震災風俗嬢

著者 :
  • 太田出版
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感想 : 19
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  • Amazon.co.jp ・本 (268ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784778313944

感想・レビュー・書評

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  • うむ、興味深かったです。面白い、と言っては、ちょっと、語弊があるかな、と思いますので、興味深い内容だった、というのが適切な表現ではなかろうか?と思う次第かな、というところでしょうか。

    東日本大震災。2011年3月11日。近年の日本において、未曽有の大災害であったことは、間違いのない事だと思います。多くの人々の生活を、根こそぎ、変えたのだろうな、と。2021年4月28日現在の、新型コロナウイルス禍の猛威が全く衰えを感じさせない今も、やはりそうなのでしょうが。

    人間の性欲に対する思いの強さ、ってのは、シミジミと感じましたね。性風俗産業。それの存在の善し悪しを論ずるのは、また別の問題として、それはもう、人々の社会生活の中に、間違いなく存在するものなのでしょうし。性風俗産業は、間違いなく、この世の中に、存在する。まずはその存在を認知する。

    未曽有の大災害が起こった地域で、その災害後、まだ間もない時期に、こうした性風俗産業の動きが再開した。という事実こそが、とても重要なことだと、思うのですよね。人々が、それを、必要とした、という事ですものね。

    著者の小野一光さんは、まず、なによりも自分自身が、「何故にこのような事態が起こるのか?」という事を、「自分が」知りたかったんだと思います。何よりも「自分が」納得したい。何故にこうなのか。何故にこういう世の中なのか。「この事は、どうしても、世の中に知らしめねばならん」という社会的意義を考えた、とは、思えないのですよね。

    まずは、なんとしても、自分の気持ちを納得させたい。という思いから、この著書を書いたのだと、思うんですが、完全に自分の推測でしかないので、違っていたら誠にすみません。

    でも、その、「なにがどうあれ自分が知りたいんだよ納得したいんだよ」って思う事は、個人的には、とても正しい、と、思うんですよね。動かしがたい事実として、このような現実が、目の前にある。何故にそれがあるのか?それをまずは知る。「ある」ということを理解する。事の善し悪しを論ずるのは、そこから先だ。まずは「ある」ことを理解する、という、そういうことかなあ、とね、思いましたね。

    小野さんが、なじみの焼き鳥屋で、常連さんのナカムラさんとかわす会話が、好きですね。

    ナカムラさんは、最初は「風俗嬢のインタビュー!?なにしょーもないことしとんねん。今はもっと、伝えなきゃいかんことが他に沢山あるだろうが」って、小野さんにバンバン否定的なんですよ。

    でも、途中からは「この地域の事が、忘れられて欲しくない。どんなことでも取材して話題にしてよ」っていう態度にね、変わるんですよね。その変化って、とてもこう、腑に落ちる、って気が、したんですよね。あの感じが、分かるなあ、、、ってね、なんだか、思ったんですよね。

    なにしろ、良い本でした。これはまさに実際に起こっている事なのだ、起こっていたことなのだ。という事は、ヒシヒシと感じましたね。

  • 風俗というのが、日常の裏にある未知の世界で面白かった。本書はルポルタージュ形式で、この時をこういう人が生きていたことを記録する、ってスタンス。

    風俗に関する社会学の本とか読んでからまた読み直したら抱く感想や本書から読み取れる世界が広がる気がする。本書でも書かれてる通り、風俗嬢が担うことはセックスワークだけでなく、「癒し」という精神的ケアの提供。実際利用してる男性も多い。だけど、その割に世間では風俗嬢という仕事はおおっぴらには言えないものだし、風俗を利用して恩恵を被ってるはずの男も風俗嬢のことを風俗に「堕ちた」って馬鹿にする風潮がある。本書ではそこらへんの社会的な矛盾には触れてないし、そういう趣旨の本でもないんだけど、それだけに尚更自分でちゃんと勉強したいな、と思った。


    作者が風俗嬢の女の子たち(と言っても年齢は19〜42まで様々。女の子、は業界用語らしい)に真摯に向き合ってるから、被災地で生きる女の子たちの人間としての姿が浮かび上がってきてて面白かった。特に、5年に渡って取材した子は、震災2年後と5年後で人生観が変わってて、震災が色んな人の人生に与えた影響の片鱗が見えた。

    インタビュー通じて特に印象的だったのが、風俗嬢が社会の中で担う、精神的なケア労働という役割。
    震災で辛い目にあったお客さんの話を聞いたり人肌で癒してあげる中で「自分も励まされて前を向くキッカケになり逆に癒しをもらった」という女の子もいれば、「自分も震災から立ち直ってないのにお客さんの辛かった話を聞くのは重くてしんどい」という女の子もいたのが興味深い。感じ方は本当に人それぞれで違うんだな。

    あと、「震災を経験して人肌が恋しいからつまりとセックスしたいけど、避難所の壁は薄いし子供もいるし、出来そうにない。とはいえ自分から妻をラブホに誘うのは恥ずかしいから風俗に来た」というお客さんの話にびっくりしたんだけどどういう心理なんだ…心細い時にヤれたら誰でも良かったのか…?

    心理的ケア労働としての風俗嬢、という側面から考えると、「男は弱いところを見せられないから辛いんだ」とか言いながらも、性風俗という男の弱さを受け入れて心理的なケアをしてくれる受け皿が用意されてるの、世の男性諸君は甘やかされてんなー、と思わなくもない。インタビューを受けた女の子に、地震後PTSDになって生活に支障をきたした子がいた。その子はその後、精神状況が良くならず、だんだん風俗にも出れなくなっていったとか。そういう弱い、男性のケア労働を担わされていた風俗嬢の心は誰がケアするんだろう。勿論風俗嬢の皆がそういうタイプの人間じゃないし、さっきも書いた通り、お客さんに励まされて力をもらったって女の子もいるから一元的に語れない問題だけれども。

    筆者によって語られる、被災地を取材する罪悪感や、被災地の風俗産業を取材する罪悪感…というのもなるほどなと思う。けれど罪悪感を忘れないあたり作者は誠実な人間そうだし、なによりやはり現場を伝えるのには大きな意味があると思う。

    震災を機に命の儚さや当たり前と思っていた日常、周囲の人への有り難みが増した、という被災者の話はよく聞くし、実際、インタビューをうけた女の子にも、そういう風に人生観が変わったという子が多い。
    うまく言えないけれど、改めてあの地震は物凄い出来事だったんだなと感じる…

  • 癒しを求める男性たちってのは分かるけど、だったら当然癒しを求めたり人肌を恋しく思う女性たちもいたと思うんだけど、そういう人たちはどうしてたんだろう。

  • 被災地で食うに困って、風俗に「堕ちた」話ではない。

    元々、風俗があって、いろんな事情があって、震災後も実のところ早々にというか、状況が許し次第、営業を開始しているのだ。
    それは、普通に、様々な仕事が再開してくのと変わらない。
    そこで生きていく、数人の当事者へのインタビューをまとめた内容。
    そう、まとまったものではないが、やはり、風俗という内容から、いろいろなものが見えてくる。
    主体的に描かれているのは、「風俗」の側にいる人たちが、もちろん、そこを利用する人たちがいる。

    癒されるんだ。
    やはり、人の肌というのは大事なんだと思った次第。
    それが、家庭の中にあるのかどうか、そことは違うのか、勿論、状況からして、「単身」で来ている男たちもいるだろうが。

    色々考える。

    あまり描かれては来なかった分、考えさせられる。

  • 東日本大震災の被災地において、日常生活を取り戻すべく務める風俗嬢。利用するのは進駐軍が如き、復興支援者や除染作業者だけではなく、同じく被災した人々。妻や子供を津波で亡くし、絶望の淵に何を糧にすれば良いかも分からず人肌を求めたのだと。性を賤しいものだと捉えずにその世界を覗く。究極的な包容力と癒し、生きる目的へのリアルが感情と肉体を重ね合わせ交雑する。

    被災者の絶望を垣間見て悲しくなる。だけど、何か根底に突き抜けた前向きさを感じ、不思議と平和な気持ちになる。生まれ、生み、死に、循環していく。性への希求は退廃ではなく、生きることへの前向きさかも知れない。ただの欲望の処理という側面が、排泄に等しい野生の下劣さを想起させても、歩みが無いわけではない。自らを傷つけるのは、自身の基準に照らした意識だ。どんなアプローチであれ共感を得る事によりそれが和らぐならば、救いはあるのだろう。

  • なんというかな。

    震災のリアルな現状も、、風俗嬢のリアルな現状もどちらも大した伝わらない本でした。

    震災の本何冊か読ませてもらって、お母さんの気持ちやら、家族を思って、、っていうそういういろんな方の話に一つ一つどうにもならないその現状から立ちあがろうとする人々のナマの声を聞いてなぜかわたしが元気をもらう、、、そんな本が多い中。

    どっちもなんかようわからん。そんな本でした。

    風俗が人々を癒すために震災後一週間後には復活したという話。

    それはすごいいいことだろうし、人々を癒すために必要だったのも認めるけども。

    そんな中、世のお母さんたちは子どもたちを背負って探して、、、と。思うと。なんかなぁ。とやりきれなくなる思いです。

    食わなきゃ死ぬし、寒くて死ぬこともあるけど、性欲で死ぬことないよね。っていうね。

    その力ほかに使ってくれよ。と思わないでもないよね。
    義援金が入って、しかもやることなくて時間もあったから風俗混んでたんだってさ。

    それはそれでいいのかもしれないけど。

    なんか、やるせなくないか?

  • 2021年3月読了。

  • 他の方も感想に書かれているが、当時の客側の心境も知りたい。

  • 2018/03/31 14:48:52

  • 読みやすい。
    風俗は癒しなのねぇ。
    今まで風俗とかって、わたしと価値観違うんだろうなと思ってたけど
    まさに価値観がちがうだけで、同じ人間だった。

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著者プロフィール

一九六六年、福岡県生まれ。「戦場から風俗まで」をテーマに数々の殺人事件、アフガニスタン内戦、東日本大震災などを取材し、週刊誌や月刊誌を中心に執筆。『冷酷座間9人殺害事件』『全告白後妻業の女筧千佐子の正体』『新版家族喰い尼崎連続変死事件の真相』『限界風俗嬢』など著書多数。

「2022年 『昭和の凶悪殺人事件』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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