全裸監督 村西とおる伝

著者 :
  • 太田出版
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  • Amazon.co.jp ・本 (712ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784778315375

感想・レビュー・書評

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  • 以下はノンフィクション『全裸監督 村西とおる伝』(本橋信宏著)の感想ではなく、同書を基にNetflixで映像化されたドラマ『全裸監督』の感想である。同作はまだソフト化されていないため、ここに書く。

    ちなみに、私は現時点では『全裸監督』未読。
    ただし、本橋信宏が村西とおるを描いたもう一つの著作『AV時代――村西とおるとその時代』 (幻冬舎アウトロー文庫)は、前に読んだことがある。

    ツイッターのTL上で、『全裸監督』に言及しているほぼ全員が絶賛していた。そのことに背中を押され、観てみたしだい。
    なるほど、これは傑作だ。シリーズ1の全8話を、半日かけてイッキ見してしまうくらい面白かった。

    隅々にまで、ものすごくお金と手間ヒマがかかっている。そして、そのことが一目瞭然にわかる。
    たとえば、後半の舞台となる1980年代の新宿歌舞伎町をリアルに描くために、町ごと再現する大規模なセットを組んだという。スゴイ話だ。
    また、脇役にまで主役級の役者を使ったりして、キャストも豪華だ。

    村西とおる役・山田孝之の体を張った熱演を筆頭に、役者たちもこぞって好演。
    もう一人の主人公ともいうべき黒木香役の森田望智(みさと)も素晴らしい。顔立ちはとくに似ているわけではないのに、物語後半での演技は黒木香になりきっている。

    村西とおるのサクセスストーリーの背後に、ビニ本→裏本→AVという80年代アダルトメディア興亡史が二重写しとなる……という構成もなかなかのものだ。

    ただ、原作はノンフィクションだが、本作は事実そのものを描いているわけではない。随所にフィクションが織り込まれているし、物語の都合に合わせて時系列が入れ替えられたりしている部分も多いのだ。

    たとえば、シーズン1の終盤で、村西と関わりを持つヤクザの古谷(國村隼)が殺人を犯したりする『アウトレイジ』的描写。このへんは当然フィクションである。

    また、ハワイでAV撮影を行ってFBIに逮捕された村西が、黒木香のAVデビュー作の大ヒットによって司法取引費用を捻出して釈放される描写。
    実際には逮捕前に黒木のデビュー作は大ヒットしており、ここにも時系列の改変がある。

    むろん、作品を面白くするためにはそうした潤色もあってしかるべきで、目くじら立てる気はない。ただ、本作が事実をありのまま描いているという勘違いはすべきではないだろう。

    あと、本作は世代によってかなり評価が分かれる作品だと思う。80年代アダルトメディアの興亡をリアルタイムで知っている人ほど面白く観られるが、いまの20代・30代には面白さが半分くらいしか伝わらない気がする。

    とくに、村西や黒木香が「時代の寵児」となったころの空気を肌で知っているか否かで、本作の受け止め方は大きく異なるはず。
    マンガ家の田中圭一氏がツイッターで、本作について「50代以上で村西とおる監督を知っている人は絶対に視聴すべし!」と書いていた。まさに、私のような50代にこそドンピシャな作品なのである。

    一つだけ難を言えば、村西とおるがあまりにもカッコよく描かれすぎている。

    本作の村西は、日本にある種の「性革命」をもたらしたダーティ・ヒーローとして描かれている。
    だが、本来はヒーローというよりキワモノ的な魅力の持ち主なのだろうし、ここに描かれていない暗部をたっぷり抱え込んだ人だと思う。

    ノンフィクション作家の佐野眞一が、『アエラ』の「現代の肖像」で村西を取材して描いたことがある(佐野の著書『人を覗にいく』に収録)。そこにはこんな一節があった。

    《村西は、こと女優に対しては、本物の猫でも出せないような猫なで声を連発し、割れ物でも運ぶように扱うが、いざ男性スタッフに向き合うと、態度をガラリと豹変させる。ちょっとしたミスにも、二度と立ち直れそうにないくらいの雑言を吐き散らし、ときには殴る蹴るの行状にも及ぶ。村西の暴力に耐えかねて逃げ出したスタッフは一○○名を下らず、なかには、タバコを買いに出かけたまま姿をくらましたスタッフもいる。村西軍団はこのため、サンドバッグ軍団とも呼ばれている。》

    村西のそのような一面は、ドラマ『全裸監督』には描かれていない。
    あるいは、近く作られるシーズン2では、そうした暗部まで突っ込んで描く腹づもりなのだろうか。

    また、シーズン2では、黒木香が自殺未遂をしてメディアから消えた背景(くわしい事情は不明だが、そこまで彼女を追いつめたのは村西に違いない)も赤裸々に描いてほしい。
    そこまでやってこそ、このドラマは真に傑作たり得るのだと思う。

  • 【あのね。真剣に生きている人間の姿は端から見るとおかしいもんだよ】(文中より引用)

    性界のトップを極め、AVの帝王として知られる村西とおる。バブルの崩壊と共に借金50億をこしらえ、アメリカでは懲役370年を求刑されながらも、ほとばしる情熱と生命力で生きに生き抜いてきた男の半生をたどる作品です。著者は、バブル焼け跡派と自称する作家の本橋信宏。

    2019年の暫定ナンバー1。村西氏に倣ったら間違いなく不幸な人生を歩むことになると思いますが(そして必ずしも「正しい」人生を歩めるわけではありませんが)、村西氏と氏が生きた社会からはまだまだ学ぶべきことがたくさんあるのではないかと感じました。行間から熱量が伝わってくる作品です。

    実にナイスでした☆5つ

  • かつてAV界の帝王と言われた村西とおるの半生記。約700ページに及ぶボリュームで読みごたえあり。著者は若いころ村西のもとで働いていた経験があるため、村西とは旧知の仲であることから、自身の当時の体験も踏まえ、かなり突っ込んだ内容となっている。80年代のホームビデオ勃興期を過ごした人なら、誰でも面白く読めるはず。当時村西監督のビデオはかなりの話題になっていたものの、あまりに監督のアクが強すぎるため全然観る気にならず、結局今に至るまで未見。ただ、この本を読んで当時のビデオの撮影裏話などを読み、今更ながら観てみたいと思った。

  • ビジネスを起こす人には、起業家と産業家がある。産業家とはその産業そのものをおこした人で、その産業のなかで起業家は起業をしていく。
    スノーボードの世界のジェイクバートン、ECの三木谷さん、コンビニの鈴木敏元会長、自動車のフォード、電気自動車のEマスク、などが産業家といえるだろう。
    そして村西とおるは、アダルト映像産業の産業家、裏街道の産業化といえるだろう。
    産業家に浮き沈みはつきものとはいえ、その浮き沈みはすさまじい。トータルの前科7、くらった求刑は累積300年をこえ借金は50億円。
    こんな怪人のそばで仕事を一緒にした筆者による村西とおる評伝がおもしろくないわけがない。
    表産業の起業家のビジネス本は山ほどでているし、最近はバブル期の裏面を暴露する企業本が山ほどでてくるが圧倒的にこの本のほうが1000倍おもしろい。
    それは村西さんが、ど真剣に生きてきたから、につきるとおもう。
    真剣にいきてる人は周囲からみるとどこか滑稽にみえるものだ、という記述があるがそのとおり。
    表産業の産業家の代表格である孫さんも毀誉褒貶が激しくときとして滑稽にみえるほど必死に取り組んでいるわけだが、この本でも何箇所か孫さんへの言及もあるのがおもしろい。表街道を上り詰める孫さん、裏街道を下り詰める!?村西さんって感じで、ある意味で似たような凄みのある動物的バイタリティ、生への真剣さを感じます。
    とくに圧巻は応酬話法という技術。これを駆使して営業の天才的成績をあげるのだが、この技によって百科事典からなんでもうりまくる自信をつちかったらしい。実際、この技術で命が救われたことも何度か。で、その話芸の磨き方は努力の裏返しでつちかわれておりその努力の仕方も壮絶。
    また人生で失敗した人(お金を仮に来る人、犯罪者、殺人者など)に対してほっておけなくてなんとかしてしまう破滅的な親切さも魅了的。

    まったく正反対のトーンだけど、黒澤明の「生きる」に通じる読後感があって、(ガチに)「生きる」ってこういうことなんだと思わせる快作。

    ひたすら成功に向かってのぼりつめそして破滅にむかって下っていくストーリが続くのだが、くだりきったところに、ご子息と妻との安定した幸福な生活がうまれていくところなどはとても好きなシーン。

    あなたに足りないのは前科だ!
    と喝破するわけだがその覚悟でぐいぐい突き進んだ人の話なので生きる気が120%増幅される。

  • ある日、宮坂社長から「お前、これ読んだかー?最高だぞー」と言われて借りた本。確かにこんなに元気が出て、こんなにホロリと来る評伝も珍しい。そこはかとなく味わい深い。

    個人的に日本は、格闘技とエロと釣りのレベルが世界的に見ても最高だと思っているが、これは、エロの中でもAVという特大ジャンルの文法や所作の大半を一人で作り上げた男の話である。作者は遠く80年代前半、ビニ本時代から村西とおると仕事をしていた人であり、途中で何度か村西についてのルポを書き、あしかけ30年で集大成的評伝を書いたのだからすさまじい力作である。こういう毀誉褒貶、浮き沈みの激しい人物はかなりの長期スパンや経年で書かねば全体像が浮かび上がってこないのだが、まさにこの30年と言う期間はそれを可能にしたように思う。

    本は、評伝の定石どおり村西の生まれた環境から入る。極貧の福島時代、一攫千金を夢見て上京、唯一のサラリーマン時代である百科事典のスーパー販売員時代、そして教育業界に志を立て、英会話学校を開校したりインベーダーゲーム機で起業した時代など、後のDVDパンツ一枚ではなくスーツ時代の知られざる村西を描く。そしてついに、新宿歌舞伎町で飲んだ後にたまたま見たビニ本屋での熱気をみて、それを文化格差のある北海道に持ち込むことを着想してから、90年代前半のバブルが終わるまでの村西の"狂気のエロビジネス時代"が幕をあけるのでる。

    ビニ本で流通革命を行い圧倒的な全国シェアを握った村西は、それを地下化させ、裏本王となる。が、そこで敢え無く逮捕、無一文に。裸一貫で出直した東京には、当時、VHSのビデオデッキが普及し始めていたのだが、圧倒的なソフト不足。「新メディアはエロから始まる」の鉄則どおり、ポルノビデオが出回り始めていた。そこに目をつけた村西は西村忠治氏をスポンサーとして伝説の「クリスタル映像」を立ち上げる。(村西の本名は草野であり、クリスタル映像で監督業を開始した草野は、西村氏へのオマージュとして名前を逆転させて、"村西"とした)最初は監督の才覚が発揮されず、海外ロケ等予算はかかるが内容は酷評の作品群を量産するが、ふとしたきっかけで、その後、"駅弁"や"本番"と並び村西の象徴である"顔面シャワー"の嚆矢となるような映像が撮れ、それが飛ぶように売れたことに着想を得て、以後、ユーザーファーストな映像つくりを体得し、勃興するAV業界でシェア40%を握ることとなる(なおこの時には「ダイヤモンド映像」を起業していた)

    途中数度の逮捕騒動や黒木香等のスターの輩出を経て、狂乱のバブル時代に突入。文字通り金と女を自由自在に操る村西は全盛期を迎える。その時の狂気の沙汰は本書に詳細に描かれている。日本が唯一一度だけ経験できた時代の空気だろう。

    そして、その後の落ち込みぶりもハンパなものではない。公称借金50億円を自己破産せず、いまだに返済をし続けている村西は悶絶の苦しみの連続。最終的には借金苦がたたって、自殺や病死の淵をさまよう。禍福は糾える縄の如し、個人的には不幸のどん底であったが、この間にAV女優と再婚、長男が生まれ、貧乏だが愛のある幸福な生活も同時に送ることになる(なお、この子供を慶應幼稚舎?に入学させるところのくだりは本当に感動的である)

    この評伝を読んで思うことは、現在68歳の村西とおるはまさに団塊の世代の象徴的人物であり、団塊世代が多かれ少なかれ経験している人生の歩みを極端に、グロテスクに、お下劣に、でも味わい深く表現しきったのが村西とおるの人生であろう、ということである。戦後日本の青春が全て詰まっている評伝、そして戦後生まれた最大の文化産業の勃興を感じ取れる作品として実に興味深い内容となっている。これからがんばりたい、いま落ち込んでいる人などにはぜひ読んでもらいたい作品である。

  • 22.30.01.09.タマフルより。舞台が北海道だったりもあり楽しく読めた。この人も直感を大事にするタイプみたい。子供と接する時間が長いとやはり成長は加速するのだろうか。ナイスです。

  • かなり流し読みになってしまったが、濃いわぁ~。

  • 80年代に話題になったAV監督である村西氏の生き方を綴った一冊。当時はキワモノな人に見られている部分もあり、そんな印象を持っていたものですが、今回この書籍を読んでみて、氏の才能と行動力には目を見張る物がありました。有名人で全てに上手く行っている風に思われる反面、実際は色々な問題とストレスに追われていたと言う事。この人の伝記を読んでみると、世の中凄いなと思う反面、自分の悩みなんてまだ小さいものだな?と変に気持ちが前向きになります。ページ数も厚いので読み応えもありますが、読んで損はない一冊と感じます。

  • 「村西とおる」という人を知っている世代には、その人と同じ時代を生きたことを誇らしく思える厚い本である。

  • 現実世界は良くないけど、ナイスですねw

    ってな事で、本橋信宏の『全裸監督 村西とおる伝』 これブチ面白い♪⁡

    700Pオーバーじゃけど、ズリズリ読めるw
    【AVの帝王】
    【ビニ本・裏本の帝王】
    【前科七犯、借金五十億】
    等々数々の異名を持つ鬼才村西とおるの半生記。

    現在のAVが有るのは村西とおる監督のお陰なんだと思い知らされました。

    顔面シャワー、駅弁、なども村西監督の生み出した作品なのであるw

    ビニ本・裏本で荒稼ぎし、ビデオデッキが普及すると自らカメラを担いで監督、男優、企画、販売と365日休まず激走していたが、バブルが弾け資金ぶりに陰りがでてきて気付けば借金50億円まで膨れあがっていた。

    そんな巨額の借金にもめげず懸命に生き抜く村西とおる監督に凄まじいパワーと勇気を貰える気持ちになるw

    2017年10冊目

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著者プロフィール

1956年、所沢市生まれ。著述家。早稲田大学政治経済学部卒。逍遙と実践による壮大な庶民史をライフワークとしている。著書に『東京最後の異界 鶯谷』、『上野アンダーグラウンド』『迷宮の花園 渋谷円山町』『全裸監督』など多数。

「2018年 『色街旅情 紙礫EX』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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