナリアでつかまえて」も同趣向の本みたいです。
      2020/08/09
    • 5552さん
      猫丸さん、おはようございます。
      おお!これまた面白そうな本ですね!
      マルジナリア=本の余白の書き込み、なのですね。
      まえがきからしてい...
      猫丸さん、おはようございます。
      おお!これまた面白そうな本ですね!
      マルジナリア=本の余白の書き込み、なのですね。
      まえがきからしていい感じです。
      こちらもご紹介ありがとうございました。
      2020/08/10
    • 猫丸(nyancomaru)さん
      5552さん
      GOOD!
      5552さん
      GOOD!
      2020/08/15
  • 本に残された様々な痕跡を紹介した本。
    破ったり落書きしたりは好きではないが、
    メモ書きや感想、メッセージなどからは
    その本が愛されていた事が伝わってくる気がする。
    この本に出てきた、
    「たいくつなりし本なれど…故郷は良いなあ」
    なんて、とても素敵な書き込みじゃないですか。

    私は図書館で本を借りた時に、
    前に借りた人のレシートが入っているのが
    結構好きだったりする。
    その本と一緒にどんな本が借りられていたか、
    大袈裟だがその本の歴史が垣間見れるのが楽しい。
    レシートに気になった本があれば、
    借りてみたりしています。

  • そうか
    こんな古本の楽しみ方が
    あったのか


    実例たっぷりに
    紹介されているのが
    楽しい

  • カード会社の会員誌で高橋源一郎氏がエッセイ中で紹介していたもの。
    感性が合うようで、今まで読んだ本は面白かった。
    本書もその一つ。

    「痕跡本」とはなんぞや?

    この言葉は著者の造語だそうで、古書店を営む著者が、前の持ち主の物語を想像させる様々な痕跡が残った本のこと。
    例えば、書き込み、挟んであったメモ、レシート、汚れなどなど。
    一体どんな物語が?
    第一章を開けてみると、『まだらの卵』という漫画本が紹介されている。
    恐怖漫画のようだが、そこには君の悪い、針様のもので何度も突き刺されたあと!
    ぎゃーああー!怖い!怖すぎる!
    絶対買わない!

    第三章 秘密
    うわ!絶対!私は!本に書き込みしない!!!!!痕跡なんて!残さない!
    悶えた。
    人というのは、他人の秘密は覗きたがるくせに、自分の秘密は見せたくない身勝手なものであるからにして......。
    野望だとか!ポエムだとか!見られた日には、恥ずかしくてたまらん!
    しかし思わず涙する場合も。
    ミノルタ(コニカミノルタになる前?)のカメラの保証書に、「初めてに 買ってもらひし 革靴の いたまぬままに 夫は居ませじ」(88頁)
    誰か著名な俳人の一句なのか、それともこの人の完全なる創作なのか。
    しかし、何か心に訴えかけてくるこの切なさ。
    詠み人知らずとして、世に残るのならば、それも良いかも。

    『せどり男爵数奇譚』は『ビブリア古書堂』で取り上げられていたのを思い出した。
    こんなに何度も私の前に現れてくるとは。
    読まねばならぬか。

    第五章 謎
    『寶塚』が衝撃的すぎる。いやこれはまた。
    わざとなら、彼女らを汚すもの、と怒りようもあるが、偶然ではどうしようもないというか。
    そのあとの「w」の謎とも絡めて、もう一度言おう。
    衝撃的w

  • 痕跡本は確かに面白いし、古本の醍醐味でもあります。
    時空を超えて、色々な人の思考等に触れられて面白いです。

    著者さんの見つけた痕跡本の解釈が自分と大きく離れていたので、直接会ってお話したら面白いだろうなと思いました。

    P149のインクが滲んだようなものに、はさまっていたのはしおりではなく、水転写シールではないでしょうか?
    ベルサイユの薔薇のオスカーと思われる紙の下の文字が反転してるので、そう思いました。・・・というように、色々推理するのも楽しいですね。

    私が出会った痕跡本で衝撃だったのは、小説を書き直してあったものです。
    本の持ち主が気に食わない小説記述部分を線で消して、自分でリライトしてあるの!(笑)

    小説を読んでいて、確かにこういいまわしたほうがよいとか、時代が変わったので、この知識は古いなーと思うことはあるものの、直接書き直しながら読む楽しみ方に、大変衝撃を受けました。

    読書のしかたも人それぞれですね。

  • 伊那図書館では、「痕跡」は悩ましい問題。「痕跡」の見方を変えると、こんな楽しみ方ができるんですね。「本が泣いてる」じゃなくて、「本の持ち主が語っている、想像する」。痕跡には、本と前の持ち主の物語が刻まれています。本と自分、その本を読んだ「ある人」が結ばれる感じ。
    最近、多面的に見れなくなってきたわたし。著者のやわらかな感性もキニナル。(R)

  • レシートが挟まった本には出会ったことがある。
    本が世界を渡っていくのを想像するのは確かに楽しい。
    書き込みとか汚れがあると売れなくなるかもと思ってできるだけきれいな状態を保とうとするけど、それではその本を本当に読み込んで自分の血肉にはできないよな〜
    本への愛の形のひとつだ

  • 背表紙を見て(痕跡本ってなに?)と考えましたが、わかりませんでした。
    表紙には、線が引かれた本や一筆箋、裏表紙に書き込まれたメッセージなどの写真があり、(ああ、痕跡がある本のことなんだな)と気が付きました。
    個人的にはあまり好きではありませんが、この著者は痕跡本に惹かれて古書の主人になり、痕跡本という言葉も生み出したとのこと。
    たしかに、残されたメモなどは、かつてその本を読んだ人について想像できるヒントになっています。

    私も、恩師から貸してもらった本の裏表紙に「妻に捧ぐ」と名前と日付が記されているのを見て、ほのぼのしたことがあります。

    詩集の下部空白に、自分の詩を書いている人や、恐怖マンガをピンで細かく刺した痕など。
    写真集にシールを張ってみたり、イラスト付きで感想を記していたり。
    さまざまです。

    そういった個人のカラーを宿した本は、基本その人の手元に所蔵され、まず他人の目に触れることはないはずですが、どうした拍子か、古書として出回っている謎。
    他人に見られる前提なく書かれた文章だけに、プライベート感たっぷり。
    書き込みにしかヒントがない、謎だらけの本を、著者はいとおしんでコレクションしています。

    私はむしろ、著者の着眼点の方が斬新で興味深いのですが。

    見知らぬ人の読書状況がわかるものとして、全5巻の『パリ燃ゆ』の写真が掲載されていました。
    初めのうちは、何色もの色を使って気合いっぱいで線を引いていますが、一巻の途中でそれは終わり、その後は全く線は引かれないまま。
    読者が線引きに飽きたのか、そもそも読書に飽きたのか、気になります。

    逆に全4巻の『レ・ミゼラブル』、これは最後まで同じペースで線引きがなされていたため、「読書、線引き、どちらも完遂!」と、こちらまで嬉しい気持ちになりました。
    著者は、今では痕跡本から「持ち主予想」「時代」「性別」「年齢」「人物」「背景」などを推察できるとのこと。
    もはやプロファイリングです。
    これは、電子書籍では楽しめない、ひそやかな領域ですね。

    図書館で借りた本などに、線が引かれていたりするとがっかりしますが、こういった愛好家も存在するということを思い出したら、もっと広い心で、自分もプロファイリング出来そうな気がします。
    人の趣味って、いろいろなんですね・・・。

  • 私が初めて痕跡本と出会ったのは父の本棚の本であった。
    父は読書が趣味で、若い時は梅田の古書の街の古本屋でもよく買って来ていた。
    そこで買ったのか京都の古本屋で買ったのかわからないがある本に大学図書館の蔵書印が押してあった。
    これは学生が借りて売ったものであろう。
    なんて不届き者!
    さてこの本はいろんな古本に残る痕跡を集めている。
    著者が本の中身よりも痕跡を探して買い集めてしまう。という気持ちが
    すこしわかる気がした。

    私が一番印象に残った痕跡本は以前アルバイトをしていた仏教系の大学図書館でインドから取り寄せたらしい本に挟まっていた虫の死骸。
    そして先に書かれた金額がひと桁なのに、その上に書き直された金額が
    随分と桁違いだった。インチキ?

    • 猫丸(nyancomaru)さん
      「これは学生が借りて売ったものであろう」
      そうとは限らないですよ、悪い場合には職員ってコトも・・・な訳無いと思う、図書館で不要になった本を処...
      「これは学生が借りて売ったものであろう」
      そうとは限らないですよ、悪い場合には職員ってコトも・・・な訳無いと思う、図書館で不要になった本を処分しただけでしょ。多分。。。
      「本に挟まっていた虫の死骸」
      知人によると、中国や東南アジアでは、よくアルコトらしいです、、、
      「中身よりも痕跡を探して」
      根気・忍耐そして運が必要でしょうねぇ~
      2012/04/16
    • sobakasuさん
      こうしてnyancomaruさんと痕跡本トークができてしまうくらい痕跡本は深いです。
      先ほど嵐の大野くん主演(仕事で帰ってきたのが半分過ぎて...
      こうしてnyancomaruさんと痕跡本トークができてしまうくらい痕跡本は深いです。
      先ほど嵐の大野くん主演(仕事で帰ってきたのが半分過ぎていたので何の仕事をしているのかあやふやでわかっていない。)のドラマをやっていましたが、痕跡本マニアが主演のドラマも面白そう。
      2012/04/16
    • 猫丸(nyancomaru)さん
      「痕跡本マニアが主演のドラマも」
      書き込みからの想像が映像になったりして、オーソドックスなところでは、推理小説にありそうですが、、、
      恵文社...
      「痕跡本マニアが主演のドラマも」
      書き込みからの想像が映像になったりして、オーソドックスなところでは、推理小説にありそうですが、、、
      恵文社一乗寺店店長のブログによると、今まで商品価値無しとして均一コーナー行きだったようです。
      http://keibunsha.jpn.org/?p=4382
      「痕跡本は深いです」
      本当ですねぇ~
      2012/04/17
全61件中 1 - 10件を表示

古沢和宏の作品

  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×